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樋口英明裁判長ら(福井地裁)に対する関西電力による忌避申立てについて

 今晩(2015年3月16日)配信した「メルマガ金原No.2031」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
樋口英明裁判長ら(福井地裁)に対する関西電力による忌避申立てについて

 去る3月11日に福井地方裁判所で行われた大飯原発3、4号機、高浜原発3、4号機の運転差止を求める仮処分命令申立事件の第2回審尋期日において、裁判所(樋口英明裁判長)は、申立てのうち、高浜原発3号機、4号機の差止請求についての審理を終結し、決定を出す方針を明らかにしました。
 これにより、日本の原発が、史上初めて仮処分決定によって運転差止を命じられる可能性が出てきたことは、審尋期日翌日にこのメルマガ(ブログ)でお伝えしました。
 
 
 福井地裁第2民事部の樋口英明裁判官は、昨年5月21日、大飯原発3号機、4号機の運転差止を命じた画期的判決を言い渡した合議体の裁判長でもあり、債権者(仮処分における申立人のこと)らや弁護団、それに支援者ら(に加えて私たち多くの国民も)の期待はいやが上にも高まっているのですが、それに冷や水をかけるように、関西電力側は3人の裁判官に対する忌避を申し立てました。
 民事訴訟法24条以下は、裁判官の忌避について、以下のように定めています。
 
(裁判官の忌避)
第二十四条 裁判官について裁判の公正を妨げるべき事情があるときは、当事者は、その裁判官を忌避することができる。
2 当事者は、裁判官の面前において弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、その裁判官を忌避することができない。ただし、忌避の原因があることを知らなかったとき、又は忌避の原因がその後に生じたときは、この限りでない。
(除斥又は忌避の裁判)
第二十五条 合議体の構成員である裁判官及び地方裁判所の一人の裁判官の除斥又は忌避についてはその裁判官の所属する裁判所が、簡易裁判所の裁判官の除斥又は忌避についてはその裁判所の所在地を管轄する地方裁判所が、決定で、裁判をする。
2 地方裁判所における前項の裁判は、合議体でする。
3 裁判官は、その除斥又は忌避についての裁判に関与することができない。
4 除斥又は忌避を理由があるとする決定に対しては、不服を申し立てることができない。
5 除斥又は忌避を理由がないとする決定に対しては、即時抗告をすることができる。
(訴訟手続の停止)
第二十六条 除斥又は忌避の申立てがあったときは、その申立てについての決定が確定するまで訴訟手続を停止しなければならない。ただし、急速を要する行為については、この限りでない。
 
 関西電力の狙いは、上記民事訴訟法26条本文の「除斥又は忌避の申立てがあったときは、その申立てについての決定が確定するまで訴訟手続を停止しなければならない。」にあるでしょう。
 実は、福井地裁は3月11日になされた3人の裁判官に対する忌避申立てにつき、翌々日の3月13日にいずれも却下する決定をしました。
 判例・学説から考えて、こんな忌避を認容する裁判所などある訳がありませんから、関西電力の狙いが、3月末で転勤と言われている樋口英明裁判長に決定を出させまいとしての「時間稼ぎ」であることは誰の目にも明らかです。
 従って、民訴法25条5項に基づく即時抗告の申立ては期限ぎりぎりの3月20日に行われるものと予想されています。
 
(即時抗告期間)
第三百三十二条  即時抗告は、裁判の告知を受けた日から一週間の不変期間内にしなければならない。
 
 即時抗告については高等裁判所(本件では名古屋高裁金沢支部でしょうか)が判断をしますが、高裁の判断についても、不服があれば最高裁に特別抗告(民訴法336条)や許可抗告(同法337条)を申し立てるという方法もありますので、もしかすると関西電力のある意味卑劣極まりない「時間稼ぎ作戦」は功を奏するのではないかと心配される方がおられるかもしれません。
 
 この点について、弁護団の鹿島啓一弁護士(金沢弁護士会)による解説が「福井から原発を止める裁判の会」ホームページに掲載されていましたので、皆さんの安心(?)のためにご紹介しておきましょう。
 
(引用開始)
 裁判長が高浜原発について決定を出すと言ったとき,関電は裁判官3人の忌避を申し立てました。
 忌避というのは,裁判の公正を妨げるとして裁判官を裁判から外すことです。本件では,裁判の公正を妨げる事情は全くありませんので,関電の忌避申立ては間違いなく却下されます。
 では,なぜ関電はこのように到底認められない忌避を申し立てたのでしょうか。
 それは,忌避申立てをすると,原則として忌避申立てについての決定が確定するまで手続が停止するからです。
 ※民事訴訟法第26条
 関電が決定を遅らせるために裁判官の忌避を申し立てたことは間違いありません。
 極めて不当な行為だと思います。
 でも,関電の思惑通り,忌避申立てによって裁判所は仮処分決定を出せなくなるのでしょうか。
 私たちは,忌避申立てについての決定が確定する前であっても,裁判所は仮処分決定を出せると考えています。
 理由の一つは,関電の忌避申立ては,忌避権の濫用なので,民事訴訟法第26条は適用されず,手続は停止しないと考えるからです。
 もう一つの理由は,民事訴訟法第26条ただし書です。
 仮処分決定は,この「急速を要する行為」にあたるので,忌避申立てについての決定が確定する前であっても,出せるのです。
 もっとも,忌避申立てについての決定の確定を待っても,裁判所が3月中に決定を出すことは十分可能です。
 3月13日,関電の忌避申立ては福井地裁で却下されました。これに対して,関電は高裁に即時抗告をすることができます。抗告期限は3月20日です。
 関電は,おそらく期限ぎりぎりの3月20日に即時抗告をすると思いますが,本件で忌避が認められないことは明らかですので,高裁もすぐに抗告棄却決定を出すと思います。どんなに遅くても3月27日には抗告棄却決定が出ると思います。
 そうすると,関電は,今度は最高裁に特別抗告や許可抗告をするから,忌避申立てについての決定の確定を待っていては,3月中に決定を出せないのではと思われるかもしれません。
 しかし,特別抗告や許可抗告は,即時抗告とは異なり,決定の確定を遮断する効力はありませんから,関電が特別抗告や許可抗告としたとしても,即時抗告の棄却決定時点で忌避申立て却下の決定が確定することになります。
 このように忌避申立てについての決定の確定を待ったとしても,裁判所が3月中に決定を出すことは十分可能だと思います。
 結論としては,関電が今回行った極めて不当な忌避申立てについては,どのような考え方をとっても,とるに足らない行為だと思います。
 ちなみに,私は,関電の忌避申立てを予想していました。裁判所も予想していたと思います。 以上
(引用終わり)
 
 なお、関西電力の忌避申立ての不当性については、3月12日に弁護団(債権者ら代理人)が提出した意見書に詳しく論じられていますのでご参照ください。
 
 
 私も、弁護団の見解はもっともであると思っています。
 樋口裁判長としては、3月20日に関西電力が即時抗告することを前提として、とりあえずぎりぎりまで高裁による抗告却下の決定を待ち、万一高裁の決定が出ない場合には、民事訴訟法26条但書の規定を適用して仮処分についての決定を出すのではないかという気がします。
 もっとも、そうすると、決定を出す5日前までには、当事者にいつ決定を出すかを告知するとしていたことが守れなくなりますが(高裁の決定が出るにしても、遅れると同じことですね)、そもそも、裁判所がそのような方針を示した後に関西電力が忌避を申し立てたようですから、これは守る必要はなくなっているということでいいのでしょう。
 ということで、福井地裁(樋口英明裁判長)による決定は、3月末ぎりぎりになる公算が高いものの、必ず出ると思います。
 皆さんも、是非注目を続けてください。
 そして、関西電力のあまりにも「せこい」やり口をどんどん広めてください。