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岡口基一判事分限裁判最高裁決定を批判する全国青年司法書士協議会「意見書」と青年法律家協会弁護士学者合同部会「決議」を読む

 2018年12月15日配信(予定)のメルマガ金原No.3362を転載します。
 
岡口基一判事分限裁判最高裁決定を批判する全国青年司法書士協議会「意見書」と青年法律家協会弁護士学者合同部会「決議」を読む
 
 10月17日、最高裁大法廷が、1人の反対意見もなく、東京高裁の岡口基一判事を戒告処分とした分限裁判は、日本の司法の歴史に拭い難い汚点を残したというのが、多くの法律家の偽らざる感想でしょう。
 岡口裁判官自身が運営するWEBサイト「分限裁判の記録 岡口基一」には、最高裁の決定が出た後も、様々な批判、意見などが集積されており、私のブログ(岡口基一裁判官に対する分限裁判・最高裁大法廷「決定」を読む)にまでリンクされていたのには驚きました。
 
 私も、上記「分限裁判の記録 岡口基一」によってリンクされた記事に全部目を通すような時間的余裕はなく、これまで、岡口分限裁判弁護団による「声明」をご紹介しただけでしたが、
その後、まとまった意見として、全国青年司法書士協議会「意見書」(2018年11月12日)と青年法律家協会弁護士学者合同部会常任委員会「決議」(2018年12月1日)が出ていますので、ここで一緒にご紹介しておこうと思います。
 これら、弁護団「声明」、全青司「意見書」、青法協「決議」に目を通せば、岡口分限裁判についての最高裁決定の問題点の全貌をほぼ理解できるはずです。
 
全国青年司法書士協議会 意見書
(引用開始)
                         2018年度全青司会発第57号
                         2018年11月12日
 
 
              岡口基一判事への懲戒処分決定に関する意見書
 
                         全国青年司法書士協議会
                         会 長 石 川  亮
                         東京都新宿区四谷2-8 岡本ビル5階
                         TEL03-3359-3513 FAX03-3359-3527
                         e-mail info@zenseishi.com
                         URL http://www.zenseishi.com/
 
 全国青年司法書士協議会(以下「当協議会」という。)は、全国の青年司法書士約2,600名で構成され、「市民の権利擁護及び法制度の発展に努め、もって社会正義の実現に寄与すること」を目的とする団体である。当協議会は裁判官分限法に基づき東京高等裁判所岡口基一判事に対し懲戒を申し立てたことを受け、下記のとおり意見を述べる。
 
                                    意見の趣旨
1.岡口基一判事への戒告処分決定に対し、強く抗議する。
2.裁判官にも表現の自由を始めとする市民的自由を享受できるよう求める。
 
                                    意見の理由
1.はじめに
 最高裁判所は、平成30年10月17日、東京高等裁判所判事である岡口基一氏(以下「岡口判事」という)に対する、東京高等裁判所の懲戒申立(以下「本件懲戒申立て」という)に対し、『「公園に放置されていた犬を保護し育てていたら、3か月くらい経って、もとの飼い主が名乗りでてきて、「返してください」」、「え?あなた?この犬を捨てたんでしょ?3か月も放置しておきながら・・」「裁判の結果は・・」』との記載と、報道記事へのURLを引用したツイート(以下「本件ツイート」という)が、裁判所法第49条所定の「品位を辱める行状」に該当するとして、戒告処分する旨の決定(以下「本件戒告処分決定」という)を下した。
 しかし、以下で述べるとおり、本件懲戒決定は、憲法で保障する表現の自由も、裁判の基本である手続保障も軽視した、ずさんな内容であった。
 
2.本件戒告処分決定の問題点
(1)懲戒権の濫用という点について
 本件戒告決定は、「本件申立てが、被申立人にツイッターにおける投稿をやめさせる手段として、あるいは被申立人がツイッターにおける投稿をやめることを誓約しなかったことを理由にされた不当なものということはできない」としている。
 しかし、本件懲戒申立ては、岡口判事に対しツイッターによる表現行為そのものを止めさせることを目的としていたものと考えざるを得ない。平成30年6月19日付にて岡口判事が提出した陳述書や、平成30年7月4日付にて東京高等裁判所が提出した報告書によれば、東京高等裁判所長官及び同事務局長が岡口判事に対して、「ツイートを止める気はないのか」、「ツイートを続けるということであれば、それを前提にして分限裁判を検討せざるを得ない」などと述べたことが明らかになっている。
 裁判官に対する懲戒は、一般の公務員に対する懲戒と同様、その実質においては裁判官に対する行政処分の性質を有するものである。しかし、司法内部における干渉・圧力を排し、公正を担保するため、裁判手続きによらなければならないとされている。このような趣旨に鑑みれば、懲戒手続全体において、「かりそめにもある種の行政目的ないしは行政的考慮からの懲戒の必要が先行し懲戒原因である行為に関する事実面及び法律面の検討が不十分であったのではないかとの批判を招くことのないよう、懲戒原因である行為について冷静かつ慎重な検討が加えられるべきものである」(最大判平成13年3月30日における金谷利廣裁判官の反対意見、判タ1071号99頁)
ところが、本件懲戒申立ては、後述するように、裁判官分限法第7条に定める申立事由を立証する証拠の提示もなく、更に裁判所法第49条の複数の懲戒事由のうち、いずれを根拠としているのかを示すことなく行われた。更に、決定に至る裁判手続きはずさんであり、最高裁判所は、本件ツイートのみでは、懲戒処分に相当しないと考えつつも、処分するという目的のために、手続保障を無視し、詳細な検討を避けて、敢えて過去の行為を含めた判断を行っていると考えざるを得ない。
 以上の事実に鑑みれば、本件懲戒申立て及び本件懲戒処分決定は、岡口判事が勤務時間外に行っているツイッターでの表現行為を止めさせるために行われたパワーハラスメントの一環としてなされたと評価すべきであり、懲戒権の濫用と断じざるを得ない。このよう懲戒処分を認めることは、憲法が裁判官の独立を担保するために、裁判官の身分を保障(憲法76条3項、78条等)した趣旨を没却させるものであり、断じて許されない。
(2)申立理由に無く、証拠調べに基づかない事実認定をした点について
 裁判手続きにおいて、当事者の防御権を保障するための手続保障をすることは、人権保障の最後の砦である最高裁判所であるなら、当然考慮すべきである。
 ところが、申立の理由には「当該原告の感情を傷つけるもの」としか記載がされておらず、申立理由が曖昧なまま手続きを進めた。そして、本件戒告処分決定の理由は、申立書に記載は無く、申立書から読み込むことの出来ない、「裁判官が、その職務を行うについて、表面的かつ一方的な情報や理解のみに基づき予断をもって判断をするのではないかという疑念を国民に与えるとともに、・・・上記原告の訴訟提起行為を一方的に不当とする認識ないし評価を示すことで、当該原告の感情を傷つけるものであり、裁判官に対する国民の信頼を損ね、また裁判の公正を疑わせるものでもあるといわざるを得ない」というものであった。
 裁判官分限法に基づく懲戒申立ては端緒に過ぎず、職権で事実を探知するものだとしても(裁判官の分限事件手続規則7条、非訟法49条1項)、手続の追行に重要な変更を生じ得るものに該当することから、不意打ちを防止するために、当事者に通知すべきであった(非訟法52条)。しかも、事実は証拠により認定すべきであるところ(同53条1項)、これらの事実は何らの証拠にも基づいていない。
 従って、訴訟の基本構造を無視し、手続保障を欠いた、一方的な偏見に基づいた事実の断定をした不当な決定と考えざるを得ない。
(3)不合理な事実認定という点について
 本件戒告処分決定は、本件ツイートが、「専ら上記訴訟の被告の言い分を要約して述べたにすぎないもの、あるいは上記報道記事の要約にすぎないものと理解されることとなるような記載はない上、上記報道記事にも本件ツイートで用いられたような表現は見当たらず、本件ツイートは、一般の閲覧者の普通の注意と閲覧の仕方とを基準とすれば、そのような訴訟を上記飼い主が提起すること自体が不当であると被申立人が考えていることを示すものと受け止めざるを得ない」と事実認定している。
 ツイッターは、140字以内の投稿しか出来ないことから、表現を工夫し、少ない文字に情報を詰め込むと共に、報道記事への誘導をする場合には、どのような記事なのか、要約して記載することも通常行われていることである。そして、本件ツイートは、原告が「返してください」と述べた事への反論を会話形式で行っているに過ぎず、岡口判事の考えを述べたものではなく、被告からの反論の要約であることは容易に認識できる。
 ところが、本件戒告処分決定は、上記ツイッターの特性や表現の工夫などは一顧だにせず、何ら合理的な根拠も示さずに、上記事実認定を行った。そして、この事実認定の裏付けとして、一般の閲覧者では無い、原告である飼い主の抗議があったことを述べている。しかも、その原告ですら、訴え提起自体を不当だと感じたと述べていなかったのであるから、裁判所の事実認定が不合理であることは明白である。
(4)裁判所外への波及効果を軽視している点
 今の日本社会は、表現の自由に関する国連特別報告者が来日して、日本の表現の自由の危機に警鐘を鳴らしていることから分かるように、日本の表現の自由は、国際社会から心配されるほど危機的状況にある。
 このような日本社会において、本件戒告処分決定のような、ずさんな論理、特に補足意見にある「the last straw(麦わら一本)」の論理が広まれば、些細な発言を捉えた懲戒処分が当たり前に行われ、社会は今以上に発言を控えることになるだろう。それは、事実上、表現の自由の保障が無い世界になってしまう。
 こうした影響を避けるために、そもそも曖昧な申立を認めるべきでは無かったし、少なくとも、申立事由を明確にさせ、裁判所が職権により得た事実を開示し、適切な証拠調べをするなど、当事者の手続保障が充実した審理を行い、表現の自由に配慮した決定理由を記載すべきであった。
 
3.人権擁護の最後の砦にふさわしく、裁判官に市民的自由を
 裁判官も私人として表現の自由を始めとする市民的自由を享受する。しかし、勤務時間外に行ったツイッターをやめさせるかのような本件戒告処分決定がされてしまう現状をみると、裁判官に市民的自由があるのか疑問に思わざるを得ない。しかも、本件戒告処分決定の手続保障を無視したその手法を見る限り、人権擁護の最後の砦である最高裁判所自らが、特定の行政目的があれば、個人の人権保障を軽視しても良いとお墨付きを与えてしまったことになり、司法に対する国民の期待と信頼を大きく裏切る結果となった。
 過去の寺田事件判決において、河合伸一裁判官は、反対意見の中で以下の通り述べている。
 「裁判官の職務は、事実を確定し、憲法以下の法令を適用して裁判をすることであるが、現代の複雑かつ変化を続ける社会においてこれを適切に行うためには、単に法律や先例の文面を追うのみでは足りないのであって、裁判官は、裁判所の外の事象にも常に積極的な関心を絶やさず、広い視野をもってこれを理解し、高い識見を備える努力を続けなくてはならない。」
 岡口判事の私的な表現行為は、河合伸一裁判官が示した裁判官像の1つの具現化である。岡口判事は、勤務時間外を利用して様々な情報媒体による情報発信すると共に、東京レインボープライドにも参加するなど、多種多様な価値観や立場を理解することに努めてきた。しかし、裁判所規律を重視する旧態依然とした意識の蔓延が、本件戒告決定に至らせたものと推察する。
 最高裁判所は、司法に対する国民の期待と信頼に応え、また、人権擁護の最後の砦にふさわしく、一人一人の裁判官が表現の自由を始めとする市民的な自由を享受できるように、その意識を変革すべきであると考える。
 
4.以上で述べてきたように、本件戒告処分決定は、憲法で保障する表現の自由も、裁判の基本である手続保障も軽視した、ずさんな内容であった。しかも、裁判官の市民的自由への配慮も感じられない決定に対し、一人の反対意見も出なかったことに驚きを感じる。
 よって、当協議会は、最高裁判所の、岡口判事への本件戒告処分決定に対し、強く抗議するものである。また、裁判官にも表現の自由を始めとする市民的自由を享受できるよう求めるものである。
(引用終わり)
 
青年法律家協会弁護士学者合同部会 第3回常任委員会 決議
(引用開始)
              岡口基一判事に対する戒告処分に対し、強く抗議する決議
 
1 最高裁判所大法廷は、2018年10月17日、東京高等裁判所が申し立てた(以下「本件申立て」という。)、岡口基一東京高等裁判所判事(以下「岡口判事」という。)を被申立人とする分限裁判において、岡口判事を戒告するとの決定(以下「本件決定」という。)を下した。
 本件申立ての理由は、岡口判事が、2018年5月17日、ツイッターの自己のアカウントにおいて、東京高等裁判所控訴審判決が出されて確定した自己の担当外の事件である犬の返還請求等に関する民事訴訟についての報道記事を閲覧することができるウェブサイトにアクセスすることができるようにするとともに、「公園に放置された犬を保護し育てていたら、3か月くらい経って、もとの飼い主が名乗り出てきて、『返して下さい』」「え?あなた?この犬を捨てたんでしょ? 3か月も放置しておきながら・・」「裁判の結果は・・」との文言を記載した投稿(以下「本件ツイート」という。)をして、上記訴訟を提起して犬の返還請求が認められた当事者の感情を傷つけたことが、裁判所法49条に違反するとするものである。なお、審理の中で、争点は、岡口判事の行為が、裁判所法49条における「品位を辱める行状」に当たるか否かに絞られた。
 
2 本件決定は、裁判所法49条にいう「『品位を辱める行状』とは、職務上の行為であると、純然たる私的行為であるとを問わず、およそ裁判官に対する国民の信頼を損ね、又は裁判の公正を疑わせるような言動をいうものと解するのが相当である」とした。
 そのうえで、本件ツイートは、「一般の閲覧者の普通の注意と閲覧の仕方とを基準とすれば、そのような訴訟を上記飼い主が提起すること自体が不当であると被申立人が考えていることを示すものと受け止めざるを得ないものである」と認定したうえで、「そうすると、被申立人は、裁判官の職にあることが広く知られている状況の下で、判決が確定した担当外の民事訴訟事件に関し、その内容を十分に検討した形跡を示さず、表面的な情報のみを掲げて、私人である当該訴訟の原告が訴えを提起したことが不当であるとする一方的な評価を不特定多数の閲覧者に公然と伝えたものといえる。被申立人のこのような行為は、裁判官が、その職務を行うについて、表面的かつ一方的な情報や理解のみに基づき予断をもって判断をするのではないかという疑念を国民に与えるとともに、上記原告が訴訟を提起したことを揶揄するものともとれるその表現振りともあいまって、裁判を受ける権利を保障された私人である上記原告の訴訟提起行為を一方的に不当とする認識ないし評価を示すことで、当該原告の感情を傷つけるものであり、裁判官に対する国民の信頼を損ね、また裁判の公正を疑わせるものでもあるといわざるを得ない。」「したがって、被申立人の行為は、裁判所法49条にいう『品位を辱める行状』に当たるというべきである。」と判断した。
 しかしながら、本件決定には、次の4点において、極めて重大な問題がある。
 
3 第1に、本件決定は、岡口判事の表現の自由を侵害するものである。
 憲法21条1項は、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」と定め、国民に表現の自由を保障している。たとえ裁判官であっても、一市民である以上、憲法上の権利を有することは当然である。そのため、裁判官は、表現の自由を有する。
 ツイッターによる投稿は、それが内心における精神作用を外部に顕出する精神活動であり、また、憲法21条1項が「一切の表現の自由」を保障範囲に含めていることからも、表現の自由として保障されているというべきである。
 この点、本件決定は、前記判断の後に、なお書きとして、「被申立人の上記行為は、表現の自由として裁判官に許容される限度を逸脱したものといわざるを得ないものであって、これが懲戒の対象になることは明らかである。」として、本件ツイートが、あたかも表現の自由埒外であるかのような判断を示している。これは、表現の自由の保障範囲を不当に狭く解するものであって許されない解釈である。
 仮に、本件決定が本件ツイートも表現の自由の保障範囲に含まれると解しているとすれば、それを制限しうる根拠を、個別具体的に検討しなければならないが、本件決定では、そのような検討はされていない。
 さらに、本件決定では、裁判所法49条における「品位を辱める行状」の判断基準が一応は示されているものの、そこでは、「裁判官に対する国民の信頼」や「裁判の公正」という極めて抽象的な保護法益が掲げられているうえに、本件ツイートが「品位を辱める行状」に当たるか否かの考慮要素ないし具体的基準すらも明らかにされていない。
 結局のところ、本件決定は、憲法21条1項で保障される表現の自由を軽視し、何らの客観的基準に依拠することなく恣意的な判断をしているものといわざるを得ず、岡口判事の表現の自由を不当に侵害するとともに、ひいては裁判官の表現の自由を極めて制限する違憲決定である。
 
4 第2に、本件決定は、裁判官の独立にも脅威を与えるものである。
 憲法76条3項は、裁判官の職権行使の独立を保障している。この職権行使の独立には、他者から職権行使に対し指示・命令を受けないことはもちろんのこと、他者から事実上の干渉を受けないことも含まれる。
 裁判官の私生活上の行為が広く懲戒処分の対象となれば、裁判所は、自己の意向に沿わない裁判官の職権行使について、同人の私生活上の行為を裁判官としての職権行使と恣意的に結び付け、懲戒権の行使によって、裁判官の職権行使に事実上干渉することが可能になる。かかる状況は、裁判官の独立を定めた憲法76条3項に反する。
 本件決定は、岡口判事が私生活上の行為として行った本件ツイートの投稿を懲戒処分の対象としており、今後、同様の懲戒処分が一般化されれば、裁判官の独立に対する脅威となりかねないのである。
 したがって、本件決定は、憲法76条3項の点でも問題がある。なお、かつて、いわゆる「ブルーパージ」と呼ばれる思想良心に対する統制、すなわち、青年法律家協会所属の裁判官が再任拒否その他の不利益取扱いを受けるなどの裁判所による裁判官に対する統制が社会的問題として注目された時期があった。本件決定は、ブルーパージと同様の問題がいまもなお解決されていないことを示していると言える。
 
5 第3に、本件申立てにおいては本件ツイートが当事者の感情を害したとの主張がされており、争点としても、本件ツイートが「品位を辱める行状」に当たるか否かとの整理しかされていなかったところ、それにもかからず、本件決定は戒告処分の理由として、本件ツイートが当事者の訴訟提起が不当であったとの評価を表したものであって、「裁判官に対する国民の信頼を損ね、また裁判の公正を疑わせるもの」との認定をした。
 そのため、岡口判事は、本件ツイートをもって訴訟提起が不当であるとの評価を表したと評価できるか否か、本件ツイートが国民の信頼や裁判の公正を疑わせるか否かについては、一切、弁明の機会を与えられなかった。
 したがって、本件決定は、公務員に対する懲戒処分にも類推適用される憲法31条の適正手続きに関しても違反するものである。
 
6 第4に、本件決定では、前に述べたとおり、本件ツイートについて、当事者が訴訟提起をしたことが不当であるとの認識を示したものと認定しているが、本件決定をどのように読めば、岡口判事が訴訟提起を不当であるとの認識を示したものと受け止めることができるのかが全く説明されていない。また、本件ツイートについて、他にどのような解釈の余地があるのかの検証も全くなされていない。それらに照らせば、本件決定は、一般国民をして、最高裁判所の事実認定の公正に疑いを抱かせるものである。
 すなわち、本件決定における前記事実認定こそが「裁判官に対する国民の信頼を損ね、また裁判の公正を疑わせるもの」である。
 
7 以上述べてきたとおり、本件決定は、理解不能な事実認定を前提としたうえで、憲法31条の適正手続きの要請に反し、岡口判事の表現の自由を不当に侵害するとともに、裁判官の独立をも脅かすものである。
 裁判官の権利が奪われ、また、裁判官に対する統制が強められることは、裁判官を国民の人権を擁護する存在から、国策追従の存在へと変容させるものであり、国民の人権に対する大きな脅威である。
 当部会は、本件決定に強く抗議をするとともに、人権擁護の最後の砦としての最高裁判所の役割を取り戻すことを強く求めるものである。
 
 2018年12月1日
 
                    青年法律家協会弁護士学者合同部会
                    第 3 回 常 任 委 員 会
(引用終わり)
 
(付録)
弁護士ドットコムNEWS 2018年12月14日 15時32分
弁護士が選んだ2018年話題の法律ニュース、トップは? 司法のあり方に注目集まる
(抜粋引用開始)
弁護士ドットコムは会員の弁護士に対して、2018年に印象に残った法律ニュースについて、アンケートを実施した(回答数:208人)。東京高裁の岡口基一裁判官のTwitterの投稿をめぐる懲戒処分が最多で、57.6%(120票)を集めた。2位は、僅差で日産自動車の元会長カルロス・ゴーン氏の逮捕(57.2%、119票)。
アンケートは、12月5日から11日にかけて、会員弁護士を対象に実施。弁護士ドットコムニュース編集部が、PVやSNS拡散数、話題性などを考慮してセレクトした2018年のニュース20の中から、印象に残ったもの5つを選ぶ形で実施。208人の弁護士から回答が得られた。
●岡口氏とゴーン氏の共通性
岡口氏の懲戒処分(戒告)は、表現の自由についての議論を巻き起こしたほか、決定の補足意見に「the last straw(最後のわら)」との表現が登場し、過去の言動を実質的に問題視する裁判所の姿勢が話題となった。
ゴーン氏は1999年に最高執行責任者(COO)として日産に入り、経営を立て直した。海外でも著名な企業家であったことから、役員報酬の未記載という逮捕容疑以外にも、日本の刑事司法における逮捕や勾留の運用が注目を集めた。
岡口氏とゴーン氏の話題は、日本の司法や裁判所のあり方にスポットライトを当てた点で、共通性がある。
(略)
(引用終わり)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから/岡口基一裁判官分限裁判関連)
2018年10月2日
「裁判官にも「つぶやく自由」はある 裁判官の表現の自由の尊重を求める弁護士共同アピール」への賛同のお願い~弁護士限定ですが
2018年10月17日
日本ペンクラブ言論表現委員会シンポジウム「『憲法表現の自由』の現在と未来」(2018年10月16日)動画のご紹介
2018年10月18日
岡口基一裁判官に対する分限裁判・最高裁大法廷「決定」を読む
2018年10月29日
岡口分限裁判弁護団による「声明」(2018年10月24日)を読む