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植松健一立命館大学教授(憲法学)講演のお知らせと「情勢分析2016-2017」(守ろう9条 紀の川 市民の会)

 今晩(2017年3月14日)配信した「メルマガ金原No.2751」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
植松健一立命館大学教授(憲法学)講演のお知らせと「情勢分析2016-2017」(守ろう9条 紀の川 市民の会)

 3日連続の「和歌山ネタ」です。しかも、私自身が運営委員を務めている地域9条の会(守ろう9条 紀の川 市民の会)の総会での記念講演のお知らせと、総会議案書のうちの「情勢分析」のパートのご紹介をまとめてお届けしようというものです。
 
 2005年1月に設立総会を開いた「守ろう9条 紀の川 市民の会」は、紀の川北岸に居住する和歌山市民で構成する地域9条の会であり、このところ、毎年春に総会(と記念講演)、秋(11月3日の前後)に憲法フェスタを開催しています。
 しかも、小さな地方の9条の会にしては信じられないくらい贅沢なラインナップの講師陣をお招きして
講演会を開催してきました。憲法研究者に限定しても、以下のような方々に講演していただいています。
 
吉田栄司先生(関西大学教授)→2012年 憲法フェスタ
森 英樹先生(名古屋大学名誉教授)→2014年 総会
清水雅彦先生(日本体育大学教授)→2014年 憲法フェスタ
高作正博先生(関西大学教授)→2015年 憲法フェスタ
石埼 学先生(龍谷大学法科大学院教授)→2016年 総会
 
 そして、来る4月1日(土)に開催する第13回総会における記念講演をお願いしたのは、植松健一先生(立命館大学法学部教授・憲法学)です。
 立命館大学ホームページ掲載の教員情報から一部ご紹介します。
 
(抜粋引用開始)
■研究テーマ
 ■「象徴的立法」の研究
 ■ドイツ・ワイマール期の議会制民主主義
 ■治安・安全法制の憲法学的考察
■研究概要
立法における市民の「安心感」と民主主義の憲法規範的考察
 現実の害悪の除去・予防よりも、市民の「安心感」の維持向上を重視する「象徴的立法」(symbolische
Gesetzgebung)が増進される現象(「立法の象徴化」現象)の現状分析に基づき、①立法に対する民主的正統性の付与と②立法に対する法治国家的統制という、2つの憲法的要請の緊張と補完の関係を踏まえた「あるべき立法」の指針となる憲法規範論の構築可能性を探っている。この目的のために、当該問題に関する議論蓄積を有するドイツの法状況をさしあたりの対象としながら、日本の法状況や学説状況への示唆
を獲得したいと考えている。
 そのための具体的な法領域として、さしあたり治安関連の法領域において、「安心感」を求める住民の規範意識と、それに対応しようとする民主政治の在り方、およびその結果として制定された治安立法に対する司法的統制という重層的な構造を捉えながら、憲法の観点から何が問題で、何を論じるべきかを明ら
かにしていく作業に取り組んでいる。
(引用終わり) 
 
 「象徴的立法」と聞いて、何のイメージもわかないという人もいるでしょうから、もう少し具体的な説明がないかと思って探してみました。
 すると、「科研費(KAKENHI)」サイトに、植松先生の「「市民の安心感」を手掛かりとした「立法の象
徴化」現象の憲法的考察」という研究についての「研究成果報告書」が掲載されていました。
 それによると、「典型的な例としては、環境保護法、刑事法における厳罰化、そして「テロ対策」の名目で強化される治安・公安関連立法の拡大など」「こうした立法、とりわけ刑事法や治安・公安関連立法の多くは、市民的自由に大きな影響を及ぼすものであり、本来は市民にとって忌避されるべきものであろう。ところが、近時では、市民の多くがこうした刑事法の厳罰化・拡大化や治安立法の拡大による警察の早期的対応を歓迎しており、このような市民感情がこうした立法の制定を支えている。ドイツでは法律の実効性を十分に検証することなく、市民の立法要求を重視して制定された立法を象徴的立法(symbolosche
Gesetzgebung)と呼んでいる。」ということです。
 ここまで読めば、たしかにこれはドイツだけのことではなく、日本でも進行している状況に違いないと思い当たりますし、政府が、過去3度廃案になった共謀罪に、テロ等準備罪という新たな衣装を着せて成
立を目指そうとしていることも、この文脈の中に置けば理解が深まるかもしれません。
 もっとも、主催者が植松先生に提案して決まった演題は、「安倍首相はなぜ憲法を変えたいのか~私た
ちの生活はどうなるのか~」というものなのですが。
 とりあえず、チラシの文字情報を転記します。
 
チラシから引用開始)
守ろう9条 紀の川 市民の会 第13回 総会
 
 安倍政権は昨年11月、自衛隊に「戦争法」に基づいて武器の使用も可能な「駆け付け警護」の任務を付与し、南スーダンに派遣しました。戦後71年間、戦争でたった一人の外国人も殺さず、たった一人の戦死者も出さなかった平和国家・日本に「殺し、殺される」現実の危機が差し迫っています。
 また、安倍首相は今年の年初に、「新しい時代にふさわしい憲法はどんな憲法か。今年はいよいよ議論を深め、私たちが形づくっていく年にしていきたい」と、改憲への意欲を示しています。昨年7月の参院選改憲勢力が、改憲発議が可能な3分の2の議席を衆参両院で占めたことと相まって、明文改憲の危険
も迫っています。
 安倍政権の「戦争する国」への暴走をくい止め、安倍政権を退場させるために、「市民連合」などの多くの市民と立憲4野党との、来るべき総選挙に向けた「野党共闘」の話し合いが進められています。私た
ちにも安倍首相が狙っていることは何かを多くの人たちに語っていくことが求められています。
 安倍首相はなぜ憲法を変えたいのか、そして憲法が変えられたら私たちの人権や暮らしはどうなるのかを学び、みんなで力を合わせて「戦争法廃止」「立憲主義回復」「安倍政権退場」を実現しようではありませんか。
 
※総会は会員でなくても参加できます。もちろん無料です。多くの方にご参加いただきたいと願っています。
 
日時:2017年4月1日(土)午後2時~4時30分
場所:河北コミュニティセンター 2F 多目的ホール
 和歌山市市小路192-3(Tel:073-480-3610)
 南海本線紀ノ川駅」下車徒歩3分(改札口を左折120m、左折し踏切を越え180m、右側)
 和歌山バス・六十谷線(川永団地⇔南海和歌山市駅)「梶取東バス停」前
 
◎第1部 記念講演 14:10~15:45
「安倍首相はなぜ憲法を変えたいのか
~私たちの生活はどうなるのか~」
  講師 植松 健一(うえまつ・けんいち)氏
         立命館大学法学部教授(憲法学)
 
◎第2部 総会議事 15:50~16:30
 
※補聴器を使用されている方がよりクリアな状態でお聞きいだけるように、会場に『磁気ループ』を設置します。使用できる補聴器は「Tモード」「MTモード」の補聴器です。
 
主催:守ろう9条 紀の川 市民の会   お問合せ先:073-462-0539 原 通範
(引用終わり)
 
 植松先生がお話されてる動画がないかと探してみましたが、とりあえず見つけたのは、大阪弁護士会が2015年8月8日に開催した「日本はどこに向かうのか?PartⅣ ~各界から上がる安保法案への反対の声~」の後半に行われたリレートークでのスピーチでした(ちなみに、前半は早稲田大学水島朝穂教授による基調講演でした)。
 実は、このリレートークには、関西の大学で憲法を講じておられる以下の4人の研究者の皆さんが登壇
されています。
  石埼 学龍谷大学法科大学院教授
  高作正博関西大学法学部教授
  塚田哲之神戸学院大学法学部教授
  植松健一立命館大学法学部教授
 そう、4人の内、植松先生を含めて3人まで「守ろう9条 紀の川 市民の会」はお呼びしているのです

 もっとも、このリレートークでは1人の持ち時間が5分しかなく、はなはだ物足りないですけどね。短
い時間の中で、植松先生は、なぜ多くの大学人が安保法案反対に立ちあがったのか?ということについてお話されています。
 
大阪弁護士会】「日本はどこに向かうのか?Part4」 後編 リレートーク 2015.8.8(41分)

冒頭~ 石埼 学氏
6分~ 高作正博氏
11分~ 塚田哲之氏
17分~22分 植松健一氏
(以下略)
 
 正直、私自身、4月1日の植松先生のお話がどのような内容になるのか、全然見当がついていないのですが、かえって当日の聴講が楽しみだと思っています。
 多くの方のご参加をお待ちしています。
 
 さてここからは、「守ろう9条 紀の川 市民の会」第13回総会のための議案書の中から、「情勢分析」のパートをご紹介します。
 「守ろう9条 紀の川 市民の会」では、何年か前から、総会議案書は運営委員による分担執筆とい
うシステムで作成することになっており、私はずっと「情勢分析」のパートを担当してきました。そして
、過去3年、議案書のために書いた「第1稿」をそのままメルマガ(ブログ)に掲載してきました。
 だいたい、私の文章は長くなり過ぎる傾向があり、議案書の原稿も、第1稿のまま確定することなどな
く、他の運営委員の意見も取り入れた上で、大幅に減量作業を施すのが常でした。
 ところが、今年はなかなか「情勢分析」が書けず、他のパートの原稿が出そろっているのに私のパート
だけが抜けているという体たらくであり、「もう間に合わない」ということで思い切って何とかひねり出して書き上げたところ、分量的にはまことに適当な量に収まっていました。そして、昨日の運営委員会で何カ
所か修正意見が出され、議論の結果、第2稿が確定しました。
 過去3年は、私が1人で書いた第1稿をご紹介してきましたが、今日ご紹介するのは、私が書いた初稿
を運営委員会で議論し、その結果に基づいて他の運営委員が修文したものです。
 そういうわけで、今年の議案書(情勢分析のパート)をメルマガ(ブログ)でご紹介するかどうか迷ったのですが、憲法をめぐる激動の1年を振り返るという作業の成果を継続して記録にとどめるという意義
を重視し、今年も掲載することにしました。
 なぜ、私が今年の議案書を書きあぐねたのか、それなりの理由を思いつかないこともありませんが、冗
長になり過ぎるので省略します。
 それでは、「ある地域9条の会「総会議案書」の内「情勢分析2016-2017」」をお読みください。
 
(引用開始)
2017年度 第13回総会 議案書
Ⅱ.2017年度の活動方針
1.【私たちを取り巻く情勢】
(1)安保法制(戦争法)が施行された
 歴代の内閣法制局長官や元最高裁長官、元防衛省高官を含む広汎な国民各層の反対にもかかわらず、安
倍晋三内閣が提出したいわゆる安保法案は、2015年9月19日、自民・公明両党などの賛成多数で国
会を通過し、同法案は翌2016年3月29日に施行された。
 これにより、我が国は、内閣が「存立危機事態」と判断すれば、我が国が武力攻撃を受けていないにも
かかわらず、自衛隊に防衛出動を命じて海外派兵できる法体系を持つ国となった(集団的自衛権)。
 また、周辺事態や非戦闘地域というしばりがなくなり、世界中どこででも、アメリカ軍や多国籍軍のた
めの後方支援、協力支援という名の兵站活動に自衛隊が従事できることとなった。
(2)新任務を付与されて自衛隊南スーダンに派遣された
 新安保法制に基づく自衛隊への最初の発令は、PKO協力法に基づいて南スーダンに派遣している陸上自衛隊に対し、いわゆる「駆け付け警護」「宿営地の共同防護」という新任務を付与するという形で実施されることになり、2016年12月、第10次隊と交替した第11次隊から新任務を帯びての活動とな
った。
 南スーダン現地は、「紛争当事者の間で停戦合意が成立していること」というPKO派遣のための大前提自体が大きく揺らぎ、たびたび戦闘が発生していると報じられている。このような中、昨年、現地派遣部隊が首都ジュバで大規模戦闘が起きていると報告した日報の存在が発覚し、政府・防衛省の根深い隠蔽
体質が露呈している。
 安倍内閣南スーダンPKOに派遣している自衛隊を5月末に撤収させることを表明したが、派遣部隊
が戦闘行為に及ぶような事態に陥らぬうちに、即刻の撤退を実現することが求められる。
(3)参院選における市民と野党の共闘
 2012年12月の第46回総選挙以来、衆議院では自民・公明の与党が総議席の3分の2以上の多数
を保持し続けており、2016年7月に行われる参議院議員通常選挙の結果、改憲勢力参院でも、改憲
発議に必要な3分の2以上の議席を確保するかどうかが注目された。
 2015年9月の安保法制成立直後、日本共産党が提唱した国民連合政府構想に対し、野党第一党である民主党(その後民進党)の反応は芳しくなく、このままでは参院選での野党の惨敗が避けられないという危機感を抱いた有力な市民組織有志が、2015年12月に「市民連合(安保法制の廃止と立憲主義
回復を求める市民連合)」を結成し、立憲野党に共闘を呼びかけることとなった。
 そして、この動きは瞬く間に全国に広がり、特に全国32の1人区の全てにおいて、「野党統一候補
の擁立が実現したことは特筆すべきことであった。
 和歌山においても、市民有志が「安保法制の廃止を求める和歌山の会」(後に「市民連合わかやま」と改称)を結成し、県内野党に参院選和歌山県選挙区への統一候補の擁立を要請した。紆余曲折の末、「市民連合わかやま」が推薦した由良登信弁護士を、日本共産党社民党生活の党と山本太郎となかまたちが推薦し(政党以外では「市民連合」「関西市民連合」などからも推薦を得た)、民主党民進党)は、
推薦こそしなかったものの、独自候補の擁立は取り下げるという事実上の協力を行った。
 結果は、自民党現職に届かなかったものの、幅広い市民各層が由良候補の支援に立ち上がった経験は、
今後の市民が主体的に政治に関わっていく端緒を開いたものと評価すべきである。
 参院選の結果、東日本を中心に、11の1人区で野党統一候補が勝利するという成果はあげたものの、非改選議席と合わせると、自民・公明の与党に改憲に前向きな大阪維新の会などの一部野党を加えた改憲勢力が3分の2を上回る議席を確保し、日本国憲法施行後初めて、改憲発議が現実的に可能な議席状況が
生まれた。
 改憲勢力は、この状況を最大限に活かし、早期の改憲発議を実現しようという攻勢を強めてくることが
予想される。
(4)改憲を目指す動きから目を離してはならない
 日本会議神社本庁などの改憲勢力は、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」を結成し、改憲発議がなされた際の「後援会名簿」として活用することを主要な目的とした1000万人賛同署名に取り組んでいる。また、「おしゃべり憲法カフェ」と称する草の根改憲ミーティングを各地で積極的に開催するなど
(和歌山でも実施されている)、改憲勢力の一般市民への働きかけはあなどれない。
 また、ひとたび改憲発議がなされた場合、国民投票運動に対する法的規制は、公選法に比べればなきに等しく、投票日前2週間のスポットCM禁止規定を除けば、金さえあれば広告もやりたい放題に行える(
昨年7月10日参院選投票日当日の自民党などによる意見広告を想起せよ)。
 安倍首相は3月、自らが会長を務める「創生日本」という団体の会合で、「憲法改正に向かって総力を挙げて頑張ろう」「必ず憲法改正をしたい」と述べ、自民党大会でも、「自民党憲法改正の発議に向けて具体的な議論をリードしていく。それが自民党の歴史的使命だ」と強調している。改憲の危機はますま
す大きくなっている。
 このような改憲勢力の動向に常に注意を払い、彼らが当面の改憲重点目標として掲げている緊急事態条
項、家族保護規定などへの対抗策を用意することが肝要である。
(5)共同のたたかいをより一層推し進める動き
 安保法案(戦争法)反対の取組の中から生まれた「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」による共同の取組は、中央だけではなく、全国各地に広がり、和歌山においても、2017年の共謀
罪反対闘争に至るまで、「総がかり」の枠組みが機能し続けている。
 2016年夏の参院選における市民と野党の共闘も、「総がかり行動実行委員会」方式による共同の闘
いが下地となったことを見逃すべきではない。
 そして、改憲勢力から国会の議席を奪い返すため、さらにこの共同の闘いを進めるべく、全国でも和歌
山でも、様々な模索がなされている。
 また、そのような市民の運動と連動する形で、2017年3月はじめの時点で、全国15の地方裁判所に19件の安保法制違憲訴訟が提起されており、また、これとは別に、自衛隊員の家族が原告となった南
スーダンPKO派遣差し止め訴訟などが提訴されている。
 戦争する国づくりの総仕上げと言われる現代版治安維持法共謀罪法案に反対するたたかいも全国で大
きく広がり、和歌山でも市民と野党の共闘でたたかいが進められている。
 これらは、安倍政権の暴政によって大きく傷ついた憲法の力を回復しようという同じ目標に向かった、
政治の場での、司法の場での、また社会の隅々での活動ということができる。
(引用終わり)