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中川五郎さんの『トーキング烏山神社の椎ノ木ブルース』を聴き、変わろうとしないこの国の人たちを思う

 2017年9月6日配信(予定)のメルマガ金原.No.2927を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
中川五郎さんの『トーキング烏山神社の椎ノ木ブルース』を聴き、変わろうとしないこの国の人たちを思う
 
 今日(9月6日)の夕方、和歌山弁護士会の委員会を終え、徒歩約1分の事務所に戻ったところ、郵便ポストに、全国一律164円で日本郵便が配達する「クリックポスト」サービスで、注文していたCDが届いていました。
 私は、即座に、今日のブログはこのCDを取り上げようと決めました。
 それは、中川五郎さんの発売されたばかりのシングルCD『トーキング烏山神社の椎ノ木ブルース』です。
 収録されているのはタイトル曲1曲のみ。ただし、演奏時間は17分49秒あります。
 
 私が敬愛するフォークシンガー中川五郎さんのことをブログで取り上げるのはこれが何回目でしょうか。巻末に、「中川五郎/金原」というキーワードでGoogle検索して見つかったブログ記事にリンクしておきましたが、これでも何本かは漏れているような気がします。
 一番最近書いたのは、中川さんが今年の7月30日、「くまの平和の風コンサート」でメインゲストとして歌われるということをご紹介した記事で、残念ながら他用のために新宮まで伺えませんでしたが、後に主催者の1人から送ってもらったメールによれば、とても素晴らしいコンサートだったようです。
 
 さて、『トーキング烏山神社の椎ノ木ブルース』です。
 この作品は、中川さんが、『九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響』(加藤直樹著/ころから刊/2014年3月)という本を読んで受けた衝撃から、作られたものです。

 今年の9月初旬にCDをリリースするという時期の設定は、この曲が題材とする事件が起きた9月2日(関東大震災の翌日)に合わせてということだったのでしょうが、時あたかも、小池百合子東京都知事が、従前の慣例を破り、関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式に追悼文を送らないこととしたというニュースと時期が重なり、以下のようにメディアが中川さんのCDを紹介するきっかけになったのは、何というタイミングかと正直驚きます。
 
(抜粋引用開始)
 1923(大正12)年9月1日の関東大震災で起きた朝鮮人虐殺。この事件をテーマに、フォーク歌手の中川五郎さん(68)が歌を作った。民族差別的なヘイトスピーチのデモが相次ぐ現代に警鐘を鳴らす約18分の長い歌だ。
 曲名は「トーキング烏山神社の椎(しい)ノ木ブルース」。かつて住んでいた東京都世田谷区の千歳烏山駅近くで、虐殺に絡んで植えられたというシイの木の伝承を題材にした。
 中川さんは60年代後半からベトナム反戦や反差別をテーマにした米国のフォークソングに影響を受けて歌い始め、69年には第1回の「中津川フォークジャンボリー」にも参加。高田渡岡林信康らとともに、フォークを代表する歌手の1人だ。
 94年前の震災直後、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」などとするデマが流れ、関東各地で朝鮮人や中国人が暴行を受けて殺害された。世田谷区南烏山2丁目の烏山神社にあるシイの木は「殺された朝鮮の人13人の霊をとむらって地元の人びとが植えた」と、区制50年誌に記されている。
 一方、加害者として起訴された12人が「晴れて郷土にもどり(中略)記念として植樹した」との古老の証言記録も残る。この証言を紹介したノンフィクション「九月、東京の路上で」(加藤直樹著、ころから刊)が2014年に出版された。読んだ中川さんは、「異質なものを排除し、加害者をかばって木まで植えてしまった」と衝撃を受けた。
(引用終わり)
 
 もう1つ、同じく9月1日にハフィントン・ポストにも以下のような記事が掲載されました。
 
 (抜粋引用開始)
 1923年、関東大震災から一夜明けた9月2日の午後8時頃。東京府北多摩郡千歳村字烏山において新宿方面に移動中のトラックが自警団によって止められ、竹やり、棍棒、トビ口などで武装した人々に取り囲まれた。
 車中に乗っていたのは17人の朝鮮人労働者たちで京王電鉄の依頼を受けて土木作業現場に就く途中であった。すでに「震災の混乱に乗じて転覆を図る朝鮮人暴徒が世田谷方面から集団で襲って来る」等のデマが千歳村に流布されており、尋常ならざる興奮状態であった武装集団は数回の押し問答の末、朝鮮人という言葉に反応し手にした凶器で襲い掛かった。
 法に基づいた調査もなされずにただ朝鮮人ということだけで凄惨を極める私刑が行われた。当時35歳だった洪其白さんたち13名が犠牲になった。
(略)
 「怖いことです。僕も住んでいたからこそ分かるんですが、千歳の村でかばい合う意味での絆があったんでしょうね。身内の団結というか、例え誤ったことでもそれは地元のためにやったことだからと正当化してしまう。内向きでそれを正義にしてしまう。日本の恐ろしい所、この国が犯して来た過ちです。これを歌わなければと強く思ったわけです」
 本が出たのが2014年3月で5月にはもう曲を作っていた。烏山で起きた事件をひとつの物語としてろうろうと歌い上げるバラッドは実に17分49秒におよぶ大作となった。
 「でもね」と続ける。「僕が歌っているのは、94年前のことではなく、今の日本のこと。事件は過去のことでも現在と未来のことを歌っているんです」
 一時ほどではないにせよ、白昼堂々と「朝鮮人を殺せ」と叫ぶヘイトスピーチが横行し、それらを企んだ人物が政党を作った。一年前には相模原の障害者施設で19人が殺害される事件が起こった。
 「自分たちと異なる人たち、出自を外国に持つ人であったり、障害を持つ人たちとこの国で共に生きようとするのではなくて排除しようとしている。そんなひどい社会になっているじゃないですか」
 そして関東大震災の虐殺については、歴代都知事が行って来た朝鮮人犠牲者の追悼式に対する追悼文を小池百合子都知事が、約6000人という犠牲者の数に疑義を呈して今回は見送ると表明した。
 「ああいう歴史修正が恐ろしい。小池知事は東京大空襲や広島、長崎の被害の数字にはこだわりは見せていないじゃないですか。それでいて関東大震災の虐殺については数字から事実ではないのではないかという言いがかり。仮にその数字に信憑性がなかったとしても、例え犠牲者の数が少なかったとしても、デマがあって自分たちと違う人々がそれを理由に殺されたという悲惨な出来事自体はあったわけです」
 「都知事の立場ならば、かつて東京でそういう事件が起こったということ、数字の正確さよりもそれを二度と繰り返さないという誓いを言わないといけないと思うんですよ。ところが、数字の問題にすり替えて、あった事実をゼロにしてしまう。知事が追悼の言葉を送らないなんて考えられないですよ。恐ろしい時代になって来ました。そのおかげで僕はこの年になって歌いたいことがどんどん出て来ました」
(略)
(引用終わり)
 
 上記HUFFPOSTの記事はほぼ良い内容なのですが、かなりまずい表現が1箇所あります。それは、「13名が犠牲になった」という部分です。これを読んだ人は、当然、中川さんの『トーキング烏山神社の椎ノ木ブルース』は、13人の虐殺された朝鮮の人たちの悲劇を歌い上げ、そのような悲劇的な歴史を直視せず、ヘイトスピーチに走ったりする世相を厳しく批判している曲に違いないと思うでしょう?
 違うのです。この曲が取り上げた事件で亡くなった(殺された)方は1人だけなのです。17人の朝鮮人労働者のうち、2人は現場から逃げ、残る15人が集団暴行を受けて重軽傷を負い、その内1人が病院に搬送されるも亡くなったということだったのです。
 中川さんの約18分の曲は、甲州街道沿いの烏山村で発生した事件を語り、暴行に加わった自警団員のうち12人(「その中には大学で英語を教える教授もいた。」)が殺人罪で起訴された、と歌ったところでちょうど半分あたり(9分過ぎ)となり、しばらくギターだけの間奏となります。
 従って、この曲の残る半分は、事件そのものを語る訳ではないのです。後半の始めの方の歌詞を一部引用します。
 
(引用開始)
少し時が流れて 烏山神社の参道に椎ノ木が植樹された
そして もっと大きな時の流れの中で
事件のことは 人々の口には上らなくなっていった
60年後の1982年 世田谷区制50年を祝って
世田谷区から 郷土史の本が出版された
その本では 大橋場の事件に触れて こう書かれていた
今の烏山神社の参道には 13本の椎ノ木が粛然と立っている
これは殺された朝鮮人13人の霊を弔うために 村の人たちが植えたもの
しかし 殺されたのは「ホン ギペック(?)」ただ1人
重軽傷を負った朝鮮人の土工たちは全部で14人
烏山神社の参道に植えられた椎ノ木は全部で12本
13人の霊を弔うと書いたその本の文章は摩訶不思議
そして 真相が明らかになった
烏山神社の参道に植えられた12本の木は 
起訴された自警団員の男たちが
晴れて村に戻れたことを祝って植えられたものだった
(引用終わり)
 
 小池百合子知事の発言に対し、問題は「人数」ではないとして厳しく批判する中川さんの発言の背景には、当然この『トーキング烏山神社の椎ノ木ブルース』で歌った事件があります。そう、問題は「人数」ではないのです。
 それでは何が問題なのか?
 『トーキング烏山神社の椎ノ木ブルース』の歌詞の最後の部分を引用することでその説明に代えたいと思います。
 
(引用開始)
変わらないこの国 変わらないこの国の人たち
変わろうとしないこの国 変わろうとしないこの国の人たちを
残った椎ノ木は 見つめている
また同じことを 繰り返そうとしている
この国を見つめている
「良い朝鮮人も 悪い朝鮮人も みんな殺せ」
そんなことを 街中で大声で叫ぶ人たちがいて
それに 見て見ぬふりをして
何も言おうとしない人たちが あふれるこの国
変わらないこの国 変わらないこの国の人たち
変わろうとしないこの国 変わろうとしないこの国の人たち
今も残った椎ノ木は 同じことを繰り返す
この国を見て 一体何を思うのか
僕は思った 僕は思った
変わろうとしないこの国を 変わろうとしないこの国の人たちを
変わろうとしないこの国を 変わろうとしないこの国の人たちを
まるで まるで まるで まるで
まるで まるで まるで まるで
祝福しているかのうような この大きな椎ノ木を
ぶった切ってやりたいと
あー あー あー あー あー あー あー あー
(引用終わり)
 
 私は事務所に戻ってから、すぐに届いたばかりのCDを聴きながら、文字起こしを始めていました。18分弱の全ての歌詞を文字起こしするのに1時間以上かかりました。
 1つには、歌詞カードが付いていなかったからですが、もう1つの理由は、一字一句書き取ることによって、中川さんの叫びを直接私の中に取り込みたい、そのためには、自分で文字起こしするのが一番良い、と直感したのですね。
 ですから、私が皆さんにお勧めしたいのは、すぐにこのCDを注文して入手され(送料・消費税込みで1,000円です)、自分で最初から最後まで文字起こしをすることです。
 固有名詞を正確にどう表記すべきかは、加藤直樹さんの『九月、東京の路上で』を参照しないと分からない箇所もありますが、それ以外は大体正確に書き取れるはずです。
 
 
中川五郎 - トーキング烏山神社の椎ノ木ブルース(Trailer)(2分41秒)
 

 上記動画はプロモーション用のトレーラーですが、18分の全曲にわたり、このような語りというかメロディが続いていきます。これが由緒正しいバラッドの姿だと思いますが、これを「歌」ということに躊躇する人がいるかもしれませんね。
 でも、私はやはりこれは「歌」以外のものではない、トーキングという「歌」だろうと思います。
 
 なお、是非1人でも多くの方に発売されたばかりの中川五郎さんの『トーキング烏山神社の椎ノ木ブルース』を購入して聴いていただきたいのですが、「とにかく今すぐ全曲を聴きたい」という方には、YouTubeで曲名を入力して検索すれば、中川さんによる複数のこの曲のライブ動画がヒットすることを申し添えておきます。
 
 それから、この曲で歌われた烏山村の大橋場で発生した事件の内容については、基本的に、加藤直樹さんの著書『九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響』に準拠したものであり、異説があっても不思議はありません。
 
(付記)
  関東大震災における朝鮮人等の虐殺については、政府の中央防災会議に設けられた「災害教訓の継承に関する専門調査会」における報告書でも取り上げられていますので、ご紹介しておきます。
 
(弁護士・金原徹雄のブログから/中川五郎さん関連)
2012年8月22日(2013年2月11日に再配信)
2012年9月25日(2013年2月3日に再配信)
2015年1月2日
2016年5月7日
2016年5月8日
2017年6月12日