2019年1月3日配信(予定)のメルマガ金原.No.3381を転載します。
新しい作家を迎えられないパブリック・ドメイン・デイ(元旦)~これが20年間続くのか
著作権の保護期間について、私はこのブログで、ここ2年ほどの間に2度取り上げてきました。
2016年11月17日
2018年1月4日
以上で詳説したこれまでの経緯を一々振り返ることはしませんが、ちょうど1年前、昨年1月4日のブログで懸念していた、日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)の発効よりも先に、米国抜きの「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)」の発効により、昨年末(2018年12月30日)、著作権の保護期間を、従来の著作者の死後50年から70年に延長する改正著作権法が施行されました。
この結果、もしも保護期間が死後50年のままであれば、1968年(昭和43年)に亡くなった子母澤寛や広津和郎などの著作物は、2019年1月1日からパブリック・ドメイン(著作権フリー)となっていたものが、改正著作権法の施行により、2038年12月31日までその保護期間が延長されることになりました。
この間の経緯については、文化庁WEBサイトの以下の記事などをご参照ください。
環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律(平成28年法律第108号)及び環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律(平成30年法律第70号)について
平成30年12月30日施行 環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)の発効に伴う著作権法改正の施行について
著作物等の保護期間の延長に関するQ&A
著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)
(保護期間の原則)
第五十一条 著作権の存続期間は、著作物の創作の時に始まる。
2 著作権は、この節に別段の定めがある場合を除き、著作者の死後(共同著作物にあつては、最終に死亡した著作者の死後。次条第一項において同じ。)七十年を経過するまでの間、存続する。
(無名又は変名の著作物の保護期間)
第五十二条 無名又は変名の著作物の著作権は、その著作物の公表後七十年を経過するまでの間、存続する。ただし、その存続期間の満了前にその著作者の死後七十年を経過していると認められる無名又は変名の著作物の著作権は、その著作者の死後七十年を経過したと認められる時において、消滅したものとする。
2 略
(団体名義の著作物の保護期間)
2 略
3 略
(映画の著作物の保護期間)
第五十四条 略
第五十五条 削除
(継続的刊行物等の公表の時)
第五十六条 略
(保護期間の計算方法)
第五十七条 第五十一条第二項、第五十二条第一項、第五十三条第一項又は第五十四条第一項の場合において、著作者の死後七十年の期間の終期を計算するときは、著作者が死亡した日又は著作物が公表され若しくは創作された日のそれぞれ属する年の翌年から起算する。
私は、就寝前の短い時間ですが、寝床で本を読む習慣があります。選ぶ本によっては恰好の睡眠薬代わりとなり、2頁も読まないうちに眠りに落ちることもありますが、ついつい引き込まれてしまい、睡眠時間を削ってしまう本もあります。
未読の本だけではなく、時には書棚にある本から懐かしいものを抜きだして読むこともあり、えてしてそういう本は睡眠薬代わりにはなりません。
昨秋には、私が中学から高校の頃(私の中学入学は昭和42年)に愛読した作家、武者小路実篤の文庫本を何冊も読み返しました。当時は新潮文庫と角川文庫が文芸書を主に文庫化しており、というか、文庫といえば、岩波、新潮、角川以外にはせいぜいケース付きの旺文社文庫がある位という時代でしたから、私も専ら新潮文庫と角川文庫で武者小路を読んだものです。
今でも、「友情」とか「お目出たき人」などは文庫でも読めるようですが、皆さんは、武者小路実篤の「若き人々」とか「母と子」という長編小説を知ってますか?これは、かなりのファンでなければ、そもそも作品の存在自体知らないでしょうね。
特に名作の誉れがある訳でも何でもありませんし、通俗的なハッピーエンドの小説というのが一般の評価かもしれないのですが、初読からもう多分半世紀が経過していますが、何年かごとに書棚から取り出しては読み返し、もう表紙もぼろぼろです。
ちなみに、「若き人々」(角川文庫)を何度目かに読んだ時、「これは『お目出たき人』をもう一度語り直した作品ではないか。現実には失恋に終わった若き日の体験を、彼女と結ばれるハッピーエンドにして語り直した作品ではないか」と思ったものでした。
私が中学、高校時代に買い求めた武者小路実篤の新潮文庫や角川文庫は大事に保存してありますが、それは、全作品の中のごく一部に過ぎず、さらに多くの作品を読もうと思えば、現実的には小学館版の全18巻の全集を、図書館で借りて読むか、古本で購入するしかなく、私のようなファンならそれでも良いといえば良いようなものの、もっと多くの人に彼の文学に触れて欲しいという思いを実現するためには、パブリック・ドメインとなった後の「青空文庫」入りが大きな期待でした。
ところが、上述のとおり、1968年(昭和43年)以降に死亡した著作者の作品は、当分の間、パブリック・ドメインとはならないことになりました。
志賀直哉 1971年(昭和46年)亡⇒2041年まで
武者小路実篤 1976年(昭和51年)亡⇒2046年まで
里見弴 1983年(昭和58年)亡⇒2053年まで
と、21世紀も半ば頃となってしまいましたので、私の寿命のあるうちに武者小路の作品を「青空文庫」で読むのはまあ無理ですね。
問題は、著作権法第1条に定める「この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。」という法の趣旨から考えて、今回の「改正」がどのように「文化の発展に寄与」するのか、その筋道が何ら明らかにされていないということにあります。前掲の、文化庁サイトに掲載されたQ&Aを読んでもさっぱり分かりません。
最後に、今年元旦の青空文庫「そらもよう」の末尾の部分を引用します。自分自身がどのように「文化の発展に寄与」できるのか、1人1人が考えるきっかけとなることを祈りながら。
(引用開始)
パブリック・ドメインの意義に想いを馳せることや、社会全体で文化を共有する大切さを伝えていくためのお祝いの日を萎縮する必要はないのです。
リメンバー・パブリック・ドメイン・デイ!(U)
(引用終わり)