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家庭教育支援条例のある「まち」に住んで~『子ども白書2018』から

 2019年1月5日配信(予定)のメルマガ金原.No.3383を転載します。
 
家庭教育支援条例のある「まち」に住んで~『子ども白書2018』から
 
 昨年11月16日のブログ(『子ども白書2018  「子どもを大切にする国」をめざして』(日本子どもを守る会編)のご紹介)でご紹介したとおり、昨年8月、日本子どもを守る会が編集する『子ども白書2018 「子どもを大切にする国」をめざして』が本の泉社から刊行されました。

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 今日ご紹介するのは、同書の〈ことしの子ども最前線〉の1編として、私が執筆したものですが、先のブログにも書いたとおり、過去に私がブログに書いた記事のツギハギの域を出るものではなく、タイトル自体、ブログで一度使ったものの再利用です。
  もっとも、ツギハギではあっても、この問題(家庭教育支援条例を作って何をしたいのか?)を考えるために必要な基礎的事項の一応の整理にはなっているかと思いますので、ご紹介することとしました。
 
 なお、「家庭教育支援」に関わって、参考となるサイトを2つご紹介しておきます。
 1つは、「24条返させないキャンペーン」WEBサイトの中のカテゴリー「家庭教育支援法案」に分類された記事です。ネット上で読める様々な情報にリンクされていて、同法案の動向をフォローしたい向きにはとても参考となります。
 
 もう1つは、家庭教育支援法や家庭教育支援条例がなくても、国は「家庭教育支援」を推進しているということに関わるものですが、全国都道府県教育長協議会第2部会が一昨年(2017年)3月にとりまとめた「今後の家庭教育支援の在り方について~定量的な効果検証の試みと好事例の収集~」という報告書です。
 同報告書は、その「調査結果のまとめ」において、以下のように述べています。
「今回の調査研究では、個々の事業の評価に止まらず、家庭教育支援施策の成果、効果を評価するため、全国学力・学習状況調査(児童質問紙等)の「子供の基本的生活習慣の改善」や「地域への参加、関心」といった評価項目を活用し、定量的な効果検証を試みた。
その結果、「親への学習支援」と「放課後子供教室の設置」に比較的よく取り組んでいるとする市区町村では、「子供の基本的生活習慣」や「地域への参加、関心」といった児童質問紙等の設問の肯定的回答の平均値が、全国や都道府県の平均値と比べ、概ね高い傾向を示した。」
 家庭教育支援法案や家庭教育支援条例だけではなく、着々と進行する「家庭教育支援」についての注目を怠ってはならないと思います。
 

『子ども白書2018 「子どもを大切にする国」をめざして』
日本子どもを守る会編 2018年8月 本の泉社発行 より
 
                     家庭教育支援条例のある「まち」に住んで
 
                               金 原 徹 雄
 
1 私の住む「まち」に家庭教育支援条例が制定されていた
 私は、和歌山市で生まれ、還暦を過ぎた今まで、司法試験受験のためと、合格後司法研修所を修了するまでの一時期を除き、ずっと生まれ故郷の和歌山市で暮らしてきました。ところが、その和歌山市(県庁所在地で中核市)に、近年、どうにも気になる動きが目につくようになってきたのです。
 例えば、和歌山県と一体となって、市内のリゾート施設に外国人専用(これも怪しくなってきましたが)カジノを誘致するという方針を打ち出したり、和歌山市民図書館に指定管理者制度を導入し、全国で物議を醸している「ツタヤ図書館」を運営するCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)を指定管理者に指定したり(全国の中核市で初)といったことです。
 そして、本稿では、和歌山市におけるもう一つの「全国の中核市で初」をご紹介したいと思います。それは、和歌山市家庭教育支援条例の制定と同条例に基づく具体的な施策についてです。
 まことに恥ずかしながら、和歌山市議会が、2016年12月15日に和歌山市家庭教育支援条例を可決成立させていたということ自体、翌年の3月になるまで私は全く知りませんでした。参院選、安保法制、原発共謀罪と、取組課題が山積していたからというのは言い訳にはならないでしょうが。
 現在までに、この種の家庭教育支援条例がどれくらいの自治体で制定されているのか、最新の情報は承知していないのですが、2017年3月末の時点で条例の制定を確認できたのは、8県(熊本、鹿児島、.静岡、.岐阜、徳島、宮崎、群馬、茨城)、5市(石川県加賀市、長野県千曲市和歌山市、鹿児島県南南九州市、.愛知県豊橋市)にのぼります。
 
2 始まりは教育基本法の全面「改正」
 和歌山市家庭教育支援条例が、第3条(基本理念)において、「家庭教育への支援は、保護者が教育基本法(平成18年法律第120号)第10条第1項に定めるところにより、子供の教育について第一義的責任を有しているとの基本的認識の下に・・・」とあるとおり、
現下の家庭教育支援条例や、近々の国会上程が取り沙汰されている家庭教育支援法案は、第一次安倍晋三政権下の2006年12月に全面「改正」された新・教育基本法にその根拠を置いています。
 
(家庭教育)
第十条 父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする。
2 国及び地方公共団体は、家庭教育の自主性を尊重しつつ、保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援するために必要な施策を講ずるよう努めなければならない。
 
 すなわち、上記第10条2項で規定された「国及び地方公共団体」の「務め」を具体化するための条例の制定であり、法案の準備であるということなのでしょう。
 ちなみに、日本国憲法施行の直前に公布され、憲法を実現するための不可欠の付属法令であった旧・教育基本法にも「家庭教育」という用語は使われていましたが、それは、あくまで「社会教育」の一部、その例示であって、保護者が「子の教育について第一義的責任を有する」というような価値観の押しつけなどしていませんでした。
 家庭教育支援条例についても、家庭教育支援法案についても、その起点は教育基本法の全面「改正」であり、教育に関する憲法とも言われた旧・教育基本法が書き換えられたことにより、実質的な意味における憲法は変容を被らざるを得なかったという評価が必要なのだろうと思います。
 
3 和歌山市家庭教育支援条例の構成(特に親と市の役割)
 和歌山市家庭教育支援条例は、先に引用した第3条で(基本理念)を定め、続く第4条以下において、市(第4条)、保護者(第5条)、学校等(第6条)、地域住民及び地域活動団体(第7条)及び事業者(第8条)の各「役割」を規定し、第5条ないし第8条には、その役割に応じた努力義務を課しています。
 この内、第5条(保護者の役割)は、「保護者は、基本理念にのっとり、子供に愛情をもって接し、子供の基本的な生活習慣の確立並びに子供の自立心の育成及び心身の調和のとれた発達を図るとともに、自らが親として成長していくよう努めるものとする。」と規定し、「子供に愛情をもって接」することを(努力義務とはいえ)保護者(原則として親)に義務付けています。私は、これを読んで、法律(条例)上の概念として「愛情」という表現を使用することに何のためらいもなかったのか?と慄然としました。
 もっとも、この種条例の先駆的存在である熊本県条例(くまもと家庭教育支援条例)の第6条(保護者の役割)も、「保護者は、基本理念にのっとり、その子どもの教育について第一義的責任を有するものとして、子どもに愛情をもって接し、子どもの生活のために必要な習慣の確立並びに子どもの自立心の育成及び心身の調和のとれた発達を図るとともに、自らが親として成長していくよう努めるものとする。」と規定しています。
 正直言って、和歌山市条例は「くまもと家庭教育支援条例」の引き写しです。かくて、コピペ条例が増殖していくのだろうなあ、というのが、私が熊本県和歌山市の家庭教育支援条例を読み比べた上での感想であるとともに、「自民党日本国憲法改正草案の第24条1項、『家族は、互いに助け合わなければならない。』と同じじゃないか。」と呟かざるを得ませんでした。
 和歌山市条例に戻り、とりわけ「市が何をするのか?」にフォーカスして読み進めてみましょう。条例は、第4条(市の役割)で、「市は、前条に規定する基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、家庭教育を支援するために必要な体制を整備するとともに、家庭教育を支援するための施策を総合的に策定し、及び実施しなければならない。」(1項)という総括規定を置いた上で、第9条~第14条において、市が行う各種家庭教育支援行政の根拠規定を列挙しています。
 詳細については、条文自体にあたっていただきたいのですが、とりわけ、「親としての学び(保護者が子供の発達段階に応じた家庭教育に関する知識、子育ての知識その他の親として成長するために必要なことを学ぶことをいう。)の支援」(第9条)と「親になるための学び(子供が家庭の役割、子育ての意義その他の将来親になるために必要なことについて学ぶことをいう。)の支援」については要注意です。なぜ要注意なのかということは、
次項で述べる家庭教育支援条例制定記念講演会の模様をお読みになれば分かります。
 
4 和歌山市家庭教育支援条例制定記念講演会に行ってきた
 和歌山市は、2016年12月の家庭教育支援条例の制定をうけ、平成29年度予算に、「条例の趣旨を市民の方に周知・啓発するための講演会開催やパンフレットの作成、担い手講座や親子食育講座等の実施」のために、78万5000円の新規予算を付けました(所管:生涯学習課)。
 その予算のかなりの部分を使ったと思われる「和歌山市家庭教育支援条例制定 記念講演会~大人が変われば 子供も変わる~(主催:和歌山市和歌山市教育委員会)」が、2017年7月1日(土)、同年春に開校したばかりの市立小中一貫校を会場として開催されましたので、私も参加してきました。
 第1部・記念講演「家庭教育支援条例の意義と課題」、第2部・パネルディスカッション「本音で語る!和歌山市の子育て『子育てしやすいまちって、どんなまち?』」の内容自体については、特段報告するほどのこともありませんので、ここでは、どのような人が登壇者として選ばれたかに注意を喚起しておきます。
 記念講演の講師かつ第2部のパネリストを務めたのが一般財団法人親学推進協会会長の高橋史朗氏(明星大学特別教授)であったばかりでなく、第2部・パネルディスカッションのコーディネーターを務めた辻由起子氏(大阪府認定子ども家庭サポーター)は、親学推進協会理事、親学アドバイザー(同氏のホームページの記載による)でした。さらに、高橋教授以外のパネリスト3名の内、和歌山市教育長を除く2名の地元の女性も、1人は「親学を学んで救われた」と発言し、もう1人は「親学アドバイザーである」と自己紹介していました。
 そもそも、条例において、「親としての学び」や「親になるための学び」を市が支援すると謳われている以上、別に驚くほどのことではないのかもしれませんが、私も、参加するまで、ここまで「親学」一辺倒で来るとは予想していませんでした。
 教育基本法の全面「改正」とほぼ同時(2006年12月)に設立された親学推進協会が唱道する「親学」の詳細をここで語る余裕はありませんが、巷間伝えられる発達障害に対する無理解などを脇に置くとしても、伝統的と称する価値観の押し付けや、提言の非科学性が多くの批判を浴びていることはご承知のことと思います。
 そして、条例実施段階の実質2年目である平成30年度の和歌山市の予算を調べてみると、目立つものとして、「『親としての学び』支援のための学習プログラム開発」(所管:学校教育課)に113万2000円の予算が付いていました。「事業目的及び概要」として「子供の発達段階に応じた家庭教育や子育ての知識を学ぶための講座・研修会等で使用するための学習プログラムを開発します。また、開発に当たり、先進地を視察し家庭教育支援の支援者が活用しやすい学習プログラムの開発に生かします。」とありましたので、この予算の具体的な執行と「親学」との関連も注視する必要があると思います。
 
5 法律や条例がなくても「家庭教育支援チーム」は子育て中の家庭を訪問している
 以上は、私が住む和歌山市の状況についての報告でしたが、実は、家庭教育支援法がなくても、家庭教育支援条例のない市町村であっても、国家による「家庭への介入」は着々と進められているということは、本田由紀教授(東京大学大学院教育学研究科)による警鐘によって、私もようやく気がつきました。
 そして、調べてみたところ、この点においても、和歌山県は「先進県」(?)であるようなのです。
 文部科学省に設置された「家庭教育支援の推進方策に関する検討委員会」による「家庭教育支援の具体的な推進方策について」(2017年1月)などを読むと、家庭教育支援チームによる子育て中の家庭への「全戸訪問」が望ましいあるべき姿であると明確に示されています。
御坊市串本町の3市5町の家庭教育支援チームが文科省に登録しており、中でも、湯浅町家庭教育支援チーム「とらいあんぐる」による「全戸訪問」の取組は、推奨すべきモデルケースとして、全国的な注目を集めていましたが、2018年3月15日、「とらいあんぐる」は、全国24の家庭教育支援チームとともに、文部科学大臣表彰を受けました。
 文科省ホームページで紹介されているところによると、「とらいあんぐる」は、スクールソーシャルワーカーをリーダーとして、保護者や地域住民らも加わる計16名で構成され、「0才児から中学3年生までの子供がいる全ての家庭をA・B・C の3ブロックに分け、1ヶ月に1ブロック、3ヶ月で全家庭を訪問する(年間4回訪問実施)」「全戸家庭訪問」を行っているということです。
 人口1万2000人余りの小さな町だからこそ出来る「全戸訪問」かもしれませんが、1年に4回も(!)、他人が「家庭教育支援」のためにやって来るということを、子育て中の個々の家庭がどう受け止めているのでしょうか。
 
6 家庭教育支援法案について
 2017年の通常国会に上程されるのではないかと言われていた家庭教育支援法案については、本稿執筆時点(2018年5月)においても、いまだに提出時期は分かりません。
 また、法案の内容についても、2016年10月段階で明らかとなった自民党の素案と、2017年2月に朝日新聞が「自民党が今国会で提出をめざす『家庭教育支援法案』の全容が明らかになった」として、2016年10月案からの具体的な修正項目を報じた内容が知られているだけだと思います。
 この1年以上の沈黙を「嵐の前の静けさ」と考えるべきか、はたまた、改憲4項目の発議を最優先とし、その妨げになりそうな法案は後回しにすることにしているのか、正直、実情はよく分かりません。
  けれども、新・教育基本法(2006年)から自民党日本国憲法改正草案(2012年)、そして、伝えられる家庭教育支援法案(2016年・2017年)までの流れに一貫性があることは、誰の目にも明らかなことです。
 また、その背景として、復古的な政治潮流と、新自由主義的な自己責任論を強調する潮流とが、複雑に合流しているということは、つとに識者が指摘されているところです。
 従って、この流れは、安倍政権だけが生み出したものではない以上、容易なことではせき止められないと考えなければならないと思います。
 
7 最後に~温故知新
 昨年(2017年)、東京の大久保秀俊さん、久保木太一さんという両若手弁護士が、1942年5月7日付で、文部次官から各地方長官宛に通牒された「戰時家庭教育指導ニ關スル件」の別紙として示された「戰時家庭教育指導要項」を分かりやすく「超訳」されたことを知り、ご了解を得て私のブログに転載させていただきました(ルビ付き原文と超訳で読む「戦時家庭教育指導要項」(1942年5月)統合版)。
 是非、原文もしくは超訳でこの「戦時家庭教育指導要項」を読んでいただきたいのですが、「我ガ国ニ於ケル家ノ特質」を国が勝手に措定し、それに適合するように、「健全ナル家風ノ樹立」、「母ノ教養訓練」、「子女ノ薫陶養護」、「家生活ノ刷新充実」の細部に至るまで国が指図をするという内容に、若い人なら笑ってしまうかもしれません。
 けれども、現状の我が国は、笑いごとでは済まない状況に至っているという認識を多くの人に持ってもらう必要があります。
 「子女ノ薫陶養護ハ家庭教育ノ中核ナリ父母ノ慈愛ノ下、健全ナル家風ノ中ニ有為ナル次代皇国民ノ錬成ヲ為スベク」(戦時家庭教育指導要項)と「保護者は、基本理念にのっとり、子供に愛情をもって接し、子供の基本的な生活習慣の確立並びに子供の自立心の育成及び心身の調和のとれた発達を図る」(和歌山市家庭教育支援条例)との間に、それほどの径庭があるとはとても思えません。
 歴史に学び、今を知ることは、何によらず常に重要です。
 
●プロフィール
 きんばら・てつお 1954年生まれ。弁護士。和歌山弁護士会子どもの権利委員会、和歌山県人権擁護委員連合会子ども人権委員会などで、子どもの人権に関わる活動を30年続けてきた。2013年から「弁護士・金原徹雄のブログ」を毎日更新中。
 

(弁護士・金原徹雄のブログから/家庭教育支援関連)
2017年3月29日
「家庭教育支援法案」を考えるための基礎資料のご紹介~(付)「和歌山市家庭教育支援条例」を読む
2017年6月28日
和歌山市家庭教育支援条例制定記念講演会「大人が変われば 子供も変わる」(7/1)から何が読み取れるか
2017年7月4日
家庭教育支援条例のある「まち」に住んで~和歌山市家庭教育支援条例制定記念講演会参加記~
2017年7月27日
法律や条例がなくても「家庭教育支援チーム」は子育て中の家庭を訪問している
2017年8月3日
ルビ付き原文と超訳で読む「戦時家庭教育指導要項」(1942年5月) 前編
2017年8月4日
ルビ付き原文と超訳で読む「戦時家庭教育指導要項」(1942年5月) 中編
2017年8月5日
ルビ付き原文と超訳で読む「戦時家庭教育指導要項」(1942年5月) 後編
2017年8月6日
ルビ付き原文と超訳で読む「戦時家庭教育指導要項」(1942年5月) 統合版
2018年11月16日
『子ども白書2018  「子どもを大切にする国」をめざして』(日本子どもを守る会編)のご紹介