2019年1月8日配信(予定)のメルマガ金原.No.3386を転載します。
日本弁護士連合会「公文書管理法制の改正及び運用の改善を求める意見書」を読む
昨年の12月20日付で採択された日本弁護士連合会の意見書としては、既に「旧優生保護法下における優生手術及び人工妊娠中絶等に対する補償立法措置に関する意見書」をご紹介していますが(「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する立法措置について(基本方針案)」に対する弁護団コメント、朝日社説、日弁連意見書のご紹介/2018年12月28日)、
同日の日弁連理事会で承認された意見書は他にも4本あり、今日はそのうちの「公文書管理法制の改正及び運用の改善を求める意見書」をご紹介します。
この問題に関して日弁連は、夙に2015年12月18日、「施行後5年を目途とする公文書管理法の見直しに向けた意見書」を発表し、様々な提言を行っていました。
ところが、その後、後に引用する意見書で言及しているとおり、① 防衛省における南スーダンPKO派遣部隊の日報廃棄問題(自衛隊日報問題)、② 財務省における学校法人森友学園への国有地売却の経緯に関する書類廃棄、決裁文書の改ざん問題(森友問題)、③ 文部科学省における学校法人加計学園の愛媛県今治市での獣医学部新設計画に関する文書の問題(加計問題)などの目を疑うばかりの問題事例が続出しました。
その後、「行政文書の管理に関するガイドライン」が改正されはしたものの、かえって、残すべき文書を残さない運用が増加するという事態が明らかになってきました。
そこで、以下の意見書が公表されるに至ったということでしょう。
PDFファイルで16頁もあり、全文引用するには長過ぎますので、
第1 意見の趣旨
第2 意見の理由
1 公文書管理法施行後の経過と問題事例
のみ引用し、具体的な提言部分の詳細な理由については、リンク先の日弁連サイトでお読みいただければと思います。
なお、その前提として、公文書管理法とガイドラインにリンクしておきますので、適宜参照しながら意見書をお読みいただければと思います。
公文書等の管理に関する法律(平成二十一年法律第六十六号)
それでは、日弁連「公文書管理法制の改正及び運用の改善を求める意見書」をお読みください。
(抜粋引用開始)
公文書管理法制の改正及び運用の改善を求める意見書
2018年(平成30年)12月20日
日本弁護士連合会
第1 意見の趣旨
1 政府が行政機関の職員に対し,公文書等の管理に関する法律(以下「公文書管理法」という。)4条が定める意思形成過程文書に関する文書作成義務について,行政文書の管理に関するガイドライン(以下「ガイドライン」という。)の規定する文書主義の原則を徹底させることを求める。
2 公文書管理法制の制度設計に関し,
(1) 公文書の恣意的な廃棄等が行われないように監視するため,独立した第三者機関としての公文書管理庁を設置すること
(2) 公文書管理法を,行政文書の作成段階から徹底して電子記録管理を行う法制度に変更すること
を政府及び国会に対して求める。
3 現行の公文書管理法,ガイドラインの改正及び運用の改善に際しては,
(1) 事後的検証に必要な文書が,情報公開及び公文書管理の対象から外れない運用をすること(公文書管理法2条4項,ガイドライン第1関係)
(2) 行政文書ファイルにおける文書整理に関する「保存期間を同じくすることが適当であるものに限る」(公文書管理法5条2項)との文言を削除すること
(4) ガイドラインから「可能な限り,当該打合せ等の相手方(以下「相手方」という。)の発言部分等についても,相手方による確認等により,正確性の確保を期するものとする。」との規定を削除すること(ガイドライン第3,3関係)
(5) 罰則について新たな故意犯を導入するのであれば,慎重に検討すること
(6) 公文書管理に関する法令違反等の不適切行為に関する内部通報専用の窓口を,各府省及び新設する公文書管理庁に整備すること
(7) 長期間利用制限をすべき秘匿性の高い文書であっても利用制限は30年を超えないとするいわゆる「30年原則」を制度化すること(公文書管理法16条関係)
を政府に対して求める。
第2 意見の理由
1 公文書管理法施行後の経過と問題事例
(1) 公文書管理法施行5年後の見直しはなされなかった
2011年(平成23年)4月1日に施行された公文書管理法附則13条は,「政府は,この法律の施行後五年を目途として,この法律の施行の状況を勘案しつつ,行政文書及び法人文書の範囲その他の事項について検討を加え,必要があると認めるときは,その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする」と規定する。
これを受けて当連合会は,2015年(平成27年)12月18日,「施行後5年を目途とする公文書管理法の見直しに向けた意見書」(以下「2015年意見書」という。)を発表し,ⅰ)公文書管理庁の設置,ⅱ)徹底した電子記録管理を行う法制度への移行,ⅲ)目的規定への「知る権利」の明記,ⅳ)公文書管理法3条を削除して公文書管理法の適用除外をなくす,ⅴ)いわゆる「30年原則」の採用,ⅵ)地方自治体における公文書管理体制の促進を提案した。
しかし,公文書管理委員会が,2016年(平成28年)3月23日に発表した,「公文書管理法施行5年後見直しに関する検討報告書」では,公文書管理法の改正に関する指摘はなされなかった。
(2) 2015年意見書発表後に明らかになった問題事案
2016年(平成28年)7月上旬,陸上自衛隊が派遣されている南スーダンの首都で大規模な戦闘が発生した。この件に関し,ジャーナリストが,防衛省に対して,「同月6日(日本時間)~15日の期間に中央即応集団指令部と南スーダン派遣施設隊との間でやり取りした文書全て(電子記録含む)」を開示請求した。
開示請求当時,派遣部隊が作成した日報が陸上自衛隊の指揮システムの掲示板にアップロードされ,同システムの利用者が閲覧及びダウンロード可能な状態にあった。しかし,日報を開示対象から外す意図の下に,中央即応集団指令部の職員が陸上幕僚監部関係職員に対し,日報は個人資料であると説明し,開示対象に含めないこととなった。その後なされた日報の開示請求に対しても,防衛省は,文書不存在を理由に不開示決定を行った。しかし,実際には,陸上自衛隊が日報を一貫して所持していたことが後に明らかとなった。
派遣部隊自身が作成した貴重な一次資料である日報は,派遣活動の成果や問題点を検証し,今後のPKO活動の可否・内容を考えるために必要であり,長期間にわたり保管されなければならない文書である。それにもかかわらず,文書不存在を理由に不開示決定を行った防衛省の対応は,2018年(平成30年)4月27日付け与党・公文書管理の改革に関するワーキングチーム作成「公文書管理の改革に関する中間報告」(以下「与党中間報告書」という。)も指摘するように,「戦闘」という用語を用いたことを国民から隠すためであると見られても仕方のない行為であって,国民主権の理念にのっとり公文書等の管理を規定する公文書管理法の精神に反している。
2017年(平成29年)2月,大阪市の学校法人森友学園に対して,同学園が設立する小学校の建設を予定している国有地が,近隣の土地評価額に比べて著しく低い価格で財務省近畿財務局から払い下げられていたことが発覚した。国有地の売却手続については,国の事業の実績を合理的に跡付け,検証することができるよう文書を作成しなければならず,少なくとも会計検査院による検査期間が終了するまでは,経緯を含めた説明責任を果たすために保管されなければならない。
しかし,同月24日の衆議院予算委員会で,当時の財務省理財局長は,本件土地の払下げに関する交渉記録が財務省行政文書管理規則によって保存期間が1年未満とされており,森友学園との売買契約成立により事案が終了したため廃棄したと答弁した。
ところが,2018年(平成30年)3月2日,財務省が森友学園との本件土地の売却契約に関する決裁文書を書き換えていたとの新聞報道がなされ,同月12日,財務省の内部調査により,前年の2月下旬から4月にかけて14件の決裁文書が改ざんされていたことが判明した。同年6月4日に同省が公表した,「森友学園案件に係る決裁文書の改ざん等に関する調査報告書」によれば,交渉記録の廃棄や決裁文書の改ざんが,「国会審議が相当程度紛糾することを懸念し,それを回避する目的」でなされたものと結論付けている(同報告書36頁)。これらの行為は,公文書管理法が定める公文書の作成,管理,保存又は廃棄の規定上,想定外の行為である。
2017年(平成29年)5月17日,政府の国家戦略特区制度を活用した学校法人加計学園の,愛媛県今治市での獣医学部新設計画について,文科省が,内閣府から,「総理のご意向だと聞いている」「官邸の最高レベルが言っている」と言われたことを記録した文書を作成していたことが報道された。
問題となった文書は,政府の国家戦略特区制度を活用した学部新設の認可プロセスという,まさに,国が説明責任を負う政府及び文科省の意思決定に至る過程に関するものであり,文書を作成し保管しなければならないことは言うまでもない。
ところが,文科省の元事務次官が,当該文書は本物であると話し,その後当該文書が省内の複数の部署で電子データとして共有されていたことが報道された。これに対し,文科省が,「個人のメモや備忘録は公開しないこととしているが,今回の件は,国民の声を真摯に受け止めて徹底した調査を行うという特例的な調査である」として再調査したところ,同年6月,問題の文書と同内容あるいは同じ文書の存在が確認された。
省内の複数の部署で電子データとして共有され,事務次官も閲覧できた文書を,「個人のメモ」として取り扱う文科省の行政文書に関する解釈は,公文書管理,情報公開に対する信頼を揺るがすものであると言わざるを得ない。
(3) ガイドラインが改正されたがなお問題は解消していない
自衛隊日報問題,森友問題,加計問題は,公文書管理及び情報公開法制が本来求めている記録に基づいた説明責任を行政が果たしていないことを示している。しかし,そのことへの対応として公文書管理法の改正は行われず,2017年(平成29年)12月に,公文書管理委員会がガイドラインを改正するにとどまった。
確かに,このガイドラインの改正により,保存期間1年未満の文書の取扱い等,公文書管理の運用の改善に一定の効果が期待できる。しかし,他方で文書の正確性を確保する方策等においては,文書を残さない方向への後退を招く危険性があり,実際に,ガイドライン改正後に以下の事象が発生している。
2018年(平成30年)3月,経産省が,ガイドラインの改正内容を職員に説明するに当たって同省職員に配布した内部文書の中で,省内外での打合せなどの記録について,「打合せ等の記録」は「いつ,誰と,何の打合せ」を行ったかが分かればよく,「議事録のように,発言の詳述は必要ない」等と記載していたことが同年8月に判明した。
2018年(平成30年)11月,防衛省が,職員用の行政文書管理マニュアルで,ガイドラインの改正により作成が義務付けられた打合せ記録の対象を,課長級以上の会議に限定すると受け取れる記載をしていることが判明した。これに対し,防衛省はマニュアルの記載は例示に過ぎないと説明したが,その後,海上幕僚監部が幹部研修で使っていた資料に,打合せ記録の「作成範囲の統一基準」として課長級以上の会議と明示していることが判明した。
これらの事象に照らすならば,もはやガイドラインの改正というレベルだけでは国民の行政への信頼回復は不可能であり,公文書管理法制の運用改善のみならず,公文書管理法制の見直しを含めた法改正が必要である。
~以下、省略~
(引用終わり)