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wakaben6888のブログ

憲法を大事にし、音楽を愛し、原発を無くしたいと願う多くの人と繋がれるブログを目指します

自民党「憲法改正推進本部長方針について」(2016/10/18)を読む

 今晩(2016年11月8日)配信した「メルマガ金原No.2624」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
自民党憲法改正推進本部長方針について」(2016/10/18)を読む

 私は、先月(2016年10月)、2度にわたって憲法学習会の講師の依頼を受け、そのために書いたレジュメを、このメルマガ(ブログ)でご紹介してきました。
 
 
 その際、レジュメの冒頭に「はじめに~あるシミュレーション」という1章を設け、「201X年〇月△日、自民党公明党の与党に加え、日本維新の会、日本のこころ他無所属の一部も加わり、衆参両院の総議員の三分の二以上の賛成を得て、初めて日本国憲法改正案を国会が発議した。」「国民投票の対象となる憲法改正案は、「第八章 地方自治」の次に「第九章 緊急事態」として、次の二箇条を挿入するというものであった。」という想定の下、主として改憲派による「国民投票運動」がどのようなものになるかを中心にお話しました。
 その趣旨は、漠然と「衆参両院で改憲勢力が2/3を超えた」というだけでは、これからどのような事態が「起こり得るのか」についての具体的なイメージがなかなかわかないことから、少しでも憲法が直面している危機についての理解を深めていただく手段としてシミュレーションをやってみようと思いついた次第です。
 
 けれども、私の問題関心の中心は「国民投票運動」にありましたので、いきなり、緊急事態条項を追加するという憲法改正案が発議された、というところから始めたのですが、もっと精度の高いシミュレーションを試みるのであれば、当然、憲法改正案の発議に至るまでの政治過程はどうなるのか?についての検討が必要になる訳です。これは現状の私には手に余る作業ですが、必ず誰かがやっておかねばならないこと(それも日本中各地で)だと思いますので、有志を募って、「憲法改正シミュレーション検討会」を立ち上げられれば、などと夢想しています。
 
 シミュレーションの基礎となる法令は、憲法改正案の発議までの段階は「国会法」で、発議以降、国民投票に至るまでの手続は「日本国憲法の改正手続に関する法律」(ただし、「国民投票広報協議会」の設置については国会法が定める)で規定されています。
 
国会法(昭和二十二年四月三十日法律第七十九号)
第六章の二 日本国憲法の改正の発議
 第六十八条の二
 第六十八条の三
 第六十八条の四
 第六十八条の五
第十一章の二 憲法審査会
 第百二条の六
 第百二条の七
 第百二条の八
 第百二条の九
 第百二条の十
第十一章の三 国民投票広報協議会
 第百二条の十一
 第百二条の十二
 
日本国憲法の改正手続に関する法律(平成十九年五月十八日法律第五十一号)
第一章 総則(第一条)
第二章 国民投票の実施
 第一節 総則(第二条―第十条)
 第二節 国民投票広報協議会及び国民投票に関する周知(第十一条―第十九条)
 第三節 投票人名簿(第二十条―第三十二条)
 第四節 在外投票人名簿(第三十三条―第四十六条)
 第五節 投票及び開票(第四十七条―第八十八条)
 第六節 国民投票分会及び国民投票会(第八十九条―第九十九条)
 第七節 国民投票運動(第百条―第百八条)
 第八節 罰則(第百九条―第百二十五条)
第三章 国民投票の効果(第百二十六条)
第四章 国民投票無効の訴訟等
 第一節 国民投票無効の訴訟(第百二十七条―第百三十四条)
 第二節 再投票及び更正決定(第百三十五条)
第五章 補則(第百三十六条―第百五十条)
第六章 憲法改正の発議のための国会法の一部改正(第百五十一条)
附則
 
 実は以上は前振りで、今日の主眼は、「憲法改正シミュレーション検討会」(?)での作業を行うための資料の1つとなるはずの文書のご紹介です。
 それは、去る10月18日に、自由民主党憲法改正推進本部の保岡興治(やすおか・おきはる)本部長名で発表された「憲法改正推進本部長方針について」です。
 実は、10月に行った2回目の講演用レジュメを書いた際には、この「本部長方針について」の原文自体は読めておらず、新聞報道を孫引きしただけでしたので、気になっていました。
 レジュメにも書きましたが、そもそも国会法第68条の3は、「憲法改正原案の発議に当たつては、内容において関連する事項ごとに区分して行うものとする。」と定めていますから、自民党日本国憲法改正草案」全体を国民投票にかける(事実上の「全部改正」)ことは法律上出来ないことになっており、保岡本部長が「衆参の憲法審査会に「そのまま提案することは考えていない」(東京新聞より)と本部長方針で述べたのはあまりにも当然すぎることだと思っていたのですが、原文では、該当箇所は以下のようになっていました。
 
(引用開始)
〇「日本国憲法改正草案」の位置付けなど
 当推進本部としては、両院の憲法調査会における我が党の憲法改正についての取り組みに対応する必要がある。わたしたちが直近にまとめた平成24年の「日本国憲法改正草案」は、先に述べた我が党の憲法論議を踏まえた上で発表した党の「公式文書」の中の一つではあるが、それを手にしてから既に4回の国政選挙を経て議員の構成が大きく変わり、また、その間これに対して内外から多くの意見もいただいてきた。それらを踏まえつつ、両院の憲法審査会の議論の状況などを見ながら、これに対応できるよう、現在の所属議員で闊達な議論を行い、党の考え方を整理する必要があると考える。したがって、24年草案やその一部を切り取ってそのまま審査会に提案することは考えていない。その上で、憲法審査会において、各党各会派が意見を持ち寄って、現憲法の足らざる点や改めるべき点など憲法改正の必要性とその内容について熟議を重ね、我が国初めての憲法改正が世界の国々にも理解されるよう、丁寧な合意形成を図っていくべきだと考える。
(引用終わり)
 
 以上のような文脈の中で、「24年草案やその一部を切り取ってそのまま審査会に提案することは考えていない」という方針が示されたという訳です。
 上記国会法の規定から考えて、この文章で意味を持つのは、「その一部を切り取ってそのまま審査会に提案することは考えていない」という部分であることは言うまでもありません。
 でも、よくよく考えてみると、「その一部を切り取ってそのまま審査会に提案すること」はしないということは、具体的な「提案」をしようとする場合には、どうするんでしょうかね。おそらく、野党の一部を含めた多数派工作をして合意に達した「改正案」を複数政党で共同提案するのだと思いますが。
 以下には、「憲法改正推進本部長方針について」の全文を引用するとともに、若干の補注と感想を付記します。
 

                                       平成28年10月18日 
 
            憲法改正推進本部長方針について
 
憲法とは何か~憲法論議の本質
 憲法とは、「いかなる政党が政権に就いたとしても守らなければならない共通のルールを定めた国家の基本」である。このことからするならば、憲法論議とは、各政党が選挙でより多くの議席を確保し政権を目指し、その政策を推進する政治活動、すなわち「政局」とはそもそも本質が異なるものである。
 中山太郎会長が作り上げた衆議院憲法調査会時代以来の運営理念の一つは、「憲法論議は国民代表である国会議員が主体性を持って行うべき」との考え方に基づき、審査会での議論は、各党の意見表明や委員同士の自由討議を中心として行い、対政府質疑などは行わないことを原則とすること、二つには、「議席数の多寡」はひとまず置き、少数会派や委員に平等に時間を配分して、議論を尽くし、深化させ、憲法改正に必要な3分の2以上の幅広い合意形成を目指すこと、というものであり、これらの運営理念は、国会が、国民投票を前提に、国民に分かりやすく明快な発議をすることを念頭に置いているものである。
 
(補注)
こういう「憲法」の定義は初めて読みました。つまり、一党独裁の国には「憲法」は存在しないということでしょうね(そういう定義ももちろんあり得ますが)。
ついでに言うと、こういう「政局」の定義も初めて読みました。これが一般的な定義なんでしょうか?
審査会では「対政府質疑などは行わない」のは、内閣に憲法改正発議権はない、と一般に解されているからではなかったのでしょうか?
 
 このような運営ルールの下、政局から離れて静かに議論をする条件・環境を作って議論する憲法調査会以来の良き伝統は、先に述べた憲法の本質に立脚して得られたものであり、この方針の徹底が、長きにわたって与野党の対立のため憲法論議ができなかった国会から脱却し、「憲法調査会報告書」(平成17年4月)、「憲法改正国民投票法制定」(平成19年5月)、「三つの宿題の解決(18歳投票年齢などの国民投票法制定時に積み残した問題)」(平成26年6月)という成果につながっていることは明らかである。
 これからの憲法改正の道も、このことを大切に進めていくことが必要である。その先に自ずから目指すべき方向と道筋が見えてくると考える。
 
 
自由民主党憲法論議の歴史など
 我が党は、昭和30年の結党以来、60余年の憲法論議を積み重ねてきた。結党当時の「党の使命」や「政綱」などによると、我が党は結党当時から日本国憲法の三大原理を堅持することを明確にした上で、一貫してその基本を大切に自主的な憲法改正に向け努力を重ね、取りまとめを試み、近年においては、憲法の全体像を条文の形で表した「新憲法草案」(平成17年)及び「日本国憲法改正草案」(平成24年)を得てきた。このように自由民主党は、現在に至るまで真摯に憲法論議を積み重ね、その成果として、数々の「公式文書」を世に問うてきた。
 他方、各党においても、それぞれ「憲法提言」や「論点整理」、改憲原案などを発表されている。
 わたしたち憲法改正推進本部は、我が党の過去の憲法に関する歩はもちろんのこと、各党の憲法に関する提言や上記の「憲法調査会報告書」(平成17年4月)などをしっかり把握することが、まずは大切であると考える。すなわち、我が党の憲法論議を中心としてこれまでの国会における憲法論議の成果を俯瞰することが極めて重要であり、憲法改正推進本部として、しっかりとこれらを勉強する場を設けて参りたい。
 
 
〇「日本国憲法改正草案」の位置付けなど
 当推進本部としては、両院の憲法調査会における我が党の憲法改正についての取り組みに対応する必要がある。わたしたちが直近にまとめた平成24年の「日本国憲法改正草案」は、先に述べた我が党の憲法論議を踏まえた上で発表した党の「公式文書」の中の一つではあるが、それを手にしてから既に4回の国政選挙を経て議員の構成が大きく変わり、また、その間これに対して内外から多くの意見もいただいてきた。それらを踏まえつつ、両院の憲法審査会の議論の状況などを見ながら、これに対応できるよう、現在の所属議員で闊達な議論を行い、党の考え方を整理する必要があると考える。したがって、24年草案やその一部を切り取ってそのまま審査会に提案することは考えていない。その上で、憲法審査会において、各党各会派が意見を持ち寄って、現憲法の足らざる点や改めるべき点など憲法改正の必要性とその内容について熟議を重ね、我が国初めての憲法改正が世界の国々にも理解されるよう、丁寧な合意形成を図っていくべきだと考える。
 
(補注)
「4回の国政選挙を経て議員の構成が大きく変わり」「党の考え方を整理する必要がある」というのは、保岡本部長の率直な感慨なのではと推測します。
 2014年2月26日の参議院憲法審査会における自民党赤池誠章(あかいけ・まさあき)議員の発言に驚き呆れた私は、思わず「赤池誠章氏(自民党)の参議院憲法審査会(2/26)での発言から考える」という発言批判の文章を書きました。
 何しろこの議員は、「現行憲法には制定過程に問題があり、法律としての大前提である「正統性」がないと感じております。」「憲法自体が憲法違反の存在というものであります。」「その制定過程を知る以上、国民代表である私たち国会議員がそれを「是」とすることはあり得ないと私は考えております。」とまで発言したのですからね。
 私は、上記の批判文の中で、「2005年の郵政選挙において衆議院山梨1区で落選したものの比例復活したが、1期務めただけで2009年の選挙で落選し、2013年の参議院全国区で当選したばかりという経歴の議員に全面的に憲法審査会での発言を任せるほど自民党は人材不足なのだろうか?」と書きましたが、保岡興治氏も、心の中では私の意見に同意していただけるのではないか、などと思ったりします。
 
 当推進本部としては、各党が今日まで憲法審査会の歩みにおいて真摯に取り組まれたことに敬意を表しつつ、徹底した議論が尽くせるように、その環境条件を整えることに意を払ってまいりたい。
 また、すでに森本部長時代に、山口泰明組織本部長とともに各都道府県連に憲法改正推進本部を設置することを要請したところであるが、我が党がこれまでに発表した党の改正案やその前提となる現行憲法の体系についての理解を深めるとともに、党推進本部での議論の状況も踏まえつつ、国民の憲法改正への合意形成を目指し、国民に憲法論議の理解を深めていただくよう、党を挙げて努力をしていきたい。
 
〇おわりに
 森英介・前本部長の「憲法改正推進本部の使命は、まず何より、国民の合意形成にあり、本部は、謙虚に、真摯にそのための土俵作りの役目を果たす」という方針を受け継ぎ、推進本部の役員や議員各位の皆様とともに、この憲法改正推進本部における議論が、自由闊達に、オープンで透明性の確保された形で進められるように努めて参りたい。
 
(補注)
 今臨時国会から、衆議院憲法審査会の会長が保岡興治氏から森英介氏に変わり、それと入れ替わるように、保岡氏が森氏の後を襲って党の憲法改正推進本部長に就任したということのようです。この交替にどんな思惑があるかは不明です。
 

(参考サイト)
マガジン9 2016年10月26日up
 南部義典「立憲政治の道しるべ」
 第106回 自民党はなぜ、憲法改正“やるやる詐欺”を続けるのか?

マガジン9 2016年7月13日up
 南部義典「立憲政治の道しるべ」
 第99回 “3分の2”超でも、憲法改正がすんなり進まないと考える理由