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全国知事会「米軍基地負担に関する提言」(2018年7月27日)を読む~日米地位協定の抜本的見直しを求めて

 2018年8月29日配信(予定)のメルマガ金原No.3254を転載します。
 
全国知事会「米軍基地負担に関する提言」(2018年7月27日)を読む~日米地位協定の抜本的見直しを求めて
 
 1か月遅れの情報ですが、やはり重要な出来事だと思いますので、ブログでご紹介しようと思います。
 まず、報道の一例を引用します。
 
朝日新聞デジタル 2018年8月14日18時14分
日米地位協定の抜本的見直し、全国知事会が両政府に提言
(抜粋引用開始)
 全国知事会は14日、日米地位協定の抜本的な見直しを日米両政府に提言した。8日に亡くなった翁長雄志・沖縄県知事の「基地問題は一都道府県の問題ではない」との訴えを受け、2年近くかけて提言にまとめ、7月の全国知事会議で全会一致で初めて採択した。
 提言は、航空法や環境法令など国内法の適用や、事件・事故時の基地への立ち入りなどを日米地位協定に明記するよう要請。米軍の訓練ルート・時期に関する情報を事前提供すること、基地の使用状況などを点検して縮小・返還を促すことも求めている。
(略)
 米軍基地を抱える15都道府県でつくる渉外知事会は、沖縄県で米兵による少女暴行事件が起きた1995年以降、日米地位協定改定を求め続けている。日米両政府は補足協定などで運用を見直しているものの、60年の締結以来、一度も改定されていない。(古城博隆)
(引用終わり)
 
 全国知事会による「米軍基地負担に関する提言」自体は、本年7月27日、札幌市で行われた「全国知事会議」において採択されたものですが、上記朝日新聞の報道は、8月14日に行われた全国知事会による要請行動を機に掲載されたものです。
 
全国知事会ホームページ
平成30年08月14日 「米軍基地負担に関する提言」に係る要請活動等について
(引用開始)
 8月14日(火曜日)、上田全国知事会長(埼玉県知事)、謝花(じゃはな)沖縄県副知事ほか3県(岩手県、神奈川県、大分県)は、外務省及び防衛省に対し、7月27日の全国知事会議で決議した「米軍基地負担に関する提言」について要請活動を行いました。また、在日米国大使館において、ジョセフ・M・ヤング 首席公使へ提言内容を説明し、意見交換を行いました。
(引用終わり)
 
 全国知事会が「初めて」日米地位協定の見直しを求める提言を採択した背景については、朝日新聞が伝えるとおり、故翁長雄志(おなが・たけし)沖縄県知事の強い働きかけがあったのでしょう。
 全国知事会に設置された「米軍基地負担に関する研究会」の第1回は2016年11月21日に開催されていますが、もちろんその会議には翁長知事も出席し、配布した資料に基づき、沖縄の現状を説明されたものと思います。
※出席者名簿
沖縄県配付資料
 
 提言が採択された7月27日の全国知事会議には、翁長知事自身は病気のために謝花(じゃはな)喜一郎副知事が出席したのですが、全会一致で採択されたとの報を受け、きっと喜ばれたことでしょうね。お亡くなりになったのは、それからわずか12日後のことでした。
 
 日米地位協定については、単に協定本文を読むだけでは全く不十分で、1960年1月の協定締結時の合意議事録、さらに、施行後の様々な日米合同委員会合意等まで読み込まないと全体像が分からず、さらに、実際の運用では、それらの合意すら守られていないものまであるという始末ですから、アウトラインを理解することさえ困難を極めます。
 とはいえ、とにかくそれらの協定書及び付属文書が基本ですから、末尾に参考資料を掲げておきました。
 ただし、外務省サイトのものは正直言って読みにくいです。ということで、私のお薦めは、沖縄県ホームページの中の「地位協定ポータルサイト」に集積された資料です。「地位協定ではどうなっているのか?」調べてみようという際には、まず最初に沖縄県地位協定ポータルサイト」にあたってみるのが良いと思います。
 例えば、今回の「全国知事会」の「米軍基地負担に関する提言」4項目の中の2項「日米地位協定を抜本的に見直し、航空法や環境法令などの国内法を原則として米軍にも適用させることや、事件・事故時の自治体職員の迅速かつ円滑な立入の保障などを明記すること」の内、後文については、2004年8月に発生した沖縄国際大学敷地への米軍ヘリコプター墜落事故の際、「消火作業が終わった後、アメリカ軍が現場を封鎖し、事故を起こした機体を搬出するまで日本の警察・消防・行政・大学関係者が現場に一切立ち入れなかった」(Wikipediaより)ことを想起するば、その言わんとするところを理解することは容易ですが、前文については、「航空法や環境法令などの国内法」が原則として米軍には適用されていないのか?と驚かれるでしょう。
 そのことを確認するために、沖縄県地位協定ポータルサイト日米地位協定関係)」
を閲覧してみると、「航空法特例法」をはじめとする様々な「日米地位協定の実施に伴う各特例法等」にリンクがはられており、その実態を理解する助けとなります。
 
 全国知事会の提言にどのような政治的効果があるかではなく、この提言も活用して私たちに何ができるかが問題なのですが、まずその前提として、提言自体をしっかり読み込み、理解しなければと思い、ご紹介することとしました。
 
米軍基地負担に関する提言
(引用開始)
 全国知事会においては、沖縄県をはじめとする在日米軍基地に係る基地負担の状況を、基地等の所在の有無にかかわらず広く理解し、都道府県の共通理解を深めることを目的として、平成28年11月に「米軍基地負担に関する研究会」を設置し、これまで6回にわたり開催してきました。
 研究会では、日米安全保障体制と日本を取り巻く課題、米軍基地負担の現状と負担軽減及び日米地位協定をテーマに、資料に基づき意見交換を行うとともに、有識者からのヒアリングを行うなど、共通理解を深めてきました。
 その結果、
① 日米安全保障体制は、国民の生命・財産や領土・領海等を守るために重要であるが、米軍基地の存在が、航空機騒音、米軍人等による事件・事故、環境問題等により、基地周辺住民の安全安心を脅かし、基地所在自治体に過大な負担を強いている側面がある。
② 基地周辺以外においても艦載機やヘリコプターによる飛行訓練等が実施されており、騒音被害や事故に対する住民の不安もあり、訓練ルートや訓練が行われる時期・内容などについて、関係の自治体への事前説明・通告が求められている。
③ 全国的に米軍基地の整理・縮小・返還が進んでいるものの、沖縄県における米軍専用施設の基地面積割合は全国の7割を占め、依然として極めて高い。
④ 日米地位協定は、締結以来一度も改定されておらず、補足協定等により運用改善が図られているものの、国内法の適用や自治体の基地立入権がないなど、我が国にとって、依然として十分とは言えない現況である。
⑤ 沖縄県の例では、県経済に占める基地関連収入は復帰時に比べ大幅に低下し、返還後の跡地利用に伴う経済効果は基地経済を大きく上回るものとなっており、経済効果の面からも、更なる基地の返還等が求められている。
といった、現状や改善すべき課題を確認することができました。
 米軍基地は、防衛に関する事項であることは十分認識しつつも、各自治体住民の生活に直結する重要な問題であることから、何よりも国民の理解が必要であり、国におかれては、国民の生命・財産や領土・領海等を守る立場からも、以下の事項について、一層積極的に取り組まれることを提言します。
 
                                      記
1 米軍機による低空飛行訓練等については、国の責任で騒音測定器を増やすなど必要な実態調査を行うとともに、訓練ルートや訓練が行われる時期について速やかな事前情報提供を必ず行い、関係自治体や地域住民の不安を払拭した上で実施されるよう、十分な配慮を行うこと
2 日米地位協定を抜本的に見直し、航空法や環境法令などの国内法を原則として米軍にも適用させることや、事件・事故時の自治体職員の迅速かつ円滑な立入の保障などを明記すること
3 米軍人等による事件・事故に対し、具体的かつ実効的な防止策を提示し、継続的に取組みを進めること
 また、飛行場周辺における航空機騒音規制措置については、周辺住民の実質的な負担軽減が図られるための運用を行うとともに、同措置の実施に伴う効果について検証を行うこと
4 施設ごとに必要性や使用状況等を点検した上で、基地の整理・縮小・返還を積極的に促進すること
 
  平成30年7月27日
                             全 国 知 事 会
(引用終わり)
 
(参考資料/沖縄県
 
(参考資料/日米地位協定条文・関連文書/Wikipedia外部リンクより)
日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(日米地位協定)及び関連情報(外務省)
行政協定第一七条を改正する一九五三年九月二十九日の議定書第三項・第五項に関連した、合同委員会裁判権分科委員会刑事部会日本側部会長の声明(しんぶん赤旗記事内)
施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定第十二条6(d)に関する交換公文(東京大学東洋文化研究所 田中明彦研究室)
日米地位協定の考え方(独立系メディアE-WAVE tokyo/琉球新報に掲載されたものの全文コピー)
 
(参考資料/国立国会図書館刊行物掲載論文)
ドイツ駐留 NATO軍地位補足協定に関する若干の考察―在日米軍地位協定をめぐる諸問題を考えるための手がかりとして―(本間 浩/「外国の立法」第551号/2004年8月)
日米地位協定の運用改善の経緯―米兵等の容疑者の身柄引渡しをめぐって―(山本健太郎/「調査と情報」第766号/2013年1月24日)
日米地位協定の刑事裁判権規定―米軍人等の被疑者の身柄引渡しを中心に―(山本健太郎/「調査と情報」第931号/2016年12月15日)
日米地位協定・環境補足協定と日本環境管理基準(JEGS)(佐藤毅彦/「レファレンス」第793号/2017年2月)
米国が締結している地位協定及び地位協定における主要な規定(松山健二/「レファレンス」811号・2018年8月)
 
(参考資料/全国知事会
全国知事会米軍基地負担に関する研究会
日米地位協定を考える―改定問題を中心に―(明田川融法政大学法学部教授/平成30年02月15日第5回全国知事会米軍基地負担に関する研究会に提出されたレジュメ)
 
(参考資料/日本弁護士連合会の意見書・パンフレット)
2014年2月20日
日米地位協定に関する意見書
※【参考資料】要旨・現行日米地位協定と意見の趣旨との対照表
2014年10月
日米地位協定の改定を求めて-日弁連からの提言-
 
(参考サイト)
2016年7月14日 SYNODOS
日米地位協定裁判権は他国に比べて不利なのか?伊勢崎賢治氏に聞く
 
(参考書籍)
前泊博盛編著『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」(戦後再発見」双書2)』(創元社/2013年2月刊)
吉田敏浩著『「日米合同委員会」の研究:謎の権力構造の正体に迫る(「戦後再発見」双書5)』(創元社/2016年12月刊)
伊勢崎賢治、布施祐仁著『主権なき平和国家 地位協定の国際比較からみる日本の姿』(集英社クリエイティブ/2017年10月刊)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから/日米地位協定関連)
2013年4月14日
前泊博盛編著『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』とIWJ「日米地位協定スペシャル」
2014年11月9日
日米地位協定」すら守られていない日米関係をどのように考えたらよいのか~基地騒音賠償金の「分担」をめぐって
2015年2月23日
沖縄で起こったこと、起こってはならなかったこと~地元からの報道で知る
2015年2月24日
山城博治氏らは何を根拠に米軍に「身体拘束」され沖縄県警に「逮捕」されたのか? ※追記あり

「第61回 JCJ賞(日本ジャーナリスト会議)」贈賞式を視聴する~記念講演は猿田佐世さん「日本メデイアと国際報道」

 2018年8月28日配信(予定)のメルマガ金原No.3253を転載します。
 
「第61回 JCJ賞(日本ジャーナリスト会議)」贈賞式を視聴する~記念講演は猿田佐世さん「日本メデイアと国際報道」
 
 去る8月18日に東京・内幸町の日本プレスセンター・ホールで開かれた「第61回 JCJ賞(日本ジャーナリスト会議制定)」の贈賞式の模様(これが3時間21分もある)がYouTubeで視聴できますのでご紹介します。
 今年の受賞者(団体)は、以下の5組の皆さんでした。
 
◇梅田正己氏『日本ナショナリズムの歴史』全4巻 高文研
朝日新聞東京社会部、大阪社会部の取材班 
  [財務省による公文書の改ざんをめぐる一連のスクープ]
しんぶん赤旗政治部、外信部
  [「米の核削減、日本が反対 核弾頭の最新鋭化も促す」、「『沖縄に核』日本容認 09年、米の貯蔵庫建設提案に」その他続報]
沖縄タイムス編集局 
  [沖縄へのデマ・ヘイトに対峙する報道] 
  [NNNドキュメント'18 南京事件Ⅱ 歴史修正を検証せよ]
 
 そして、冒頭の記念講演は、ND(新外交意シニアティブ)代表の猿田佐世弁護士で、自らのワシントンでの活動から見えてきた「日本メデイアと国際報道」について、約1時間お話されています。
 以下に、視聴の目安時間を添えてその動画をご紹介します。
 
8・18JCJ賞 贈賞式(ノーカット版)(3時間21分)
1分~ 開会挨拶 中村梧郎氏(JCJ代表委員)
8分~ 記念講演 猿田佐世氏(国際弁護士・新外交イニシアティブ代表)「日本メデイアと国際報道」
※パワーポイントボードより
 本日の流れ
  1 米国から日本へ届く声とはどんな声か
 2 日本へ伝わる米国情報の作られ方
 3 日本メディアの問題点
 4 自らの経験からの疑問(事例)
 5 改善の手始めに・・・
   ・日米どこにおいても、権力の監視の姿勢を
   ・情報源を広げ、様々な意見を広く報道する
   ・情報の背景も十分に伝える
   ・問題の根幹を伝える調査報道を
   ・量的にも質的にも、過剰な米国報道は避ける
   ・様々なバックグラウンドの記者を派遣する
   ・もっと通信社を使う
   ・英語のできる記者を送る
1時間08分~ 第61回JCJ賞 講評(総評) 伊藤洋子氏(JCJ賞選考委員)
(贈賞式)
1時間27分~ 受賞者(1組目)梅田正己氏『日本ナショナリズムの歴史』全4巻(高文研)/プレゼンター(講評)柴田鉄治氏  
1時間33分~ 受賞者(2組目)朝日新聞東京社会部、大阪社会部の取材班[財務省による公文書の改ざんをめぐる一連のスクープ]/プレゼンター(講評)諫山修氏
1時間39分~ 受賞者(3組目)しんぶん赤旗政治部、外信部[「米の核削減、日本が反対 核弾頭の最新鋭化も促す」、「『沖縄に核』日本容認 09年、米の貯蔵庫建設提案に」その他続報]/プレゼンター(講評)酒井憲太郎氏
1時間44分~ 受賞者(4組目)沖縄タイムス編集局[沖縄へのデマ・ヘイトに対峙する報道]/プレゼンター(講評)石川旺氏 
1時間49分~ 受賞者(5組目)日本テレビ放送網[NNNドキュメント'18 南京事件Ⅱ 歴史修正を検証せよ]/プレゼンター(講評)清田義昭氏
(受賞のことば)
1時間57分~ 梅田正己氏
2時間13分~ 羽根和人氏(朝日新聞大阪社会部デスク、前東京社会部デスク)
2時間30分~ 竹下岳氏(しんぶん赤旗編集局政治部副部長)
2時間45分~ 勝浦大輔氏(沖縄タイムス社会部中部報道部)
2時間59分~ 清水潔氏(日本テレビ報道局チーフディレクター
 
 さて、この3時間20分余の長時間の動画の中から、まずどこを視聴すべきでしょうか?猿田さんの記念講演もとてもためになりますが、私からまずお勧めするとすれば、最後の清水潔さんの受賞スピーチ(約20分)ですね。
 元写真週刊誌フォーカスの敏腕記者だった清水さんが、同誌廃刊後、日本テレビに転じたという異色の経歴の持ち主であるということは、実は最近Wikipediaを読んで知った次第です。
 清水さんのお話で私の印象に強く残ったのは、東京大空襲沖縄戦、広島・長崎への原爆投下などを語り継ぐことは重要であるが、これら「戦争の終わり」ではなく、「戦争の始まり」を検証することが重要であるということでした。清水さんが取材して番組にした南京事件重慶爆撃についても、「なぜ、日本軍が中国にいたの?」、「都市を無差別爆撃して市民を虐殺するって、米軍よりも先に日本軍がやっていたのではないの?」という疑問を真正面からとらえねばというジャーナリスト魂の結晶であったようです。
 「戦争の終わり」にばかり目を向けるということは、日本の加害責任から(意図するとしないとに関わらず)目をそらす結果につながりかねませんからね。
 もしも機会があれば、清水さんが作られた「南京事件 兵士たちの遺言」、「戦争のはじまり 重慶爆撃は何を招いたのか」、「南京事件Ⅱ 歴史修正を検証せよ」を視聴する機会があれば、是非お見逃しのありませんように。
 
 その他の4組の受賞者の皆さんからも、それぞれ貴重なお話がうかがえます。
 興味のある分野からでも、視聴していただければと思います。
 
(弁護士・金原徹雄のブログから/清水潔氏のドキュメンタリー番組関連)
2015年10月8日
10/11再放送(BS&CS)に注目~NNNドキュメント'15「南京事件 兵士たちの遺言」
2017年5月15日
放送予告5/21『戦争のはじまり 重慶爆撃は何を招いたのか』(NNNドキュメント)
2018年4月30日
NNNドキュメント「焼却された機密文書(仮)」(2018年5月13日放送予定)に注目しよう
2018年5月7日
(再配信)NNNドキュメント「南京事件Ⅱ」(2018年5月13日放送予定)に注目しよう

日弁連「災害関連死の事例の集積、分析、公表を求める意見書」(2018年8月23日)を読む

 2018年8月27日配信(予定)のメルマガ金原No.3252を転載します。
 
日弁連「災害関連死の事例の集積、分析、公表を求める意見書」(2018年8月23日)を読む
 
 昨日に続き、8月23日に日本弁護士連合会が公表したもう一つの災害関連の意見書をご紹介します。それが、「災害関連死の事例の集積、分析、公表を求める意見書」です。
 様々な大災害において問題となる「災害関連死」について、「国は、将来の災害関連死を減らすために、災害関連死の事例を全国の地方自治体から集め、多様な分野の専門家をもって構成される調査機関を設置した上で、当該調査機関をして、死亡原因、死亡に至る経過、今後の課題等を個別の事例ごとに十分に分析するとともに、分析結果を匿名化して公表すべきである。」との意見をとりまとめ、内閣総理大臣内閣府特命担当大臣(防災)、総務大臣、復興大臣宛てに提出したものです。
 
 いつも書くことですが、日弁連「意見書」をこのブログで全文紹介(転載)するのは、まず何よりも自分自身の理解を深めるためです。日弁連・災害復興支援委員会、近弁連・災害対策及び避難者支援に関する連絡協議会、和歌山弁護士会・災害対策委員会などが行う研修を受講した後の復習の意味もあります(今回の「災害関連死」問題についても近畿弁護士会連合会の研修を中継で受講したことを思い出します)。
 そして、私がブログで紹介したのを機に、その「意見書」を読んでくださる方が1人でも2人でもおられれば、望外の幸せというものです。
 
災害関連死の事例の集積、分析、公表を求める意見書
(引用開始)
                      2018年(平成30年)8月23日
                              日本弁護士連合会
 
第1 意見の趣旨
 国は,将来の災害関連死を減らすために,災害関連死の事例を全国の地方自治体から集め,多様な分野の専門家をもって構成される調査機関を設置した上で,当該調査機関をして,死亡原因,死亡に至る経過,今後の課題等を個別の事例ごとに十分に分析するとともに,分析結果を匿名化して公表すべきである。
 
第2 意見の理由
1 過去の災害における災害関連死者数
 災害による死亡には,いわゆる直接死だけでなく,災害と因果関係のある災害関連死があり,両者に災害弔慰金が支給されている。多くの統計でも,直接死の分だけでなく,災害関連死者数を含めて災害による死者数とされている。
 阪神・淡路大震災では,兵庫県の死亡者総数6,402人のうち919人(約14.3%)が災害関連死であり,新潟県中越地震では死亡者総数68人のうち52人(約76.4%)が災害関連死であった。
 東日本大震災では,死者19,630人のうち3,676人(うち岩手県466人,宮城県927人,福島県2,227人)(約18.7%)が災害関連死であり,熊本地震では,死者267人のうち212人(約79.4%)が災害関連死である(いずれも2018年4月現在)。
 また,平成30年7月豪雨においても,既に災害関連死が生じており,さらなる災害関連死の増加が懸念されているところである。
2 災害関連死に関する分析の現状
 災害対策の目標の一つは,災害による死を減らすことにある。直接死を減らすための防災対策はもちろん必要であるが,災害関連死者数がかなりの数に及んでおり,その中に,救えたはずの命も含まれていることに照らせば,災害関連死者数を減らすことが極めて重要である。
 将来の災害関連死者数を減らすためには,過去の検証が必要である。災害関連死の審査は,全国の地方自治体で行われているところ,全国に散らばっている事例を一か所に集め,十分に分析する必要があることは明らかである。これができるのは国だけである。
 実際に政府は,東日本大震災における災害関連死について,2012年に「震災関連死に関する検討会」(以下「検討会」という。)を開き,同年8月21日に「東日本大震災における震災関連死に関する報告」(以下「報告書」という。)をまとめている。しかし,この検討会は,同年3月末時点で明らかになっていた1,632人(うち岩手県193人,宮城県636人,福島県761人)の関連死のうち1,263件を対象に3回開かれたにすぎず十分な分析がなされてはいない。その後,2013年3月29日に,福島県において発災から1年以上経過した後に亡くなった35件を対象とする調査を行っているものの,これ以上の検証はなされておらず,今後行われる予定もない。
 災害関連死の事例を分析するに当たっては,「どうすればその命を救うことができたのか」という視点が最も重要である。救えたはずの命が失われてしまったのはなぜか,どのような対策が採られていればその死を防ぐことができていたのかが,具体的に明らかにされて初めて,悲劇の繰り返しを防ぐことができるのである。
 報告書では,収集された事例を,死亡の原因や死亡時の生活環境といった事情で分類して抽象化した上で,将来の課題を抽出し,今後の対応が検討されている。しかし,「どうすればその命を救うことができたのか」という視点からすると,報告書における課題の抽出や今後の対応の検討は,具体性を欠き,不十分と言わざるを得ない。
 例えば,報告書では,死亡の原因の分類項目の一つとして,「地震津波のストレスによる肉体的・精神的負担」が挙げられている。「地震津波のストレス」といっても,その内容は,個々の被災者の置かれる状況によって千差万別であり,均一化できるものではない。「どうすればその命を救うことができたのか」という視点からすれば,個々の被災者が抱えていたストレスの一つ一つと向き合い,そのストレスを和らげるために,若しくは,そのストレスを死に結びつけないために,いかなる対策を採るべきだったのかが分析,検討されなければ,無意味である。
 災害関連死の事例は,被災後,様々な努力の果てに失われてしまった個々の貴重な命の軌跡である。この貴重な教訓を十分に活かし,将来の災害関連死を一件でも多く減らすことは残された我々の使命である。上記の2回の報告だけでは不十分である。
 東日本大震災から7年が経ち,熊本地震から2年が経った今こそ,徹底した検証がなされなければならない。
3 事例の集積,分析,公表等が重要である理由
 国が,災害関連死の事例を集め,死亡原因,死亡に至る経過等を分析することが重要である理由は,上記にとどまらず,以下の視点からも重要であるから,国は,過去の災害関連死の事例を全国の地方自治体から集め,十分に分析するとともに,匿名化して公表すべきである。
(1) 防災・減災対策,被災者支援施策の見直しのため
 災害関連死の事例の一つ一つは,命が失われた軌跡である。その中には現代科学では救えない命もあれば,救えたはずの命も含まれている。これらを漏れなく集め,分析してこそ,現在の防災・減災対策の欠点や,被災者支援施策の不十分な点を見いだすことができる。
 報告書は,上記のとおり,1,263件の事例を対象とし,政府が3回だけ行った検討会によるものではあるが,報告書でさえ,①災害時要援護者対策,②安全で確実な避難,③広域避難,④避難所等における生活,⑤救命・医療活動,⑥被災者の心のケアを含めた健康の確保,⑦緊急物資の提供,⑧被災地への物資の円滑な供給,ライフライン等の迅速な復旧,⑨原子力発電所の事故に係る住民避難の在り方等という9つの課題を見いだしている。
 より効果的な防災・減災対策,被災者支援施策の見直しを行うためには,その後の関連死も含めて,より具体的に,より徹底した検証が行われるべきである。
 具体的かつ徹底した検証を行うために,国は,多様な分野の専門家をもって構成される調査機関を設置すべきである(なお,調査機関の構成については,医療事故調査制度における医療事故調査・支援センターが参考になる)。
 当該調査機関の構成員としては,防災や災害復興支援分野の学術研究者,被災者支援や災害対応に携わった経験を有する,医師や看護師等の医療従事者,弁護士,カウンセラー,社会福祉士介護福祉士,民間団体職員(NPO法人),行政職員等が考えられる。
 当該調査機関において,地方自治体から提供を受けた災害関連死の認定事例の資料を基に,その死因や,災害が及ぼした影響の種類,災害後の生活環境や生活状況,医療機関の受診の有無や治療状況,被災時の年齢や死亡時期,既往症の有無やその種類等の事実関係について,どうすればその命を救うことができたかという観点から,事例一つ一つを分析することで,実効的な検証が可能となる。また,当該調査機関が,その分析結果を,項目や条件を設定して分類した上で,将来,同様の悲劇を生まないよう,行政機関や医療機関等の関係各機関に向けた運用の改善の提言を行っていくことも考えられる。
 なお,個人情報保護の観点からしても,全国の地方自治体が保有している災害関連死の資料を国に提供することは,解釈運用上可能と考えられているが,明確にするために,立法的措置も検討すべきである。
 その上で,事例の公表も行うべきである。上記の報告書では具体的な事例は公表されず,原因区分別の59の抽象的な例が公表されるにとどまっている。もちろん,死者や遺族のプライバシーに配慮し,十分に匿名化する必要はあるが,余りにも公表の範囲が限定的にすぎる。
 匿名化した具体的な事例を検証した結果をより多く公表してこそ,大学や民間を含め,医療,福祉,土木,法律等様々な分野からの多角的な分析が可能となり,より効果的な防災・減災対策や被災者支援施策の見直しが図られるであろう。
(2) 遺族への制度告知のため
 亡くなられた方や遺族への弔意を漏れなく示し,生活再建の資ともなる災害弔慰金をあまねく支給することはもちろん重要である。遺族に適切な申請を促す制度告知は更にされなければならない。
 しかし,災害関連死の事例を漏れなく把握することの重要性は,これにとどまらない。災害関連死の事例の一つ一つには,貴重な教訓が多数詰まっているところ,将来の災害関連死を一件でも多く減らすためには,災害関連死の事例を漏れなく集め,より多くの教訓を得る必要がある。
 災害関連死の事例は,一般に遺族の申請を端緒に始まっていることに照らせば,災害関連死の事例を漏れなく集めるためには,更なる広報が必要である。当連合会は,2012年5月11日付け「災害関連死に関する意見書」及び2013年9月18日付け「震災関連死の審査に関する意見書」において,災害弔慰金と災害関連死の積極的かつ分かりやすい広報の実施を提言したが,その後,十分な広報がなされたとは言い難い。
 遺族への分かりやすい広報には,災害関連死の具体例が必要である。すなわち,何が災害関連死であるかは一般の人にとっては必ずしも明確ではないところ,遺族に対し,災害関連死に該当した具体例を示し,自分の家族の死は災害関連死ではないかという問題意識を生じさせて初めて申請につなげることが可能となるのである。
 よって,具体例を示した広報のためにも,事例の集積,分析,公表等が必要である。
(3) 適正な審査を担保するため
 当連合会は,上記二つの意見書において,災害関連死の審査体制と認定基準について提言したが,その後,審査体制の見直しや,適切な審査が行われたとは言い難い状況にあり,将来の災害でも同じ過ちが繰り返されるおそれが大きいと言わざるを得ない。
 過酷な環境に置かれている遺族にとって,亡くなった家族が災害による死亡と認められるか否かは,その心情とその後の復興の意欲に大きな影響を与えるところ,実際は災害関連死であるにもかかわらず,そうではないという認定が自治体から下されたときのショックは想像を絶するものがある。将来の震災における遺族にまで,同じような苦しみを生じさせることがあってはならない。
 発災後,過酷な環境に置かれるのは被災地の自治体とて同じである。震災により被災地の自治体は余りに多くの業務を抱えるところ,災害関連死の審査もその一つである。当連合会が「震災関連死の審査に関する意見書」において提言したように,災害関連死の審査は,復興計画の策定等と同様,県等の自治体に委託することなく自らの自治体において行う必要性の高い事務であるところ,明確な審査基準も,参考にすべき前例も十分にない災害関連死の審査という事務は,被災地の自治体に困難を強いているのが実情である。
 将来の災害において同じ過ちを繰り返さないためには,国が設置した調査機関によって分析,分類された事例を,災害関連死に関する裁判例と合わせてデータベース化して,審査の際に検索,参照できるようシステム化すべきである。
 明確な認定基準がない中で,自治体ごとの審査のばらつきを減らし,適正な審査を担保するためには,審査に当たって過去の事例を参照できる仕組みを設けることが極めて重要である。関連する専門家や,審査委員経験者の声などを踏まえ,審査の際に有効に活用できるデータベースを速やかに構築すべきである。
                                                                            以上
 
(参考資料)
東日本大震災における震災関連死に関する報告(平成24年8月21日 震災関連死に関する検討会(復興庁))
災害関連死に関する意見書(2012年5月11日 日本弁護士連合会)
震災関連死の審査に関する意見書(2013年9月18日 日本弁護士連合会)

日弁連「被災者支援に資する住家被害認定、災害救助法の弾力的運用及び公費による土砂等撤去の措置を求める意見書」(2018年8月23日)を読む

 2018年8月26日配信(予定)のメルマガ金原No.3251を転載します。
 
日弁連「被災者支援に資する住家被害認定、災害救助法の弾力的運用及び公費による土砂等撤去の措置を求める意見書」(2018年8月23日)を読む
 
 日本弁護士連合会は、年間にどれ位の数の「意見書」を発表しているか、会員であっても、正確に答えられる者はほとんどいないでしょう。
 一例として、「2018年」に公表された意見書がどれ位あるのか、日弁連ホームページを検索してみました。
 
HOME > 日弁連の活動 > 会長声明・意見書等 > 意見書等 > year > 2018年
 
 私の数え間違いでなければ、今月(8月)23日に公表された4つの意見書を含め、1月以来の累計「意見書」数は47にのぼっています。
 今年が特に多いということではなく、例年、こういうペースのようです。
 しかも、その扱う分野も実に多彩であり、とても1人の会員が全分野に通暁することなど不可能であり、私にしても、日弁連「意見書」のうち目を通す機会があるのは、ごく限られたものだけです。
 試みに、さて、8月23日に公表された最新の4つの意見書の概略は以下のとおりです。
 
被災者支援に資する住家被害認定、災害救助法の弾力的運用及び公費による土砂等撤去の措置を求める意見書
本意見書の趣旨
当連合会は、被災者の生活再建に資するため、国に対し、以下の施策を実施することを求める。
1 被災した自治体に対し、以下の事項を周知すべきである。
(1) 住家の被害認定について、その趣旨が被災者支援にあることに鑑み、被災地の被害状況に即した柔軟な判断を行うとともに、迅速性・個別性を重視して被災者の利益に資する認定を行うこと。
(2) 災害救助法の運用に当たって、被災者の支援及び保護の目的を達するため、①「人命最優先の原則」「柔軟性の原則」「生活再建継承の原則」「救助費国庫負担の原則」「自治体基本責務の原則」「被災者中心の原則」に基づいて弾力的運用を行い、②応急仮設住宅に関する要件等を加重せずにできる限り緩和し、③応急修理制度を積極的に活用できるように要件を緩和すること。
(3) 大規模な土砂災害に際しては、災害救助法の活用や特例措置を設けるなどの方法によって、公費による土砂等撤去を実施すること。
2 大規模な土砂災害に際し、被災自治体の行政事務が混乱することを回避するため、土砂の撤去に関する権限分掌の統一的な事務要領の作成等を行うべきである。
3 被災自治体の各施策の実施に当たり、被災自治体の財政的負担が軽減されるよう、災害救助法の適用に当たって被災自治体が要求する特別基準を積極的に認めるとともに、地方自治体が策定する土砂等撤去や被災者支援にかかる特例措置の実施を裏付ける補助金交付税等を措置するべきである。
 
災害関連死の事例の集積、分析、公表を求める意見書
本意見書の趣旨
国は、将来の災害関連死を減らすために、災害関連死の事例を全国の地方自治体から集め、多様な分野の専門家をもって構成される調査機関を設置した上で、当該調査機関をして、死亡原因、死亡に至る経過、今後の課題等を個別の事例ごとに十分に分析するとともに、分析結果を匿名化して公表すべきである。
 
「確約手続に関する対応方針(案)」についての意見書
本意見書の趣旨
1 確約手続ガイドライン案「4 確約手続の流れ」に、確約手続の対象となる違反被疑行為に関して確約手続通知を行うか否かについて判断する際の考慮要素を明記すべきである。
2 確約手続ガイドライン案「6(3)ア(ア)措置内容の十分性」に、確約手続においては違反被疑行為が独占禁止法に違反するとの判断が行われないことや、事案によっては取引先等の利害関係人の利益を考慮することが有益である場合があり得ることなどを踏まえ、措置内容の十分性について嫌疑の程度との権衡を考慮し柔軟に検討する旨を追記すべきである。
3 確約手続ガイドライン案「7 意見募集」に、申請を受けた確約計画に対する第三者からの意見募集を行うか否かを判断する際の基準又は考慮要素を明記すべきである。
4 確約手続ガイドライン案「12(3)確約手続において事業者から提出された資料の取扱い」について、確約認定申請に当たって申請者が提出した資料を法的措置を採る上で必要となる事実の認定を行うための証拠として使用することもあり得る旨の記載を削除した上、事業者が公正取引委員会に当該事案を確約手続に付すことを希望する旨を申し出、公正取引委員会が当該相談に応じる旨の回答をした後に当該事業者が提出した資料及び録取された当該事業者の従業員等の供述調書は、違反事実を認定する証拠として用いない旨を明記すべきである。
 
ESG(環境・社会・ガバナンス)関連リスク対応におけるガイダンス(手引)~企業・投資家・金融機関の協働・対話に向けて~
本ガイダンスについて
この度日本弁護士連合会は、ESG(環境・社会・ガバナンス)課題のリスク面である人権侵害や環境破壊などへの対応が、企業および企業に対し投融資を行う投資家・金融機関において求められていることを背景として、日本の企業・投資家・金融機関がESG関連リスクへの対応に向けて協働・対話を行うためのガイダンス(手引)を公表しました。
本ガイダンスの背景・意義
国連が、2006年に、投資家が取るべき行動として、責任投資原則(PRI)を発表し、ESGに配慮した投資を提唱したことなどを契機として、企業・投資家・金融機関をはじめとする利害関係者において、ESG課題への企業の対応の在り方に対する関心が高まっています。
近年、企業活動を通じて、ESG課題のリスク面として、人権侵害・環境破壊などの負の影響が生じていることも認識されており、「ビジネスと人権に関する国連指導原則」、「気候変動に関するパリ協定」、「持続可能な開発目標(SDGs)」などの採択を契機とした国内外のルール形成も加速化しています。その結果、企業の経営トップが重要なリスク管理としてESG課題を認識し、対処することが求められています。また、投資家・金融機関も、投融資先企業のESG関連リスクへの対応状況を把握し、エンゲージメント(対話)を行うことが期待されています。
そこで、当連合会は、特にESG課題のリスク面に焦点を当てて、企業・投資家・金融機関及びこれらの組織に対し法的助言を行う弁護士を対象として、ESGに関連するリスクへの対応に向けた協働・対話のためのガイダンス(手引)を提示するものです。
本ガイダンスの構成
本ガイダンスは、①企業向けのガイダンス(第1章)、②機関投資家向けのガイダンス(第2章)、③金融機関向けのガイダンス(第3章)の3部により構成されています。ESG関連リスクへの対応のためには、企業・投資家・金融機関の協働やエンゲージメント(対話)が不可欠であることから、各ガイダンスの内容は相互に密接関連しています。
① 第1章 企業の非財務情報開示
主に上場企業を対象に、コーポレートガバナンス・コードや経済産業省「価値協創ガイダンス」を補完する形で、ESG関連リスクへの対応のための体制整備の方法、非財務情報の開示項目の例、開示の方法・媒体に関する実務的指針を提供しています。
② 第2章 機関投資家のESG投資におけるエンゲージメント(対話)
特に中長期の株式保有を通じたパッシブ運用を行う機関投資家を対象として、スチュワードシップ・コード及び価値協創ガイダンスを補完する形で、ESG関連リスクが顕在化した企業不祥事発生時の際の対話の在り方、及び、企業不祥事発生を防止するための平時の際の対話の在り方についての実務的な指針を提供しています。
日本取引所自主規制法人が「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」「上場企業における不祥事予防のプリンシプル」を発表していることを踏まえ、機関投資家が投資先企業に対し不祥事の対応・予防に向けていかなるエンゲージメント(対話)を行うべきかに関する共通理解を明確化し、対話の方法に関する選択肢を提示したものとなっています。
③ 第3章 金融機関のESG融資における審査~ESGモデル条項の提示
赤道原則や21世紀金融行動原則の趣旨を踏まえつつ、融資取引からの反社会的勢力の排除に関する金融庁の監督指針を発展する形で、融資金融機関に対し、ESGに配慮した融資審査や融資先企業との対話・支援の在り方を示しています。
また、融資契約に盛り込むことを検討すべきESGモデル条項も提示し、その解説を行うと共に、条項運用における留意点も示しています。さらに、中小企業への融資の際における留意点も規定しています。
ガイダンスの性質
本ガイダンスは、現時点のESG関連リスクへの対応の在り方に関するグッド・プラクティスを取りまとめたものであり、企業等を拘束するものではなく、むしろリソース(人材・資本・情報)を十分に有していない企業が効果的な対応を行うための補助となることを目的としています。
ESG課題への対応については、企業等の規模、事業の内容、投融資の内容等の特性にもより異なるところであり、プリンシプルベース・アプローチ(原則主義)が妥当します。企業等は、本ガイダンスに基づき対応を行わない場合にはその合理的な理由を説明することが期待されるという意味で、コンプライ・オア・エクスプレイン(従うか、そうでなければ従わない理由を説明するか)の手法の活用も有用であると考えます。
なお、本ガイダンスは、ESG関連リスクへの対応のために推奨する取組を「すべき」と表記した上で規定していますが、物的・人的・経済的環境に応じて推奨するにとどまる取組に関しては「望ましい」と表記しています。
 
 4つ目の「ESG(環境・社会・ガバナンス)関連リスク対応におけるガイダンス(手引)」についての説明を、長さを厭わず引用したのは、自分自身の理解のためであり、他意はありません。
 このガイダンスにしろ、3つ目の「「確約手続に関する対応方針(案)」についての意見書」にしろ、いわゆる企業法務に関連の深い分野についての意見書、あるいは一種の提言であり、正直言って、私からは縁遠い分野であり、タイトルを見ただけでは何のことか分からないといった有り様なのです。
 とはいえ、こういう不得意分野についての意見書にも、極力目を通すように努めれば、それなりに勉強にはなるのでしょうけどね。
 
 ということで、この2つはさておき、残る2つの「災害」関連の意見書をご紹介(つまり全文引用)したいと思います。
 引用するためには、私自身が全文を読み通す必要がありますので、とても勉強になります。
 今日は、まず「被災者支援に資する住家被害認定、災害救助法の弾力的運用及び公費による土砂等撤去の措置を求める意見書」を読んでみたいと思います。
 近時全国で続発する大水害等の災害被災者支援のため、緊急に国に対応を求めるべき点をまとめたものです。
 是非ご一緒にお読みください。
 
被災者支援に資する住家被害認定、災害救助法の弾力的運用及び公費による土砂等撤去の措置を求める意見書
(引用開始)
                       2018年(平成30年)8月23日
                               日本弁護士連合会
 
第1 意見の趣旨
 当連合会は,被災者の生活再建に資するため,国に対し,以下の施策を実施することを求める。
1 被災した自治体に対し,以下の事項を周知すべきである。
(1) 住家の被害認定について,その趣旨が被災者支援にあることに鑑み,被災地の被害状況に即した柔軟な判断を行うとともに,迅速性・個別性を重視して被災者の利益に資する認定を行うこと。
(2) 災害救助法の運用に当たって,被災者の支援及び保護の目的を達するため,①「人命最優先の原則」「柔軟性の原則」「生活再建継承の原則」「救助費国庫負担の原則」「自治体基本責務の原則」「被災者中心の原則」に基づいて弾力的運用を行い,②応急仮設住宅に関する要件等を加重せずにできる限り緩和し,③応急修理制度を積極的に活用できるように要件を緩和すること。
(3) 大規模な土砂災害に際しては,災害救助法の活用や特例措置を設けるなどの方法によって,公費による土砂等撤去を実施すること。
2 大規模な土砂災害に際し,被災自治体の行政事務が混乱することを回避するため,土砂の撤去に関する権限分掌の統一的な事務要領の作成等を行うべきである。
3 被災自治体の各施策の実施に当たり,被災自治体の財政的負担が軽減されるよう,災害救助法の適用に当たって被災自治体が要求する特別基準を積極的に認めるとともに,地方自治体が策定する土砂等撤去や被災者支援に係る特例措置の実施を裏付ける補助金交付税等を措置するべきである。
 
第2 意見の理由
1 災害に係る住家の被害認定(以下「住家被害認定」という。)について
(1) 市町村長は,当該市町村の地域に係る災害が発生した場合において,当該災害の被災者から申請があったときは,遅滞なく,住家の被害その他当該市町村長が定める種類の被害の状況を調査し,罹災証明書(災害による被害の程度を証明する書面)を交付しなければならないとされている(災害対策基本法90条の2)。
 罹災証明書には,「全壊」「大規模半壊」「半壊」「半壊に至らない(一部損壊)」の4区分の住家被害認定の結果を記載するのが一般的である。罹災証明書における住家被害認定の結果は,被災者生活再建支援法に基づく支援の要件になっているほか,義援金仮設住宅への入居要件など官民問わず様々な被災者支援制度を利用する判断材料として活用されており,行政にとっても,災害救助法の適用を始め災害対応の基本的かつ重要な指標となっている。
 そのため,被災者にとって,住家被害認定の結果はその後の生活再建の帰趨を決する死活問題と言っても過言ではない。
(2) そもそも,被災者の生活再建のための各種の制度は,「人間の復興」の視点に立ち,被災者の生活再建を第一に考えて運用されなければならない。住家被害認定の運用も例外ではなく,自治事務地方自治法2条8項)の中でも最も被災者支援の趣旨を重視すべき事務である。
 他方で,住家被害認定について複数回にわたる再調査が行われることが多く,それが市町村の負担となっているのが実情であることは理解できる。
 ただ,被災者の生活再建を第一に考えて柔軟に住家被害認定を行うことで,再調査による事務の停滞を防止できることとなり,災害復興に係る行政事務の大幅な効率化・迅速化にも資することとなる。平成30年7月豪雨(以下「西日本豪雨」という。)における岡山県倉敷市真備町での一括全壊認定や,平成30年6月大阪府北部地震における写真提示による一部損壊の罹災証明書の即時発行処理等は,被災者の利益に資する事務迅速化の一例である。
 したがって,国は,被災地の市町村長において,被災者の生活再建の目的に資する住家被害認定を行うよう,より一層働きかけるべきである。
(3) この点内閣府(防災担当)では,住家被害認定の程度については「災害の被害認定基準について(平成13年6月28日付け府政防第518号内閣府政策統括官(防災担当)通知)」(以下「被害認定基準」という。)を定めるとともに,被害認定基準に規定される住家損害割合による場合の具体的な調査方法や判定方法として「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」(以下「運用指針」という。)を定めている。
 そして,平成27年9月関東・東北豪雨(以下「関東・東北豪雨」という。),平成28年熊本地震(以下「熊本地震」という。),平成29年7月九州北部豪雨(以下「九州北部豪雨」という。)等での経験を踏まえ,2018年3月に,水害による被害に係る運用指針が改定された。この改定で,運用指針は,被災者の利益に資する内容に改められ,調査の効率化・迅速化も進められた。こうした被災者の利益に資する改定は率直に評価すべきである。
 しかし,住家被害認定は,もとより各市町村長の自治事務であり,上記の基準や指針の策定により大幅に画一化・定型化が図られ,事務の軽減が図られたとはいえ,住家被害認定に関する判断の権限は各市町村長に帰属している。市町村長は,被災者に最も近い基礎自治体の長であり,市町村の被災状況が最もよく分かる立場にある。それゆえ,国は,各自治体が自らの判断で,当該災害の被害状況に応じて柔軟に認定することを尊重すべきである。
(4) 市町村長が住家被害認定を行うに当たり,特に重要な考慮要素は,被災した建物が「住家」である以上は,その建物に以後も居住することが可能か否かである。被害の状況は各被災した建物の置かれた状況により様々であるから,認定が困難な限界事例や特殊事例が存することは住家被害認定の常である。被災地で行っている法律相談にはそうした限界事例や特殊事例が多数寄せられている。
 例えば,九州北部豪雨の被災自治体の一部では,災害自体が運用指針改定以前のものであることから,法の不遡及を理由に住家被害認定の見直しを行わず,流出土砂によって住家が重大な被害を被っているのに一部損壊のまま放置されている被災者も存在しており,被災者の生活再建に配慮した住家被害認定がなされていない。
 西日本豪雨の被災地では,床上浸水に加えてアルミ工場爆発による破片飛散等によって近隣住家に大きな被害が生じた自治体で,住家被害認定に当たり,自然災害と人災を区別すべきではないかという疑問も呈されたが,この工場爆発は,浸水した水が高温のアルミニウムに触れて爆発したものとされており,自然災害と因果関係があることは明らかである。このような被害は,地震による隣家の倒壊や台風による瓦の飛来で近隣住家が被害を
受けた場合と本質は何ら変わらないのであって,住家として住めない以上,全壊であることは明らかである。
 また,同じく西日本豪雨において,自宅につながる人道橋が落下して立ち入れなくなった被害もあったが,東日本大震災熊本地震の際には,同様の被害で全壊又は長期避難認定(被災者生活再建支援法2条2号ハ)にした例があり,当該事例でもこれと同等の柔軟な対応が求められる。
 国は,現在までに分かっている西日本豪雨等の事例のいずれについても,「人間の復興」の観点から被災者支援を第一に考えた柔軟な認定を行うことを,被災した自治体に対して,あらためて周知すべきである。
2 災害救助法の運用・解釈について
(1) 災害救助法は,第1条において被災者の保護をその目的としている。かかる目的から,「救助の万全を期する観点から,臨機応変に対応しなければならない。」「被害状況等は災害の規模,態様,発生地域等によりそれぞれ異なるので,応急救助の実施に際してはこれらの例に固執することなく,柔軟に対応するようにされたい。」(「災害救助の運用と実務-平成26年版―」災害救助実務研究会編著,第一法規293頁)とあるとおり,被災者の保護という目的に沿って特別基準を活用して弾力的に運用すべきである。
 その一方で,国は,2014年6月付け「災害救助事務取扱要領」等において,法による救助の原則を挙げているところ,当連合会は,2012年4月20日付け「防災対策推進検討会議中間報告に対する意見書」において,災害救助事務取扱要領に掲げた原則を改め,法による救助は以下の6原則によるべきことを提言した。改めて,以下に記して災害救助法の運用原則とすることを求める。
① 「人命最優先の原則」…災害救助においては,何よりも人命尊重が優先し,徹底した救命措置はもとより,避難中に人命を失うことがないように最善を尽くすべきであるとするもの。
② 「柔軟性の原則」…その災害に適合した最適な救助方法を,柔軟な発想をもって積極的に考案することとし,一般基準に固執した硬直的な運用をしてはならないとするもの。
③ 「生活再建継承の原則」…災害救助は無理に応急的なものにとどめず,長期にわたる避難生活に配慮し,さらにその後の被災者の生活再建につなげていく対応を行うべきとするもの。
④ 「救助費国庫負担の原則」…大災害時の救助費は,原則として国庫が負担することとし,災害救助に当たる地方公共団体が一時的な費用負担をおそれて,救助を躊躇してはならないとするもの。
⑤ 「自治体基本責務の原則」…災害救助は地方公共団体の基本的な責務であり,国の機関事務でないことはもとより,被災者に対して責任を負って遂行されるべきとするもの。
⑥ 「被災者中心の原則」…災害救助は被災者のために行われるものであり,被災者の生命,健康,生活を救済することを目的に行われるべきとするもの。
(2) 災害救助で予定されている被災者支援の制度のうち,今後最も重要となるのは,応急仮設住宅の提供であり,特に「借上型応急仮設住宅」(いわゆる「みなし仮設住宅」)の運用を重視すべきである。会計検査院も,応急仮設住宅の提供においては,みなし仮設住宅を本則にすべきとしており(2012年10月付け「東日本大震災等の被災者を救助するために設置するなどした応急仮設住宅の供与等の状況について」会計検査院法第30
条の2の規定に基づく報告書),西日本豪雨でも既に提供が行われている。
 これまでの災害時におけるみなし仮設住宅の提供では,都道府県が建物所有者等との間で賃貸借契約を締結し,建物を借り上げた上で被災者に提供するという仕組みで住宅の提供が行われてきた。しかし,この方法では法律関係が複雑となり,更新や引っ越しの際に様々な問題を引き起こす原因となっている。このような様々な問題を生じさせないよう,みなし仮設住宅の提供においては,運用を緩和し,被災者と建物所有者との間で直接賃貸借契約を締結し,家賃補助の形にするのが最も合理的である。
(3) ところで,都道府県がみなし仮設住宅を提供するに当たり不必要な制限が付されることがある。
① 九州北部豪雨では,賃貸住宅に建築基準法上の耐震基準を設け,耐震基準を満たさない住宅はみなし仮設住宅として認めないとの運用がなされた。その結果,家賃の大部分を自己負担しなければならないという結果を強いられた事例が数十件発生しており,同じ災害で同じような住家被害であったにもかかわらず,被災者間で著しい処遇上の不公平が生じている。
 この運用は,「災害時における民間賃貸住宅の被災者への提供に関する協定等について」(社援総発0427第1号,国土動第47号,国住備第35号)及び当該通知に添付された「災害時における民間賃貸住宅の被災者への提供に関する協定運用細則例」の記載を根拠とするものであるが,当該通知は,平時からみなし仮設住宅に提供できる物件を十分に確保すべく都道府県が選定する住宅の条件を記載したものであって,被災者が,災害後の避難生活のために緊急に住宅を探し出したにもかかわらず,たまたま当該住宅が耐震基準を満たさなかったときに当てはめるべきものではない。過去の通知等を形式的に厳格運用したものであって,上記の柔軟性の原則に反するものである。
 そもそも災害時において建築される応急仮設住宅には建築基準法の適用が除外されていることと不均衡であること,自ら住宅を探し出した被災者は自助による復興を目指す者として推奨すべく手厚い保護が期待されるべきこと,過去においては甚大な震災でも耐震基準を求めない扱いとなっており合理性が存しないことなどから,みなし仮設住宅に耐震基準を求めることが不当であることは明らかである。以上のことから,みなし仮設住宅の提供に当たって賃貸住宅に耐震基準を求めるのは適当ではない。
② また,上記の災害救助事務取扱要領には,応急仮設住宅は,住宅の応急修理や障害物の除去と併給できないという運用方法が示されている。これは,応急修理や障害物除去を実施すれば,生活環境が回復されるので,更に応急仮設住宅を提供すると救助重複になるという考えに基づいているものと思われる。
 しかし,西日本豪雨のような大規模災害の被災住家で,最小限度の障害物の除去をしたところで,応急仮設住宅と同等の生活水準まで回復できる状態になるとは考えにくい。応急修理も同様である。したがって,その制度設計自体が現実から大きく乖離していると言わざるを得ず,上記運用方針は著しく非現実的と言うべきである。
 そもそも,応急修理や障害物除去を実施するとしても,その間,被災者に対してどこかで生活環境を確保する必要があり,それには応急仮設住宅を供与するのが合理的である。また,被災地域において応急修理や障害物除去を網羅的かつ速やかに実施することが望ましく,仮に,住家の損壊状況等によって障害物除去の実施の有無が区々となり,実施されない住家における災害廃棄物や土砂等の除去を被災者個人に任せることとすると,かえって混乱を招き,被災地域全体の復旧復興を妨げる要因にもなりかねない。むしろ,障害物除去は,全壊となって再建等を選択せざるを得ない住家であっても実施できるよう運用すべきである。
 したがって,併給を認めない上記解釈は非現実的かつ不合理であるから,かかる要件の加重は改められるべきである。
③ 以上の観点から,国は,被災自治体に対して,応急仮設住宅の提供に関しては,要件等を加重することなく,できる限り緩和して運用されるよう周知すべきである。
(4) 今後の生活再建においては,住宅の応急修理も重要である。
 しかし,過去の災害においても,修理が十分に行われず,在宅被災者が生じてきた。
 東日本大震災の被災地や関東・東北豪雨の被災地等では,今なおカビだらけの家や,床板のない建物で暮らしている人がいる。災害救助法に基づく応急修理制度は,不十分ではあるが,積極的に活用されるべきである。
 ところが,応急修理制度は,行政から修理業者に直接委託する手続を経る必要があるほか,上記のとおり仮設住宅との併用ができない運用が存在していることから,応急修理制度を利用したことが原因で生活再建プロセスに決定的な支障を生じている例が散見される。また,収入要件があるため自宅の再建をなかなか進めることができないことも多い。
 一般的に,家屋修理により生活再建する方が,解体・建替えよりも経済的合理性があり,早期の生活回復が図れ,地域コミュニティも維持されるので,修理制度の充実こそ優先されるべきである。しかし,上記のとおり運用上の支障があり,応急修理制度は活用されていない。
 西日本豪雨の被災地を始め,今後の災害においては,応急修理制度を積極的に活用できるように要件を大幅に緩和するなど,被災者中心の原則に即して運用を改善するべきである。
3 土砂等の撤去について
(1) 西日本豪雨では,広島県岡山県愛媛県を中心に多くの住家に土砂が流入し,その撤去に困難を極めており,復旧の大きな足かせとなっている。
 本年7月11日以降,広島県岡山県愛媛県弁護士会で実施している無料電話相談では,8月20日までに1,122件の相談が寄せられているが,7月末までの相談のうち,全体の約4割から5割(速報値:広島46.7%,岡山34.9%,愛媛50%)が土砂等の撤去に関する相談であった。
 土砂中には巨大な流木や岩石も含まれ,人力で運搬撤去することが困難なものもあった。民間ボランティア頼りになっている地域も多いが,民間の善意による土砂等の撤去だけでは明らかに不十分である。九州北部豪雨や関東・東北豪雨でも,土砂等の早期撤去が重要な課題となったところである。
(2) 災害救助法には「災害によって住居又はその周辺に運ばれた土石,竹木等で,日常生活に著しい支障を及ぼしているものの除去」(法4条1項10号,同施行令2条2号)の規定があり,住家内に流入した土砂の撤去は同条項に基づいて撤去が可能である。一般基準では生活に不可欠な場所に限って1世帯当たり平均13万5400円の限度とされているが(内閣府告示第228号第12条),特別基準を設けて弾力的に活用することで,公費による土砂等の撤去は可能である。上記のように応急仮設住宅との重複が認められないという運用も見られるが,それは非現実的な要件加重であり,こうした制限的運用を改め,できる限り弾力的な運用を行うべきである。
 過去の災害では,道路啓開作業を行うのと同時に住家内に流入した土砂等の撤去を行った例(災害対策基本法と災害救助法の一括適用),家屋の応急修理と土砂等の撤去を同時に行った例(災害救助法の複数の救助の一括適用)等があり,これに伴い救助費の増額をする特別基準が設けられたことがある。
(3) また,西日本豪雨では,広島市呉市等において,公有地と民有地を問わず,公費において土砂等の撤去を行う特例措置を講じている。
 阪神・淡路大震災東日本大震災等の大規模災害時において,土砂に限らず,廃棄物を公費で撤去した多数の先例があり,西日本豪雨でも,環境省において災害等廃棄物処理事業を活用した土砂等の撤去費用の負担等の特例措置も講じられたところである。
(4) したがって,被災自治体においては,大規模な土砂災害が発生した時には,加重要件を緩和して特別基準を活用したり,他制度との同時利用をしたりするなどして災害救助法を活用し,あるいは,独自の特例措置を設けるなどの方法によって,公費による土砂等の撤去を行うことを検討していただきたい。
4 国の役割について
(1) 以上のように,大規模な土砂災害時には,被災自治体における被害状況に応じた独自の施策が柔軟かつ積極的に行われることが望ましい。
 これを阻んでいるのは,第1に被災自治体が住家被害認定に関して国の「被害認定基準」や「運用指針」に事実上拘束されていること,第2に災害救助の一般基準に関しては「災害救助事務取扱要領」に掲げられた限定された記載に事実上拘束されていること,第3に災害救助の特別基準に関する独自施策を行う知識や経験が不足していること,第4に環境省による災害廃棄物処理事業等と災害救助の特別基準との間の権限分掌が不明確であるために行政事務に混乱が生じていること,第5に災害救助の特別基準に関する独自施策を実施すると被災自治体の財政負担が重くなることにある。
 上記のうち第1点については住家被害認定の被害認定基準や運用指針に法的拘束力がないこと,第2点については災害救助事務取扱要領にも法的拘束力がないこと,第3点については特別基準の先例等の情報を得て克服することができることを周知するとともに,その旨を,被災経験のある他の自治体によるサポート,研究者や経験豊富な災害ボランティア等による専門的助言に加え,弁護士及び当連合会として支援に力を尽くすことによって克服できるものと思われる。そこで,まず国に被災自治体に対する周知を求める。
(2) 一方,権限分掌の問題については,国の事業の範囲が判然としなければ,自治体としても独自事業を行うべきか否かの判断が困難である。
 例えば,西日本豪雨相談の内容の多くが土砂等の撤去に関するものであったが,その背景には,土砂等の撤去に関する権限分掌の範囲が不明確であるという事情がうかがわれる。被災自治体の多くは,被災直後から行政事務が著しく混乱した状況が続いており,発災から約2週間経過した時点で環境省が土砂等の撤去に関して補助金を手当てする旨の連絡文書を発出したにもかかわらず,対象自治体の一部では補助金対象事業の範囲が決まらず2018年8月2日の時点でなお担当窓口さえ決まらないところもある。
 各施策に関して国と自治体との間の権限分掌が不明確であると,どうしても施策の実施の判断が先送りになってしまうという状況が浮き彫りになっている。
 その結果,独自の上乗せ支援を先行させている自治体と,制度を十分に整理できずに支援が先送りになっている他の自治体との間で,被災者の支援に格差が生じているという実態が生じている(2018年8月2日現在)。
 被災者の視点から見れば,不条理というほかない。 
 このような被災自治体における行政事務の混乱を避けるためにも,国においては,国と自治体について,土砂の撤去に関する権限分掌の統一的な事務要領の作成を行うべきである。
(3) また,国による財政的負担については,積極的な支援が強く期待されるところである。 そこで,国は,被災自治体が被災者支援施策を実施するに当たり,被災自治体の財政的負担が軽減されるよう,災害救助法の適用に当たって要件緩和を含め被災自治体が要求する特別基準を積極的に認めるべきである。そして,地方自治体が策定する土砂等の撤去や被災者支援に係る特例措置の実施を裏付ける補助金の手当て,あるいは,地方交付税特別交付税等の積極的な配分等の措置を講じるべきである。
                                                                             以上
(引用終わり)
 
(参考資料)
災害の被害認定基準について(平成13年6月28日 府政防第518号 内閣府政策統括官(防災担当)から警察庁警備局長、消防庁次長、厚生労働省社会・援護局長、中小企業庁次長、国土交通省住宅局長あて通知)
災害に係る住家の被害認定基準運用指針(平成25年6月 内閣府(防災担当))
防災対策推進検討会議中間報告に対する意見書(2012年(平成24年)4月20日 日本弁護士連合会)
災害時における民間賃貸住宅の被災者への提供に関する協定等について(社援総発0427第1号 国土動第47号 国住備第35号 平成24年4月27日)

再掲:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか~安保法制の「しばり」とするために

 2018年8月25日配信(予定)のメルマガ金原No.3250を転載します。
 
再掲:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか~安保法制の「しばり」とするために
 
 「国会可視化」のために、先の常会(第196回国会)における枝野幸男立憲民主党代表による安倍内閣不信任決議案の趣旨説明(2時間43分!)を、衆議院会議録をもとに7回に分載してご紹介したのを機に、3年前にも同じような「国会可視化」の試みを私のブログでやっていたことを思い出し、昨日、「再掲:志位和夫日本共産党委員長による質疑を読み解く~安保法制をめぐる3年前の国会論戦を振り返る」をお送りしたのでした。
 
 昨日振り返った志位和夫委員長による質疑は、安保法案についての審議が始まったばかりの2015年5月27日・28日の両日、衆議院・我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会において行われたものであり、法案提出からそれほど間がない時点において、その問題点、違憲性が奈辺にあるかを明瞭に国民に示したものとして、非常に価値が高いものであったと思います。
 
 残念なことに、志位和夫委員長をはじめ、野党各党による厳しい追及により、次々と法案の問題点が明らかになる中、衆議院でも参議院でも委員会採決が強行され、同年9月19日には参議院本会議を通過し、いわゆる安保法制が成立するに至りました。
 
 ところで、皆さんは、この法案が参議院・我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会で採決強行か?と言われた9月16日、自民・公明の与党と日本を元気にする会、次世代の党、新党改革の5党が、「平和安全法制に関する合意事項」を内容とするいわゆる「5党合意」を締結し、これを踏まえ、翌17日の参議院特別委員会において「附帯決議」を付した上で安保関連2法案を可決し、9月19日未明の参議院本会議における採決によって両法案が成立したことを受け、同日、持ち回りにより、閣議決定「平和安全法制の成立を踏まえた政府の取組について」が行われた、ということをご記憶でしょうか?
  そもそも、この「5党合意」に加わった3野党は、今や全て消滅し、わずかにこの「5党合意」にその存在した証跡を遺すのみとなっているのですから、うたた感慨を覚えざるを得ません。
 
 この「5党合意」が締結され、それを踏まえて翌9月17日に参議院特別委員会で強行採決が行われた(例の「人間かまくら」と揶揄されたあれです)こともあって、私は、当初はこの「5党合意」に好意的でもなければ大した関心を寄せることもありませんでした。
 そのような私の意識を大きく変えたのは、2015年10月3日にアップされたビデオニュース・ドットコムにおける神保哲生さんと宮台真司さんの対談を視聴したことでした。
 
ビデオニュース・ドットコム
ニュース・コメンタリー(2015年10月03日)
最後の最後にとても重要な付帯決議が付いていた(29分)
(番組案内から引用開始)
 集団的自衛権の行使を可能にする安保関連法案の参院の審議が大詰めを迎える中、最終局面で法案に重要な付帯決議がつけられていた。野党による問責や不信任案などを連発したぎりぎりの抵抗が続くなかで行われた修正協議に対しては、「野党の分断工作」「強行採決と言われないための姑息な小細工」などと批判を受けたが、実際は法案の核心に関わる重要な変更点が含まれていた。
 修正協議は自民・公明の与党と、次世代の党、日本を元気にする会、新党改革の3野党の間で行われた。合意した修正内容を法案に反映させるためには再度衆議院での採決が必要となることから、今回は付帯決議として参議院で議決したものを、閣議決定することで法的効力を持たせる方法が採用された。
 3野党といっても、いずれも議員が1名から5名しかいない弱小政党であり、その多くはもともと自民党から分派した議員だったこともあり、野党陣営から見れば敵に塩を送る行為との批判は免れない面はあったが、だとしても実効性のある修正を実現したことについては、名を捨てて実を取りにいったと肯定的に評価することもできるものだった。
 具体的な付帯決議の内容としては、武力攻撃には国会の例外なき事前承認が必要とされた点や、武力行使は国会の終了決議があれば速やかに終了しなければならないこと、提供できる弾薬は拳銃、小銃、機関銃などに限ること、自衛隊の出動は攻撃を受けた国の要請を前提とすることなどが含まれた。
 自衛隊の派遣には例外なく国会の事前承認が必要になったことで、来年の参院選与野党が逆転すれば、事実上自衛隊の派遣や武力行使ができなくなることになった。
 また、存立危機事態という抽象的な概念では、何が達成されれば武力行使を終了するかの基準が曖昧で戦闘が泥沼化する恐れがあるとの批判があったが、付帯決議で国会が武力行使の終了を決議すれば直ちに終了することが定められたことで、少なくとも一つの客観的な出口が提供された。
 弾薬提供の規定についても、国会審議では「論理的には核兵器でも提供できる」などといった暴論が飛び交ったことから、あくまで緊急の場合に兵士の身を守るための拳銃や小銃の弾薬に限定することが盛り込まれ、大量破壊兵器はもとよりクラスター爆弾劣化ウラン弾などの戦略的な弾薬は含まれないことも明記された。
 ただし、付帯決議に集団的自衛権の行使には攻撃を受けた国からの要請が必要となることが明記されたことで、国家の存立が危ぶまれるぎりぎりの事態で最後の手段として行使されるべき集団的自衛権が、その実は他国からの要請がなければ使えないという、「存立危機事態」という概念そのものの矛盾点も露呈することとなった。
 「敵に塩を送る行為」との批判を受けながらも、ある程度実効性のある妥協や修正を引き出した今回の付帯決議をどう見るべきかを、ジャーナリストの神保哲生社会学者の宮台真司が議論した。
(引用終わり)
 
 以上の文章を読み、30分弱の対談を視聴した私は、早速、「5党合意」を読んでみました。その結果、神保さん、宮台さんの理解とは異なる解釈をすべきと考えた点も含め、多くの人にその内容を知っていただきたいと考えました。
 その結果、私がやったことは、この「5党合意」の逐条解説を書く、という大胆不敵な試みでした。
 「浅学非才」というのが謙遜ではなく、全くありのままの姿ですから、そんな私の解釈に権威も何もないのは当然です。従って、私の解釈はともかくとして、1人でも多くの方がこの「5党合意」に注目していただければ、それで私の目的は達成されるのでした。もっとも、ブログへのアクセスは連載のあいだ中、ぱっとしませんでしたけどね。無理もありませんが。
 
 実際、この2015年9月16日の「5党合意」に言及した識者は、私の見聞きした範囲では、木村草太首都大学東京教授(憲法学)くらいです(2016年10月29日に木村教授が和歌山市で行った講演の中で言及されました/10月29日の冒険~『法華経』、『標的の村』、木村草太氏講演会)。
 ちなみに、上記講演で木村教授が話された「存立危機事態における防衛出動に例外なく国会の事前承認を要する」との点につては、私の解釈は木村教授のそれと微妙に異なるのですけどね。
 
 それでは、以下に、「5党合意」についての私の逐条解説(資料編と総集編を含めて全10回)にリンクをはるとともに、「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」の内、とりわけ重要な「5党合意」と「閣議決定」を全文引用します(「附帯決議」はリンクのみ)。
 
(金原徹雄のブログから)
2015年10月4日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(1)~とにかく読むだけは読まなければ(資料編)
2015年10月5日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(2)~逐条的に読んでみた①(前文・1項)
2015年10月7日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(3)~逐条的に読んでみた②(2項)
2015年10月9日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(4)~逐条的に読んでみた③(3項)
2015年10月11日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(5)~逐条的に読んでみた④(4項)
2015年10月13日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(6)~逐条的に読んでみた⑤(5項)
2015年10月15日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(7)~逐条的に読んでみた⑥(6項)
2015年10月18日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(8)~逐条的に読んでみた⑦(7項、8項)
2015年10月20日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(9)~逐条的に読んでみた⑧(9項)
2015年10月25日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(10・完)~私はこう読んだ(総集編)
 
(資料編)
1 5党合意(2015年9月16日)
(引用開始)
平和安全法制についての合意書
                            平成二十七年九月十六日
5党は以下の三点について合意した。
一、別紙「平和安全法制に関する合意事項」を合意する
二、別紙「平和安全法制に関する合意事項」を以下の手続きで担保する
   一 政府答弁
   二 附帯決議
   (三 国会決議)
   四 閣議決定
(注)閣議決定の内容は、「この政党間合意の趣旨を尊重する」「適切に対処する」ことを明らかにするものとする
三、別紙「平和安全法制に関する合意事項」において、今後検討すべき事項については、協議会を設置した上、法的措置も含めて実現に向けて努力を行う
 
    安 倍 晋 三
公明党 代表
    山 口 那津男
日本を元気にする会 代表
    松 田 公 太
次世代の党 代表
    中 山 恭 子
新党改革 代表
    荒 井 広 幸
 
(別紙)
平和安全法制に関する合意事項  
                            平成27年9月16日  
 
日本国憲法の下、戦後70年の平和国家の歩みは不変。これを確固たるものとする。二度と戦争の惨禍を繰り返さない。不戦の誓いを将来にわたって守り続ける。
国連憲章その他の国際法規を遵守し、積極的な外交を通じて、平和を守る。国際社会の平和及び安全に我が国としても積極的な役割を果たす。
・防衛政策の基本方針を堅持し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならない。平和安全法制の運用には国会が十全に関与し、国会による民主的統制としての機能を果たす。
 
 このような基本的な認識の下、政府は、本法律の施行に当たり、次の事項に万全を期すべきである。
 
1 存立危機事態の認定に係る新三要件の該当性を判断するに当たっては、第一要件にいう「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」とは、「国民に我が国が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が及ぶことが明らかな状況」であることに鑑み、攻撃国の意思、能力、事態の発生場所、その規模、態様、推移などの要素を総合的に考慮して、我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険など我が国に戦禍が及ぶ蓋然性、国民がこうむることとなる犠牲の深刻性、重大性などから判断することに十分留意しつつ、これを行うこと。
 さらに存立危機事態の認定は、武力攻撃を受けた国の要請又は同意があることを前提とすること。また、重要影響事態において他国を支援する場合には、当該他国の要請を前提とすること。
2 存立危機事態に該当するが、武力攻撃事態等に該当しない例外的な場合における防衛出動の国会承認については、例外なく事前承認を求めること。
 現在の安全保障環境を踏まえれば、存立危機事態に該当するような状況は、同時に武力攻撃事態等にも該当することがほとんどで、存立危機事態と武力攻撃事態等が重ならない場合は、極めて例外である。
3 平和安全法制に基づく自衛隊の活動については、国会による民主的統制を確保するものとし、重要影響事態においては、国民の生死に関わるような極めて限定的な場合を除いて、国会の事前承認を求めること。
 また、PKO派遣において、駆け付け警護を行った場合には、速やかに国会に報告すること。
4 平和安全法制に基づく自衛隊の活動について、国会がその承認をするにあたって国会がその期間を限定した場合において、当該期間を超えて引き続き活動を行おうとするときは、改めて国会の承認を求めること。
 政府が国会承認を求めるにあたっては、情報開示と丁寧な説明をすること。
 当該自衛隊の活動の終了後において、法律に定められた国会報告を行うに際し、当該活動に対する国内外、現地の評価も含めて、丁寧に説明すること。
 また、当該自衛隊の活動について、180日ごとに国会に報告を行うこと。
5 国会が自衛隊の活動の終了を決議したときには、法律に規定がある場合と同様、政府はこれを尊重し、速やかにその終了措置をとること。
6 国際平和支援法及び重要影響事態法の「実施区域」については、現地の状況を適切に考慮し、自衛隊が安全かつ円滑に活動できるよう、自衛隊の部隊等が現実に活動を行う期間について戦闘行為が発生しないと見込まれる場所を指定すること。
7 「弾薬の提供」は、緊急の必要性が極めて高い状況下にのみ想定されるものであり、拳銃、小銃、機関銃などの他国部隊の要員等の生命・身体を保護するために使用される弾薬の提供に限ること。
8 我が国が非核三原則を堅持し、NPT条約、生物兵器禁止条約化学兵器禁止条約等を批准していることに鑑み、核兵器生物兵器化学兵器といった大量破壊兵器や、クラスター弾劣化ウラン弾の輸送は行わないこと。
9 なお、平和安全法制に基づく自衛隊の活動の継続中及び活動終了後において、常時監視及び事後検証のため、適時適切に所管の委員会等で審査を行うこと。
 さらに、平和安全法制に基づく自衛隊の活動に対する常時監視及び事後検証のための国会の組織のあり方、重要影響事態及びPKO派遣の国会関与の強化については、本法成立後、各党間で検討を行い、結論を得ること。
(引用終わり) 
 
2 附帯決議(2015年9月17日)
我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案及び国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律案に対する附帯決議(参議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会)
 
3 閣議決定(2015年9月19日)
(引用開始)
平和安全法制の成立を踏まえた政府の取組について
平成27年9月19日 国家安全保障会議決定 閣議決定
1 我が国は、戦後一貫して日本国憲法の下で平和国家として歩んできた。専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、非核三原則を守るとの基本方針を堅持してきた。また、我が国は、国際連合憲章を遵守しながら、国際社会や国際連合を始めとする国際機関と連携し、それらの活動に積極的に寄与している。こうした我が国の平和国家としての歩みは、これをより確固たるものにしなければならない。
 我が国を取り巻く安全保障環境の変化に対応し、政府としての責務を果たすためには、まず、十分な体制をもって力強い外交を推進することにより、安定しかつ見通しがつきやすい国際環境を創出し、脅威の出現を未然に防ぐとともに、国際法にのっとって行動し、法の支配を重視することにより、紛争の平和的な解決を図らなければならない。
 その上で、いかなる事態においても国民の命と平和な暮らしを断固として守り抜くとともに、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の下、国際社会の平和と安全にこれまで以上に積極的に貢献するためには、切れ目のない対応を可能とする国内法制を整備しなければならない。
2 このような認識は、「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」(平成26年7月1日閣議決定)において示されたとおりであり、政府は、同閣議決定に基づいて検討を進めた結果、我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案及び国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律案を平成27年5月14日に閣議決定し、国会に提出し審議をお願いしたところである。
3 その結果、平成27年9月16日に、自由民主党公明党、日本を元気にする会、次世代の党及び新党改革の5党により、別添の「平和安全法制についての合意書」が合意され、同月17日、参議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会において、同合意書の内容が附帯決議として議決された上で、同月19日、参議院本会議において可決成立した。
4 政府は、本法律の施行に当たっては、上記3の5党合意の趣旨を尊重し、適切に対処するものとする。
(引用終わり)
 
 最後に、安保法制成立のどたばたの中で締結された「5党合意」について、なぜ頼まれもしないのに逐条解説などしたのかをご理解いただくために、連載の最終回として書いた総集編の中から、「おわりに~5党合意をどう活かすか」を引用したいと思います。
 「安保関連法制自体を廃止できる時がくれば、「5党合意」はその意味を失うが、それまでにあとどれだけの期間を要するのか誰にも分からない。」という状況は、その後、2016年の参議院通常選挙、2017年の衆議院総選挙を経ても一向に変わっていないどころか、次の臨時国会にも、自衛隊明記を含む改憲発議がなされるのでは?と観測される事態にまで至っています。
 既に、安保法制に基づき、南スーダン派遣の陸上自衛隊に駆付け警護等の任務が発令され、海上自衛隊には米艦防護の任務が与えられています。幸い、後方支援(協力支援)や存立危機事態下の防衛出動などの事態は起こっていませんが、「安保法制の廃止」という政治日程を具体化できるだけの政治勢力の結集が実現しない間、単に「運を天に任せる」という態度はあまりにも無責任です。せめて、「自衛隊の戦地派遣を阻止する、あるいはせめて抑制するために使える手段はどんなものでも総動員しなければならない。」という理念に賛同していただける方には、是非、この「5党合意」(及びそれを裏付けた「閣議決定」)に注目していただきたいと思います。
 
(引用開始)
3 おわりに~5党合意をどう活かすか
 参議院・我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会で、安全保障関連2法案が強行採決される前日の9月16日に、自由民主党公明党、日本を元気にする会、次世代の党、新党改革の5党間で締結された「平和安全法制に関する合意事項」については、締結直後の冷ややかな雰囲気も過ぎ去り、いまやほとんどの国民が忘れてしまっているのではないかと思える今日この頃である。
 実際、「5党合意」でGoogle検索をかけてみても、合意直後の当事者による発信や報道を除けば、私の連載「安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか」が上位でヒットするありさまである。
 私自身、神保哲生氏と宮台真司氏によるニュース・コメンタリーを視聴して、はじめて「これはしっかり読み込まねば」と気がついた始末であるから偉そうなことは言えないが。
 もちろん、5党合意と一口に言っても、様々な内容を含んでおり、各条項の解釈にしても、必ずしも断定しかねる曖昧さを残すものも少なくない。それに、私自身、浅学非才の故に、思わぬ検討不足や勘違いをしている可能性も十分にある。従って、多くの人が「5党合意を自分はこう読んだ」という意見を次々と発表してくれることが一番良いと思っている。
 安保関連法制自体を廃止できる時がくれば、「5党合意」はその意味を失うが、それまでにあとどれだけの期間を要するのか誰にも分からない。それまでにも、生身の自衛官が危険な戦地に派遣される可能性は(法律の施行後は特に)常に存在する。そうである以上、自衛隊の戦地派遣を阻止する、あるいはせめて抑制するために使える手段はどんなものでも総動員しなければならない。私が5党合意の注釈をしつこく続けたのはそのためであった。
 このまことに中途半端と言えば中途半端な5党合意が、もしかすると将来、思わぬ効力を発揮する場面があるかもしれない(それが良いことなのかどうかは別論として)。
 最後に、この5党合意が安保法制違憲訴訟にどのような影響を及ぼすのか(あるいは及ぼさないのか)については、違憲訴訟を準備しているグループの中で既に十分に検討していることと思うが、私自身はその点についての検討はまだ手つかずであることをお断りしておく。
(引用終わり)

再掲「志位和夫日本共産党委員長による質疑を読み解く」~安保法制をめぐる3年前の国会論戦を振り返る

 2018年8月24日配信(予定)のメルマガ金原No.3249を転載します。
 
再掲「志位和夫日本共産党委員長による質疑を読み解く」~安保法制をめぐる3年前の国会論戦を振り返る
 
 先の通常国会(第196回国会・常会)の事実上の最終日(2018年7月20日・金曜日)、衆議院本会議で行われた枝野幸男立憲民主党代表による安倍内閣不信任決議案の趣旨を説明する2時間43分に及ぶ演説を、衆議院会議録をもとに、7回に分載してご紹介したところですが、このような「国会可視化」の試みを、私のブログで、3年前にもやっていたことを思い出しました。
 それが、2015年5月27日・28日の両日、衆議院・我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会において、首相以下の閣僚を追及した志位和夫日本共産党委員長の質疑に感銘を受けて始めた「志位和夫日本共産党委員長による質疑を読み解く」シリーズでした。
 この時は、単に質疑をご紹介するだけではなく、私の拙い注釈や意見を付け加えていたところがミソです。既に成立してしまった安保法制ですが、何が問題なのかをしっかりと認識するために、今でも十分に振り返る価値のある質疑だったと思います。
 ということで、以下に連載の全部にリンクしておきます。お時間のある時にでもお読みいただければ幸いです。
 
 「質疑を読み解く」シリーズは全6回の連載となりました。
 その中身は、当時、まだ公式の会議録は公開されていませんでしたので、しんぶん赤旗WEBサイトに掲載された文字起こし(会議録公表前に関係者に届けられる速記録の未定稿が基になっているのかもしれません)をテキストとして引用しつつ、必要な補注を私が書き足すというスタイルで書いていきました。連載の(1)~(3)が5月27日の、(4)~(6)が5月28日の質疑です。
 なお、質疑の動画については、衆議院インターネット審議中継の動画を基に、日本共産党YouTubeチャンネルに掲載されたものをご紹介しました。
 
 この歴史に残る質疑を振り返るため、2015年5月27日・28日の衆議院平和安全法制特別委員会における「志位和夫日本共産党委員長による質疑を読み解く」(1)~(6)を、「動画」、「しんぶん赤旗(文字起こし)」と共にリンクしてご紹介します。
 
 併せて、この連載をスタートさせるきっかけとなった「国会論戦はこうありたい~志位和夫日本共産党委員長による安倍首相追及を多くの人に視聴して欲しい」という、2015年5月28日に書いた私のブログにもリンクしておきます。
 これは、同年5月20日の党首討論、5月26日の衆議院本会議での代表質問、そして、5月27日、28日の衆議院特別委員会における質疑という、志位和夫委員長が連続登壇して安倍首相を追い詰める動画に感銘を受け、是非多くの方に視聴して欲しいと思って書いたもので、当時、私のブログにしては驚異的な数千というアクセスを記録しました。
 
2018年5月28日
国会論戦はこうありたい~志位和夫日本共産党委員長による安倍首相追及を多くの人に視聴して欲しい
 
2015年5月27日 衆議院 安保法制(平和安全)特別委員会 動画(57分)
 
しんぶん赤旗 2015年5月30日
「後方支援」=兵たんは武力行使と一体 戦争法案の違憲性浮き彫りに
衆院特別委 志位委員長の質問〈上〉
 
2015年6月1日
志位和夫日本共産党委員長による質疑を読み解く(1)~自衛隊は「戦闘地域」に派遣される
2015年6月2日
志位和夫日本共産党委員長による質疑を読み解く(2)~必ず戦死者が出る
2015年6月3日
志位和夫日本共産党委員長による質疑を読み解く(3)~兵站は軍事行動の不可欠の一部
 
2015年5月28日 衆議院 安保法制(平和安全)特別委員会 動画(57分)
 
しんぶん赤旗 2015年5月31日
米国の戦争にノーといえない政府 侵略国の仲間入りは許されない
衆院特別委 志位委員長の質問〈下〉
 
2015年6月4日
志位和夫日本共産党委員長による質疑を読み解く(4)~治安維持でも「殺し、殺される」
2015年6月5日
志位和夫日本共産党委員長による質疑を読み解く(5)~日本は“米国の戦争”に反対したことはただの一度もない
2015年6月6日
志位和夫日本共産党委員長による質疑を読み解く(6/完)~ベトナム戦争イラク戦争を教訓としない国
 
 私が、なぜこれほどの手間暇をかけて、志位和夫日本共産党委員長による質疑を多くの方に読んで欲しいと考えたかについては、連載の最終回(6)にまとめておきました。既に安保法制が成立してしまった現在読み返してみると、「いまさら」というところはあるのですが、間もなく安保法制成立から丸3年(9月19日)を迎え、さらに、その違憲の安保法制を違憲でなくそうとする「安倍9条改憲」が目前に迫っている今、これらの質疑が、あらためて安保法制の何が問題なのか、どこが憲法違反なのかについて再認識するための恰好の資料であると確信しますので、ご紹介することとしたものです。
 いささか長くなりますが、「志位和夫日本共産党委員長による質疑を読み解く(6/完)」のまとめの部分を再掲したいと思います。
 
(引用開始)
 昨年7月1日の閣議決定(国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について)や今次の戦争法案(政府は「平和安全法制整備法」及び「国際平和支援法」と呼称)について、それがいかに憲法に違反するとんでもないものであるかを訴えても(それ自体はとても大事なことですが)、なかなか多くの国民にその訴えが届いているという手応えが得られない、という焦燥感を抱いていたのは私だけではないと思います。
 そのような中で行われた志位委員長による特別委員会質疑は、重要な歴史的資料の収集を含めた周到な事前準備、限られた時間を有効に使うための論点の絞り込み、まともに質問に答えないであろう首相らの答弁内容を予測し切った上での質問の組み立て、常に冷静さと礼節を失わない毅然とした態度などが渾然一体となって、戦争法案の問題点をえぐり出すことに成功したもので、普段、国会論戦を熱心にフォローなどしていない、また、共産党の支持者という訳でもない多くの人々に、まさにこれが真の「国民の代表」に期待される国会論戦というものだ、という確信と感動を与えたのだろうと思います。
 
 とりわけ、私が重要だと考えたのは論点の絞り込みです。
 実は、2日間にわたって志位委員長が追及した論点は、そう多くはありません。
 5月27日には、周辺事態法(あらため重要影響事態法)と国際平和支援法の2つの法案について、周辺事態法における「我が国周辺の地域」や個別の特措法での活動地域の限定を取り払い(世界中どこへでも)、「非戦闘地域」という要件を外してしまい、活動範囲も拡げられた後方支援(協力支援)という名の危険な兵站業務に自衛隊を従事させるという内容であることを明らかにしました(ここまでが連載の(1)~(3))。
 そして28日には、まずPKO協力法改定法案によって、国連が統括しない国際連携平和安全活動なるものに参加できることとし、さらに、(PKOも含めて)「監視、駐留、巡回、検問及び警護」や駆け付け警護など、著しく危険な任務が追加されていることを指摘した上で、アフガニスタンのISAFに派兵して数十人の犠牲者を出したドイツの例を詳細に紹介し、この法案が成立したあかつきに自衛隊員や日本人がどのような事態に直面することになるのかを具体的に明らかにしました(連載(4))。
 そして、いよいよ28日の後半で集団的自衛権の問題を追及するのですが、ここでは細かな法律論には立ち入らず、日本が国際連合に加盟して以降、ただの一度も“アメリカの戦争”に反対したことがないという事実を実証的に明らかにした上で(連載(5))、ベトナム戦争イラク戦争に対する日本政府の対応を取り上げ、「アメリカが行う戦争は、いつでも、どこでも、常に正義だと信じて疑わない。米国政府の発表は、いつでも、どこでも、事実だと信じて疑わない。ねつ造と分かっても説明も求めず、反省もしない。」とだめ押しをし、日本の自衛隊が“米国の戦争”に参戦させられる運命が確実であることを、誰の目にも明らかにして質疑を締めくくります(本日の連載(6))。
 どうでしょうか、このように振り返ってみると、志位委員長は、実はそんなに多くの論点について追及しているのではないことがお分かりいただけたでしょう。
 私が理解したポイントは以下のように要約できると思います。
 
(1)憲法論的には、重要影響事態法案における後方支援が、軍事的、国際的には兵站そのもの、武力行使と不可分一体のものであることを明らかにすることに重点を置いています。
(2)さらに、重要影響事態での後方支援、国際平和共同事態での協力支援、国際平和協力法に基づく拡大された業務のいずれにあっても、従来とは比較にならない危険な現場に自衛隊を投入し、自衛隊員に「殺し、殺される」任務を押しつけることになることを具体的に明らかにします。、
(3)最後に、上記の各事態においてもそうですが、とりわけ存立危機事態について、米国からの出兵要請を、日本政府が自立的な判断に基づいて拒否することなど到底想定できず、結果として、自衛隊員を“米国の戦争”の尖兵として差し出すことになることを明らかにします。
 
 もちろん、今次の戦争法案については様々な論点(突っ込みどころと言っても良いでしょう)があり、特別委員会での他の野党議員による質疑にも注目が必要です。
 たとえば、岸田文雄外相の答弁が原因で審議が中断するきっかけをとなった後藤祐一議員(民主党)による周辺事態(重要影響事態)と軍事的波及についての質問(5月29日)など、掘り下げていく価値は十分にあると思います(維新の党の柿沢未途幹事長によるtweetまとめが分かりやすくて参考になります)。
 とはいえ、「戦争法案」反対への世論の結集のために残された時間は限られています。多くの言葉を費やしても、それに耳を傾けてもらい、さらに理解してもらうことは容易ではありません。
 その意味からも、私は、多くの法案(形式上は2つですが)の中から周辺事態法(重要影響事態法)を取り上げたことは正しいと思います。以前にも書きましたが、戦争法案の全貌を一挙に理解しようとするのは無理であり、鍵となる法案をしっかりと理解し、そこから押し及ぼしていくのが理解のための早道です。
 そして、上記ポイントの(2)と(3)です。今、最も国民に訴えるべきことは、戦争法案が成立したあかつきに自衛隊員やそれ以外の国民にどういう運命が降りかかるのかについて具体的なイメージを持ってもらうこと、それも単純なキャッチフレーズの連呼によってではなく、事実を踏まえ、あくまで論理的な筋道を通しながら、聞く人の心情に直接訴える、情理を尽くした誰もが納得せざるを得ない議論によって得心してもらうこと、これが最も重要であると思います。
 志位委員長による質疑が多くの人の心をゆさぶったのは、戦後の日本に訪れた最大の危機に際し、最も聞きたい議論を聞けたという感動が得られたからでしょう。
 私が、6回にわたって「志位和夫日本共産党委員長による質疑を読み解く」を連載することにしたのも、この質疑を1人でも多くの方に、視聴していただきたい、お読みいただきたい、そして、より深く理解していただくための一助にでもなればと思ってのことです。
 そして、その副産物として、私自身の戦争法案に対する理解が、この連載に取り組むことによって深まったことは間違いなく、近いうちに行う学習会のための非常に有益な準備となりました。
(引用終わり)

15回目の憲法フェスタ(守ろう9条 紀の川 市民の会)はCrowfieldの演奏と飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)の講演ほか(2018年11月11日)

 2018年8月23日配信(予定)のメルマガ金原No.3248を転載します。
 
15回目の憲法フェスタ(守ろう9条 紀の川 市民の会)はCrowfieldの演奏と飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)の講演ほか(2018年11月11日)
 
  紀の川北岸に居住する和歌山市民で構成する「守ろう9条 紀の川 市民の会」(私も運営委員の一人)は、2005年1月24日に結成総会を開いて以来、原則として毎年秋に「憲法フェスタ」を開催しており(初期に年2回開催した年が一度だけあった)、今年の11月11日(日)で15回目となります。
 その「第15回 憲法チラシ」の内容が早くも確定しましたので、まだ2か月半も先のことですが、第一報をお送りします。
 
 以下に、チラシ記載情報を転記しておきますが、様々な企画がある中で、和歌山市河北コミュニティセンターのメイン会場となる2階多目的ホールでは、
 
10:30~11:45
 「いのちの海 辺野古 大浦湾」(謝名元慶福監督)上映
14:00~16:30頃
 第1部 ファミリーバンド 「Crowfield(クロウフィールド)」コンサート
 第2部 講演「自民党改憲案にどう向き合うか~私たちの具体的な対抗策は~」
  講師 飯島滋明氏(名古屋学院大学教授)
 
が行われます。
 午前中の映像上映は、例年なら「映像の部屋」として、小さな会議室を借りて「ひっそりと」(?)上映しているのですが、今年はいつも予約している部屋が確保できず、「大は小を兼ねる」ことになったのであったと思います。
 広い会場であまり観客が少ないと寂しいものがありますので、お近くの方は、是非午後の部と併せ、午前中にもお越しいただければと思います(「展示の部屋」、「リサイクル広場」、「ヒロシマナガサキ 原爆と人間」写真展もやっています)。  
 
(参考動画)
いのちの海 辺野古大浦湾(ドキュメンタリー映画 プロモーションビデオ)(2分25秒)
 
 午後の第1部で演奏してくださるファミリーバンドCrowfield(クロウフィールド)は、チラシにあるとおり、2年前に続き2回目の登場です。前回の演奏が大好評で、「是非もう一度」という多くの声に促され、烏野さんたちにお願いしたところ、ご快諾いただけたものです。
 ちなみに、Crowfieldは、去る7月29日に、和歌山市内のライブハウスOLD TIMEで開かれた「第二回 LOVE&PEACE LIVE 和歌山~平和を祈るコンサート」に出演し、素晴らしい演奏を披露してくれたのですが(【第二回 LOVE&PEACE LIVE 和歌山~平和を祈るコンサート~大成功!)、そのステージの中で、11月11日は「憲法フェスタ」に出演すると宣伝してくださった上に(「憲法フェスタ」のチラシ暫定版も来場者に配布)、「代表曲『この島~憲法9条のうた~』を聴きたい方は是非「憲法フェスタ」に来てください」(7月29日には歌わなかった)と予告してくださいました。
 ということで、「第二回 LOVE&PEACE LIVE 和歌山~平和を祈るコンサート」を聴かれた方も、是非ご来場ください。
 ただし、ライブハウスでは、弟のレナン君が迫力あるドラムス演奏を披露してくれましたが、コミセンでは、近隣への配慮からドラムス演奏は無理であり、打楽器はカホンになる見込みです。
 
(参考動画)
HAPPY BIRTHDAY 憲法 in Wakayama 2017:9  Crowfield《バンド演奏》(38分)
※2017年5月3日、和歌山城西の丸広場での「HAPPY BIRTHDAY 憲法 in Wakayama 2017」での演奏です。
 
 午後の第2部は、名古屋学院大学教授(憲法学)の飯島滋明先生にご講演をお願いすることになりました。
 当会がお招きする9人目の憲法研究者となります。
 過去の8人の先生方は以下のとおりです(末尾に各講演要旨にリンクしてあります)。
 
吉田栄司関西大学教授(2012年憲法フェスタ)
森英樹名古屋大学名誉教授(2014年総会)
清水雅彦日本体育大学教授(2014年憲法フェスタ)
高作正博関西大学教授(2015年憲法フェスタ)
石埼 学龍谷大学教授(2016年総会)
植松健一立命館大学教授(2017年総会)
本 秀紀名古屋大学大学院教授(2017年憲法フェスタ)
三宅裕一郎三重短期大学教授(2018年総会) ※現・日本福祉大学教授
 
 飯島先生は、チラシ裏面にもあるとおり、「戦争をさせない1000人委員会事務局次長」、「安保法制違憲訴訟常任幹事」でもあり、学問的研究だけにとどまらない、社会運動にも積極的に関与されています。
 安倍三選後の改憲発議が具体的政治日程にのぼろうとしている現在の状況を踏まえ、私たちは何をしなければならないのか、ということについて、有益なお話が伺えるものと期待しています。
 是非、お誘いあわせの上ご来場ください。
 
(参考動画)
外征化する自衛隊 南スーダンへの自衛隊派兵を手がかりに(39分)
※2017年8月13日、あいち・平和のための戦争展のピースステージにおける講演。
 
(チラシ文字情報から引用開始)
-チラシ表面-
第15回 憲法フェスタ
9条をまんなかに ~えがこう平和への道~
開催日:2018年11月11日(日)
会 場:河北コミュニティセンター
    (和歌山市市小路192-3 <アクセスは裏面>)
入場無料、予約不要
会員でなくてもどなたでもご参加いただけます!
主催:守ろう9条 紀の川 市民の会  お問合せ先:073-462-0539 原
 
メイン会場(2F多目的ホール
【開始】14:00【終了】16:30頃
第1部 ファミリーバンド 「Crowfield(クロウフィールド)」
 2016年の「憲法フェスタ」で素敵な歌声を聞かせてくれたファミリーバンド「Crowfield」が再び登場します。「この島~憲法9条のうた~」をはじめ、みなさんよくご存知の吟味した平和の歌を届けます。
第2部 講演「自民党改憲案にどう向き合うか~私たちの具体的な対抗策は~」
 講師 飯島滋明氏(名古屋学院大学教授)
 安倍首相は昨年、「憲法9条1項と2項を残しつつ、自衛隊憲法に明文で書き込む」と表明しました。自民党憲法改正推進本部は安倍首相の意向を受け、「9条の2」として、「必要な自衛の措置をとるための実力組織として自衛隊を保持する」という条文を追加しようとしています。「自衛の措置」には集団的自衛権も含まれます。つまり、集団的自衛権を行使できる自衛隊憲法で認めるということです。
 そして、従来「実力組織」に付いていた「必要最小限度」の文言も削除しています。この「戦争をする国」に向う自民党改憲案に、私たちはどのように対抗すればよいのか、みんなで考えたいと思います。多数のみなさまのご参加を願っています。
 
映像上映(2F多目的ホール
 上映時間 10:30~11:45 
 ─ DVD上映 ─「いのちの海 辺野古 大浦湾」
 沖縄の辺野古・大浦湾と住民のたたかいのドキュメンタリー映像です。世界有数の美しい海と貴重な生き物たち。過酷な沖縄戦と米軍占領で理不尽な状態に追い込まれた住民。新基地建設に反対する住民のたたかいを伝えます。4年連続の沖縄映像の上映です。(謝名元慶福監督)
 
展示の部屋(2F活動室大1)10:00~13:45
 会員や地域のみなさんの趣味の作品、絵画・書・写真・絵手紙・リフォーム・手芸・陶芸などの展示と、交流・おしゃべりの場です。喫茶コーナーもあります。
 
リサイクルひろば(2F活動室大2)10:15~13:00
 今年も「リサイクルひろば」を実施します。着なくなった服や雑貨などを、袋持参でもらいにきてください(申し込み不要)。譲ってくださる方も大募集。
 
写真展示(2F多目的ホール)10:00~14:00
ヒロシマナガサキ 原爆と人間」
 被爆と被曝の実相を示す35枚の写真パネルです。原爆・原発と人間は、絶対に共存できません。
 
-チラシ裏面-
出演者ご紹介
☆ファミリーバンド 「Crowfield(クロウフィールド)」
 名前が烏野(からすの)だから「クロウフィールド」。お父さんの「烏野政樹さん」と、娘さんの「エナさん」、息子さんの「レナン君」、そして今回は奥さんの「あゆみさん」が沖縄三線とボーカルで出演されます。家族ならではのハーモニーを聞かせてくれます。
☆飯島 滋明(いいじま・しげあき)さん
 1969年、  東京生まれ
 2007年3月、早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程満期退学
 2007年4月、名古屋学院大学専任講師
 2010年4月、名古屋学院大学准教授
 2016年4月、名古屋学院大学経済学部教授
 専門は憲法行政法、平和学、医事法。
 著書は、『教職課程のための憲法』『Q&Aで読む日本軍事入門』『すぐにわかる 集団的自衛権ってなに?』『自民党改憲案にどう向き合うか』など多数。
 現在「戦争をさせない1000人委員会事務局次長」「安保法制違憲訴訟常任幹事」を担当。
 なお、個人的に徳川吉宗公が好きとのことです。何か和歌山とご縁があるのかもしれませんね。
 
<河北コミュニティセンターへのアクセス>
所在:和歌山市市小路192-3 TEL:073-480-3610 (駐車場あり)
南海本線紀ノ川駅下車徒歩3分(改札を出て左折し120m、左折し踏切を越え180m、右側)
和歌山バス六十谷線(川永団地⇔南海和歌山市駅)梶取東バス停下車すぐ
 
お知らせ  
①11月11日当日、託児のご希望がある場合は10月31日(水)までにご相談ください。相談先:090-3709-7136(馬場)
②補聴器を使用されている方がよりクリアにお聞きいだけるように、会場に『磁気ループ』を設置します。使用できるのは「Tモード」「MTモード」がある補聴器です。
 
「第15回憲法フェスタ」へのご参加のお願い
「守ろう9条 紀の川 市民の会」代表  原 通範
 私たちの「憲法フェスタ」も回を重ねて15回目を迎えることとなりました。『9条をまんなかに~えがこう平和への道~』を合言葉に、広く平和の問題を考えるとともに、交流と親睦を深める恒例の行事として毎年秋に実施してきました。
 今年の「第15回憲法フェスタ」は、例年のように「展示の部屋」「映像上映」「リサイクルひろば」の企画を実施するとともに、メイン会場の第1部は、第13回に続いてファミリーバンド「クロウフィールド」の演奏、第2部は、名古屋学院大学教授・飯島滋明さんに「自民党改憲案にどう向き合うか~私たちの具体的な対抗策は~」と題して講演をしていただきます。
 安倍首相は昨年5月、「憲法9条1項・2項を残しつつ、自衛隊憲法に書き込む」と言いました。自衛隊憲法に書き込むと、「9条2項」は無きに等しくなり、自衛隊を堂々と海外に出せるようになります。「森友」「加計」「改ざん」「隠ぺい」「うそ」など、問題を重ねる安倍政権ですが、改憲の野望はまだ捨てていません。「戦争をしない国・日本」を守るために、今「安倍改憲NO!」に最大限の力を注ぐ時です。多数のみなさまのご参加をお待ちいたしております。
(引用終わり)
 

(付記・8人の憲法研究者の講演録を読む)
 上述のとおり、過去「守ろう9条 紀の川 市民の会」の総会もしくは憲法フェスタで講演された憲法研究者は8人に及びます。
 各講演については、同会及び「九条の会・わかやま」の事務局を兼ねる南本勲(みなもと・いさお)さんが、会紙「九条の会・わかやま」に講演要旨を通常3回に分けて掲載する例となっており、過去何度か、私のブログと併せてご紹介してきました。
 9人目の憲法研究者・飯島滋明教授をお招きするのを機に、過去の8人の憲法研究者の皆さんの講演要旨をまとめてご紹介しておきます。
 
【8人の憲法研究者の講演録を読む~「守ろう9条 紀の川 市民の会」で語られたこと(吉田栄司氏、森英樹氏、清水雅彦氏、高作正博氏、石埼学氏、植松健一氏、本秀紀氏、三宅裕一郎氏)】
 
2018年3月24日(土) 第14回 総会
三宅裕一郎氏(三重短期大学教授 ※現・日本福祉大学教授)
憲法9条が果たしてきた役割~「自衛隊」の明記によって何が変わるのか?~
講演録① 会紙「九条の会・わかやま」346号
講演録② 会紙「九条の会・わかやま」347号
講演録③ 会紙「九条の会・わかやま」348号
金原ブログ「三宅裕一郎氏(三重短期大学教授)「憲法9条が果たしてきた役割-「自衛隊」の明記によって何が変わるのか?-」講演レジュメを読む(守ろう9条 紀の川 市民の会 第14回総会)」
 
2017年11月3日(金・祝) 第14回 憲法フェスタ
本 秀紀氏(名古屋大学大学院教授)
安倍政権の9条破壊を許さない~海外で戦争する『自衛隊』は認められない~
講演録① 会紙「九条の会・わかやま」336号
講演録② 会紙「九条の会・わかやま」337号
講演録③ 会紙「九条の会・わかやま」338号
金原ブログ「2日連続 名古屋大学大学院教授(本秀紀氏&愛敬浩二氏)から学ぶ憲法をめぐる動向」
 
2017年4月1日(土) 第13回 総会
植松健一氏(立命館大学教授)
安倍首相はなぜ憲法(constitution)を変えたいのか
講演録① 会紙「九条の会・わかやま」321号
講演録②  会紙「九条の会・わかやま」322号
講演録③ 会紙「九条の会・わかやま」323号
金原ブログ「植松健一氏(立命館大学教授)「安倍首相はなぜ憲法(constitution)を変えたいのか」講演レジュメを読む(守ろう9条 紀の川 市民の会 第13回総会)」
 
2016年4月2日(土) 第12回 総会
石埼 学氏(龍谷大学法科大学院教授)
戦争法は廃止、憲法9条が輝く日本を取り戻そう~今、私たちにできること~
講演録① 会紙「九条の会・わかやま」296号
講演録②  会紙「九条の会・わかやま」297号
講演録③ 会紙「九条の会・わかやま」298号
金原ブログ①「石埼学龍谷大学法科大学院教授の講演をレジュメから振り返る~4/2「守ろう9条 紀の川 市民の会」第12回総会から」
金原ブログ②「石埼学龍谷大学法科大学院教授の【設問】に答える~「安保法制」講師養成講座2」
 
2015年11月3日(火・祝) 第12回 憲法フェスタ
高作正博氏(関西大学教授)
「戦争法制」で日本はどんな国になるのか~私たちはどう対抗すべきか~
講演録① 会紙「九条の会・わかやま」285号
講演録②  会紙「九条の会・わかやま」286号
講演録③ 会紙「九条の会・わかやま」287号
講演録④ 会紙「九条の会・わかやま」288号
金原ブログ「「第12回 憲法フェスタ」(11/3 守ろう9条 紀の川 市民の会)レポートと11月中の和歌山での取組予定のお知らせ」
 
2014年11月8日(土) 第11回 憲法フェスタ
清水雅彦氏(日本体育大学教授)
ちょっと待った!集団的自衛権~日本を戦争する国にさせない~
講演録① 会紙「九条の会・わかやま」260号
講演録②  会紙「九条の会・わかやま」261号
講演録③ 会紙「九条の会・わかやま」262号
金原ブログ「『脱走兵』が日本の現実とならないように~11/8守ろう9条紀の川市民の会「第11回 憲法フェスタ」」
 
2014年3月30日(日) 第10回 総会
森英樹氏(名古屋大学名誉教授)
「国家安全保障基本法」は戦争体制を作りあげるもの
講演録① 会紙「九条の会・わかやま」243号
講演録②  会紙「九条の会・わかやま」244号
講演録③ 会紙「九条の会・わかやま」245号
金原ブログ「森英樹氏講演会を開催しました(守ろう9条 紀の川 市民の会・第10回総会)」
 
2012年11月3日(土・祝) 第9回 憲法フェスタ
吉田栄司氏(関西大学教授)
改憲派憲法を変えて日本をどんな国にしようとしているのか
講演録① 会紙「九条の会・わかやま」205号
講演録②  会紙「九条の会・わかやま」206号
講演録③ 会紙「九条の会・わかやま」207号

枝野幸男立憲民主党代表の安倍内閣不信任決議案趣旨説明(2018年7月20日)を会議録で読む:第7回(完)~官僚システムの崩壊

 2018年8月22日配信(予定)のメルマガ金原No.3247を転載します。
 
枝野幸男立憲民主党代表の安倍内閣不信任決議案趣旨説明(2018年7月20日)を会議録で読む:第7回(完)~官僚システムの崩壊
 
2018年8月11日
枝野幸男立憲民主党代表の安倍内閣不信任決議案趣旨説明(2018年7月20日)を会議録で読む:予告編~なぜ会議録が重要なのか
2018年8月12日
枝野幸男立憲民主党代表の安倍内閣不信任決議案趣旨説明(2018年7月20日)を会議録で読む:第1回~高度プロフェッショナル制度の強行
2018年8月13日
枝野幸男立憲民主党代表の安倍内閣不信任決議案趣旨説明(2018年7月20日)を会議録で読む:第2回~カジノ強行と「保守」の僭称
2018年8月14日
枝野幸男立憲民主党代表の安倍内閣不信任決議案趣旨説明(2018年7月20日)を会議録で読む:第3回~アベノミクスは限界を露呈した
2018年8月17日
枝野幸男立憲民主党代表の安倍内閣不信任決議案趣旨説明(2018年7月20日)を会議録で読む:第4回~モリカケ問題が招くモラルの崩壊
2018年8月18日
枝野幸男立憲民主党代表の安倍内閣不信任決議案趣旨説明(2018年7月20日)を会議録で読む:第5回~民主主義を履き違えている
2018年8月20日
枝野幸男立憲民主党代表の安倍内閣不信任決議案趣旨説明(2018年7月20日)を会議録で読む:第6回~行き詰まる外交と混乱する安全保障政策
 
 去る7月20日、衆議院本会議(第196回国会)で行われた枝野幸男立憲民主党代表による2時間43分に及ぶ演説(内閣不信任決議案趣旨説明)のご紹介も、いよいよ今回の第7回で最終回となりました。
 最後のテーマは「官僚システムの崩壊」です。
 枝野代表も指摘されているとおり、学校法人森友学園への国有地売却に関する決裁文書の組織的改ざんを指示した元理財局長の佐川宣寿国税庁長官が3カ月の停職処分相当で済まされたことに象徴される、安倍内閣と官僚組織との、あってはならない、規(のり)を超えた不祥事の数々は、まさに「官僚システムの崩壊」と言うしかない状況に立ち至っていると、多くの国民は感じているはずです。
 和歌山でもそうでしたが、文部科学省事務次官経験者である前川喜平さんの講演会に、全国各地で、主催者の予想を遙かに超えた多くの聴衆が詰めかけたという事象は、そのような国民の官僚組織に対する厳しい視線の裏返し、すなわち「前川さんのような高級官僚は他にいないのか!?」という悲鳴にも似た意識の表れであろうと思います。
 
 枝野幸男氏の2時間43分に及ぶ演説の文字起こしを最後まで読み切っていただいた方は、どのように感じられたでしょうか。安倍内閣が不信任に値する事情を、主として第196回国会(常会)召集後の事実の中から7項目に整理して論じたものです。
 「自分なら、こういうテーマも指摘する」ということもあったかもしれません。他方、「枝野氏の主張は言いがかりに過ぎない」という意見の人もいるでしょう(そういう人は私のブログなど読まないでしょうけど)。
 実は、会議録の続きを読めば、枝野氏に続き、以下の7人の方が、内閣不信任決議案に対する反対討論及び賛成討論を行っています。
 
反対討論 金田勝年氏(自由民主党) 13分
賛成討論 山内康一氏(立憲民主党・市民クラブ) 15分
反対討論 伊藤渉氏(公明党) 13分
賛成討論 玉木雄一郎氏(国民民主党・無所属クラブ) 16分
反対討論 浦野靖人氏(日本維新の会) 6分
賛成討論 岡田克也氏(無所属の会) 9分
賛成討論 志位和夫氏(日本共産党) 10分
 
 以上のとおり、自民党公明党の与党に加え、日本維新の会内閣不信任決議案に反対しました。その理由について、浦野議員がどう語っているかを引用しておきましょう。
 
「政治はゼロか一〇〇ではありません。今の与野党を比較すれば、どちらに内閣を預けることがよいのかと問われれば、安倍内閣。したがって、野党提出の内閣不信任決議案には賛成できないということです。」
 
 まあ、ここまで正直に、日本維新の会を代表してその立場を表明されているのですから、日本維新の会をかりそめにも「野党」などと称しては申し訳ないでしょう。
 ・・・というようなことも、国会の会議録を読むと分かってきます。
 枝野代表による2時間43分の演説を読み通すという今回の企画を機に、衆参両院のインターネット審議中継や会議録に親しみ、国民の代表が一体どんな議論をしているのか、自ら知ろうと努力する習慣を身につけていただければ幸いです。
 
 なお、いつものように、「予告編」でご紹介した、会議録、インターネット審議中継(動画)、演説をそのまま刊行した単行本、IWJ動画(岩上安身氏による枝野代表インタビュー)を、冒頭でご紹介しておきます。
 
【会議録】
第196回国会 衆議院 本会議 第45号(平成30年7月20日(金曜日))
 
【動画】
衆議院インターネット審議中継⇒2018年7月20日⇒本会議
※発言者一覧から、「枝野幸男(立憲民主党・市民クラブ)」(開始時刻13時04分/所要時間2時間43分)を選択してください。
 
【単行本】
緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説「安倍政権が不信任に足る7つの理由」
解説 上西充子、田中信一郎
2018年8月9日 扶桑社刊
 
【インタビュー動画】
「憲政史上最悪の国会」にした、安倍政権「7つの大罪」を斬る!岩上安身による立憲民主党代表・枝野幸男衆議院議員インタビュー 2018.8.6
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(備考)衆議院の正式な用語に従えば、本稿のタイトルは「枝野幸男立憲民主党代表による安倍内閣不信任決議案趣旨説明」ではなく、「趣旨弁明」となるのですが(冒頭の大島議長の発言など参照)、一般の用法との乖離がはなはだしく、誤解を招きかねないと判断し、「趣旨説明」と言い換えています。
 

枝野幸男立憲民主党代表による安倍内閣不信任決議案趣旨説明:第7回(完)~官僚システムの崩壊
 
第6回から続く
 
 七つ目の問題点を申し上げます。それは、官僚システムの崩壊です。
 日本は、政治は二流とか三流とかやゆされても、官僚システムが一流だからしっかりしているんだということが言われていた時期がありましたが、安倍内閣はこの官僚システムを破壊しています。
 森友、加計問題や、自衛隊日報の改ざんや隠蔽の問題、厚生労働省の働き方データの捏造問題など、既に述べてきた官僚の皆さんの不祥事は言うに及びませんが、こういうところで使う言葉ではありませんが、本当に省庁横断的に、さまざまな役所で考えられないような不祥事が相次いでおります。
 福田財務事務次官は女性記者にセクハラ発言をしたと報道され、音声も公表されました。しかし、次官はセクハラを認めないまま辞任をされました。財務省の対応も、被害者に二次被害を生じさせかねない不適切なものでありました。セクハラということでは、厚生労働省局長による、厚生労働省女性職員に対する、セクハラと疑われるようなメールを複数回送付していた問題もありました。
 厚生労働省という点では、私はこれが深刻な問題だと思っていますが、東京労働局長が記者会見の場で取材記者に対し、皆さんの会社に行って是正勧告をしてもいいんだけどと発言し、十二日後に、局長職は更迭されましたが、軽い処分で済んでいます。報道機関の皆さんの労働条件というものの実態も、しっかりと各種労働法制を守ってやっていただきたい。厳しい状況であることも知らないわけではありませんが、公権力が恣意的な運用を公言したんです。考えられない不祥事です。
 労働行政において是正勧告をするというのは相当強い公権力の行使ではありませんか。税務署が、例えば財務省の言うことを聞かなければ税務調査に入るぞと公言したらどうなりますか。警察が、言うことを聞かないんだったら逮捕するぞと言ったら、犯罪を犯してもいないのに、家宅捜査に入るぞと言ったらどうなりますか。これに匹敵するような公権力の行使を恣意的に使うぞということを記者に向かって公言をする。私は、公務員失格であり、やめていただかなければならない、それぐらいに匹敵する処分をすべきである問題だったと思います。
 外務省では、先ほど申しましたが、公表されているのは、国家公務員として信用を損なう行為があったということで停職九カ月の処分がなされた職員がいらっしゃいます。セクハラ疑惑は報道されていますが、詳細は未公表のままです。
 セクハラについては二次被害の防止というのが大変重要であり、被害者保護の見地から詳細を公表できない場合があることは私は理解をいたします。とはいいながら、公文書を組織的とも言えるような形で改ざんした佐川前理財局長が停職三カ月です。その三倍の停職九カ月です。よっぽどひどいセクハラをしたんでしょうね。セクハラじゃないなら、よっぽどひどい信用を損なう行為について、一定の説明があってしかるべきではないですか。
 会期末になって、文部科学省の局長が裏口入学という受託収賄容疑で逮捕をされました。森友、加計問題も学校にまつわる問題です。学校用地を裏口で安く取得しようとした問題であり、設置認可を裏口で受けようとした疑惑でありますので、魚は頭から腐るという言葉もあるように、総理を見習って裏口入学をしようとしたのかなと疑わざるを得ません。
 あまたいる国家公務員の中に、残念ながら不祥事を犯す者がいるからといって、内閣の政治責任を問うものではありません。確かに、たくさんいる国家公務員の中にある不祥事に対して一々政治責任をとろうとしていたら、どの内閣も一週間もたないかもしれません。
 今回はそういう問題ではありません。安倍内閣発足から五年半、内閣人事局制度を悪用し、官僚人事を専断し、官の世界にも安倍一強体制を築いてきた中での相次ぐ不祥事であります。
 そもそも、モリカケ自衛隊の改ざん、隠蔽は、幹部公務員の組織的とも言える大規模な不祥事です。そして、今申し上げた一例を並べるだけでも、末端の公務員の中に不届きな人間がいたという案件ではありません。内閣人事局制度に基づく一元管理下のもとに置かれるような幹部の人たちだけでも、これだけの相次ぐ問題を生じさせているのであります。
 まさに、魚は頭から腐るという話の中で、官僚システムが崩壊をしているのではないか。こうした状況を一日も、とめなければならない。官僚の皆さんが、官邸をそんたくするのではなくて、国民の皆さんの思いをそんたくする、それが本来の公務員の皆さんの仕事、役割であり、官邸や与党をそんたくせざるを得ないような今の政治状況を変える。その中で、官僚の皆さんが入省時に思ったであろう、国家国民のために働きたいという本来の思いを実現できるような官僚システムを実現するために、一刻も早く安倍内閣には退陣していただきたいと思っています。
 以上、七項目挙げました。まだまだ、不信任の理由は数え切れないほどあります。
 いずれにしても、この国会は、民主主義と立憲主義の見地から……(発言する者あり)大丈夫です。さすがに、売り言葉に買い言葉はやりませんので。この国会は、民主主義と立憲主義の見地から、憲政史上最悪の国会になってしまったと言わざるを得ません。
 それでも、災害対応の見地から、不信任の提出にはためらいがあったことを冒頭に申し上げましたが、災害よりもギャンブル解禁、災害よりも党利党略の定数六増を優先する内閣を信任して災害対応させるよりも、そして、うそとごまかしと開き直りを重ねる内閣を信任して災害対応をさせるよりも、よりましな内閣のもとで再出発して災害対応に当たる方が適切であると考えます。
 民主主義の本質を理解しない皆さんには何とかに念仏かもしれませんが、最後に申し上げたいと思います。
 今のような姿勢で政権運営を続けることは、もし政治が与党対野党の戦いというものであるならば、目先の野党との戦いという意味では成功してきたし、これからも一定期間は成功するかもしれません。そして、政治に権力闘争という側面があり、与党が野党との戦いに勝とうとする、そういう思いを持つことは否定しません。
 私も、権力闘争という側面が政治にあることは否定しないし、そうした側面から、与党に勝つために全力を挙げてまいりましたし、更に全力を挙げてまいりたいと考えています。
 しかし、それは一側面でしかありません。
 政治の本質は、与党と野党の戦いではありません。それは、目的ではなく、あくまでも手段であります。権力闘争に勝つという目的のために、社会のモラルや秩序を壊してしまう。本来、民主主義の前提としてなされなければならない、国会でうそをつかない、国会には正しい文書を出す、情報を隠し、ごまかしはしない、こうしたことを壊してしまったのでは、国民生活の、より豊かな暮らし、生活をつくり上げていくという本来の目的に反することになってしまいます。
 これ以上、目先の権力闘争ばかりを重視して、国民生活の将来に禍根を残し、うそやごまかしや開き直りを蔓延させてモラルハザードを生じさせれば、必ずや歴史に断罪されると私は確信をしています。
 第二次世界大戦、日中、日米戦争に至る経緯の中でも、目先の権力闘争には勝ったけれども、結果的に我が国を破滅的な状況に追い込んだ政治リーダーが、残念ながら少なからずいらっしゃいました。このまま安倍政権の横暴を許していけば、残念ながらそういった道へ入り込んでしまい、後戻りができなくなってしまうのではないかということを強く危惧をいたしています。
 安倍総理も、せっかく五年半も総理をやられたんですから、後の歴史に断罪されるようなことがないように、一刻も早く身を引かれることをお勧め申し上げます。
 良識ある議員の皆さんが、次の内閣改造で大臣になれるか、副大臣になれるか、政務官になれるか、次の選挙で公認されるかとか、そういうことを頭から取っ払って、みずからの信念と歴史への謙虚な姿勢、その歴史というのは未来の歴史に対する謙虚な姿勢であり、保守を称するならば、我が国の過去の失敗の歴史も含めた我が国の長い歴史に謙虚に向かい合い、この内閣不信任決議案に賛同されることをお願い申し上げ、提案理由の説明とさせていただきます。
 ありがとうございました。(拍手)
 
(完)

日弁連から法務大臣宛「記録的な猛暑に対応し、速やかに効果的な熱中症対策を進めることを求める(要望)」(2018年8月9日)を読む

 2018年8月21日配信(予定)のメルマガ金原No.3246を転載します。
 
日弁連から法務大臣宛「記録的な猛暑に対応し、速やかに効果的な熱中症対策を進めることを求める(要望)」(2018年8月9日)を読む
 
 ようやく朝夕は、秋の気配を感じるようになりましたが、7月から8月上旬にかけての酷暑は、全国的にただならぬ状況であり、7月23日には気象庁が異例の記者会見を開き、同庁気候情報課の竹川元章予報官が「経験したことがないほどの暑さになっている地域がある。命に危険を及ぼすレベルで、災害と認識している」(同日付毎日新聞WEB版より)と述べるほどの事態となりました。
 
 このような暑さの中、大半の国民は、エアコンが無ければとても生活できないというい実感を持たれたことと思いますが、心ならずも、強制的に、あるいは半ば強制的に、エアコンのない生活を余儀なくされている多くの人々がいます。
 その一つが、小学校・中学校に通う生徒たちで、10年ほど前までは、学校にエアコンがないのが当たり前という状況でした。文部科学省のデータ(公立小中学校の空調(冷房)設備設置状況の推移(平成10年度~平成29年度))によると、平成22年10月時点での全国の公立小中学校の教室への空調設置率は18.9%に過ぎませんでした。それが、6年半後の平成29年4月には、41.7%にまで達したのですから、行政としてもそれなりの努力を払っていることが見てとれます。
 
 私の住む和歌山市の公立小中学校は、エアコン設置率が100%に達しましたが、県下市町村における普及率には相当の格差があり、7月末には、和歌山県教育委員会が、「県内30市町村の教育委員会を通じて、国の交付金を活用した公立小・中学校へのエアコンの導入を呼びかけていて、再来年度(2020年度)までに、すべての学校での整備を目指す」(和歌山放送ニュースより)と報じられています。
 ちなみに、小中学校への空調設備設置費用の1/3は国からの交付金でまかなえるようです。
 
 以上のような、小中学校における状況とは異なり、実際に熱中症による犠牲者を出しながら、遅々としてエアコンの設置が進まない施設があるのをご存知でしょうか。それが、刑務所、拘置所、少年院、少年鑑別所などの刑事(矯正)施設です。
 これらの施設に収容される受刑者、被疑者、少年等は、法律の規定によって移動の自由を制限された身であり(自分の意思で施設外はもとより、居室外にも出られない)、酷暑を避けるために、より涼しいところに移動する自由を剥奪されているという特殊性を考慮すれば、これほどの酷暑が続く中、小中学校並みのペースでエアコン設置が進むべきであると思いますが、これがとてもそのような状況ではありません。
 これらの刑事施設、矯正施設におけるエアコン設置率についてのデータは法務省で作っているはずですが、簡単なネット検索では見つけられませんでした。
 
 けれども、私自身の経験から言うと、和歌山県内の刑務所、拘置所、少年鑑別所などにおいて、エアコン設置が進んでいるとはとても言えないと思います。
 とりわけ、3年前の7月末に熱中症と見られる症状で3人の収容者が搬送され、その内、労役場留置中の男性が死亡した拘置所(丸の内拘置支所)では、翌年、4人収容の共同室用にエアコン3台が設置されたと報じられましたが、とても全室設置とはいきませんでした。
 拘置所に隣接する和歌山少年鑑別所でも、エアコンの設置は一部の部屋にとどまっています(ただし、扇風機は全室に設置)。
 これに対し、警察署の代用監獄(留置場)については、近年耐震化の必要もあり、県下の警察署の大半が建て替えられたため、ほぼ冷暖房完備となっています。
 このため、7月ころに起訴された被告人の多くは(起訴までは警察署に収容されているのが普通)、「拘置所に移監されたくない」と願うのですが、なかなかそうもいかず、順次、エアコンのない拘置所に移されていくことになります。
 ちなみに、和歌山の拘置所の弁護士接見室には、アクリル板の弁護士側に扇風機が取り付けられていますが、エアコンはありません。
 
 上述のように、和歌山の拘置所では3年前に死者が出ましたが、今年も名古屋刑務所で犠牲者が出ています。
 このような事態をうけ、日本弁護士連合会は、8月9日に、上川陽子法務大臣に対し、「記録的な猛暑に対応し、速やかに効果的な熱中症対策を進めることを求める(要望)」を提出しました。
 日弁連が要望書を出したからといって、すぐにエアコン設置のための予算がつくというものではありませんが、10年ほど前までは停滞していた小中学校におけるエアコン設置が急速に進むようになったのは、世論による後押しが国や地方自治体を動かしたという側面があるはずであり、刑事施設、矯正施設におけるエアコン設置についても、「設置されるのが当然」という世論の後押しが是非とも必要だと思います。
 その意味からも、この日弁連要望書を是非多くの方にお読みいただきたく、本ブログでご紹介することとしました。
 
(引用開始)
                                                                   日弁連総第23号
                                                  2018年(平成30年)8月9日
 
法務大臣  上 川 陽 子  殿
 
                             日本弁護士連合会
                               会長  菊 地 裕太郎
 
      記録的な猛暑に対応し,速やかに効果的な熱中症対策を
             進めることを求める(要望)
 
1 要望の趣旨
 当連合会は,法務省に対し,エアコン等の空調設備が設置されていない刑事施設において被収容者が,熱中症により死亡したり入院したりすることのないように,速やかに次の対策をとることを求める。
(1) 過去の記録を塗り替えるような酷暑への対応として,空調設備の設置を早急に行うこと
(2) 空調設備が導入されるまでの間,共同室だけでなく,単独室にも扇風機等の設置を進めること
(3) 被収容者に対して,作業場だけでなく,屋外,共同室及び単独室において十分な水分や塩分だけでなくスポーツ飲料等を含め,気温や湿度の変化などに応じて,昼夜を問わず適宜給与すること
(4) 空調設備の設置を直ちに行うことが困難である場合には,空調設備の設置を含む施設更新を計画的に進めること
(5) 上記のほか,これまでの対策を更に進展させ,より抜本的な熱中症対策,施設内環境整備を行うこと
 
2 要望の理由
(1) 記録的な酷暑
 記録的な猛暑が続いている。気象庁は,本年7月23日にこの猛暑について,異例の緊急記者会見を行い,「命の危険がある暑さ。災害と認識している」との見解を表明した。もはや,この猛暑は,地震や風水害並みの「災害」であり,過去に例をみないものである。
しかもこの猛暑は,地球温暖化に伴う異常気象の一部と言われており,今年以降も継続することが予想されている。
 こうした猛暑の中,熱中症による痛ましい死亡事故の報道が相次いでいる。
 愛知県豊田市の小学校では,7月17日に校外行事から帰ってきた小学校1年生の児童が熱中症で死亡するなどの被害があった(7月17日毎日新聞)。全国で,7月19日には一日で10名,7月21日には一日で11名の死亡が確認されている(7月19日・21日共同通信)。死亡者の多くが,室内で死亡していることが大きな特徴である。
 そして,刑事施設における熱中症による事故が報じられた。すなわち,7月19日に京都拘置所において2名の男性被収容者が搬送され(7月19日共同通信),7月24日に名古屋刑務所において男性受刑者が熱中症のため死亡した(7月25日中日新聞)。京都拘置所及び名古屋刑務所の各居室には空調設備は設置されていなかった。
(2) 監獄法改正時の日弁連の意見
 当連合会は,2006年3月16日「未決拘禁法案(刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の一部を改正する法律案)についての日弁連の意見」18頁において,当時の刑事施設の冷暖房設備の状況を指摘し,「居室の室温が適当な水準に保たれるよう,気候に応じた冷暖房などの適切な措置がとられるべきであり,このことを法律上も明確に保障するべきである。」との意見を述べた。
 さらに,当連合会は,2010年11月17日,「刑事被収容者処遇法『5年後見直し』に向けての改革提言」7頁の中でも,冷暖房設備の充実の提言を行っている。
(3) 刑事施設における空調設備の設置状況
 しかし,刑事施設においてエアコン等の空調設備の設置は目に見えるような進展がない状況にある。刑事施設のうち,警察の留置施設については冷暖房がほぼ設備されている一方,東京拘置所,横浜刑務所横須賀刑務支所,PFI施設などを除き,空調設備を設置していない刑事施設が圧倒的に多い。さらに,老朽化している刑事施設の中には,断熱設備すらも不十分であり,昼間に暖められた建物の輻射熱のため夜もずっと暑さが続き,安眠することができない施設も多い。
 夏の間は通路や共同室に扇風機を置いたり,単独室内ではうちわを貸与したりするなどの対策がとられているが,今年の記録的な酷暑ではこのような対策で十分な効果が上がっているかは疑問である。
(4) 最近の刑事施設における熱中症の発生状況等
 刑事施設における熱中症の発生は,本年が初めてではない。2010年7月17日,大阪刑務所において,保護室に収容中であった60代の男性受刑者が死亡した。この被収容者は水分をとっていなかったとされる。
 2015年7月31日には,和歌山市の大阪刑務所丸の内拘置支所で,男性被収容者2人が熱中症とみられる症状で病院に搬送され,40代の男性が死亡し,50代の男性が意識不明となった。続く8月1日にも,同拘置支所で,20代の被収容者が熱中症の症状で意識不明の重体となり市内の病院に搬送されたと報じられた。
 2017年8月8日には,高松刑務所で,50代の男性受刑者が倒れて意識不明となり,病院で死亡した。この男性には外傷はなく,熱中症の疑いがあるとみて死因を調べていると報じられた。
 2015年の和歌山での死亡事件を受けて,法務省は全国の矯正施設に対し,高齢者や病気の収容者が気温の高い居室や作業場に居ることがないよう配慮したり,体調不良を訴えたときはすぐに受診させたりするよう通知を出したとされる。今年の猛暑に当たっても,相当な対策を立てられているものと推察するが,先の京都拘置所及び名古屋刑務所における事故が発生したのである。
 これらの施設内の熱中症の多くは,室内で起きていることが特徴である。室内の温度が高すぎることが熱中症発症の原因であり,炎天下を避ければ熱中症が防げるというレベルを超えた酷暑となっていることが分かる。
(5) 当連合会の意見
 過去の記録を塗り替えるような酷暑が続く中,今や,刑事施設における酷暑状態は,生命に関わる事態であって,これまでの対策では十分ではないことが明らかである。被収容者の生命,健康を保持する責任を有する国としては,抜本的な対策をとることが責務であると考える。とりわけ,刑事施設への被収容者は,行動の自由が制限されているので,自ら熱中症を回避するための自己防御策を講ずることはできない。刑事施設はコンクリート造で蓄熱しやすく,居室も通風が確保されていないという構造上の特徴があることに留意すべきである。
 一部の施設では冷房が使用されているにもかかわらず,冷房が使用されていない又はエアコン等の空調設備が設置されていないところは灼熱の居室となっている。どの施設のどの居室に収容されるかが被収容者の生命にも関わるという状況は法の下の平等の観点から疑問である。
 現在の猛暑の進展,被収容者の生命,健康に対する国の責任を踏まえると,国は,早急に刑事施設にエアコン等の空調設備を設置すべきである。仮に,予算の都合上,直ちに実施することが困難であると認められる場合には,空調設備の整備を含む施設整備を計画的に進めることを求める。
 また,共同室や廊下だけでなく,単独室にも扇風機の設置を進めることが必要である。エアコン等の空調設備の導入が今すぐに困難であっても,より安価に涼をとることのできる「冷風扇」のような機器の有効性も試験してみるべきである。
 さらに,被収容者に対してやかんに水を入れて給与するだけでは不十分であり,スポーツ飲料あるいは塩分を,屋外,屋内また昼夜を問わず,暑さ指数(WBGT数値)を参考にするなど適宜に,十分な量を給与することが必要である。
 次の犠牲者を出さないために,緊急に可能なあらゆる対策を講じて欲しい。
 上記のほか,これまでの対策を更に進展させ,より抜本的な熱中症対策,施設内環境整備を行うことも必要である。
 以上のとおり,当連合会は,要望の趣旨のとおり,速やかに熱中症対策をとることを求める。
                                                                             以上
(引用終わり)
 
(参考資料/日弁連の意見)
2006年3月16日
未決拘禁法案(刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の一部を改正する法律案)についての日弁連の意見
2010年11月17日
刑事被収容者処遇法「5年後見直し」に向けての改革提言

枝野幸男立憲民主党代表の安倍内閣不信任決議案趣旨説明(2018年7月20日)を会議録で読む:第6回~行き詰まる外交と混乱する安全保障政策

 2018年8月20日配信(予定)のメルマガ金原No.3245を転載します。
 
枝野幸男立憲民主党代表の安倍内閣不信任決議案趣旨説明(2018年7月20日)を会議録で読む:第6回~行き詰まる外交と混乱する安全保障政策
 
2018年8月11日
枝野幸男立憲民主党代表の安倍内閣不信任決議案趣旨説明(2018年7月20日)を会議録で読む:予告編~なぜ会議録が重要なのか
2018年8月12日
枝野幸男立憲民主党代表の安倍内閣不信任決議案趣旨説明(2018年7月20日)を会議録で読む:第1回~高度プロフェッショナル制度の強行
2018年8月13日
枝野幸男立憲民主党代表の安倍内閣不信任決議案趣旨説明(2018年7月20日)を会議録で読む:第2回~カジノ強行と「保守」の僭称
2018年8月14日
枝野幸男立憲民主党代表の安倍内閣不信任決議案趣旨説明(2018年7月20日)を会議録で読む:第3回~アベノミクスは限界を露呈した
2018年8月17日
枝野幸男立憲民主党代表の安倍内閣不信任決議案趣旨説明(2018年7月20日)を会議録で読む:第4回~モリカケ問題が招くモラルの崩壊
2018年8月18日
枝野幸男立憲民主党代表の安倍内閣不信任決議案趣旨説明(2018年7月20日)を会議録で読む:第5回~民主主義を履き違えている
 
 去る7月20日、衆議院本会議(第196回国会)で行われた枝野幸男立憲民主党代表による2時間43分に及ぶ演説(内閣不信任決議案趣旨説明)のご紹介も今日を含めてあと2回となりました。
 この連載を始めるにあたり、何回の連載になるのか、やってみないと分からない、と書きましたが、無事、枝野代表自身が、「大きく七つ、安倍内閣の不信任に値すべき事項についてお話をさせていただきたいと思います。」と宣言した章立てに基づいて、7回で完結できそうです。
 このブログにお付き合いいただき、今日までこの演説を読み進めてくださった方がどれほどおられるのか、やや心許ないところではありますが、この連載の試みも、「国会可視化」の一助になればという思いでやっていることをご理解いただければ幸いです(ご参照・国会パブリックビューイング第1回シンポジウム「『国会を、取り戻す。』-国会可視化が政治を変える-」(2018年8月3日)を視聴する/2018年8月5日)。
 
 さて、第6回のテーマは「行き詰まる外交と混乱する安全保障政策」です。内容について、特にコメントすることもないのですが、「シビリアンコントロールは背広組が制服組をコントロールすることだと大きな間違いをしていらっしゃる方がたくさんいらっしゃいます。違います。シビリアンコントロールは、むしろ、本当に正しい意味で日本語に近い日本語にするならば、民主的統制であります。」と指摘された点が、今回の「枝野学校」のハイライトだったでしょうか。
 
 次回はいよいよ最終回です。ご期待ください。
 
 なお、いつものように、「予告編」でご紹介した、会議録、インターネット審議中継(動画)、演説をそのまま刊行した単行本、IWJ動画(岩上安身氏による枝野代表インタビュー)を、冒頭でご紹介しておきます。
 
【会議録】
第196回国会 衆議院 本会議 第45号(平成30年7月20日(金曜日))
 
【動画】
衆議院インターネット審議中継⇒2018年7月20日⇒本会議
※発言者一覧から、「枝野幸男(立憲民主党・市民クラブ)」(開始時刻13時04分/所要時間2時間43分)を選択してください。
 
【単行本】
緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説「安倍政権が不信任に足る7つの理由」
解説 上西充子、田中信一郎
2018年8月9日 扶桑社刊
 
【インタビュー動画】
「憲政史上最悪の国会」にした、安倍政権「7つの大罪」を斬る!岩上安身による立憲民主党代表・枝野幸男衆議院議員インタビュー 2018.8.6
ハイライト動画(5分26秒)
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(備考)衆議院の正式な用語に従えば、本稿のタイトルは「枝野幸男立憲民主党代表による安倍内閣不信任決議案趣旨説明」ではなく、「趣旨弁明」となるのですが(冒頭の大島議長の発言など参照)、一般の用法との乖離がはなはだしく、誤解を招きかねないと判断し、「趣旨説明」と言い換えています。
 

枝野幸男立憲民主党代表による安倍内閣不信任決議案趣旨説明:第6回~行き詰まる外交と混乱する安全保障政策
 
第5回から続く
 
 大きな六番目の不信任の理由として、行き詰まる外交と混乱する安全保障政策について申し上げたいと思います。
 安倍総理は、日ロ関係に力を注ぎ、プーチン大統領と何度も会談を重ねて友好関係を強調してこられました。下関での首脳会談もありました。
 しかし、それ以降、共同経済活動で何か目立った活動はあったでしょうか。北方領土問題は前向きな進展があったでしょうか。
 繰り返しますが、安倍政権が発足して五年半になります。どうも、ロシアだけは日ロ関係の進展によっていろいろいいことはあるようですが、我が国にとって重要な北方領土問題の進展は全く見られず、行き詰まっていると指摘をせざるを得ません。
 朝鮮半島をめぐる問題は更に深刻であります。安倍総理や河野外務大臣は最大限の圧力のみを唱え続けました。北朝鮮との国交断絶を他国に求める発言まで河野外務大臣はなさいました。
 ところが、南北首脳会談、米朝首脳会談が実現をしました。もちろん、北朝鮮のこれまでの経緯を考えれば、このまま平和に向かって着実に進んでいくかどうかということは、私も一概に言える問題ではないというふうに思います。再び緊張する可能性も十分に高いと思っています。
 しかしながら、まさにここまでに至る経緯は、日本外交に主体的な姿勢は全く見られず、北朝鮮と、そしてトランプ大統領の動きに振り回されているとしか言えません。
 加えて、安倍総理がある意味で一丁目一番地で力を込めてこられた、私はこのことにこだわり続ける安倍総理の姿勢、最優先の課題として頑張ろうとする姿勢そのものは高く評価をしますが、その拉致問題について何か進展があったんでしょうか。五年半たっています。
 北朝鮮情勢が大きく変化をしている中、一基一千億円とも言われるイージス・アショアの配備、本当に続けていくのでありましょうか。
 防衛予算は六年連続の増大で、過去最大の五兆一千九百十一億円に上っています。その中には、安全性に疑問が更に高まっているオスプレイの配備も含まれています。
 米国の対外有償軍事援助、いわゆるFMS、これに基づく購入額がふえていますが、これは、圧倒的にアメリカ有利のいわゆる契約内容になっていると言われています。防衛装備の調達について、我が国の安全保障上の必要性よりも、アメリカが売りたいものを言い値で買っているという見られ方をしても仕方がない状況にあります。
 北朝鮮情勢が今大きく変動している中、完全に白紙撤回しろとまでは言いません、少なくとも、米朝の今後の進展を見ながら慎重に物事を進めていくぐらいのことはしてもいいんじゃないでしょうか。
 安全保障だけではなく、なし崩し的な日米FTAへの流れが加速していると危惧せざるを得ません。一方で、米国の復帰の見通しなきTPP11を強引に進めています。
 総理は、日米FTAについて念頭にないとおっしゃっています。当然のことだと思います。現状で二国間FTAを進めていけば、我が国にとっては到底のむことができない、我が国の一次産業なり、場合によっては第二次産業も含めて、我が国が受け入れがたい条件をアメリカにのまされかねない、そういう状況だというふうなことは理解をしています。
 したがって、念頭にないという考え方は支持するところでありますが、四月十八日の日米首脳会談では、日米二国間での新たな協議の創設で合意をさせられました。二国間FTAに向けた協議や米国産農産物の輸入拡大の圧力を受ける場へとなし崩し的に追い込まれつつあるという危惧は杞憂でありましょうか。
 他方で、TPP協定について、安倍総理は、米国抜きでは意味がないとおっしゃっておられました。
 米国復帰の見込みのないままTPP11を推進しているのは何なんでしょうか。TPP11協定では、セーフガード基準や輸入枠などについて、米国の参加を前提に設定されたオリジナルのTPPの水準について何ら調整することなく、そのまま維持されています。
 私どもは、そもそもTPPのオリジナルの水準についても交渉の敗北だと思っておりますが、そのオリジナルのTPPよりも更に深刻な影響を、米国の復帰がない中で国内農業がこうむることになる、これを放置して推進をしているという状況は、全く支離滅裂の状況にあります。
 外交、安全保障について更に危惧をしなければならないのは、シビリアンコントロールの空洞化であります。
 言うまでもなく、イラク南スーダンでの、ないとされていた日報を始めとして、これまで不存在とされていた自衛隊防衛省の文書が相次いで発見されていますが、その経緯や原因はいまだ明らかになっていません。組織的な隠蔽を言葉では否定しているものの、客観的な経緯からすれば、組織的な隠蔽がなければこんなことできない、そんなプロセスになっていますが、そうではないことについての合理的な説明は全くなされておりません。
 大臣や国会に適切な情報が提示をされなければ文民統制は成り立ちません。実は、財務省の改ざん以上に、まさに自衛隊という組織の文民統制にかかわる問題でありますので、深刻であるとも言えます。
 多くの皆さんが、いわゆる大本営発表が、第二次世界大戦に至るプロセスの中で、あるいは第二次世界大戦を通じて、結果的にいかに日本の国益を損なったのかということについては、これは立場を超えて共有していただけると思うんですが、まさに大本営発表という大きな過ちをした我が国は、こうしたことに陥らないようにしっかりとした情報の管理と公開を進めていかなければならない、そのことを通じて文民統制を機能させなければならないことは当然のことであります。
 そして、大本営発表という苦い教訓を、過去にしている中であるからこそ、自衛隊防衛省こそこうした問題に敏感でなければならないと思っています。
 加えて、現職の幹部自衛官が、現職参議院議員に向かって、おまえは国民の敵だとの暴言を吐きました。懲戒に至らない訓告処分であります。
 一般の国民の皆さんからいろいろな御批判を受けることについては、それは与野党を超えて、我々の役割、仕事として、それをしっかりと真摯に受けとめる姿勢が必要だと思いますが、現職の幹部自衛官がそのことを表明しながら、国会議員に対して国民の敵だとの暴言を吐いた、これは文民統制の観点から許されることではありません。
 意見が異なっておったとしても、自衛隊という実力組織の、まして幹部の方でありますから、国民の代表である国会議員に対して国民の敵とレッテル張りする姿勢は許されず、こんなことでは文民統制は成り立つはずがありません。
 文民統制に関連して言えば、沖縄県の米軍ヘリコプター不時着に関して、当時の松本文明内閣府副大臣は、それで何人死んだというやじを飛ばし、事実上の更迭をされました。先ほどの小野寺防衛大臣の赤坂自民亭問題への右往左往する言いわけ、稲田前防衛大臣が事実上の更迭に追い込まれたことなど、範をすべき政治がいいかげんな姿勢では、自衛隊という実力組織の統治が十分になし得ないのも必然であります。
 我が国では、シビリアンコントロール文民統制と訳してしまいました。その結果として、残念ながら、シビリアンコントロールは背広組が制服組をコントロールすることだと大きな間違いをしていらっしゃる方がたくさんいらっしゃいます。違います。シビリアンコントロールは、むしろ、本当に正しい意味で日本語に近い日本語にするならば、民主的統制であります。
 実力組織については、まずは内閣が、そして議院内閣制であるこの議会がしっかりとコントロールする、それこそが本来のシビリアンコントロールであります。
 その本質をわきまえているならば、国会議員に向かって現職幹部自衛官が国民の敵と暴言を浴びせることはあり得ないし、そんなことがあったら厳しい懲戒処分がなされるのは当たり前であるし、そして、国会などに対して日報等を隠し、ごまかすなどということがあったら、厳しい処分がなされ、全貌解明をしなければならない。シビリアンコントロールを全く理解していない体制の中で、これ以上自衛隊に対する指揮権を持たせるわけにはいかないというふうに考えます。
 そもそも、安倍総理は、この自衛隊に関して、こんな国会答弁をされました。自衛隊員たちに、君たちは、憲法違反かもしれないが、何かあれば命を張ってくれというのは余りにも無責任だという国会答弁であります。
 集団的自衛権の行使については議論があります。しかし、自衛隊の存在が憲法違反でないことは、既に明確であり、定着をしています。安倍総理は、憲法違反かもしれないと思いながら自衛隊を指揮していらっしゃるんですか。憲法違反かもしれないと思いながら予算を計上しているんですか。私も含め、自衛隊予算を含む予算に賛成したことのある者は、自衛隊は合憲であるとの前提に立たなければ論理矛盾になります。
 確かに、私が子供のころは、自衛隊憲法違反であるという意見も少なからず存在をしていたことを知っていますが、そして、ある時期までは、国会における野党第一党自衛隊違憲論に立っていたのも知っていますが、念のため申し上げますが、野党第一党である立憲民主党は、自衛隊は合憲であるという明確な立場に立っております。
 安倍総理の頭の中は……(発言する者あり)
 
〇議長(大島理森君) 御静粛に。
 
枝野幸男君(続) 安倍総理の頭の中は、二十年以上時間がとまっておられるんだと心配をせざるを得ません。
 
(第7回に続く)