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和歌山市民図書館が「ツタヤ図書館」に!?~市民の皆さん、嬉しいですか?

 2017年12月1日配信(予定)のメルマガ金原.No.3003を転載します。
 
和歌山市民図書館が「ツタヤ図書館」に!?~市民の皆さん、嬉しいですか?
 
 今朝の朝日新聞(和歌山版)を読まれて驚かれた和歌山市民がおられたかもしれませんね。デジタル版から引用しておきます。
 
朝日新聞デジタル 2017年12月1日16時18分
和歌山市駅に直結、「ツタヤ図書館」開館へ 最大規模
(抜粋引用開始)
 2019年秋に南海和歌山市駅直結のビル内にオープンする新しい和歌山市民図書館の指定管理者の候補者が、レンタル大手「TSUTAYA」を運営する「カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)」に決まった。市教委が30日発表した。カフェなども入居させ、子どもから大人まで幅広い世代が楽しめる場所として、年間利用者の目標に現在の約5倍にあたる約100万人を掲げている。
 CCCと「図書館流通センター」の2社から応募があり、識者らでつくる選定委員会から高評価を得たCCCが選ばれた。
(略)
 市教委によるとCCCの提案では、1階にはスターバックスコーヒーや書籍・文具、和歌山の特産品などの販売スペースが入る。2階は暮らしに関する蔵書を「カフェごはん」「文学を旅する」など独自の分類で配置。3階は、哲学から文学まで従来の日本十進分類法で並べる。移民に関する本や絵を集めた「移民資料室」も維持し、パソコンが使える学習室も設ける。子ども向けの4階には、絵本や児童書を置くほか、遊具で遊べるスペースをつくる。屋上には、芝生やテラス席も設けるという。
 開館は、午前9時から午後9時までで年中無休。指定管理料は年3億3375万円。選書は、市教委でチェックする仕組みを作るという。CCCが指定管理者になる図書館は、佐賀県武雄市や神奈川県海老名市などに開館しており、今回が最大規模となる見込み。
(引用終わり)
 
 普通、カギ括弧付きで「ツタヤ図書館」と書かれている場合、決して好ましいイメージを持たれてはいない、ということが分かる人には、これ以上説明する必要もないのですが、そうでない方には、私が今年の8月12日に書いたブログ「新しい和歌山市民図書館(2019年10月開館予定)に指定管理者制度が導入される」でリンクした「ツタヤ図書館」関連情報をご参照ください、とお願いしておきます。
 そこでは、世間を騒がせた「神奈川県海老名市立図書館/分類問題」、「佐賀県武雄市立図書館/選書問題」、「山口県周南市立図書館/ダミー本問題」を取り上げた記事3本にリンクしてあります。
 
 ところで、このニュースを伝えた他社の記事から、朝日には書かれていない情報(本当は朝日も書いて欲しかった)を補足しておきます。
 
産経WEST 2017.12.1 10:40
中核市で初、ツタヤ運営CCCが指定管理者候補者に 新和歌山市民図書館
(抜粋引用開始)
CCCは地方都市で図書館を運営しているが、中核市では初めて。子供が安心して使えるなど利用者のニーズを配慮した空間を同社は提示しており、市は「市駅前の再開発に伴う活性化につながる」として、開会中の市議会12月定例会で提案する方針。
(引用終わり)
 
 11月30日に発表されたのは「候補者」が決まったということであって、正式には、和歌山市議会(12月定例会)での承認が必要という情報は「must」でしょう。もっとも、市議会で提案が否決される可能性はゼロと見切っていたため、朝日の記者は書くのを忘れたのかもしれませんが。
 また、産経の記事でも、せっかく「中核市では初めて」と書いたのなら、現在運営中の「ツタヤ図書館」が何館あり、今後開館予定のところが何館あるのかも書かれていればベストだったのに、惜しいと思いました(CCCの広報に問い合わせればすぐ分かるはず)。
 ということで、他のメディアも探してみました。
 
テレビ和歌山ニュース 2017-12-01(金)12:00
図書館の指定管理者候補決定
(抜粋引用開始)
有識者らによる選定委員会の審査を経て指定管理者の候補に決まったのはレンタル大手のツタヤを運営し全国の4ヵ所の図書館で指定管理者を務める東京都のカルチュア・コンビニエンス・クラブです。
新しい図書館では、カフェコーナーを併設する他新刊や雑誌を充実するなどと提案しています。また、Tカードなどによる豊富な情報を図書館づくりや街づくりに生かしたいとしています。今後、議会の議決を経て正式に決定することになっています。
(引用終わり)
 
 これで、現在「ツタヤ図書館」は4館であることが「一応」分かりました。「一応」というのは、以下の論文を読んだことがあるからです。
 
尚絅大学研究紀要 人文・社会科学編 第48号:(13~25)(2016)
桑原芳哉「公立図書館における指定管理者制度導入の現状:昨年度からの変化と事業者に関する特徴」
(引用開始)
要旨
 本研究では,前回調査に引き続き,2015年時点における公立図書館における指定管理者制度導入の現状について明らかにし,全国的な傾向を示すとともに,特徴的な事例について分析することを目的とする。調査の結果,2015年11月現在,214自治体,528館において指定管理者により管理運営が行われていることが確認できる。2015年度は,図書館の管理運営に新たに指定管理者制度を導入する自治体の増加傾向が再び強まっており,佐賀県武雄市図書館の事例が,他の自治体において指定管理者制度の導入検討に影響を与えていることが推察される。NPO を指定管理者とする図書館は少数であるが,図書館経営に住民自治の考え方を反映させた事例として注目できる一方,経営安定性等の面から2期目以降の指定を受けられない事例があり,課題と考えられる。
(略)
 民間企業を指定管理者としている図書館について,具体的な事業者別の図書館数についても,2015年度の結果を踏まえて改めて集計した(表3)。(株)図書館流通センター共同企業体等の参加企業となっている場合を含む)のシェアが若干上昇しており,指定管理者となる事業者が特定の企業に集中する傾向が強くなっている状況が確認できる。一方で,図書館数は少ないものの,カルチュア・コンビニエンス・クラブ(株)を指定管理者とする図書館数が1年間で倍増し,シェアを高めている点も注目される。
(引用終わり)
 
 上記論文の(表3)を見てみると、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(株)を指定管理者としている図書館は、2014年度「3館」であったものが、2015年度には「6館」と倍増していることが報告されています。
 私が、テレビ和歌山ニュースの内容に「一応」と留保を付けたのはそういうわけです。あるいは、指定管理を受けている図書館は6館以上あるが、既に開館しているところが「4館」で、残りは開館準備中という可能性もあります。
 いずれにしても、2015年度時点で指定管理者となっている図書館数「247館」という(株)図書館流通センターに比べれば、「ツタヤ図書館」の希少性(?)が分かるというものです。
 「そんな珍しいものが和歌山に来てくれて嬉しい」と思いますか?
 私は、それよりも、上記論文の以下の記述に注目しました。
 
(引用開始)
 図書館への指定管理者制度導入の増加傾向に伸びが見られることに関しては,前回調査において指摘した佐賀県武雄市図書館の導入事例の影響が推察される。2013年4月の指定管理者制度導入以降,全国各地から多くの行政・議会・図書館関係者等が武雄市図書館を視察している。武雄市 Web サイトで公開されている「武雄市の行政視察受け入れ状況」2)によると,2013年度及び2014年度において,武雄市への行政視察総数のうち約3分の2が図書館関係の視察となっている。図書館関係の視察を行った団体名について,筆者の調査による図書館への指定管理者制度導入状況と照合すると,2013年度は29件,2014年度は15件が,2014年度以降に図書館への指定管理者制度導入を決定または導入の方向で進めている自治体の関係者によるものであった(表4)。メディア等でもたびたび取り上げられ,「新しい図書館像」として注目された事例に触発され,図書館への指定管理者制度の導入を進める方向に転じた自治体が少なからず存在する状況が窺える。
(引用終わり)
 
 にもかかわらず、と言うべきでしょうか、それだけ多くの自治体・図書館関係者が武雄市図書館(もちろん「ツタヤ図書館」です)を視察し、そして指定管理者制度に移行しながら、実際に「カルチュア・コンビニエンス・クラブ(株)」を指定管理者としたところがそれほど増えていない(のは間違いないでしょう)のには、それなりの理由があるのだと思います。
 ちなみに、ネット情報で既に「ツタヤ図書館」が開館していることが確認できる自治体の人口(データは必ずしも最新のものではありませんが)を調べてみました(1,000人未満切り捨て)。
 
佐賀県武雄市      48,000人
神奈川県海老名市     131,000人
宮城県多賀城市      62,000人
岡山県高梁市          31,000人
 
 ちなみに、和歌山市の人口(平成28年12月31日現在)は、361,578人ですから、たしかに報道のとおり、「今回が最大規模」であり、「中核市では初めて」でしょう。
 もっとも、「中核市では初めて」と聞いて私が何を思い出したかというと、和歌山市家庭教育支援条例(2016年12月)が「中核市では初めて」制定された家庭教育支援条例であったということです。
 さらに思い出したのは、市民図書館指定管理制移行にしても、家庭教育支援条例制定にしても、同じ顔ぶれの議員が旗を振り、市(この2つの場合は市教育委員会も)が追随するという構図が全く一緒であるということです。
 今回の和歌山市の決定は、和歌山市民図書館指定管理者選定委員会の「選定委員によるプロポーザル方式により審査し、各委員の採点結果を合計し、評価点が最上位の者を指定管理者の候補者としました。」というのですから、5人の委員の氏名・肩書きを列記しようかとも思ったのですが止めました(興味のある方はリンク先をご覧ください)。
 「採点結果表」も、関心があれば見てください。
 もっとも、結果表の審査項目は、事前に公表されていた「和歌山市民図書館指定管理者募集要項」の書きぶりからだいぶ変わっている項目もありましたので、その変化を書いておきます(募集要項→採点結果表)。
 
①まちの賑わいの拠点となる新しい図書館のコンセプト→和歌山市民図書館運営の基本方針・理念(30点×5人=150点)
②新しい図書館の機能の充実の提案→和歌山市民図書館の運営・経営に関する取り組み(80点×5人=400点)
③空間イメージ等の提案→空間イメージの提案(30点×5人=150点)
④自主事業実施に関する取り組み→自主事業実施に関する取り組み(40点×5人=200点)
⑤提案価格の評価→提案価格の評価(100点×5人=500点)
 
 けれども、見たところで(私も見ましたが)、それについて何かを書いても空しいだけです。選定委員の皆さんの誠実さを疑うわけではありませんけどね。
 それにしても、家庭教育支援条例に基づく施策(シンポ開催)がいきなり「親学」全開であったのにも驚きましたが(家庭教育支援条例のある「まち」に住んで~和歌山市家庭教育支援条例制定記念講演会参加記~/2017年7月4日)、
市民図書館の指定管理者候補が「カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)」に決定したというのも、それに匹敵する驚きです。
 和歌山マリーナシティへのカジノ誘致については、和歌山県へのお付き合いと見る余地もないわけではありませんが、家庭教育支援条例と「ツタヤ図書館」については確信的と言うべきであり、いまや、私の住む「まち」の行政には、「待てしばし」と暴走を抑制するメカニズムが機能していないのではないか?という疑念を持たざるを得ません。
 こんなことで、「中核市では初めて」と言われて、和歌山市民の皆さんは嬉しいですか?
 
(弁護士・金原徹雄のブログから/図書館問題関連)
2017年8月12日
新しい和歌山市民図書館(2019年10月開館予定)に指定管理者制度が導入される
2017年9月16日
「市民と歩む図書館~図書館が変わる!?~」(9/30山本健慈さん&渡部幹雄さん/和歌山市勤労者総合センター)のご案内
2017年10月1日
「市民と歩む図書館~図書館が変わる!?~」(2017年9月30日)大成功!