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『ピンポイントでわかる自衛隊明文改憲の論点』(GENJINブックレット)を読む

 2017年12月18日配信(予定)のメルマガ金原.No.3020を転載します。
 
『ピンポイントでわかる自衛隊明文改憲の論点』(GENJINブックレット)を読む
 
 私が所属する「憲法9条を守る和歌山弁護士の会」が、去る11月21日(火)、和歌山市あいあいセンター6階ホールにおいて開催したリレートーク自民党改憲4項目の検証」については、翌日、ブログでご紹介したところです(リレートーク自民党改憲4項目の検証」(憲法9条を守る和歌山弁護士の会)報告~動画とレジュメで振り返る)。
  リレートークの構成を再掲します。
 
第1トーク 自衛隊明記(9条加憲論)
第2トーク  緊急事態条項
第3トーク 教育無償化+参議院の合区解消
第4トーク 国民投票を見すえたこれからの運動
 
 以上のとおり、自民党が10月に行われた衆議院議員総選挙で「初めての憲法改正を目指します」と公約で明言した4項目、「自衛隊の明記」、「教育の無償化・充実強化」、「緊急事態対応」、「参議院の合区解消」の解説に、今後の運動論を付け加えるという構成にしました(私が企画担当でした)。
 4人の弁士には、準備にご苦労をおかけしましたが、何が困ると言って、自民党の公約集を読んでも具体的なことはほとんど書いておらず、そもそもどんな改憲案が出てくるのかよく分からないのですから、そんな中で「改憲4項目」を「批判的に検証」するというのは思いの他大変だったと思います。
 実は、今日ご紹介するGENJINブックレット『ピンポイントでわかる自衛隊明文改憲の論点』(発行:現代人文社/発売:大学図書/900円+税)の刊行が予告されたのは、リレートークの準備をしていた時期であり、私は早速AMAZONで予約したのですが、12月刊行予定ということで、当然のことながらリレートークの間には合いませんでした(今日到着しました)。
 全部で72頁のブックレットなので、ざっと通読したところ、これが手許にあれば、リレートークの弁士の皆さん(特に「第3トーク」の)はとても助かったろうに、と思いました。
 
 その内容を知っていただくために、目次と編者・執筆者プロフィール(抄)をご紹介します。
 
(引用開始)
目次
はじめに 目の前にある改憲について、一人ひとりが主体的に考えていくとき………清末愛砂
刊行によせて 自衛隊の9条明記は、日本が〈戦争する国〉になることを意味する………伊藤 真
 
第1部 自衛隊の9条明記の狙い………飯島滋明・清末愛砂・池田賢太
安倍首相の〈自衛隊の9条明記〉発言(飯島滋明)
Q1 自衛隊憲法に明記することで自衛隊の何が変わるのですか?(飯島滋明)
Q2 私たちの生活にどんな影響が出るのでしょうか?(飯島滋明)
Q3 自衛隊明記は9条3項、あるいは9条の2の追加だけですむのでしょうか?(飯島滋明)
Q4 北朝鮮のミサイルに対抗するためには、憲法の改正が必要ではないでしょうか?(飯島滋明)
Q5 侵略戦争はだめですが、自衛のための武力行使は仕方ないのでは?(清末愛砂)
Q6 国を守るための予算が優先されるのは当然ではないですか?(池田賢太)
Q7 自衛隊明記は軍事研究と関係がありますか?(清末愛砂)
 
●元自衛官・末延隆成さんは語る/専守防衛で日本を守る。それが誇り。
●元自衛官・西川末則さんは語る/憲法を変えなければならない不都合はありません。
 
第2部 その他の〈明文改憲〉で何が変わるのか
1 あきらめていない緊急事態条項………榎澤幸広
 Q1 今の憲法には2012年自民党案のような緊急事態条項がないのですか?
 Q2 大規模災害が生じたら対処できるのですか?
 Q3 議員任期の延長のみに限定するって不思議ではないですか?
2 唐突な高等教育の無償化………渡邊弘
 Q1 高等教育の無償化は、憲法を改正しなければ実現しないのでしょうか?
 Q2 教育費用について、政府はどのような政策を行ってきたのでしょうか?   
 Q3 教育の無償化は教育内容の統制につながりませんか?
3 参議院議員選挙「合区」解消ってなんだ………石川裕一郎
 Q1 そもそも「合区」とは何ですか?
 Q2 「国会議員は地域の代表」ではないのですか?
 Q3 国会に「地域の代表」は必要ではないのですか?
4 家族の助け合い明文化………清末愛砂
 Q1 今の憲法には家族に関する規定はないのですか?
 Q2 憲法に家族の助け合いを明文化するとどうなりますか?
 Q3 憲法24条には他にどんな価値がありますか?
5〈新しい権利〉を加えることは必要か………岩本一郎
 Q1 憲法を改正しなければ、新しい人権は保障されないのでしょうか?
 Q2 今の憲法では、環境権が人権として保障されていないのでしょうか?
 Q3 知る権利を拡充するために、憲法への明記は必要なのでしょうか?
 
第3部 憲法を守り育てるために
 1 国民投票法にも問題アリ!………池田賢太
 2 憲法破壊に抗して—「ナチの手口」に酷似している安倍内閣の手法………岩本一郎
 3 沖縄と明文改憲/軍事力によらない平和が今も求められる………髙良沙哉
 4 北海道と明文改憲/私たちが主権者として、自衛隊を戦争に加担させることを迫ることになる………池田賢太
 
おわりに………髙良沙哉
 
編者・執筆者プロフィール(五十音順) (抄/主な著作は省略) *印は編者
飯島滋明(いいじま・しげあき)*
 名古屋学院大学経済学部教授。1969年生まれ。専門は、憲法学、平和学、医事法。
池田賢太(いけだ・けんた)*
  弁護士(札幌弁護士会)。1984年生まれ。南スーダンPKO派遣差止訴訟弁護団事務局長。
石川裕一郎(いしかわ・ゆういちろう)
聖学院大学政治経済学部教授。1967年生まれ。専門は、憲法学、比較憲法学、フランス法学。
岩本一郎(いわもと・いちろう)
 北星学園大学経済学部教授。1965年生まれ。専門は、憲法学。
榎澤幸広(えのさわ・ゆきひろ)
 名古屋学院大学現代社会学部准教授。1973年生まれ。専門は、憲法学、マイノリティと法、島嶼と法。
清末愛砂(きよすえ・あいさ)*
 室蘭工業大学大学院工学研究科准教授。1972年生まれ。専門は、家族法憲法学。
高良沙哉(たから・さちか)*
 沖縄大学人文学部准教授。1979年生まれ。専門:憲法学、軍事性暴力、軍事基地問題と沖縄。
渡邊 弘(わたなべ・ひろし)
 鹿児島大学共通教育センター准教授。1968年生まれ。専門は、憲法学、法教育論、司法制度論。
(引用終わり)
 
 このブログを読んでくださる方の中には、「安倍9条改憲NO!憲法を生かす全国統一署名」(3000万人署名)に取り組んでいる方もおられると思いますが、このブックレットは、そのような方々にこそ手にとっていただきたいと思います。
 上に引用した詳細目次を読まれれば分かると思いますが、署名活動の中で必ずぶつかる反応(「北朝鮮のミサイルに対抗するために憲法改正が必要」とか「大規模災害に対処するために緊急事態条項が必要」など)についても、分かりやすく説得するための材料が提供されています。もっとも、こんな説得など受け付けない人も多いだろうと思いますが、それでも、署名活動に取り組む人たちが自信をもって署名をお願いできるようになることはとても大事なことです。
 もちろん、学習会の講師を頼まれた弁護士の参考書としても、大いに役立つと思います。
 
 最後にあと2点ほど、本書から紹介しておきます。
 1つは、本書には、元自衛官お2人からの編者が聴き取った内容が紹介されており、参考になります。このうち、陸上自衛隊の元2等陸曹・末延隆成さんの発言から、心に残った部分を用します(26~29頁)。
 
(引用開始)
憲法改正について肯定的な発言をする自衛官は上級幹部自衛官に多いです。最前線に行かず、防衛関連企業に天下りしたり政界進出する幹部自衛官と、実際に戦場に行かされ死傷する一般自衛官の考え方は異なります。
(略)
皆さんも自衛隊の車両が走っているのを見るとわかると思いますが、大抵、曹士隊員が乗った大型トラックが先頭を走り、幹部が乗った小型車(パジェロ)が最後に走ります。これは曹士隊員を盾にして幹部が生き残れるようにしているのです。徴兵すれば、これがスライドして徴兵された者を捨て石にして、権力者が生き残るのが戦争のセオリーです。
(引用終わり)
 
 あと1つは、何冊かコラム的に紹介されている「オススメの一冊」の内、飯島滋明さんが書いてくださっているのが『私たちは戦争を許さない 安保法制の憲法違反を訴える』(岩波書店、2017年)です。引用します。
 
(引用開始)
 広島や長崎のヒバクシャ、戦争で親を失った人など、アジア・太平洋戦争(1931年~1945年)で大変な苦痛を体験された人々にとっては、日本国憲法の徹底した「平和主義」は「将来の希望」でした。海外の戦争に参加させられたり、テロの対象にならなかったのは憲法の平和主義の恩恵であると考える自衛官パイロット、船員もいます。しかし安倍自公政権は、世界中での自衛隊武力行使を可能にする「安保法制」を成立させました。自衛隊憲法に明記する憲法改正は、「安保法制」を憲法的に認めることになります。それが良いのかどうか、戦争体験者や安保法制により生命や身体が危険に晒されると強い危機感をもつ人々の思いもふまえて考えてください。(飯島滋明)
(引用終わり)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから/安倍改憲メッセージ関連)
2017年5月24日
立憲デモクラシーの会「安倍晋三首相による改憲メッセージに対する見解」を読む
2017年6月16日
書き起こしで読む立憲デモクラシーの会「安倍晋三首相による改憲メッセージに対する見解」発表記者会見(5/22)
2017年6月22日
羽柴修弁護士講演会「憲法をめぐる情勢と国民投票を意識した取り組み」から学ぶ
2017年6月27日
動画・学習会「安倍首相の改憲発言をめぐって」(九条の会事務局)~浦田一郎さん、渡辺治さんのダブル講演で学ぶ
2017年6月30日
立憲デモクラシーの会「安倍政権による強権的な国会運営と説明責任の放棄に対する声明」(6/26)を読む
2017年7月9日
「なるほど!新9条改正案を斬る」(イキョンジュ氏「アジアの中の日本国憲法」出版記念イベント)のご案内
2017年7月12日
和歌山県下7団体共同声明「安倍首相による改憲発言についての声明」を今日(7/12)発表しました
2017年7月18日
市民連合「緊急シンポジウム ストップ安倍政治-改憲を許さない市民集会」(7/12)を視聴する
2017年7月20日
書き起こしで読む立憲デモクラシーの会「安倍政権による強権的な国会運営と説明責任の放棄に対する声明」発表記者会見(6/26)
2017年7月26日
法律家6団体アピール「自衛隊の存在を9条に明記する安倍改憲提案に反対します」と清水雅彦氏講演動画「『2020年 安倍改憲』~その中味と狙いとは何か」のご紹介
2017年7月31日
君島東彦立命館大学教授「安倍改憲案とわたしたちの平和構想―9条論の再創造―」講演動画を視聴する
2017年8月2日
「安倍9条加憲NO!シンポジウム―未来をつくる日本国憲法―」(中野晃一、武村正義、長谷部恭男、辻元清美各氏/7/31)の動画を視聴する
2017年8月9日
青井未帆氏「憲法自衛隊を明記することの意味を考える」講演動画(8/5兵庫県弁護士9条の会)を視聴する 
2017年8月23日
和歌山弁護士会憲法学習集会9/20「安倍首相の新たな改憲提言について―自衛隊憲法に書き込む改憲は何をもたらすか―」(講師:青井未帆氏)のご案内
2017年9月5日
九条の会」も参加して「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」がスタートします~目指せ3000万人署名
2017年9月9日
「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」9.8 キック・オフ集会大成功~3000万人署名活動スタート!
2017年9月13日
「安倍9条改憲を阻むために全国の九条の会は立ちあがりましょう」(9/6九条の会事務局からの訴え)
2017年9月14日
「安倍9条改憲NO!」のために「憲法の破壊を許さないランチTIMEデモ」はまだまだ頑張ります
2017年9月15日
今年の憲法フェスタ(11/3守ろう9条 紀の川 市民の会)は本秀紀(もと・ひでのり)さん~歌う憲法学者が語る9条と自衛隊
2017年9月18日
9条の会共同講演会「安倍改憲を許すな!!」(愛敬浩二名古屋大学大学院教授@11/4和歌山県JAビル)のご案内
2017年10月11日
「安倍9条改憲NO!大学人と市民のつどい―憲法問題シンポジウムと大学有志の会ブロック連絡会発足記念集会」(2017年10月8日)を視聴する
2017年10月17日
憲法(特に9条)についての各党「公約」比較~とても分かりやすくなっていた
2017年10月22日
清水雅彦氏(日本体育大学)講演動画「学ぶ!安倍改憲の真実!」(10/17市民連合国分寺)を視聴する
2017年10月23日
山田朗明治大学教授による講演「安倍改憲の危険性と北朝鮮問題」を視聴する(映画人九条の会
2017年10月26日
11/3は「安倍9条改憲NO!わかやまアクション」に結集を!(汀公園)~11月に開催される講演会・リレートークのお知らせ@和歌山市
2017年10月28日
開催予告11/21「リレートーク 自民党改憲4項目の検証」(憲法9条を守る和歌山弁護士の会) 
2017年10月29日
地域からの結集を!~「9条改憲NO!全国市民アクション・国立」の「キックオフ集会inくにたち」を視聴する
2017年10月31日
自民党改憲4項目のうち「参議院の合区解消」について~浦部法穂氏の論考で学ぶ
2017年11月4日
2日連続 名古屋大学大学院教授(本秀紀氏&愛敬浩二氏)から学ぶ憲法をめぐる動向
2017年11月6日
「安倍改憲」を阻止するために~衆院選の結果を踏まえて
2017年11月7日
渡辺治さんの講演動画「衆院選後 安倍改憲の新段階と九条の会の課題」(2017年10月30日)を視聴する
2017年11月8日
「安倍9条改憲NO!全国市民アクション11・3国会包囲大行動」プレコンサートでの中川五郎さんの魂の演奏を聴く
2017年11月10日
第41回「憲法の破壊を許さないランチTIMEデモ」(11/15)とリレートーク自民党改憲4項目の検証」(11/21)へのご参加のお願い~「憲法9条を守る和歌山弁護士の会」から
2017年11月22日
リレートーク自民党改憲4項目の検証」(憲法9条を守る和歌山弁護士の会)報告~動画とレジュメで振り返る
2017年11月27日
安倍改憲NO!のために~3000万人署名に向けての地域・職場でのキックオフ集会・ミニ講演用レジュメ

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「立憲デモクラシー講座・第Ⅲ期」第1回・山口二郎氏、佐々木寛氏、柿崎明二氏「市民連合と選挙政治-到達点と課題」のご紹介  

 

 2017年12月17日配信(予定)のメルマガ金原.No.3019を転載します。
 
「立憲デモクラシー講座・第Ⅲ期」第1回・山口二郎氏、佐々木寛氏、柿崎明二氏「市民連合と選挙政治-到達点と課題」のご紹介
 
 立憲デモクラシーの会が主催する立憲デモクラシー講座、第Ⅰ期が12回、第Ⅱ期が7回され、今月から第Ⅲ期がスタートしました。
 第Ⅱ期の最終回は、それまでの、1人の講師による単独講演というスタイルを脱し、島薗進さん(上智大学特任教授・宗教学)がまず講演され、次に石川健治さん(東京大学教授・憲法学)がコメントされ、その後、西谷修さん(立教大学特任教授・哲学)の司会の下、「対談」が行われるというフォームで行われましたが、第Ⅲ期の最初も、引き続き、多彩な登壇者による講座となっています。
 その開催概要を、立憲デモクラシーの会ホームページに掲載されたチラシから引用します。
 
(引用開始)
公開連続講演会
立憲デモクラシー講座 Ⅲ 第1回
市民連合と選挙政治-到達点と課題
山口二郎(法政大学)
・佐々木寛(新潟国際情報大学)
・柿崎明二(共同通信社
[司会]小原隆治(早稲田大学
野党共闘を地域で推進した佐々木氏と鋭い政治報道に定評のある柿崎氏をお招きし、市民連合の立役者でもある山口代表と議論していただきます。
2017年12月15日(金)18:10-20:30
早稲田大学早稲田キャンパス)3号館 301教室(285人収容)
◆入場無料、申し込み不要、先着順
主催:立憲デモクラシーの会
(引用終わり)
 
 いつものように、UPLAN(三輪祐児)さんが中継動画をYouTubeにアップしてくださっていますのでご紹介します。
 
20171215 UPLAN 山口二郎×佐々木寛×柿崎明二+小原隆治「市民連合と選挙政治−到達点と課題」(2時間00分)
冒頭~ 司会 小原隆治氏
3分~ 報告① 山口二郎氏「総選挙の結果と市民の課題」
29分~ 報告② 佐々木寛氏
※佐々木寛氏の近著『市民政治の育てかた:新潟が吹かせたデモクラシーの風』(2017年11月刊/大月書店)参照
48分~ 報告③ 柿崎明二氏
1時間04分~ 後半 討論 
 
 「到達点と課題」を話し合った後半で出された論点の中で私が最も注意をひかれたのが「日本共産党野党共闘の今後」でしたね。前半における柿崎明二氏の報告と後半の討論冒頭部分をじっくりと視聴していただければと思います。
 
(弁護士・金原徹雄のブログから/立憲デモクラシー講座)
2015年11月15日
佐々木惣一が発見した「国民の存在権」(憲法13条)と自民党改憲案~石川健治東大教授の講義で学ぶ(11/13立憲デモクラシー講座 第1回)
2015年12月12日
山口二郎法政大学教授による「戦後70年目の日本政治」一応の総括~12/11立憲デモクラシー講座 第3回)
2016年1月8日
中野晃一上智大学教授による「グローバルな寡頭支配vs.立憲デモクラシー」~1/8立憲デモクラシー講座第4回)
2016年1月31日
杉田敦法政大学教授による「憲法9条の削除・改訂は必要か」~1/29立憲デモクラシー講座 第5回)
2016年3月28日
立憲デモクラシー講座第6回(3/4三浦まり上智大学教授)と第7回(3/18齋藤純一早稲田大学教授)のご紹介
2016年4月11日
立憲デモクラシー講座第8回(4/8)「大震災と憲法―議員任期延長は必要か?(高見勝利氏)」のご紹介(付・『新憲法の解説』と緊急事態条項)
2016年4月25日
立憲デモクラシー講座第9回(4/22)「表現の自由の危機と改憲問題」(阪口正二郎一橋大学教授)」のご紹介(付・3/2「放送規制問題に関する見解」全文)
2016年5月15日
立憲デモクラシー講座第10回(5/13)「戦争化する世界と日本のゆくえ」(西谷修立教大学特任教授)のご紹介
2016年6月16日
立憲デモクラシー講座第11回(6/3石田英敬東京大学教授)と第12回(6/10岡野八代同志社大学大学院教授)のご紹介
2016年10月22日
「立憲デモクラシー講座・第Ⅱ期」スタート~第1回・白藤博行専修大学教授「辺野古争訟から考える立憲地方自治」(10/21)のご紹介
2016年11月21日
「立憲デモクラシー講座・第Ⅱ期」第2回・木村草太首都大学東京教授「泣いた赤鬼から考える辺野古訴訟」は視聴できないけれど
2016年12月17日
「立憲デモクラシー講座・第Ⅱ期」第3回・五野井郁夫高千穂大学教授「政治的リアリズムと超国家主義丸山眞男の国際政治思想から現代世界を読む」のご紹介
2017年1月16日
「立憲デモクラシー講座・第Ⅱ期」第4回・山口二郎法政大学教授「民主主義と多数決」のご紹介
2017年3月11日
「立憲デモクラシー講座・第Ⅱ期」第5回・青井未帆学習院大学教授「裁判所の果たす役割~安保法制違憲国家賠償請求訴訟を題材に」のご紹介
2017年5月5日
「立憲デモクラシー講座・第Ⅱ期」第6回・石川健治東京大学教授「天皇と主権 信仰と規範のあいだ」のご紹介
2017年6月29日
「立憲デモクラシー講座・第Ⅱ期」第7回・島薗進上智大学特任教授&石川健治東京大学教授「教育勅語―なにが問題か:天皇・軍隊・人間」のご紹介

広島高裁・伊方原発3号機運転差止仮処分命令「決定要旨」を読む

 2017年12月16日配信(予定)のメルマガ金原.No.3018を転載します。
 
広島高裁・伊方原発3号機運転差止仮処分命令「決定要旨」を読む
 
朝日新聞デジタル 2017年12月13日20時13分
伊方原発3号機、運転禁じる仮処分 阿蘇噴火の影響重視
(抜粋引用開始)
 四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)をめぐり、住民が求めた運転差し止め仮処分の抗告審で、広島高裁(野々上友之裁判長)は13日、広島地裁の決定を覆し、運転を禁じる決定をした。阿蘇山熊本県)が過去最大規模の噴火をした場合、火砕流の影響を受けないとはいえないと判断した。原発の運転を差し止めた司法判断は高裁では初めて。
 申し立てたのは広島市松山市の住民。広島地裁では運転差し止めの訴訟も続いており、決定は訴訟で異なる判断が出る可能性をふまえ、差し止めを来年9月30日までと限定した。
 仮処分はただちに法的な拘束力を持ち、今後の司法手続きで覆らない限り運転はできない。伊方原発3号機は今年10月から定期検査のため停止中で、来年1月予定の再稼働ができない可能性が高まった。四電は広島高裁に保全異議申し立てと仮処分の執行停止の申し立てをする方針だ。
(略)
 原発と火山の位置関係を重視した今回の決定は、九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)や同玄海原発佐賀県玄海町)など火山近くにある他の原発のリスクにも言及したといえ、高裁の判断として今後の訴訟や仮処分に影響を与える可能性がある。
 原発に対する仮処分をめぐっては、福井地裁が2015年4月、大津地裁が16年3月、関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の運転差し止めを決定したが、異議審や抗告審で取り消された。今回の決定について広島高裁で異議審が開かれる場合、別の裁判官による構成で審理する。(小林圭)
(引用終わり)
 
 このところ、心が躍るようなニュースになかなか接する機会がないと思っていた人も、12月13日に広島高等裁判所が、四国電力伊方原発3号機の運転を(2018年9月30日までという期限付きとはいえ)差し止める仮処分決定をしたという知らせには驚き、勇気付けられたことと思います。
 上の朝日新聞デジタルの記事にも書かれているとおり、福井地裁と大津地裁によって、関西電力・高浜原発3、4号機の運転差止めを命じる仮処分決定が出されたものの、いずれもその後の異議審や抗告審で取り消されていますが、今回は、運転差止めを認めなかった地裁決定を高裁が覆し、「原子炉を運転してはならない」という決定をくだしたのですから画期的です。
 ということで、とにかく広島高裁の「決定」が読みたいと考え、ネット検索したところ、
伊方原発広島裁判応援団が運営する「被爆ヒロシマが被曝を拒否する-過去は変えられないが未来は未来は変えられる-伊方原発運転差止広島裁判」というサイトに、豊富な裁判資料が集積されているのを見つけました。
 その中に、「広島高裁即時抗告審特設ページ」が設けられており、そこに「決定」や「決定要旨」もアップされていました。
 
「決定文(※当事者目録を除く)」 406頁
「決定要旨」 6頁
弁護団声明」 2頁
   
 さすがに406頁の「決定」を読み進めるだけの時間が今すぐには作れないため、とりあえず「決定要旨」を読んでみることにしました。
 上記「広島高裁即時抗告審特設ページ」に掲載されていた「決定要旨」をコピペしたのですが、全角の数字やアルファベット、コンマなどが半角になってしまったり、ア、イ、ウを〇で囲んだ文字がないため、やむなくア)、イ)、ウ)で代用するなどして、何とか読めるようなテキストにしました。
 というような手間暇をかけた後、ふと思いついてNPJサイトを閲覧したところ、既に「決定要旨」が掲載されており、これをコピペすれば良かったとやや後悔しましたが、ブログ掲載用のテキストを作成する過程でじっくりと「決定要旨」を通読することができたのですから、まあいいかと自らを慰め、ついでに、NPJからコピペをやり直すのではなく、自分でプリントアウトした「決定要旨」を参照しながら作成したテキストをそのまま掲載することにしました。
 
(引用開始)
平成29年(ラ)第63号伊方原発3号機運転差止仮処分命令申立(第1事件,第2事件)却下決定に対する即時抗告事件(原審・広島地方裁判所平成28年(ヨ)第38号,同年(ヨ)第109号)
 
                               決  定  要  旨
 
                                  主    文
1 原決定を次のとおり変更する。
(1) 相手方は,平成30年9月30日まで,愛媛県西宇和郡伊方町九町字コチワキ3番耕地40番地の3において,伊方発電所3号機の原子炉を運転してはならない。
(2) 抗告人らのその余の申立てをいずれも却下する。
2 手続費用は,原審及び当審を通じ,各自の負担とする。
 
                          理  由  の  要  旨
1 事案の概要
(1) 本件は,四国電力伊方原発3号機(伊方原発)のおよそ100km圏内(広島市松山市)に居住する住民(抗告人ら)が,四国電力(相手方)に対し,伊方原発の安全性に欠けるところがあるとして,人格権に基づき,伊方原発の運転差止めを命じる仮処分を申し立てた事案である。
(2) 本件の争点は,①司法審査の在り方,②新規制基準の合理性に関する総論,③新規制基準の合理性に関する各論として,ア)基準地震動策定の合理性,イ)耐震設計における重要度分類の合理性,ウ)使用済燃料ピット等に係る安全性,エ)地すべりと液状化現象による危険性,オ)制御棒挿入に係る危険性,カ)基準津波策定の合理性,キ)火山事象の影響による危険性,ク)シビアアクシデント対策の合理性,ケ)テロ対策の合理性,④保全の必要性,⑤担保金の額である。
(3) 原審は,原子力発電所の安全性審査に関する新規制基準は合理的であり,伊方原発が新規制基準に適合するとの原子力規制委員会の判断も合理的であるから,抗告人らの申立ては被保全権利の立証(疎明)を欠くなどとして,申立てを却下した(原決定)ところ,抗告人らが即時抗告した。
 
2 司法審査の在り方(決定175頁~184頁)
(1) 抗告人ら住所地と伊方原発との距離(広島市居住者につき約100km,松山市居住者につき約60km)に照らすと,抗告人らは,伊方原発の安全性の欠如に起因して生じる放射性物質が周辺の環境に放出されるような事故によってその生命身体に直接的かつ重大な被害を受ける地域に居住する者ないし被害の及ぶ蓋然性が想定できる地域に居住する者といえる。
(2) このような場合には,伊方原発の設置運転の主体である四国電力において,伊方原発の設置運転によつて放射性物質が周辺環境に放出され,その放射線被曝により抗告人らがその生命身体に直接的かつ重大な被害を受ける具体的危険が存在しないことについて,相当の根拠資料に基づき主張立証(疎明)する必要があり,四国電力がこの主張立証 (疎明)を尽くさない場合には,具体的危険の存在が事実上推定されると解すべきである。
(3) もっとも,四国電力は,原子力規制委員会から,伊方原発が新規制基準に適合するとして原子炉設置変更許可を受けている。そして,原子力発電所の安全性審査の基礎となる基準の策定及びその基準への適合性の審査は,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるものであり,原子炉等規制法は,基準の策定について,原子力利用における安全の確保に関する各専門分野の学識経験者等を擁する原子力規制委員会の科学的専門技術的知見に基づく合理的な判断に委ねる趣旨と解される。
 このような観点からすると,四国電力は,前記(2)の主張立証 (疎明)に代え,新規制基準に不合理な点のないこと及び伊方原発が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点がないことを相当の根拠資料に基づき主張立証(疎明)することができると解すべきである。
 
3 火山事象の影響による危険性以外の争点(決定184頁~349頁,367頁~398頁) 
 火山事象の影響による危険性以外の争点(前記1(2)②③ア)ないしカ),ク)及びケ)については,新規制基準は合理的であり,伊方原発が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断も合理的であると認められる。
 
4 火山事象の影響による危険性(決定349頁~367頁)
(1) 原子力発電所の立地評価(設計対応不可能な火山事象が原子力発電所の運用期間中に影響を及ぼす可能性の評価)につき,火山ガイド(原子力規制委員会が策定した安全性審査の内規)は,以下のとおり定めている。
① 原子力発電所から半径160kmの範囲の領域(地理的領域)に位置し,将来の活動可能性がある火山について,原子力発電所運用期間中(原則40年)の火山の活動可能性が十分小さいかどうかを判断する。
② ①の火山の活動可能性が十分小さいと判断できない場合は,原子力発電所運用期間中(原則40年)に発生する噴火規模を推定する。
③ ②の噴火規模を推定できない場合は,当該火山の過去最大の噴火規模を想定し,設計対応不可能な火山事象(火砕流)が原子力発電所に到達する可能性が十分小さいかどうかを評価する。
④ ③の火砕流原子力発電所に到達する可能性が十分小さいと評価できない場合は,原子力発電所の立地は不適となり,当該敷地に原子力発電所を立地することは認められない。
(2) 本件では,伊方原発の地理的領域に位置し将来の活動可能性のある火山である阿蘇カルデラ伊方原発から約130km)について,現在の火山学の知見では,伊方原発の運用期間中に①の火山の活動可能性が十分小さいと判断することはできず,②の噴火規模を推定することもできないか ら,③により阿蘇カルデラの過去最大の噴火である阿蘇4噴火(約9万年前)の噴火規模(火山爆発指数〔VEI〕7)を想定し,火砕流伊方原発敷地に到達する可能性が十分小さいかどうかを評価することになる。
 しかし,四国電力が行つた伊方原発敷地周辺の地質調査や火砕流シミュレーションか らは,阿蘇4噴火の火砕流伊方原発敷地に到達した可能性が十分小さいと評価することはできないから,④により伊方原発の立地は不適であり,伊方原発敷地に原子力発電所を立地することは認められない。
(3) 原決定は,VEI7以上の規模の破局的噴火については,そのような規模の噴火が原子力発電所運用期間中に発生する可能性が相応の根拠をもつて示されない限り,原子力発電所の安全性確保の上で自然災害として想定しなくても,安全性に欠けるところはないと判示する。
 確かに,現在の火山学の知見では,VEI7以上の破局的噴火の発生頻度は日本の火山全体で1万年に1回程度とされている一方,仮に阿蘇において同規模の破局的噴火が起きた場合には,周辺100km程度が火砕流のために壊滅状態になり,更に国土の大半が10cm以上の火山灰で覆われるなどと予測されているところ,わが国においては,このようにひとたび起きると破局的被害(福島第一原発事故の被害を遥かに超えた国家存亡の危機)をもたらす一方で,発生頻度が著しく小さい自然災害については,火山ガイドを除きそのような自然災害を想定した法規制は行われておらず,国もそのような自然災害を想定した対策は(火山活動のモニタリング以外は)策定しておらず,にもかかわらず,これに対する目立った国民の不安や疑問も呈されていない現状を見れば,前記のような発生頻度が著しく小さく,しかも破局的被害をもたらす噴火によつて生じるリスクは無視し得るものとして容認するというのが我が国の社会通念ではないかとの疑いがないではなく,このような観点からすると,火山ガイドが立地評価にいう設計対応不可能な火山事象に,何らの限定を付すことなく破局的噴火(VEI7以上)による火砕流を含めていると解することには,少なからぬ疑間がないではない。
 しかし,前述したとおり,原子炉等規制法は,原子力発電所の安全性審査の基準の策定について,原子力利用における安全の確保に関する各専門分野の学識経験者等を擁する原子力規制委員会の科学的専門技術的知見に基づく合理的な判断に委ねる趣旨と解されるから,当裁判所としては,当裁判所の考える社会通念に関する評価と,原子力規制委員会が最新の科学的技術的知見に基づき専門技術的裁量により策定した火山ガイドの立地評価の方法・考え方の一部との間に乖離があることをもつて,原決定のように火山ガイドが考慮すべきと定めた自然災害について原決定判示のような限定解釈をして判断基準の枠組みを
変更することは,原子炉等規制法及びその委任を受けて制定された新規制基準の趣旨に反し,許されないと考える。
(4) なお,火山ガイドが立地評価の次に評価すべきと定める影響評価(設計対応可能な火山事象が原子力発電所の運用期間中に影響を及ぼす可能性の評価)についても,現在の火山学の知見を前提とすると,伊方原発の運用期間中に阿蘇においてVEI6(噴出体積10㎞³以上)以上の噴火が生じる可能性が十分小さいと評価することはできないところ,VEI6の噴火の最小の噴火規模を前提としても,噴出量は,四国電力が想定した九重第一軽石の噴出量(6.2㎞³)の約2倍近くになるから,伊方原発からみて阿蘇カルデラ伊方原発から約130km)が九重山伊方原発から約108km)よりやや遠方に位置していることを考慮しても,四国電力による降下火砕物の層厚の想定(15㎝)は過少であり,これを前提として算定された大気中濃度の想定(約3.1g/㎥)も過小であると認められる。
 
5 結論(決定398頁~399頁)
(1) 以上によれば,火山事象の影響による危険性について,伊方原発が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断は不合理であり,抗告人らの生命身体に対する具体的危険の存在が事実上推定されるから,抗告人らの申立ては,被保全権利の立証(疎明)がなされたといえる。
(2) 伊方原発は,現在稼働中であるから,差止めの必要性(保全の必要性)も認められる。
 もつとも,本件は,証拠調べの手続に制約のある仮処分であり,火山事象の影響による危険性の評価について,現在係属中の本案訴訟(広島地方裁判所平成28年(ワ)第289号,第902号)において,証拠調べの結果,本案裁判所が当裁判所と異なる判断をする可能性もあること等の事情を考慮し,四国電力に運転停止を命じる期間は,平成30年9月30日までと定めることとする。
(3) 担保金の額については,事案の性質に鑑み,担保を付さないこととする。
(4) よ つて,以上と異なる原決定を変更し,主文のとおり決定する。
(引用終わり)
 
 以上の決定を子細に検討すれば、色々な評価が出てくるのだろうと思いますが、ここは弁護団の声明を読んでおくべきものでしょう。
 
(引用開始)
                               弁  護  団  声  明
                             (広島高裁決定を受けて)
                          
                           2017年(平成29年)12月13日
                           伊方原発運転差止広島裁判弁護団
 
1 広島高裁第2部(野々上友之裁判長,太田雅也裁判官,山本正道裁判官)は,本日,伊方原発3号機運転差止仮処分命令申立却下決定に対する即時抗告事件において,伊方原発3号機の運転差止を命ずる仮処分を求める住民らの申立てに対し,平成30年9月30日までの期限をつけて運転を差し止める旨の決定を出した。
2 高等裁判所として現実に原発の運転禁止を命ずるのは,史上初であり,また,被爆ヒロシマの裁判所においてこれ以上放射線による苦しむ人々を増やさない決定がなされた意義はひとまず大きい。これによって,四国電力は,伊方原発3号機について,現在行なわれている定期検査に伴う運転停止を終えた後も(送電開始予定日は2018年(平成30年)1月22日),運転を再開することはできなくなった。
3 もっとも,本決定の内容については,原発の危険性について正しく認定していない点も見られる。
 特に,傍論とは言いながら,地震動に対する原発の安全性については,地震科学の不確実性を見誤って事業者の楽観的な主張を踏襲している点,地震本部の策定したいわゆるレシピを絶対視して不確実性を踏まえない点で,福島第一原発事故の教訓を活かしきれておらず,再び深刻な事態が生じかねない内容となっている点で極めて不当である。ただし,これらの点はあくまでも傍論であり,判例的価値は有しないと考える。
4 なお,本訴において証拠調べをするためとの理由で平成30年9月30日までの期限付の差止めとしている点でも不合理である。現在本訴において証拠調べ等の審理の見通しは立っていない状況であり,被告側は反論すら出していない。
 そもそも,本決定で示された差止の理由は,火山事象に対して全面的に本件原発が安全性を有していないという点であり,火山ガイドの抜本的な見直しや十分保守的な対策が講じられない限り,期限を経過したとしても,本件原発が安全でないという事実は何ら変わるものではない。
 9月30日が迫った段階で本訴が終了していない場合,我々は,改めて本原発差止仮処分の申請をする予定である。また,四国電力に対しては,上記期限を経過した後も,本件原発を再稼働しないことを強く求める。
5 福島第一原発事故が発生してから6年9か月以上もの長い時間が経過した現在において,その被害は収束するどころか,深刻さを増している。国からは避難指示解除によって事故前の基準の20倍も汚染された地域で生活するように強いられ,必死の思いで避難して,ようやくみなし仮設住宅に落ち着いた人たちは,その住宅の明け渡し請求訴訟まで起こされている。避難指示が解除されても,汚染された地域へ戻る人は少なく,ふるさとの存続が危ぶまれる状況にある。
6 私たちは,本決定が現実に本原発の運転を差し止めたという事実を高く評価する。また,火山事象に対する問題点は,全国の原発においても同様に当てはまる問題であるから,他の原発においてもこの点を追求していく。原爆を投下され被爆を強いられた広島の地において二度と放射線による被害(被曝)を受けることを拒否するという申立人らの思いが実現するよう,原発事故による被害が二度と生み出されなくなるまで,闘い続けることを宣言する。
                                                                            以上
(引用終わり)
 
 この弁護団声明を読むことによって、本「決定」の意義と限界のアウトラインは理解できたのではないかと思います。
 
 最後に、広島高裁決定を受けて開かれた広島及び東京での記者会見の動画をご紹介しておきます。
 
2017-12-13_広島高裁・伊方原発運転差止仮処分即時抗告審_記者会見(1時間15分)
 
伊方原発3号機、運転差し止め~広島高裁(海渡雄一弁護士によるレクチュア)(15分)

長谷部恭男/石田勇治『ナチスの「手口」と緊急事態条項』(集英社新書)を読む

 2017年12月15日配信(予定)のメルマガ金原.No.3017を転載します。
 
長谷部恭男/石田勇治『ナチスの「手口」と緊急事態条項』(集英社新書)を読む
 
 「新書」というジャンルに限りませんが、良書もあれば、そうでないものもたくさんある訳で、限られた時間の中で、読むに値する本を選び出すのはなかなか容易なことではありません。
 ところで、「新書」では、(岩波新書などではあまりお目にかかりませんが)取り上げられたテーマに相応しい2人の論者による対談本で良い本が出ることがあります。
 最近読んだ本では、前川喜平氏寺脇研氏による『これからの日本、これからの教育』(ちくま新書)をブログでご紹介しています(前川喜平/寺脇研『これからの日本、これからの教育』(ちくま新書)を読む/2017年11月25日)。
 今日取り上げるのは、集英社新書なのですが、同新書での対談本として真っ先に思い出すのは、2016年3月に敢行された『「憲法改正」の真実』(樋口陽一氏、小林節氏)です。
 対談本は、実際の対談文字起こし原稿をどう刈り込んでいくか、話の配列をどうするかなど、編集者の腕の見せ所満載のジャンルであり、これがうまくいっていれば、難しい話を分かりやすくかみ砕いて説明してくれる、非常にレベルの高い入門書になるのです。
 『「憲法改正」の真実』は、そういう意味からも、内容的に非常に高度な内容を、のみ込みやすく読者に提示してくれた対談本であり、およそ「憲法改正」問題を考えるのであれば、逸することの出来ない良書だと思います。
 そして、今日ご紹介しようと思う、今年の8月に刊行された『ナチスの「手口」と緊急事態条項』(長谷部恭男氏、石田勇治氏)も、この問題についての我が国における第一人者お2人による対談であり、実際読んでみても、深い内容をとても分かりやすく解説してくれており、これまた「緊急事態条項」を考える際の必読文献でしょう。
 
 今さらご紹介するまでもない碩学ですが、集英社新書サイトから、著者情報を引用しておきます。
 
長谷部恭男(はせべ やすお)
早稲田大学法学学術院教授。東京大学法学部教授等を経て、二〇一四年より現職。日本公法学会理事長。全国憲法研究会代表。主な著書に『憲法とは何か』(岩波新書)、『憲法の論理』(有斐閣)など。
 
石田勇治(いしだ ゆうじ)
東京大学大学院総合文化研究科教授。専門はドイツ近現代史マールブルク大学Ph.D.取得。ベルリン工科大学客員研究員、ハレ大学客員教授を歴任。主な著書に『ヒトラーとナチ・ドイツ』(講談社現代新書)など。
 
 本書の構成を知っていただくために、目次の大項目を引用しておきます。
 
はじめに-「憲法問題」の本質を見抜くために  石田勇治
第一章 緊急事態条項は「ナチスの手口」-大統領緊急令と授権法を知る
第二章 なぜドイツ国民はナチスに惹き付けられたのか
第三章 いかに戦後ドイツは防波堤をつくったか-似て非なるボン基本法の「緊急事態条項」
第四章 日本の緊急事態条項はドイツよりなぜ危険か-「統治行為論」という落とし穴
第五章 「過去の克服」がドイツの憲法を強くした
おわりに-憲法の歴史に学ぶ意味  長谷部恭男 
 
 ところで、話題の本が出た場合、そのパブリシティも兼ねてということなのでしょうが、著者によるトークイベントが開催されることがあります。紀伊國屋書店新宿本店などでは、定期的に行われているようですね。
 本書『ナチスの「手口」と緊急事態条項』についても、8月24日に新宿紀伊國屋トークイベントが行われ、その動画が集英社新書の公式YouTubeチャンネルで公開されていますのでご紹介しておきます。
 
ナチスの「手口」と緊急事態条項』刊行記念 長谷部恭男先生×石田勇治先生 トークイベント 前半(37分)
ナチスの「手口」と緊急事態条項』刊行記念 長谷部恭男先生×石田勇治先生 トークイベント 後半(33分)
 
 何しろ、新著の刊行記念のイベントなので、著者のトークを聴くだけで理解しようとしても難しく、あくまでも、新書『ナチスの「手口」と緊急事態条項』を読んだ後で、あるいは読みながら、参考にするという視聴の仕方が良いと思います。
 
 最後に、対談の最後において、長谷部先生、石田先生が締めの言葉として述べられた部分を引用します。とても含蓄のある内容です。
 
(引用開始/『ナチスの「手口」と緊急事態条項』238頁~240頁)
長谷部 この本では、緊急事態条項とドイツの経験ということをテーマに議論を展開してきたわけですが、結局のところ日本で提案されている緊急事態条項は、一種の安全保障であると主張されています。
 しかし、国が「安全を保障する」と言ったとき、それはいったい何の安全を保障するということなのか。実は、突き詰めれば、これは「現在の憲法の基本原理を守る」ということであるはずなのです。
石田 安全保障で守るものというと、よく言われるのは国民の生命・財産、領土・領海などですよね。
長谷部 世間ではよくそう言いますが、読者にはもう一歩考えを進めてみてほしいのです。自分たちの命を守ることが、本当に何よりも大事だと思うのだったら、強い国の言いなりになっているほうが安全ではないのか。
 しかし、我々は「それはいやだ」と感じるはずです。そんな隷属的な生き方はしたくない。我々には、それとは違った生き方があったはずだと思っている。
 では、その生き方とは何なのか。これは、我々が思っている憲法の基本原理を反映した生き方であるはずです。多様な価値観をもった個人が、それぞれ公平に尊重される社会であるはずです。安全保障というのは、そのような憲法原理を守るための国の安全です。
 そうであるならば、憲法の基本原理に毀損を加えるような安全の保障というのは、議論の根本がねじれていることになります。
 憲法の基本理念を守らないで、国を守っていることになるのだろうか。
 具体的な時期はわかりませんが、私たちが実際に、緊急事態条項を憲法に導入しますかと問われる機会があるかもしれません。そのときにはぜひ、本当に守るべきものは何かを、読者には注意深く考えてみていただきたいと思います。
石田 ここで思い起こすのは、もうずいぶん前のことですが、「ポストモダン」という言葉が日本の言論界ではやったときのことです。「もう近代は終わりだ」と言って、その諸価値を相対化する風潮が出てきました。
 あのころ思ったことと、昨今の自民党主導の改憲論議を聞いて感じることには共通点があります。「まだ本当の意味で近代は達成されていないのではないか」という疑問です。
 日本国憲法の理念には実現していないものがたくさんあります。それを実現する途上なのになぜ捨ててしまわなければならないのか。それを実現する途上にあるということは、同時に日本が背負う近過去の、過ちを含む歴史について私たち自身がとらえ直し、反省すべき余地が残っているということではないでしょうか。
 長谷部先生がおっしゃったように、それは長く辛い道のりかもしれませんが、ほかの誰かではなく、自分自身が考えていかなければ、私たちが保守したいと願う、当たり前の日常生活もある日突然、失われてしまうかもしれません。
(引用終わり)
 
(参考動画)
日本記者クラブ 2016年12月9日
石田勇治 東京大学大学院教授 「ヒトラーとは何者だったのか」(1時間49分)

増補版・希望の37人が参加して大成功!「政治をなおそうデモ2」

 2017年12月14日配信(予定)のメルマガ金原.No.3016を転載します。
 
増補版・希望の37人が参加して大成功!「政治をなおそうデモ2」
 
(はじめに)
 去る12月10日(日)に和歌山市で行われた「政治をなおそうデモ2」については、当日のブログでご紹介したところですが(希望の37人が参加して大成功!「政治をなおそうデモ2」)、今日はその「増補版」をお送りします。
 
 10日のブログでは、本編の他に、
 
(付録1)
憲法の破壊を許さないランチTIMEデモ」Facebookイベントページに登場!
(付録2)
2月24日「八法亭みややっこの憲法噺」開催!(憲法9条を守る和歌山市共同センター)
(付録3)
『世界人権宣言』(1948.12.10 第3回国連総会採択)
 
を掲載したのですが、今回の「増補版」は、本編はそのままとした上で、デモそのものとは関係のない(付録1)と(付録2)をカットし、その代わり、
 
(増補1)
「政治をなおそうデモ2」スピーチ動画集
 スピーチの模様が5本の動画としてYouTubeにアップされましたので、これをご紹介します。
(増補2)
「政治をなおそうデモ2」スピーチ用原稿
 4人のスピーカーの方が用意されたスピーチ用の原稿(必ずしもこのまま読まれた訳ではありませんが)がインターネットにアップされましたので、リンクすることにしました。 
 
を追加するものです。
 これによって、「政治をなおそうデモ2」がどういうものであったのか、その全体像をより良く理解していただけると思います。
 私が書いた本編も、読み直してみると、もう少し表現を練った方が良くなると思える箇所もありますが、デモから受けた感動の冷めないうちに、1人でも多くの人に、デモを企画した若者たちの“志”を知ってもらい、「次回には是非参加したい」と思ってもらえるようにと願って急いで書き上げた勢いが、修文・推敲を重ねることによって失われるのも惜しいと思い、修正はくわえずにそのままとしました。
 皆さん、この「増補版」の拡散にご協力ください。
 そして、次の機会には是非一緒に歩きましょう。
 
(「政治をなおそうデモ2」フライヤーより)
 私たちは、デモを特別なイベントではなく生活の一部として、和歌山の文化のひとつとして広めていきたいと思っています。この街、日本、世界をほんのちょっとでもよくするために私たちはどう考え、何をしたらいいのか、と考え続けるために、あなたの参加をお待ちしています。
 

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 以上のような“志”を持った若者たちが企画した「政治をなおそうデモ2」が本日(12月10日)和歌山市で行われ、参加してきました。
 午後3時10分過ぎにスタートし、ちょうど1時間半後の4時40分にゴールするという比較的長目のコースで、前回に引き続き、シュプレヒコールはなく、先導車(サウンドカー)の荷台をステージとして、代わる代わるスピーチを行っていくというスタイルのデモでした。
 今日は、「人権週間(12月4日~10日)」の最終日ということもあり、「人権を考える」というテーマでのスピーチが続きました。
 
 1948年12月10日、国際連合第3回総会において、世界人権宣言が採択されたことを記念し、2年後の第5回総会において、12月10日を「人権デー」と定め、全ての加盟国及び関係機関がこの日を祝賀する日とし、人権活動を推進するための諸行事を行うように要請する決議を採択しました。
※世界人権宣言(国連人権高等弁務官事務所サイト)
 
 我が国では、法務省と全国人権擁護委員連合会が、当時まだ国連への加盟は認められていませんでしたが、世界人権宣言の採択を記念し、1949年から毎年12月10日を最終日とする1週間(12月4日~同月10日)を「人権週間」と定め、世界人権宣言の趣旨及びその重要性を広く国民に訴えるとともに、人権尊重思想の普及高揚を図るため、様々な啓発活動を行うこととされています。
 私が、人権擁護委員の1人として、今年も12月4日の午前7時半から、手がかじかむ冷たさにもめげず(?)、JR和歌山駅前でウエットティッシュ配りをしていたのも、人権週間を記念しての啓発活動であった訳です。
法務省サイト「第69回 人権週間  平成29年12月4日(月)~10日(日)」
  
 今日のデモを企画した和歌山大学の学生やママの会有志の皆さんは、特に法務局や人権擁護委員連合会との関係などないと思いますが、ややルーティン化していることが否めない官製の人権啓発活動とは無関係な、このような人権についてのアピール行動はとても貴重なものだと思います。
 
 スピーチの多くは和歌山大学の学生さん(観光学部、教育学部というのは確認できたけど、経済学部とシステム工学部はいなかったかな)で、サンタ姿のWAVEの女性(ということは田辺から来てくれたのだろうか)もスピーチされていました。
 一緒に歩いていた若い男性と少しお話したところ、大阪からの参加者ということで驚きました。
 なお、中高年のスピーカーも2人いましたが、1人は和歌山大学教員(越野章史さん)、もう1人は和歌山大学16期生(深谷登さん)ということで、今日は、ほぼ和歌山大学尽くしに近く、大変心強いことでした。
 様々なテーマをめぐってスピーチが行われ、皆さん原稿を書かれていた人が多かったようなので、そのテキストを提供してもらえたらこのブログで紹介できるのに、と惜しい気がしますが、これは次回以降の宿題にしましょう。
 子どもの貧困問題や朝鮮人学校差別問題など様々な人権課題や、弱者が弱者を攻撃する世相の在り様など、人権をめぐる幅広い論点についてのスピーチが続きました。
 シュプレヒコールのないスピーチ主体のデモも2回目となり、だんだん慣れてきて「これもいいよね」という気がしてきました。もっとも、15分でゴールする「憲法の破壊を許さないランチTIMEデモ」でスピーチをやっている時間はないでしょうから、様々なスタイルのデモの1つということでしょうけど。
 
 今日のデモは、参加していてとても気持ちの良いデモでした。そういう雰囲気は周りにも伝わるのか、沿道からも、とても好意的な反応がたくさんあったように感じました。
 子どもたちも参加しているし、サンタクロースに扮した女性もいたりして、つい笑顔で迎えてしまうということだったのかもしれません。
 
 いつものように、私が参加者数をカウントし、そのメモを実行委員長の服部涼平さんに渡しておいたのですが、デモの最終盤で服部さんから参加者数が発表されたのを聞いていると、何と私が記載した「完全掛け値なしの実数」をそのまま発表していて驚きました。
 その実数を書いておきます。
 
 延べ参加者数(実数)    37人
  内訳(金原の判定による)
   子ども              5人
   若者(20代~30代)  16人
   中高年(40代以上)  16人   
 (カウント外)
  報道機関   3人
  警察官     4人(パトカー1台)
 
 正直、人数だけ見ればがっかりする数字なのですが、服部さんをはじめとする実行委員会の皆さんは決してめげていないと思いますし、私もそう思っています。
 その根拠は、今日のデモの内容が素晴らしかったという充実感、総参加者に占める若者比率(子どもを含めれば)が5割を超えているということ、多くの和歌山大学学生の皆さんが参加してくれたこと(変わり者が2~3人いるというレベルは確実に超えた)などからです。
 服部さんも言われていたように、デモのある風景が当たり前の和歌山になるように、「今回参加できない方は次回でも次々回でもいつでもどうぞ。」(フライヤーより)
 次は「目指せ200人!」ですね。
 
 それから、今回参加できなかった私の同僚(弁護士)の皆さんに一言。今日は、よんどころない所用があってやむなく不参加となったのでしょうが、次は何とか都合をつけて参加してくださいね。この若者たちが企画するデモは、和歌山にとってとても大事な希望の種火です。これが燃料不足で燃え尽きてしまわないように、息長く付き合っていく心掛けが重要だと思います。カンパもいいけれど、一時だけ出して途中で止めてしまう位なら、額を減らして長く続ける方がずっと良いと思います。ちなみに、今日参加した弁護士は、私とSさんの2人でした。 

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(増補1)
「政治をなおそうデモ2」スピーチ動画集
 デモ当日の内に、先導車(サウンドカー)の荷台からスピーチの模様を撮影した(スピーカーは基本的に後ろ姿となります)動画がYouTubeに5本アップされていました。聴き取りにくい箇所がないこともありませんが、だいたい聴き取れると思います。是非1人1人のスピーチに耳を傾けていただければと思います。
政治をなおそうデモ 01(8分03秒)
政治をなおそうデモ 02(8分34秒)
政治をなおそうデモ 03(13分13秒)
政治をなおそうデモ 04(6分26秒)
政治をなおそうデモ 05(14分12秒)
 
(増補2)
「政治をなおそうデモ2」スピーチ用原稿
 私もブログの本編で書いたように、スピーチ用に書かれた原稿を、ご本人の同意があれば、テキストでも読めるようにしたいなと思っていたところ、いつのまにか「政治をなおそうデモ」ホームページが立ちあがっており、12月10日のスピーチ用原稿が4人分掲載されていました。
 「過去のスピーチ」というコーナーが設けられており、そこから、
 2017.12.10 服部涼平さん
 2017.12.10 宮本太志さん
 2017.12.10 越野章史さん
 2017.12.10 深谷登さん
という4人の原稿が読めるようになっています。
 このうち、服部さんは、実行委員会委員長として、デモの全体に目配せする重責を担っていたこともあり、ハンセン病患者に対する人権侵害について語るスピーチ用原稿を用意していたものの、実際のスピーチ(動画05の後半)では時間の都合により、相当にはしょらざるを得なかったというか、デモの意義を訴えることを主眼としたスピーチにならざるを得なかったようなので、是非このスピーチ用原稿をじっくりと読んでいただきたいと思います。
 この「過去のスピーチ」のコーナーに、次々と多くの人のスピーチ用原稿が積み重なっていくことを願っています。
 
(付録)
Universal Declaration of Human Rights
『世界人権宣言』(1948.12.10 第3回国連総会採択)
〈前文〉
人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎であるので、
人権の無視及び軽侮が、人類の良心を踏みにじった野蛮行為をもたらし、言論及び信仰の自由が受けられ、恐怖及び欠乏のない世界の到来が、一般の人々の最高の願望として宣言されたので、 
人間が専制と圧迫とに対する最後の手段として反逆に訴えることがないようにするためには、法の支配によって人権を保護することが肝要であるので、
諸国間の友好関係の発展を促進することが肝要であるので、
国際連合の諸国民は、国連憲章において、基本的人権、人間の尊厳及び価値並びに男女の同権についての信念を再確認し、かつ、一層大きな自由のうちで社会的進歩と生活水準の向上とを促進することを決意したので、  
加盟国は、国際連合と協力して、人権及び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守の促進を達成することを誓約したので、
これらの権利及び自由に対する共通の理解は、この誓約を完全にするためにもっとも重要であるので、  
よって、ここに、国連総会は、  
社会の各個人及び各機関が、この世界人権宣言を常に念頭に置きながら、加盟国自身の人民の間にも、また、加盟国の管轄下にある地域の人民の間にも、これらの権利と自由との尊重を指導及び教育によって促進すること並びにそれらの普遍的措置によって確保することに努力するように、すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準として、この人権宣言を公布する。  
 
第1条
すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。
 
第2条
すべて人は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的もしくは社会的出身、財産、門地その他の地位又はこれに類するいかなる自由による差別をも受けることなく、この宣言に掲げるすべての権利と自由とを享有することができる。
さらに、個人の属する国又は地域が独立国であると、信託統治地域であると、非自治地域であると、又は他のなんらかの主権制限の下にあるとを問わず、その国又は地域の政治上、管轄上又は国際上の地位に基ずくいかなる差別もしてはならない。
 
第3条
すべての人は、生命、自由及び身体の安全に対する権利を有する。  
 
第4条
何人も、奴隷にされ、又は苦役に服することはない。奴隷制度及び奴隷売買は、いかなる形においても禁止する。  
 
第5条
何人も、拷問又は残虐な、非人道的なもしくは屈辱的な取扱もしくは刑罰を受けることはない。  
 
第6条
すべての人は、いかなる場所においても、法の下において、人として認められる権利を有する。  
 
第7条
すべての人は、法の下において平等であり、また、いかなる差別もなしに法の平等な保護を受ける権利を有する。すべての人は、この宣言に違反するいかなる差別に対しても、また、そのような差別をそそのかすいかなる行為に対しても、平等な保護を受ける権利を有する。  
 
第8条
すべての人は、憲法又は法律によって与えられた基本的権利を侵害する行為に対し、権限を有する国内裁判所による効果的な救済を受ける権利を有する。  
 
第9条
何人も、ほしいままに逮捕、拘禁、又は追放されることはない。  
 
第10条
すべての人は、自己の権利及び義務並びに自己に対する刑事責任が決定されるに当たって、独立の公平な裁判所による公平な公開の審理を受けることについて完全に平等の権利を有する。  
 
第11条
犯罪の訴追を受けた者は、すべて、自己の弁護に必要なすべての保障を与えられた公開の裁判において法律に従って有罪の立証があるまでは、無罪と推定される権利を有する。
何人も、実行の時に国内法又は国際法により犯罪を構成しなかった作為又は不作為のために有罪とされることはない。また、犯罪が行われた時に適用される刑罰より重い刑罰は課せられない。  
 
第12条
何人も、自己の私事、家族、家庭もしくは通信に対して、ほしいままに干渉され、又は名誉及び信用に対して攻撃を受けることはない。人はすべて、このような干渉又は攻撃に対して法の保護を受ける権利を有する。  
 
第13条
すべて人は、各国の境界内において自由に移転及び居住する権利を有する。
すべて人は、自国その他いずれの国をも立ち去り、及び自国に帰る権利を有する。  
 
第14条
すべて人は、迫害からの避難を他国に求め、かつ、これを他国で享有する権利を有する。
この権利は、非政治犯罪又は国際連合の目的及び原則に反する行為をもっぱら原因とする訴追の場合には、採用することはできない  
 
第15条
すべて人は、国籍をもつ権利を有する。
何人も、ほしいままにその国籍を奪われ、又はその国籍を変更する権利を否認されることはない。  
 
第16条
成年の男女は、人種、国籍又は宗教によるいかなる制限をも受けることなく、婚姻し、かつ家庭をつくる権利を有する。成年の男女は、婚姻中及びその解消に際し、婚姻に関し平等の権利を有する。
婚姻は、婚姻の意思を有する両当事者の自由かつ完全な合意によってのみ成立する。
家庭は、社会の自然かつ基礎的な集団単位であって、社会及び国の保護を受ける権利を有する。  
 
第17条
すべての人は、単独で又は他の者と共同して財産を所有する権利を有する。
何人も、ほしいままに自己の財産を奪われることはない。  
 
第18条
すべて人は、思想、良心及び宗教の自由を享有する権利を有する。この権利は、宗教又は信念を変更する自由並びに単独で又は他の者と共同して、公的に又は私的に、布教、行事、礼拝及び儀式によって宗教又は信念を表明する自由を含む。  
 
第19条
すべて人は、意見及び表現の自由を享有する権利を有する。この権利は、干渉を受けることなく自己の意見をもつ自由並びにあらゆる手段により、また、国境を越えると否とにかかわりなく、情報及び思想を求め、受け、及び伝える自由を含む。  
 
第20条
すべて人は、平和的な集会及び結社の自由を享有する権利を有する。     
何人も、結社に属することを強制されない。  
 
第21条
すべて人は、直接に又は自由に選出された代表者を通じて、自国の政治に参与する権利を有する。
すべて人は自国においてひとしく公務につく権利を有する。     
人民の意思は、統治の権力の基礎とならなければならない。この意思は、定期のかつ真正な選挙によって表明されなければならない。この選挙は、平等の普通選挙によるものでなければならず、また、秘密投票又はこれと同等の自由が保障される投票手続によって行われなければならない。  
 
第22条
すべて人は、社会の一員として、社会保障を受ける権利を有し、かつ、国家的努力及び国際的協力により、また、各国の組織及び資源に応じて、自己の尊厳と自己の人格の自由な発展とに欠くことのできない経済的、社会的及び文化的権利の実現に対する権利を有する。  
弟23条
すべて人は、労働し、職業を自由に選択し、公平かつ有利な労働条件を確保し、及び失業に対する保護を受ける権利を有する。
すべて人は、いかなる差別をも受けることなく、同等の労働に対し、同等の報酬を受ける権利を有する。
労働する者は、すべて、自己及び家族に対して人間の尊厳にふさわしい生活を保障する公平かつ有利な報酬を受け、かつ、必要な場合には、他の社会的保護手段によって補充を受けることができる。
すべて人は、自己の利益を保護するために労働組合を組織し、及びこれに加入する権利を有する。  
 
第24条
すべて人は、労働時間の合理的な制限及び定期的な有給休暇を含む休息及び余暇をもつ権利を有する。  
 
第25条
すべて人は、衣食住、医療及び必要な社会的施設等により、自己及び家族の健康及び福祉に十分な生活水準を保持する権利並びに失業、疾病、心身障害、配偶者の死亡、老齢その他不可抗力による生活不能の場合は、保障を受ける権利を有する。
母と子とは、特別の保護及び援助を受ける権利を有する。すべての児童は、嫡出であると否とを問わず、同じ社会的保護を享有する。  
 
第26条
すべて人は、教育を受ける権利を有する。教育は、少なくとも初等の及び基礎的の段階においては、無償でなければならない。初等教育は、義務的でなければならない。技術教育及び職業教育は、一般に利用できるもでなければならず、また、高等教育は、能力に応じ、すべての者にひとしく開放されていなければならない。
教育は、人格の完全な発展並びに人権及び基本的自由の尊重の教科を目的としなければならない。教育は、すべての国又は人種的もしくは宗教的集団の相互間の理解、寛容及び友好関係を増進し、かつ、平和の維持のため、国際連合の活動を促進するものでなければならない。
親は、子に与える教育の種類を選択する優先的権利を有する。  
 
第27条
すべて人は、自由に社会の文化生活に参加し、芸術を鑑賞し、及び科学の進歩とその恩恵とにあずかる権利を有する。     
すべて人は、その創作した科学的、文学的又は美術的作品から生ずる精神的及び物質的利益を保護される権利を有する。  
 
第28条
すべて人は、この宣言に掲げる権利及び自由が完全に実現される社会的及び国際的秩序に対する権利を有する。  
 
第29条
すべて人は、その人格の自由かつ完全な発展がその中にあつてのみ可能である社会に対して義務を負う。
すべて人は、自己の権利及び自由を行使するに当たつては、他人の権利及び事由の正当な承認及び尊重を保障すること並びに民主的社会における道徳、公の秩序及び一般の福祉の正当な要求を満たすことをもっぱら目的として法律によって定められた制限にのみ服する。
これらの権利及び自由は、いかなる場合にも、国際連合の目的及び原則に反して行使してはならない。  
 
第30条
この宣言のいかなる規定も、いずれかの国、集団又は個人に対して、この宣言に掲げる権利及び自由の破壊を目的とする活動に従事し、又はそのような目的を有する行為を行う権利を認めるものと解釈してはならない。  
 
(弁護士・金原徹雄のブログから/和歌山サウンドデモ関連)
2017年5月12日
5/20安倍政権に反対する和歌山デモ(ABE NO! DEMONSTRATION)参加のお誘い
2017年5月22日
越野章史さん(和歌山大学教育学部)スピーチ全文「教育勅語共謀罪がもたらす社会」~5/20「安倍政権に反対する和歌山デモ」から
2017年8月25日
9/18 政治をなおそうデモ (@和歌山市)に参加しよう!~シュプレヒコールのないデモだけど
2017年9月18日
「政治をなおそうデモ」(2017年9月18日)に参加して
2017年11月20日
12/10政治をなおそうデモ2(@和歌山市)に参加しよう!~あなたも、わたしも、大切にされる社会へ
2017年12月10日
希望の37人が参加して大成功!「政治をなおそうデモ2」

日本教育学会「教育勅語の教材使用問題に関する研究報告書」のご紹介

 2017年12月13日配信(予定)のメルマガ金原.No.3015を転載します。
 
日本教育学会「教育勅語の教材使用問題に関する研究報告書」のご紹介 
 
 今年の3月31日、民進党(当時)の初鹿明博衆議院議員からの質問主意書に対する内閣答弁書において、政府は、「学校において、教育に関する勅語を我が国の教育の唯一の根本とするような指導を行うことは不適切であると考えているが、憲法教育基本法(平成十八年法律第百二十号)等に反しないような形で教育に関する勅語を教材として用いることまでは否定されることではないと考えている。」との見解を明示しました。
 教育勅語に関するこのような「前のめり」というよりは、「後ろ向きに暴走している」と言った方が適切な安倍内閣の姿勢については、多くの批判の声があがり、私も教育研究者有志による「教育現場における教育勅語の使用に関する声明」(2017年4月27日)をブログでご紹介しました。
 
 以上は有志による声明でしたが、日本教育学会をはじめとする国内教育関連学会多数が、6月16日付で「政府の教育勅語使用容認答弁に関する声明」を発表していましたので、遅ればせながらご紹介しておきます。
 
政府の教育勅語使用容認答弁に関する声明
(引用開始)
 政府は、第193回国会での本会議や委員会での審議や答弁書において、「教育ニ関スル勅語」(教育勅語)には普遍的な価値が含まれており、日本国憲法及び教育基本法等に反しないかぎり教材として使用できる旨の答弁を繰り返しました。そのなかには、朝礼での教育勅語の朗読や暗唱・唱和さえ一概には否定しない旨の答弁もありました。
 一連の政府答弁は、戦前・戦中において教育勅語が日本の教育と社会にもたらした負の歴史を無視し、戦後国会が教育勅語を排除・失効確認した事実をも軽んじるものです。私たちは教育学を研究する者として、また大学等で教壇に立つ者として、これを容認することはできません。
 教育勅語は、戦前・戦中に君主たる天皇が「臣民」に対して国体史観に基づく道徳を押しつけ、天皇と国家のために命を投げ出すことを命じた文書です。天皇は現人神であり、日本は神国であるという観念の下、教育勅語は、誰もが抱く家族や同胞への愛情や世の中で役立つ人間になりたいという気持ちを絡め取りつつ、国民を排外主義的・軍国主義愛国心に導くことに使われました。このため、教育勅語国民主権基本的人権尊重・平和主義を基本理念とする日本国憲法とはまったく相容れないものであり、今日では歴史的資料としてしか存在することが許されないものです。
 日本国憲法公布前の1946年10月8日、旧文部省が教育勅語を唯一の理念(「淵源」)とする教育を否定する旨の通牒を発したため、一時は唯一の理念としないかぎり教育勅語に基づく教育も可能だとの理解がありました。そこで、日本国憲法施行後の1948年6月19日、衆議院教育勅語排除決議及び参議院の失効確認決議により、国会は国権の最高機関として学校教育から教育勅語を完全に排除するとの意思を示しました。文部省はこれらを受けて、同年6月25日、1946年通牒による教育勅語の取扱いを変更し、戦前・戦中に学校に配られた教育勅語をすべて返還するよう通知しました。このようにして、教育勅語は70年も前に、日本国憲法及び教育基本法に反するものとして学校教育から完全に排除されたのです。
 したがって、教育勅語は、戦前・戦中における教育と社会の問題点を考えるための歴史的資料として批判的にしか使用できないものであり、普遍的価値を含むものとして教育勅語を肯定的に扱う余地はまったくありません。
 ところが、政府は、教育勅語を教育の唯一の理念とすることは否定されたとしつつも、教育勅語には普遍的な価値が含まれており、日本国憲法及び教育基本法に反しないかぎり肯定的に扱うことも容認される旨の答弁を繰り返しました。その一方、どういう使い方が日本国憲法に反するのかとの質疑には答弁を忌避し、学校・設置者・所轄庁の判断に委ねるとの答弁に終始しました。これは国会軽視であるだけでなく、戦前・戦中のような教育勅語の使用を容認または助長しかねないものです。
 私たちは政府に対して、第193回国会における教育勅語の使用容認答弁を撤回し、戦前・戦中における教育と社会の問題点を批判的に考えるための歴史的資料として用いる場合を除き、教育勅語の使用禁止をあらためて確認するよう求めます。また、教師、学校、教育委員会には、第193回国会における政府の教育勅語使用容認答弁に惑わされることなく、普遍的価値を含むものとして教育勅語を肯定的に扱う余地はまったくないことをご理解いただくよう求めます。
 
  2017年6月16日
 
日本教育学会会長 広田照幸
関東教育学会会長 関川悦雄
教育史学会代表理事 米田俊彦
教育目標・評価学会代表理事 木村元・鋒山泰弘
子どもと自然学会会長 生源寺孝浩
大学評価学会代表理事 植田健男・重本直利
中部教育学会会長 吉川卓治
日本音楽教育学会会長 小川容子
日本学習社会学会会長 佐藤晴雄
日本家庭科教育学会会長 伊藤葉子
日本キリスト教教育学会会長 町田健
日本社会教育学会会長 長澤成次
日本生活指導学会代表理事(教育学) 折出健二
日本体育学会会長 深代千之
日本美術教育学会会長 神林恒道
日本福祉教育・ボランティア学習学会会長 原田正樹
幼児教育史学会会長 太田素子
(6月16日追加分)
日本教育制度学会会長 清水一彦
(6月18日追加分)
日本教師教育学会会長(理事長) 三石初雄
(6月23日追加分)
日本カリキュラム学会代表理事 長尾彰夫
(7月4日追加分)
日本環境教育学会会長 諏訪哲郎
(7月10日追加分)
日本体育科教育学会会長 岡出美則
(7月12日追加分)
日本地理教育学会会長 竹内裕一
(7月14日追加分)
日本学校保健学会理事長 衛藤隆
(7月26日追加分)
北海道教育学会会長 姉崎洋一
(7月31日追加分)
日本教育方法学会代表理事 深澤広明
 
付記1:教育史学会は2017年5月8日に別途独自に声明を公表しています。
付記2:日本カリキュラム学会理事有志・日本教育方法学会会員有志により、2017年5月25日付で別途独自の提言を公表しています。
印刷用PDF(2017年7月31日更新)はこちらから
(引用終わり)
 
 上記「声明」の中心となったと思われる一般社団法人日本教育学会が、このたび、「教育勅語の教材使用問題に関する研究報告書」という報告書を文部科学省に提出するとともに、ホームページ上にPDFファイルをアップして公開し、誰でも読めるようにしてくれています。
 まず、昨日(12月12日)行われた記者会見の模様を伝えた東京新聞を引用します。
 
東京新聞 2017年12月13日 朝刊
教育勅語容認は「歴史ゆがめる」 教材否定せぬ政府に教育界反論
(抜粋引用開始)
 教育勅語を教育現場で肯定的に扱うことは否定されないといった今春の国会での政府見解について、教育学の研究者らでつくる日本教育学会は十二日、「歴史的事実をゆがめるものだ」と批判する報告書を文部科学省に提出した。東京都内で記者会見した広田照幸会長らは「道徳教育に(政府見解を)利用する人が出るかもしれない。現場の影響が心配だ」と危機感を示し、見解の撤回などを求めた。(原尚子)
 「戦後否定された価値観を子どもたちに押しつけることになる。大きな危惧を持っている」。同学会の教育勅語問題ワーキンググループの座長を務めた名古屋大学の中嶋哲彦教授は会見で声を強めた。
 政府見解が示されたきっかけは今年二月、大阪市の学校法人「森友学園」の系列幼稚園で園児に教育勅語を暗唱させていたことが取り上げられたことだった。これを問題視する野党議員に、政府は「普遍的な内容が含まれている」などとして、「(憲法教育基本法に反しない)適切な配慮のもとに」使用を容認する見解を示した。当時の稲田朋美防衛相も「(教育勅語の)核の部分は取り戻すべきだ」などと答弁した。
 報告書は、政府が普遍的とする「親孝行、兄弟仲良く…」というくだりは「危急の大事が起こったならば一身を捧(ささ)げて皇室国家のためにつくせ」という言葉に続いていると指摘。これは日本国憲法の三原則「国民主権基本的人権の尊重、平和主義」のいずれにも反すると批判している。
 さらに、「教育勅語を唯一の指導原理とする教育は許されないが、原理の一つとしてなら可能」とする政府見解にも、「根拠としている一九四六年の文部次官通牒(つうちょう)(通達)は国会決議で否定されている」と反論した。
 中嶋教授は会見で「憲法に反するのは明らかなのに、政府が教育勅語を違反と認めなかったので、現場がミスリードする可能性がある」と危ぶんだ。
 文科省は取材に「教育勅語憲法教育基本法制定の時点で失効し、もはや意味を成さないものと認識している。何が憲法教育基本法に反するかは個別の事例ごとに各学校の設置者や都道府県が判断するものと考える」と答えた。
(引用終わり)
 
 ちなみに、その「報告書」をざっと閲覧したところ、資料を含めて全291ページに及ぶ大部なものなので、ここでは、「はしがき」と「目次」のみ引用します。
 あと2週間ほどで年末年始休暇に入る人も多いと思いますが、少し時間のやりくりをして、この「報告書」に目を通す価値はあるのではないかと思い、ご紹介することとしました(私も何とか読んでみたいと思います)。
 第Ⅲ部・資料編だけで全体の約半分の分量を占めており、この「報告書」が、後世、第二次安倍政権下における教育勅語復活の動きを検証する際の必読・基礎文献となることは間違いないでしょう。
 
教育勅語の教材使用問題に関する研究報告書
2017年12月
一般社団法人日本教育学会 教育勅語問題ワーキンググループ
(抜粋引用開始)
はしがき
 今春(2017年)の第193回国会では、教育勅語を教材として使用することの可否をめぐって論議が交わされました。その発端は森友学園の小学校設置に際しての国有地取得の不正疑惑でしたが、同学園の経営する塚本幼稚園で園児に教育勅語の「奉唱」をさせていたことなどをめぐり、野党議員らからこのような形で教育勅語を使用することは不適切ではないかとの質問が相次ぎました。しかし政府は、憲法教育基本法に反しない限りは使用できるという趣旨の閣議決定や答弁を繰り返し、その判断は都道府県と各学校にゆだねるとしました。なかには教育勅語の朗読や暗唱さえも可であると受け取られかねない答弁・発言もありました。こうした政府の姿勢は、今後、教育勅語を教材として学校教育で肯定的に扱う道につながりかねません。また、その判断を都道府県や教育委員会・学校現場にゆだねるということは、教育勅語の扱いをめぐって教育現場での戸惑いや混乱を広げることにもなりかねません。
 こうしたことから一般社団法人日本教育学会は、これまでの本学会等での研究蓄積を踏まえて、教育現場などを含め広く社会の中で考え、判断する際の指針となる報告書を作成・公開することとしました。
 報告書は3部構成となっています。第Ⅰ部本編ではこれまでの教育学界等での研究成果を踏まえ、教育勅語とは何であったのか、戦後改革においてその処理はどうなったかなど、これまでの歴史を確認した上で、現在の学習指導要領や教科書での教育勅語の扱われ方を検討しました。また第193回国会における教育勅語をめぐる審議について検討し、この事案に対する政府答弁の問題点を明らかにしました。こうした検討を踏まえ、教育勅語やその理念を指導原理にすることはできないなど学校教育で教育勅語がどう扱われるべきかの基本的観点を明らかにしました。
 第Ⅱ部Q&A集は本報告書のエッセンスを簡潔に理解していただくためのものです。但し短い文章で表現していることから、正確に理解いただくために、是非とも本編の該当箇所を併せてお読みください。対応する箇所(頁)をQ&A各項の末尾に明示してあります。
第Ⅲ部資料編では、教育勅語の原文等、1948年衆参両院の教育勅語の排除・失効確認決議をはじめとした戦後改革期における直後処理に関する基本的資料、第193国会での教育勅語問題審議に関する政府答弁書・議事録や閣僚の記者会見記録を収録しました。また併せてこの問題に関して学会等各団体が公表した声明や意見表明、各新聞社の社説等を収録しています。
 なお本報告書の作成に至る経過は以下の通りです。
 この問題が国会内外で注目されるようになる中で、本学会は法人理事会においてこの問題に対応するためのワーキンググループを組織するとともに、教育関連学会連絡会加盟の各学会会長に呼びかけて、教育関連学会会長連名の意見表明を行うこととしました。意見表明については「政府の教育勅語使用容認答弁に関する声明」(本報告書・資料編収録)として 2017 年6月 17 日、文部科学省記者クラブで公表・記者会見を行いました。記者会見には本学会会長のほかに、賛同学会長として日本社会教育学会・日本体育学会・幼児教育史学会の各会長が同席しました。(なお 2017年7月31日現在、26学会長が賛同)
 また日本教育学会は2回にわたり公開シンポジウムを開催し、この問題についての議論を深めてきました。6月18日にはその1回目として、早稲田大学戸山キャンパスを会場に公開シンポジウム「教育勅語問題を考える」を開催しました。シンポジウムでは下記の3人の報告を受けて、討論を行いました。
 「政府の教育勅語容認答弁の問題点」 中嶋哲彦(名古屋大学
 「1948 年教育勅語排除・失効確認決議の意義」 三羽光彦(芦屋大学
 「教育勅語と唱歌―儀式による共存関係を中心に」 有本真紀(立教大学
 ワーキンググループでは、このシンポジウムの成果も踏まえたうえで上記の趣旨の資料として「教育勅語問題に関する研究報告書」を作成することとして、シンポジウムは詳しく触れることができなかった部分を加え、報告書案をまとめました。この案について、日本教育学会会員並びに教育関連学会会長共同声明賛同学会から報告書案への意見を募るとともに、9月 30 日に第2回公開シンポジウムを法政大学市ヶ谷キャンパスで開催しました。
 「『教育勅語の教材使用問題に関する研究報告書案』の骨子について」中嶋哲彦(名古屋大学)
 「意見表明」米田俊彦(教育史学会代表理事お茶の水女子大学)瀧澤利行(日本生活指導学会理事・茨城大学)冨士原紀恵(日本カリキュラム学会理事・お茶の水女子大学
 本報告書は、このシンポジウム及び日本教育学会に寄せられた意見等を踏まえ、ワーキンググループを中心に推敲を加えたものです。
 戦後改革により公教育の場からは排除されたはずの教育勅語は、今回に限らず、これまでにも何度かその復活を示唆する政府閣僚等の発言が国会内外で繰り返されてきました。今後もそのような事態が生じる可能性は否定できません。そのためにも本報告書が広く活用されることを願います。
(文責・乾彰夫)
日本教育学会教育勅語問題ワーキンググループ
中嶋哲彦(座長・名古屋大学
乾彰夫(副座長・首都大学東京名誉教授)
大橋基博(名古屋造形大学
小野雅章(日本大学
折出健二(人間環境大学
澤田稔(上智大学
寺崎里水(法政大学)
村田晶子(早稲田大学
 
【 目 次 】
第Ⅰ部 本編
第1章 教育勅語の内容と実施過程―教育勅語は学校教育に何をもたらしたのか― 
     小野 雅章(日本大学
第2章 学校儀式と身体―教育勅語と唱歌の共存関係を中心に―
     有本 真紀(立教大学
第3章 戦後における教育勅語の原理的排除
     三羽 光彦(芦屋大学
第4章 教育勅語は学習指導要領・教科書でどのように扱われているか
     本田伊克(宮城教育大学
第5章 第193国会における教育勅語使用容認論とその問題点
     中嶋哲彦(名古屋大学
第6章 学校教育における教育勅語の扱いについて
     中嶋哲彦(名古屋大学
第Ⅱ部 Q&A
第Ⅲ部 資料編
(引用終わり)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから/教育勅語関連)
2017年3月25日
鈴木邦男さんの「愛国」スピーチ@3/19国会正門前~全編文字起こし
2017年4月8日
教育勅語に関する安倍晋三内閣の立場を再確認する~初鹿明博衆議院議員質問主意書に対する答弁書を読んで
2017年5月7日
教育研究者有志による「教育現場における教育勅語の使用に関する声明」(4/27)のご紹介と賛同のお願い
2017年5月22日
越野章史さん(和歌山大学教育学部)スピーチ全文「教育勅語共謀罪がもたらす社会」~5/20「安倍政権に反対する和歌山デモ」から

丹羽宇一郎氏が「歴史の節目の日」に発表する論考(東洋経済ONLINE)を読む~『戦争の大問題』その後

 2017年12月12日配信(予定)のメルマガ金原.No.3014を転載します。
 
丹羽宇一郎氏が「歴史の節目の日」に発表する論考(東洋経済ONLINE)を読む~『戦争の大問題』その後
 
 伊藤忠商事の社長、会長を歴任した後、民主党政権時代の2010年6月から2012年12月まで、中華人民共和国駐箚特命全権大使を務めた丹羽宇一郎(にわ・ういちろう/1939年1月生)は、大使退任後の2015年には、公益社団法人日本中国友好協会の代表理事会長に就任されています。
 
 また、今年の8月4日に東洋経済新報社から刊行した著書『戦争の大問題』が大きな反響を呼び、10月には赤旗の「焦点・論点」欄で大きく著者へのインタビューが取り上げられました(後に読んだのですが)。
 その一部を引用してみましょう。
 
(抜粋引用開始)
 最近の反中、嫌韓の世論も気になります。相手をバカにし、敵意を持てば、相手も同じ感情を持ちます。人は自分の鏡です。いくら相手をバカにしても、それで自分が立派になることはありません。一時的に留飲は下がりますが、自分自身の尊厳も下げます。
 お互いに共通することだけでなく、違っていることを認め受け入れることが基本です。敵意や戦意をあおるのは、平和友好を説くよりもずっと簡単で、国民の感情的な支持は得やすいものです。現在の日本でも、北朝鮮や韓国、中国に対し、強硬な議員の方が支持を得やすいでしょう。
 日本人に限らず、外国と対立すると、国民は強硬論を好む傾向にあります。慎重論は弱腰とされ、政府の政策が強硬になるとメディアも自由を失い、強硬論以外は排除されていきます。戦前のメディアがまさにそうで、いままた同じ過ちを繰り返そうとしています。
(略)
 日本が目指すべきは世界中から尊敬される国です。尊敬される国とは世界を屈服させる国ではなく、世界が感服し、見本となる国です。平和的手段で問題を解決するというのは当たり前のことです。
 歴史は勝者がつくるものといわれます。日本が目指すべきは「敗者の歴史」を冷静に検証する国です。
 相手にいかに非があっても、武力で正す方法は避けなければいけません。戦争による解決は選んではいけないのです。
(引用終わり)
 
 このような丹羽さんの発言は、昨日、今日言い出されたことではありませんが、ネトウヨ界隈やその周辺からの誹謗中傷(少しネット検索してみればぞろぞろヒットします)にもめげず、「今言っておかなければ」という義務感・切迫感が直接伝わってくるような発言を続けておられます。
 特に、『戦争の大問題』の版元である東洋経済新報社が運営する「東洋経済ONLINE」に掲載を続けている論考の内容を確認すると、その感を強くします(「習近平の3期目はない」というような観測を記したものもありますけど)。
 以下に、『戦争の大問題』を刊行した今年の8月以降、戦争を振り返る際に節目となる日に丹羽さんが「東洋経済ONLINE」に発表した論考をご紹介したいと思います。
 その節目の日というのは、以下の5日です。
 
8月 6日 広島への原爆投下(1945年)
8月15日 敗戦の国民への公表(1945年)
9月18日 満州事変開戦(1931年)
9月29日 日中国交正常化(1972年)
12月8日 太平洋戦争開戦(1941年)
 
 おそらく、節目の日に「東洋経済ONLINE」に掲載された論考は、『戦争の大問題』の続編として刊行されることになるのでしょう。
 是非皆さんにもお読み戴きたく、ご紹介します。
 
いま聞かないと「戦争体験者」がいなくなる
「母は必死に座布団で焼夷弾の火を消した」
丹羽 宇一郎:元伊藤忠商事社長・元中国大使 2017年08月06日
(抜粋引用開始)
 私の記憶にある戦争体験は1945年3月の名古屋大空襲だ。米軍機の空襲を受け、母と兄弟5人で防空壕に逃げ込んだ。そのとき投下された焼夷弾のひとつは防空壕の入り口に落ちた。焼夷弾は発火し、防空壕の中に炎が吹き込んできた。そのため母は必死になって座布団で焼夷弾の火を消していた。
 その後、一家焼夷弾の炎の道を縫うように走った。まるで道の両側に焼夷弾のろうそくの列があり、ろうそくの灯りに照らし出された道の上を艦載機の機銃に追われ走っているような光景は、いまでも鮮明に憶えている。戦後72年経ったいまでも時折、夢に見るほどだ。これが私にとっての戦争である。
(略)
 故田中角栄元首相は「戦争を知っている世代が政治の中枢にいるうちは心配ない。平和について議論する必要もない。だが、戦争を知らない世代が政治の中枢となったときはとても危ない」と若い議員によく言っていたという。
 われわれはいま貴重な戦争の語り部を失いつつある。体験の裏付けのない戦争論も非戦論もどこか弱く、空々しい。だが、それでもわれわれは追体験によって真実を推し量るという行為まであきらめてはいけない。 
(略)
 しかし、近年の世界情勢や、反中、嫌韓の世論を見ていると、日本が戦争当事国になる危険を感じることさえ禁じえない。私が最も危惧するのは、日本の世論に強硬論が目立つことである。
 戦前の日本も国民感情が対米強硬論、対中強硬論へ先鋭化するとともに、その反動として親ドイツ、親イタリアの論調が高まった。結局、それが世界を相手にする戦争へ日本を突入させる要因の1つとなる。
 強硬論、好戦的な発言が飛び交う背景には、戦争体験者が少なくなったという問題があると思われる。戦争を知らない世代は、戦争というものを具体的にイメージできない。戦争を知らずに、気に入らない国はやっつけてしまえという勢いだけがいい意見にはどこかリアリティがない。彼らはどこまで戦争を知っているのだろうか。
 私自身も、戦争はわずかに記憶の片隅にある程度だ。それでも、冒頭に書いたように、時折、名古屋大空襲で炎の中を逃げる夢を見る。幼心の記憶が、いまも鮮明に脳に刻まれている。
 中国や北朝鮮に対し強硬な意見を述べる人たちは、戦争の痛みも考えず、戦力の現実も知らないまま、勢いだけで述べているのではないか。戦争を知って、なお戦争も辞せずと主張するのなら、私とは相いれない意見ではあるが、それも1つの意見として聴こう。しかし、戦争を知らずに戦争して他国を懲らしめよという意見が人の道に反することだけは間違いない。
 われわれは、一度、戦争の真実を追ってみるべきだ。それは私とは意見を異にする人たちとともにやってもよい。そのうえでもう一度、日本の平和と防衛を考えてみるべきではないか。
 2017年8月6日、72年前に広島に原爆が投下されたこの日に私が思うのは、唯一の被爆国である日本には、戦争をしない世界をつくる使命があるということだ。この一点に尽きる。
(引用終わり)
 
戦後72年「戦後はまだ終わっていない」理由
日本人は勇気をもって「敗者の歴史」を学べ
丹羽 宇一郎:元伊藤忠商事社長・元中国大使 2017年08月15日
(抜粋引用開始)
 昭和天皇は1975年を最後に靖国神社を訪れなくなった。今上陛下も靖国に行かれていない。その理由にはA級戦犯の合祀があるといわれる。古賀氏の言う「陛下がご親拝できる環境を整える」とはA級戦犯分祀である。古賀(誠)氏はこう言われた。
 「マリアナ沖海戦以後に200万人の日本人が死んでいます。マリアナ沖海戦は1944年6月です。マリアナ沖海戦で戦争をやめていれば東京大空襲はなかったし、日本全国の主要都市を襲った大空襲もなかった。沖縄戦もなかった。広島、長崎の原爆投下もなかったのです。日本はあのとき戦争をやめる決断をするべきだった。それをしなかったのは為政者の責任です」
 「決断するべき決断をせずに、大変な犠牲者を出した為政者と一緒に祀られることを英霊がよろこぶはずがありません」
 古賀氏が最後に口にした言葉は印象的だった。
(略)
 私は、日本人はあえて「敗者」の歴史を、勇気を持って学ぶべきと思う。普通の国は「勝者」の歴史を学ぶが、日本が目指すべきは敗者の物語も真摯に検証していく「特別な歴史」の学びである。
 検証すべきことは何か。それは、戦争は国民を犠牲にする。戦争で益する人はいない。結局、人も物もすべてを害する。特に弱い立場の人ほど犠牲になる。日本は二度と戦争をしてはいけないということである。これらは敗者の歴史からしか学べない重要なことだ。
 戦争を知っている世代が元気で、政治の中枢にいた時代は現代史を知らなくてもまだよかった。しかし、戦争を知っている人がいなくなっていく現在、日本人は文献や記録からだけでも戦争を学び知らなくてはいけない。
 日本は無責任文化から決別し、現代史を学ぶべきである。それが敗者の歴史に重要な区切りをつける最後の年になりつつある今年の8月15日に、私が強く言いたいことだ。
(引用終わり)
 
北朝鮮政策は、「満州事変の教訓」から学べ
86年前、なぜ日本は「暴走」したのか
丹羽 宇一郎:元伊藤忠商事社長・元中国大使 2017年09月18日
(抜粋引用開始)
 北朝鮮のミサイルと核は由々しき問題であるが、『戦争の大問題』で述べているように、問題を力対力で解決しようとすれば必ず戦争になる。それが先の大戦を体験した先人たちが、身をもってわれわれに教えてくれたことだ。
 北朝鮮に対しては圧力と制裁をもって臨むべきという意見が多い。かつて「対話と圧力」と言っていた人物まで、対話を忘れたかのように圧力と制裁が必要と繰り返している。確かに弾道ミサイルと核実験を繰り返す北朝鮮相手には、対話は手ぬるいように思えることもある。北朝鮮は周辺国に対して挑発的な態度を取り続け、対話のムードはみじんもない。われわれは、北朝鮮は言葉で言ってわかるような相手ではないと見限りがちだ。
 しかし、そもそも利害の対立する両国で、初めから意見が一致しているはずがない。言ってわからない相手は、力で懲らしめるというのでは、満州事変から日中戦争へと進んでいったときの日本人の意識にほかならない。意見の違いを乗り越え、妥協点を見いだすのが対話の目的である。初めから言ってわからない相手と見下していては、対話は成り立たない。
 お互いが相手を物わかりの悪い、話にならない国民と見下して、対話のための努力を放棄したのは戦前の姿そのものである。世論もそれに同調した。戦前の新聞紙面に躍った「不法背信暴戻止まるところを知らぬ」の文言や「膺懲」という文字は今日の新聞にはないが、論調はどこか似通っている。
 私は、仮にも2500万人の国民を率いるリーダーが、対話もできないような野蛮人ということはありえないと思っている。対話する余地があるのに相手に“力”をかけ、窮鼠(きゅうそ)に追い込み対話を放棄することは、とても危険なことである。
 日本は戦前の轍を踏んではならない。力対力は決して選んではいけない。日本人は、なぜ戦争が起こるのか、なぜ戦争を終わらせることが難しいのか、満州事変から終戦までの歴史をもう一度振り返る必要がある。それが、86年前に満州事変が起きた今日9月18日に、私が言いたいことである。
(引用終わり)
 
田中角栄×周恩来尖閣密約」はあったのか
日中問題は45年前の智慧に学べ
丹羽 宇一郎:元伊藤忠商事社長・元中国大使 2017年09月29日
(抜粋引用開始)
 ほんの小さな小競り合いからでも、全面戦争に至ることがある。
 もし、尖閣諸島周辺で日中衝突となったら、はたして国民は冷静でいられるだろうか。世論の後押しを受ければ事態はエスカレートする。そうなればもはや小競り合いでは済まなくなる。全面戦争に至る可能性は否定できないだろう。
 こうした想像が根も葉もない妄言と一蹴されるなら、そのほうがよい。だが、武力衝突が起きれば、それが小規模であっても国民の間にある反感や得体の知れない恐怖は、明確な敵愾心(てきがいしん)に変わり、攻撃的な感情がむき出しになるのではないか。おそらくそうなるだろう。
 領土主権がどちらにあるかは戦争をしなければ解決しない。これは古今の戦争の多くが国境紛争から始まったことからもわかる。
 領土であれ、権益であれ、それは国民を豊かにする手段である。しかし、領土に関しては、国民の間で合理的な思考が止まりがちだ。現代の戦争で利益を得ることはない。戦争は勝っても損、負ければ大損である。
 われわれは、尖閣諸島の領有権にあえて白黒をつけず、棚上げとしたまま国交を回復させた日本と中国の先輩たちの智慧(ちえ)に学ぶべきだ。それが、45年前に日中の国交が正常化した今日9月29日に、私が言いたいことである。
(引用終わり)
 
太平洋戦争「開戦の日」に考えてほしいこと
現代史は日本人が学ぶべき最重要科目である
丹羽 宇一郎:元伊藤忠商事社長・元中国大使 2017年12月08日
(抜粋引用開始)
 歴史(History)とは勝者の物語(Story)である。歴史はただ事実を時系列に並べただけのものととらえるのは、あまりにもナイーブだ。同じ出来事でも国によって解釈が異なる。その解釈が「歴史」なのである。事実を勝者にとって都合よく意味づけ、勝者を正当化したものが歴史だ。
(略)
 われわれ日本人には勝者の現代史はない。あるのは敗者の物語だ。だが、勝者の歴史は勝者を正当化するため、過去の出来事を脚色し、勝者の正当化を図る。一方、敗者の歴史は過去の事実を粉飾する必要はなく、歪曲することも求められない。
 勝者の歴史は、過去から現代までで終わるが、敗者の歴史は過去の事実から学んだことを未来のために生かす。敗者である日本の現代史は、未来志向の歴史なのである。
 日本の現代史は敗者の物語であるが、日本人はあえて敗者の現代史を、勇気を持って学ぶべきである。そして、学ぶべき眼目で最大のものが、戦争をしない、戦争に近づかないための知恵である。
 戦争は国民を犠牲にする。戦争で得する人はいない。結局みんなが損をする。特に弱い立場の人ほど犠牲になる。日本は二度と戦争をしてはいけない。これは敗者の歴史からしか学べないことだ。だから日本人は現代史を学ぶべきなのである。
 戦争を実際に知っている人がいなくなっている今日、日本人は文献や記録からだけでも戦争を知らなくてはいけない。現代史は日本人が学ぶべき最重要科目である。
 私は「あの戦争は正しかった」という発言があってもよいと考えている。問題は正しかったか、間違っていたかではないからだ。
 アメリカは広島、長崎への原爆投下を正しかったとしている。しかし、原爆投下の判断がどんなに正しかろうとも、原爆がもたらした惨状を肯定できるはずがない。正しかろうと、正しくなかろうと、人々を不幸のどん底に突き落とす戦争をしてはいけない。戦争が引き起こす悲惨さを、戦争なのだから仕方がないで済ませるようであれば、世界は日本国民を歴史から学ぶことを忘れた愚か者と言うだろう。
 戦争に近づいてはいけない。これを日本のみならず、世界各国の共通の歴史認識としていくことが、日本国民の叫びであり、われわれが現代史を学ぶ意味とすべきだ。これが開戦の日である今日12月8日に私が言いたいことである。
(引用終わり)
 
 最後に、10月20日、日本記者クラブに招かれて丹羽さんがお話された動画を視聴できます。会見リポートの末尾に「丹羽さんは、本書をはじめ著書の印税を、中国から日本に来る私費留学生の奨学金として全額寄付している。本の出版は、隣国とのパートナーシップづくりのためでもあるのだ。」と書かれているのを読んで驚きました。正直、すごいなあと思います。
 
著者と語る『戦争の大問題』 丹羽宇一郎 元中国大使 2017.10.20(1時間37分)
(会見リポートから引用開始)
悲惨な戦争の事実知るべき
 40年ほど前、わざわざ終着駅のある郊外に家を構えたのは、座って本を読む時間を捻出するためだった。2010年、民間出身では初の中国大使に就任、日中友好協会会長を務める今も、始発駅からの1時間の読書が「極上です」という活字の虫は、新聞も丹念に読む。1つの記事を書くために記者がいかに足を使っているかは、伊藤忠商事のアメリカ駐在時代、穀物相場の現場を歩いた経験からよく知っている。だからこそ自分が本を書くときにも取材する。
 戦後72年目のこの夏出版した『戦争の大問題』(東洋経済新報社)では戦争体験者、軍事専門家に聞いて歩き、いかに戦争が人間性を狂わせるかを事実で示した。「人間は動物的で賢くもあれば、鬼や邪になることもある非合理な存在。その人間を愚かにする戦争の真実から目を覆ってはいけない」
 世界の指導者の多くに戦争体験がなく、戦争を格好いいと思いこんでいる若い世代がいることに危機感を覚える。「私たち日本人には原爆の惨禍を知っている人もいる。戦争の悲惨な事実を知ってもらおうと、この本を書きました」
 北朝鮮の核・ミサイル開発を巡り米朝対立が激化していることを懸念している。最大の心配は、金正恩体制下の北の指導層と対話のチャンネルを持っている国が少ないことだ。「力で圧力をかけてごめんなさいという国はないし、力ずくで頭を下げろというのは子どもの喧嘩。窮鼠猫を噛む、ではないが、戦前にアメリカがハル・ノートで日本を追い込み、戦争になったように、力で北朝鮮を追いつめる〝出口なき戦略〟は暴発を生む可能性がある」と憂慮した。
 ビジネスも外交も基本は「信頼関係」という丹羽さんは、本書をはじめ著書の印税を、中国から日本に来る私費留学生の奨学金として全額寄付している。本の出版は、隣国とのパートナーシップづくりのためでもあるのだ。
読売新聞社編集委員  鵜飼 哲夫
(引用終わり)

開催予告2/24「八法亭みややっこの憲法噺」(憲法9条を守る和歌山市共同センター)

 2017年12月11日配信(予定)のメルマガ金原.No.3013を転載します。
 
開催予告2/24「八法亭みややっこの憲法噺」(憲法9条を守る和歌山市共同センター)
 
 昨日のブログ(希望の37人が参加して大成功!「政治をなおそうデモ2」)の(付録2)としてご紹介した「八法亭みややっこの憲法噺」(憲法9条を守る和歌山市共同センター)を、(付録)のままでは埋もれてしまい、情報拡散の役に立ちませんので、あらためて一本立ちさせることにしました。 
 まずは、昨日(付録)として書いた本文とチラシからの転記情報を再掲します(一部手直ししました)。
 
 昨日の「政治をなおそうデモ2」で最高齢スピーカー(?)として登壇した深谷登(ふかや・のぼる)さん。昨日は、日本年金者組合和歌山県本部書記長としてのスピーチでしたが、深谷さんには、「憲法9条を守る和歌山市共同センター」(市9条センター)事務局長(だったかな)という顔もあり、デモスタート前に、2月に行う企画のチラシを戴きましたので、その内容を速報します。
 もともとも、市共同センターは、例年なら10月ころに憲法講演会を開催していたのですが、当初予定していた講師候補者の泥憲和さんが急逝されたため、秋の企画は断念し、2月に別企画をやることになったようです。
 以下、チラシ記載情報を転記します。
 
(引用開始)
安倍9条改憲NO!3000万署名推進  
八法亭みややっこの憲法
 
 目からうろこの憲法
 暮らしのなかに息づく憲法
 縦横無尽に語ります
 
日時 2018年2月24日(土)午後1時30分~4時
場所 和歌山市勤労者総合センター 6階
口演 八法亭みややっこ さん
資料代 500円(高校生以下無料)
 
弁護士 飯田美弥子(みややっこ)プロフィール
水戸一校落研出身。離婚後に、司法試験合格。八王子合同法律事務所所属のため「八法亭みややっこ」と名乗る。
ハンセン病国賠訴訟弁護団京王電鉄バス分社化リストラ争議弁護団、高尾山にトンネルを掘らせない天狗裁判弁護団、再審布川事件弁護団、痴漢えん罪沖田国賠事件弁護団、日の丸君が代強制反対裁判弁護団(市立中学校教師)などに参加、そのほか労働事件・市民事件など、弁護士業務の傍ら、憲法落語を始めたところ、全国から依頼が殺到中!
著書等「八法亭みややっこの憲法噺」「八法亭みややっこの日本を変える憲法噺」「八法亭みややっこの世界が変わる憲法噺」
 
主催 憲法9条を守る和歌山市共同センター
連絡先:和歌山市湊通り丁南1丁目1-3 和歌山地区労内 TEL:073-436-3578
(引用終わり)  
 
 ここからは、上記の基本情報に付随した参考情報です。
 まず、「八法亭みややっこ」こと飯田美弥子(いいだ・みやこ)弁護士のプロフィールに補足するとすれば、去る10月22日に投開票が行われた第48回衆議院議員総選挙において、東京24区(重複立候補した比例・東京ブロックの名簿順位は6位)から立候補(日本共産党公認)したものの、惜しくも当選には至らなかったことでしょうか。
 ちなみに、今回の選挙、東京ブロックでの共産党の当選者は2人でしたから、そもそも当選可能性はそんなに高くなかったでしょう。
 
 なお、飯田弁護士が、法学館憲法研究所「今週の一言」コーナーに寄せた短文と、マガジン9「伊藤塾・明日の法律家講座レポート」をご紹介しておきます。
 
法学館憲法研究所「今週の一言」 2014年3月31日
歴女」の自民党改憲案批判
(抜粋引用開始)
 私は私なりに、日本を、日本文化を愛している。茶道の茶名を持ち、書道も四段で、しばしば歌舞伎や能も観に行く。
 和服を着て座布団に座り扇子を持って…という、落語スタイルで、自民党改憲案を批判する講義もしている(「高座」と呼んでいる)。
 日の丸に正対して君が代を大きな声で歌うか否かで、私の愛国心を測って欲しくない。
 私は、日の丸君が代強制反対の裁判も担当したが、都教委の「日の丸」正当化の根拠も誤りだった。都教委は、日の丸を、「平家物語」以来、国民に定着した旗印だと主張していた。とんでもないことだ。屋島の闘いで、那須与一が射抜いたのは、「みなぐれないに日のいだしたる」、すなわち、紅地に金の丸の扇だったのだ。白地に赤い日の丸ではない。
 白地に赤い日の丸は、せいぜい明治時代から定形化されたにすぎない。
 欺瞞や強制で、愛は生まれない。というより、愛される自信があれば、欺瞞や強制は必要ない。
 政府自民党には、かつての過ちも含めたこの国の歴史を、丸ごと愛する姿勢を求めたい。歴史を都合よくつぎはぎすることは、本当にみっともない。
 「間違ったことなどしたことない。」と誤魔化している人ほど、自分の国に自信を持っていないように感じられるのは、私だけだろうか。
(引用終わり)
 
マガジン9「伊藤塾・明日の法律家講座レポート」 2015年7月29日@東京校
今の憲法は日本の宝、世界の宝~八法亭みややっこの憲法  飯田美弥子 氏
(抜粋引用開始)
はじめに
 飯田美弥子さんは、週末になると「八法亭みややっこ」として落語で「憲法噺」をされているユニークな弁護士です。飯田さんがこのスタイルで憲法のことを話すようになったのは2013年5月から。以来、評判を呼んだこの噺を100回以上全国各地で演じてこられました。飯田さん自身も想像しなかったというこの広がりは、「安倍政権による改憲論議に対して国民が漠然と感じている不安感によってもたらされている」と言います。この講座では落語を通じて、自民党がめざしている改憲案の問題点などを、わかりやすく伝えていただきました。
どうして「みややっこ」になったのか?
 私は月曜から金曜まで弁護士をして、この2年間は土日祭日に落語をやるという生活を続けています。2012年の暮れに第二次安倍政権が発足しました。それで危機感を持った私は2013年の5月から八法亭みややっこを始めて、当初は八王子や近隣の市で「公演」をしていましたが、2014年春からは毎週末ほとんど着物を着て地方を回っています。早く安倍政権に退陣してもらわないと忙しくて仕方ありません(笑)。ちなみに「八法亭」という名前は八王子法律事務所からとったものです。
 こういう格好で憲法噺をするようになったきっかけは、私は弁護士ですから、憲法の話をして欲しいという講演依頼があるんですね。2013年5月に予定していた講演で主催者が事前に質問事項を送ってこられたのですが、「憲法は私たちの暮らしにどう活きているのですか?」と書いてあったんです。私はこの質問にイスからずり落ちそうになりました。というのも、この主催者の方たちはその前に伊藤塾塾長の伊藤真さんの憲法についての熱い話を聞いていたはずだからです。せっかく塾長の密度の濃い話を聞いて感激して帰っても、いざ自分の生活を振り返ると、憲法がどうつながっているのかわからないということでした。
 もしスーツ姿で行ってこういう質問を受けたら、思わずしかり飛ばしてしまうかもしれません。相手も「弁護士の先生」が相手だと構えて怖がってしまいます。そこで、高校時代にやっていた落語のスタイルでやってみようと考えました。こういう格好で座布団に乗って話したところ、同じ話をしても反応が違って、喜んでもらえたんです。初めてやった「みややっこの憲法噺」が評判を呼び、1回講座をやると2回お声がかかるという風に広がっていきました。今では来年6月まで予約が入っているという、何とも複雑な心境です。
(略)
日本国憲法の理念は13条にある
 大日本帝国憲法天皇が主権者だというお話をしました。それに対して日本国憲法国民主権ですね。ではその日本国憲法の一番大切な理念はなんでしょうか?それは憲法13条にある個人の尊厳原理というもので、「すべて国民は、個人として尊重される」という一文です。「幸福追求に対する国民の権利については、国政の上で最大限尊重される」というのは、「誰でも好きなように生きていいんだよ」と言っているのです。
 私はこのように、毎週休日を使って地方に行って落語をしています。「あぁ、この人は友達がいないさみしい人なんじゃないか」と思われているかもしれませんが、私はこの憲法の危機にじっとしてはおれないのです。何を幸せと思うかは人によって違うし、それを最大限追求することにおいて、憲法は保障してくれているのです。
 そして日本国憲法が先駆的な点は、平和でなければ幸福追求ができないということを70年前に見抜いているという事です。例えば3・11の原発事故が起きたときに、福島大学の副学長は「あれだけの被害が出た以上、他との比較ではなく、発電手段から原発を捨てなければならない」と言っていました。もう選択肢としては捨てて、電力が不足するならどう補うかということを考えればいいというのです。
 戦争についても同じ事です。日本国憲法ができたときこの国は「戦争という手段を捨てるんだ」と決めたのです。もちろん、日本だけが戦争を捨てるといっても「周りに怖い国が現れたらどうするの?」ということを言う人もいるでしょう。それでも、70年間戦争による死者を出していないという実績があります。
(略)
 最後に、堤未果さんが書かれた『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)という本から引用します。
 「無知や無関心は、『変えられないのでは』という恐怖を生み、いつしか無力感となって私たちから力を奪う。だが目を伏せて口をつぐんだ時、私たちは初めて負けるのだ。そして大人が自ら舞台を降りた時が、子どもたちにとって絶望の始まりとなる」
 子どもたちに絶望を手渡してはなりません。どうぞみなさん改憲阻止の声をあげてください。そして、自分ではうまく説明できないなと思ったら、どうぞみややっこを呼んでください。ありがとうございました。
(引用終わり)
 
 最後に、「八法亭みややっこ」さんによる高座(講座というべきか?)における口演(講演?)の模様を収録した動画をご紹介します。これが一杯(!)ある。どうやら主催者から「動画をYouTubeにアップしたい」という要請があれば、基本的に断らないという方針なのかもしれません。
 皆さんも、「八法亭みややっこ」で動画検索をかければたくさんヒットしますので、どれが面白そうか?ためになりそうかと考えて選んでみてください。
 ここでは、私が探した中では一番新しい、2017年2月19日に兵庫県三木市で行われた「笑って学ぼうみんなの憲法」をご紹介しておきます。
 
笑って学ぼうみんなの憲法20170219(1時間42分)
 
(参考文献)
『八法亭みややっこの憲法噺』(2014年5月/花伝社)
『八法亭みややっこの日本を変える憲法噺』(2016年5月/花伝社)
『八法亭みややっこの世界が変わる憲法噺』(2017年5月/花伝社)
 

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希望の37人が参加して大成功!「政治をなおそうデモ2」

 2017年12月10日配信(予定)のメルマガ金原.No.3012を転載します。
 
希望の37人が参加して大成功!「政治をなおそうデモ2」
 
(「政治をなおそうデモ2」フライヤーより)
 私たちは、デモを特別なイベントではなく生活の一部として、和歌山の文化のひとつとして広めていきたいと思っています。この街、日本、世界をほんのちょっとでもよくするために私たちはどう考え、何をしたらいいのか、と考え続けるために、あなたの参加をお待ちしています。
 
 以上のような“志”を持った若者たちが企画した「政治をなおそうデモ2」が本日(12月10日)和歌山市で行われ、参加してきました。
 午後3時10分過ぎにスタートし、ちょうど1時間半後の4時40分にゴールするという比較的長目のコースで、前回に引き続き、シュプレヒコールはなく、先導車(サウンドカー)の荷台をステージとして、代わる代わるスピーチを行っていくというスタイルのデモでした。
 今日は、「人権週間(12月4日~10日)」の最終日ということもあり、「人権を考える」というテーマでのスピーチが続きました。
 
 1948年12月10日、国際連合第3回総会において、世界人権宣言が採択されたことを記念し、2年後の第5回総会において、12月10日を「人権デー」と定め、全ての加盟国及び関係機関がこの日を祝賀する日とし、人権活動を推進するための諸行事を行うように要請する決議を採択しました。
※世界人権宣言(国連人権高等弁務官事務所サイト)
 
 我が国では、法務省と全国人権擁護委員連合会が、当時まだ国連への加盟は認められていませんでしたが、世界人権宣言の採択を記念し、1949年から毎年12月10日を最終日とする1週間(12月4日~同月10日)を「人権週間」と定め、世界人権宣言の趣旨及びその重要性を広く国民に訴えるとともに、人権尊重思想の普及高揚を図るため、様々な啓発活動を行うこととされています。
 私が、人権擁護委員の1人として、今年も12月4日の午前7時半から、手がかじかむ冷たさにもめげず(?)、JR和歌山駅前でウエットティッシュ配りをしていたのも、人権週間を記念しての啓発活動であった訳です。
法務省サイト「第69回 人権週間  平成29年12月4日(月)~10日(日)」
  
 今日のデモを企画した和歌山大学の学生やママの会有志の皆さんは、特に法務局や人権擁護委員連合会との関係などないと思いますが、ややルーティン化していることが否めない官製の人権啓発活動とは無関係な、このような人権についてのアピール行動はとても貴重なものだと思います。
 

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 スピーチの多くは和歌山大学の学生さん(観光学部、教育学部というのは確認できたけど、経済学部とシステム工学部はいなかった?)で、サンタ姿のWAVEの女性(ということは田辺から来てくれたのだろうか)もスピーチされていました。
 一緒に歩いていた若い男性と少しお話したところ、大阪からの参加者ということで驚きました。
 なお、中高年のスピーカーも2人いましたが、1人は和歌山大学教員(越野章史さん)、もう1人は和歌山大学16期生(深谷登さん)ということで、今日は、ほぼ和歌山大学尽くしに近く、大変心強いことでした。
 様々なテーマをめぐってスピーチが行われ、原稿を書かれていた人が多かったようなので、そのテキストを提供してもらえたらこのブログで紹介できるのに、と惜しい気がしますが、これは次回以降の宿題にしましょう。
 子どもの貧困問題や朝鮮人学校差別問題など様々な人権課題や、弱者が弱者を攻撃する世相の在り様など、人権をめぐる幅広い論点についてのスピーチが続きました。
 シュプレヒコールのないスピーチ主体のデモも2回目となり、だんだん慣れてきて「これもいいよね」という気がしてきました。もっとも、15分でゴールする「憲法の破壊を許さないランチTIMEデモ」でスピーチをやっている時間はないでしょうから、様々なスタイルのデモの1つということでしょうけど。
 
 今日のデモは、参加していてとても気持ちの良いデモでした。そういう雰囲気は周りにも伝わるのか、沿道からも、とても好意的な反応がたくさんあったように感じました。
 子どもたちも参加しているし、サンタクロースに扮した女性もいたりして、つい笑顔で迎えてしまうということだったのかもしれません。
 
 いつものように、私が参加者数をカウントし、そのメモを実行委員長の服部涼平さんに渡しておいたのですが、デモの最終盤で服部さんから参加者数が発表されたのを聞いていると、何と私が記載した「完全掛け値なしの実数」をそのまま発表していました。
 その実数を書いておきます。
 
 延べ参加者数(実数)  37人
  内訳(金原の判定による)
   子ども            5人
   若者(20代~30代)   16人
   中高年(40代以上)    16人   
 (カウント外)
  報道機関  3人
  警察官    4人(パトカー1台)
 
 正直、人数だけ見ればがっかりする数字なのですが、服部さんをはじめとする実行委員会の皆さんは決してめげていないと思いますし、私もそう思っています。
 その根拠は、今日のデモの内容が素晴らしかったという充実感、総参加者に占める若者比率(子どもを含めれば)が5割を超えているということ、多くの和歌山大学学生の皆さんが参加してくれたこと(変わり者が2~3人いるというレベルは確実に超えた)などからです。
 服部さんも言われていたように、デモのある風景が当たり前の和歌山になるように、「今回参加できない方は次回でも次々回でもいつでもどうぞ。」(フライヤーより)
 次は「目指せ200人!」ですね。

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 最後に、今回参加できなかった私の同僚(弁護士)の皆さんに一言。今日は、よんどころない所用があってやむなく不参加となったのでしょうが、次は何とか都合をつけて参加してくださいね。この若者たちが企画するデモは、和歌山にとってとても大事な希望の種火です。これが燃料不足で燃え尽きてしまわないように、息長く付き合っていく心掛けが重要だと思います。カンパもいいけれど、一時だけ出して途中で止めてしまう位なら、額を減らして長く続ける方がずっと良いと思います。ちなみに、今日参加した弁護士は、私とSさんの2人でした。 
 
(付録1)
憲法の破壊を許さないランチTIMEデモ」Facebookイベントページに登場!
 昨晩(12月9日)、来年1月17日(水)に行われる第43回「憲法の破壊を許さないランチTIMEデモ」のFacebookイベントページがいきなり出現しました。
 Facebook友達の山口あずささんから、是非イベントページを作るべきだと思うので、「作りましょうか?」と提案いただき、「よろしくお願いします」と返事したら「あっという間に」イベントページが出来上がりました。まことにありがとうございました。
 ちなみに、山口さんは、「安保法制違憲訴訟の会」の事務局次長の重責を担われている方です。
 毎回、毎回山口さんにイベントページを作ってもらう訳にもいきませんので、第44回以降(まだ日程が決まっていませんが)は私自身が作るべく、この年末年始休暇中にスキルを身につけるべく勉強しようと思っています。
 第43回のイベントページについても、FB友達を「招待」するという作業もあるのですが、どの範囲の人を「招待」するかなかなか悩ましい。とりあえず、Facebookをやる方は、是非このイベントページを「シェア」して、情報拡散にご協力ください。
[詳細]
第43回「憲法の破壊を許さないランチTIMEデモ」
主催:憲法9条を守る和歌山弁護士の会
連絡先:℡073-433-2241(和歌山合同法律事務所・弁護士森崎)
日程:2017年1月17日(水)
 正午:和歌山市役所前集合
 12時20分スタート
 約15分の行程
 ゴール地点の京橋プロムナードで流れ解散
備考:雨天決行(これまで何度か雨の中のデモをやりました。万一雨が降ったら雨合羽着用か傘持参でご参加ください) 
 
(付録2)
2月24日「八法亭みややっこの憲法噺」開催!(憲法9条を守る和歌山市共同センター)
 今日の「政治をなおそうデモ2」で最高齢スピーカー(?)として登壇した深谷登(ふかや・のぼる)さん。今日は、日本年金者組合和歌山県本部書記長としてのスピーチでしたが、深谷さんには、「憲法9条を守る和歌山市共同センター」事務局長(だったかな)という顔もあり、デモスタート前に、2月に行う企画のチラシを戴きましたので、その内容を速報します。
 もともとも、市共同センターは、例年なら10月ころに憲法講演会を開催していたのですが、当初予定していた講師候補者の泥憲和さんが急逝されたため、秋の企画は断念し、2月に別企画をやることになったようです。
 以下、チラシ記載情報を転記します。
(引用開始)
安倍9条改憲NO!3000万署名推進  
八法亭みややっこの憲法
 目からうろこの憲法
 暮らしのなかに息づく憲法
 縦横無尽に語ります
日時 2018年2月24日(土)午後1時30分~4時
場所 和歌山市勤労者総合センター 6階
口演 八法亭みややっこ さん
資料代 500円(高校生以下無料)
弁護士 飯田美弥子(みややっこ)プロフィール
水戸一校落研出身。離婚後に、司法試験合格。八王子合同法律事務所所属のため「八法亭みややっこ」と名乗る。
ハンセン病国賠訴訟弁護団京王電鉄バス分社化リストラ争議弁護団、高尾山にトンネルを掘らせない天狗裁判弁護団、再審布川事件弁護団、痴漢えん罪沖田国賠事件弁護団、日の丸君が代強制反対裁判弁護団(市立中学校教師)などに参加、そのほか労働事件・市民事件など、弁護士業務の傍ら、憲法落語を始めたところ、全国から依頼が殺到中!
著書等「八法亭みややっこの憲法噺」「八法亭みややっこの日本を変える憲法噺」「八法亭みややっこの世界が変わる憲法噺」
主催 憲法9条を守る和歌山市共同センター
連絡先:和歌山市湊通り丁南1丁目1-3 和歌山地区労内 TEL:073-436-3578
(引用終わり)  
 
(付録3)
Universal Declaration of Human Rights
『世界人権宣言』(1948.12.10 第3回国連総会採択)
〈前文〉
人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎であるので、
人権の無視及び軽侮が、人類の良心を踏みにじった野蛮行為をもたらし、言論及び信仰の自由が受けられ、恐怖及び欠乏のない世界の到来が、一般の人々の最高の願望として宣言されたので、 
人間が専制と圧迫とに対する最後の手段として反逆に訴えることがないようにするためには、法の支配によって人権を保護することが肝要であるので、
諸国間の友好関係の発展を促進することが肝要であるので、
国際連合の諸国民は、国連憲章において、基本的人権、人間の尊厳及び価値並びに男女の同権についての信念を再確認し、かつ、一層大きな自由のうちで社会的進歩と生活水準の向上とを促進することを決意したので、  
加盟国は、国際連合と協力して、人権及び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守の促進を達成することを誓約したので、
これらの権利及び自由に対する共通の理解は、この誓約を完全にするためにもっとも重要であるので、  
よって、ここに、国連総会は、  
社会の各個人及び各機関が、この世界人権宣言を常に念頭に置きながら、加盟国自身の人民の間にも、また、加盟国の管轄下にある地域の人民の間にも、これらの権利と自由との尊重を指導及び教育によって促進すること並びにそれらの普遍的措置によって確保することに努力するように、すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準として、この人権宣言を公布する。  
 
第1条
すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。
 
第2条
すべて人は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的もしくは社会的出身、財産、門地その他の地位又はこれに類するいかなる自由による差別をも受けることなく、この宣言に掲げるすべての権利と自由とを享有することができる。
さらに、個人の属する国又は地域が独立国であると、信託統治地域であると、非自治地域であると、又は他のなんらかの主権制限の下にあるとを問わず、その国又は地域の政治上、管轄上又は国際上の地位に基ずくいかなる差別もしてはならない。
 
第3条
すべての人は、生命、自由及び身体の安全に対する権利を有する。  
 
第4条
何人も、奴隷にされ、又は苦役に服することはない。奴隷制度及び奴隷売買は、いかなる形においても禁止する。  
 
第5条
何人も、拷問又は残虐な、非人道的なもしくは屈辱的な取扱もしくは刑罰を受けることはない。  
 
第6条
すべての人は、いかなる場所においても、法の下において、人として認められる権利を有する。  
 
第7条
すべての人は、法の下において平等であり、また、いかなる差別もなしに法の平等な保護を受ける権利を有する。すべての人は、この宣言に違反するいかなる差別に対しても、また、そのような差別をそそのかすいかなる行為に対しても、平等な保護を受ける権利を有する。  
 
第8条
すべての人は、憲法又は法律によって与えられた基本的権利を侵害する行為に対し、権限を有する国内裁判所による効果的な救済を受ける権利を有する。  
 
第9条
何人も、ほしいままに逮捕、拘禁、又は追放されることはない。  
 
第10条
すべての人は、自己の権利及び義務並びに自己に対する刑事責任が決定されるに当たって、独立の公平な裁判所による公平な公開の審理を受けることについて完全に平等の権利を有する。  
 
第11条
犯罪の訴追を受けた者は、すべて、自己の弁護に必要なすべての保障を与えられた公開の裁判において法律に従って有罪の立証があるまでは、無罪と推定される権利を有する。
何人も、実行の時に国内法又は国際法により犯罪を構成しなかった作為又は不作為のために有罪とされることはない。また、犯罪が行われた時に適用される刑罰より重い刑罰は課せられない。  
 
第12条
何人も、自己の私事、家族、家庭もしくは通信に対して、ほしいままに干渉され、又は名誉及び信用に対して攻撃を受けることはない。人はすべて、このような干渉又は攻撃に対して法の保護を受ける権利を有する。  
 
第13条
すべて人は、各国の境界内において自由に移転及び居住する権利を有する。
すべて人は、自国その他いずれの国をも立ち去り、及び自国に帰る権利を有する。  
 
第14条
すべて人は、迫害からの避難を他国に求め、かつ、これを他国で享有する権利を有する。
この権利は、非政治犯罪又は国際連合の目的及び原則に反する行為をもっぱら原因とする訴追の場合には、採用することはできない  
 
第15条
すべて人は、国籍をもつ権利を有する。
何人も、ほしいままにその国籍を奪われ、又はその国籍を変更する権利を否認されることはない。  
 
第16条
成年の男女は、人種、国籍又は宗教によるいかなる制限をも受けることなく、婚姻し、かつ家庭をつくる権利を有する。成年の男女は、婚姻中及びその解消に際し、婚姻に関し平等の権利を有する。
婚姻は、婚姻の意思を有する両当事者の自由かつ完全な合意によってのみ成立する。
家庭は、社会の自然かつ基礎的な集団単位であって、社会及び国の保護を受ける権利を有する。  
 
第17条
すべての人は、単独で又は他の者と共同して財産を所有する権利を有する。
何人も、ほしいままに自己の財産を奪われることはない。  
 
第18条
すべて人は、思想、良心及び宗教の自由を享有する権利を有する。この権利は、宗教又は信念を変更する自由並びに単独で又は他の者と共同して、公的に又は私的に、布教、行事、礼拝及び儀式によって宗教又は信念を表明する自由を含む。  
 
第19条
すべて人は、意見及び表現の自由を享有する権利を有する。この権利は、干渉を受けることなく自己の意見をもつ自由並びにあらゆる手段により、また、国境を越えると否とにかかわりなく、情報及び思想を求め、受け、及び伝える自由を含む。  
 
第20条
すべて人は、平和的な集会及び結社の自由を享有する権利を有する。     
何人も、結社に属することを強制されない。  
 
第21条
すべて人は、直接に又は自由に選出された代表者を通じて、自国の政治に参与する権利を有する。
すべて人は自国においてひとしく公務につく権利を有する。     
人民の意思は、統治の権力の基礎とならなければならない。この意思は、定期のかつ真正な選挙によって表明されなければならない。この選挙は、平等の普通選挙によるものでなければならず、また、秘密投票又はこれと同等の自由が保障される投票手続によって行われなければならない。  
 
第22条
すべて人は、社会の一員として、社会保障を受ける権利を有し、かつ、国家的努力及び国際的協力により、また、各国の組織及び資源に応じて、自己の尊厳と自己の人格の自由な発展とに欠くことのできない経済的、社会的及び文化的権利の実現に対する権利を有する。  
弟23条
すべて人は、労働し、職業を自由に選択し、公平かつ有利な労働条件を確保し、及び失業に対する保護を受ける権利を有する。
すべて人は、いかなる差別をも受けることなく、同等の労働に対し、同等の報酬を受ける権利を有する。
労働する者は、すべて、自己及び家族に対して人間の尊厳にふさわしい生活を保障する公平かつ有利な報酬を受け、かつ、必要な場合には、他の社会的保護手段によって補充を受けることができる。
すべて人は、自己の利益を保護するために労働組合を組織し、及びこれに加入する権利を有する。  
 
第24条
すべて人は、労働時間の合理的な制限及び定期的な有給休暇を含む休息及び余暇をもつ権利を有する。  
 
第25条
すべて人は、衣食住、医療及び必要な社会的施設等により、自己及び家族の健康及び福祉に十分な生活水準を保持する権利並びに失業、疾病、心身障害、配偶者の死亡、老齢その他不可抗力による生活不能の場合は、保障を受ける権利を有する。
母と子とは、特別の保護及び援助を受ける権利を有する。すべての児童は、嫡出であると否とを問わず、同じ社会的保護を享有する。  
 
第26条
すべて人は、教育を受ける権利を有する。教育は、少なくとも初等の及び基礎的の段階においては、無償でなければならない。初等教育は、義務的でなければならない。技術教育及び職業教育は、一般に利用できるもでなければならず、また、高等教育は、能力に応じ、すべての者にひとしく開放されていなければならない。
教育は、人格の完全な発展並びに人権及び基本的自由の尊重の教科を目的としなければならない。教育は、すべての国又は人種的もしくは宗教的集団の相互間の理解、寛容及び友好関係を増進し、かつ、平和の維持のため、国際連合の活動を促進するものでなければならない。
親は、子に与える教育の種類を選択する優先的権利を有する。  
 
第27条
すべて人は、自由に社会の文化生活に参加し、芸術を鑑賞し、及び科学の進歩とその恩恵とにあずかる権利を有する。     
すべて人は、その創作した科学的、文学的又は美術的作品から生ずる精神的及び物質的利益を保護される権利を有する。  
 
第28条
すべて人は、この宣言に掲げる権利及び自由が完全に実現される社会的及び国際的秩序に対する権利を有する。  
 
第29条
すべて人は、その人格の自由かつ完全な発展がその中にあつてのみ可能である社会に対して義務を負う。
すべて人は、自己の権利及び自由を行使するに当たつては、他人の権利及び事由の正当な承認及び尊重を保障すること並びに民主的社会における道徳、公の秩序及び一般の福祉の正当な要求を満たすことをもっぱら目的として法律によって定められた制限にのみ服する。
これらの権利及び自由は、いかなる場合にも、国際連合の目的及び原則に反して行使してはならない。  
 
第30条
この宣言のいかなる規定も、いずれかの国、集団又は個人に対して、この宣言に掲げる権利及び自由の破壊を目的とする活動に従事し、又はそのような目的を有する行為を行う権利を認めるものと解釈してはならない。  
 
(弁護士・金原徹雄のブログから/和歌山サウンドデモ関連)
2017年5月12日
5/20安倍政権に反対する和歌山デモ(ABE NO! DEMONSTRATION)参加のお誘い
2017年5月22日
越野章史さん(和歌山大学教育学部)スピーチ全文「教育勅語共謀罪がもたらす社会」~5/20「安倍政権に反対する和歌山デモ」から
2017年8月25日
9/18 政治をなおそうデモ (@和歌山市)に参加しよう!~シュプレヒコールのないデモだけど
2017年9月18日
「政治をなおそうデモ」(2017年9月18日)に参加して
2017年11月20日
12/10政治をなおそうデモ2(@和歌山市)に参加しよう!~あなたも、わたしも、大切にされる社会へ

ETV特集『砂川事件 60年後の問いかけ』(12/16放送予定)をきっかけとして「砂川事件」を学ぶための資料紹介

 2017年12月9日配信(予定)のメルマガ金原.No.3011を転載します。
 
ETV特集砂川事件 60年後の問いかけ』(12/16放送予定)をきっかけとして「砂川事件」を学ぶための資料紹介
 
 以下に、「砂川事件」をあらためて学ぶための素材(資料)を紹介します。私自身の備忘録を公開するようなものですが、皆さまにも少しは参考になるかもしれません。
 まずは、テレビ・ドキュメンタリー番組の放送予定から。
 
NHK・Eテレ
本放送 2017年12月16日(土)午後11時00分~午前0時00分
再放送 2017年12月21日(木)午前0時00分~1時00分(水曜深夜)
ETV特集砂川事件 60年後の問いかけ』
(番組案内から引用開始)
 1957年の砂川事件から60年。憲法9条から在日米軍の駐留が問われた裁判は、近年、米外交文書が公開され再審を求めて係争中である。新資料と証言で事件の背景を探る。
 60年前の1957年、在日米軍基地に立ち入った7人が起訴された砂川事件東京地裁は「駐留米軍違憲」として無罪にするが、最高裁が取り消し、有罪が確定した。しかし近年、米外交文書が公開され、当時、米駐日大使と最高裁長官が接触したことが明らかになり、再審を求めて係争中である。憲法9条から在日米軍の駐留を問いかけた裁判の背景を最新の資料と証言で明らかにし、最高裁の判決に示された「統治行為論」を考える。
(引用終わり)
 
 そもそも、「砂川事件」(一審東京地裁判決は裁判長の姓から「伊達判決」と呼ばれる)とは何か、ということを知るためにお薦めなのが、「伊達判決を生かす会」サイトです。
 同サイトから、「伊達判決とは/伊達判決を覆すための日米密議」「伊達判決 要旨」「砂川事件「伊達判決」に関する米国政府解禁文書要旨」を引用します。
 
「伊達判決とは」
(引用開始)
 1955年に始まった米軍立川基地拡張反対闘争(砂川闘争)で、1957年7月8日、立川基地滑走路の中にある農地を引き続き強制使用するための測量が行われた際に、これに抗議して地元反対同盟を支援する労働者・学生が柵を押し倒して基地の中に立ち入りました。この行動に対し警視庁は2ヵ月後に、日米安保条約に基づく刑事特別法違反の容疑で23名を逮捕し、そのうち7名が起訴され東京地裁で裁判になりました。1959年3月30日、伊達秋雄裁判長は「米軍が日本に駐留するのは、わが国の要請と基地の提供、費用の分担などの協力があるもので、これは憲法第9条が禁止する陸海空軍その他の戦力に該当するものであり、憲法上その存在を許すべからざるものである」として、駐留米軍を特別に保護する刑事特別法は憲法違反であり、米軍基地に立入ったことは罪にならないとして被告全員に無罪判決を言い渡しました。これが伊達判決です。
 この判決に慌てた日本政府は、異例の跳躍上告(高裁を跳び越え)で最高栽に事件を持ち込みました。最高裁では田中耕太郎長官自らが裁判長を務め同年12月16日、伊達判決を破棄し東京地裁に差し戻しました。最高裁は、原審差し戻しの判決で、日米安保条約とそれにもとづく刑事特別法を「合憲」としたわけではなく、「違憲なりや否やの法的判断は、司法裁判所の審査には原則としてなじまない。明白に違憲無効と認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のものであって、右条約の締結権を有する内閣および国会の判断に従うべく、終局的には、主権を有する国民の政治的判断に委ねられるべきものである」として自らの憲法判断を放棄し、司法の政治への従属を決定付けたのです。そしてこの判決の1ヶ月後の60年1月19日、日米安保条約の改定調印が行われ、現在までつながっているのです。
 なお、砂川町(現在は立川市に編入)にまで広がっていた米軍立川基地は、68年には拡張計画を撤回、69年に日本に返還され、現在は、一部を自衛隊航空隊が使用しているものの、大半は昭和記念公園や国の総合防災拠点となっています。
 
伊達判決を覆すための日米密議
 伊達判決から49年もたった2008年4月、国際問題研究家の新原昭治さんが米国立公文書館で、駐日米国大使マッカーサーから米国務省宛報告電報など伊達判決に関係する十数通の極秘公文書を発見しました。これらの文書によると、伊達判決が出た翌朝閣議の前に藤山外相がマ大使に会い、大使が「この判決について日本政府が迅速に跳躍上告を行うよう」に示唆し外相がそれを約束しました。さらに、大使は本国国務省へ十数回に及ぶ電報で、岸首相や藤山外相との会見や言動を本国に伝えており、また自ら跳躍上告審を担当した田中最高裁長官と会い「本件を優先的に取り扱うことや結論までには数ヶ月かかる」という見通しを報告させています。このように、伊達判決が及ぼす安保改定交渉への影響を最小限に留めるために伊達判決を最高裁で早期に破棄させる米国の圧力・日米密議・があったことが、米国公文書で明らかになりました。
(引用終わり)
 
「伊達判決 要旨」
(引用開始)
日米安保条約第三条に基づく行政協定に伴う刑事特別法違反(砂川)事件判決
 
 昭和三十二年七月八日、東京都北多摩郡立川町所在のアメリカ軍使用の立川飛行場内民有地の測量を東京調達局が開始し、この測量に反対する砂川町基地拡張反対同盟員・支援労働組合員、学生団体員等1,000余名は、同日右飛行場北側境界場外に集合して反対し、一部の者が滑走路北側付近の境界柵数十メートルを破壊し、被告人7名は他の参加者300名とともに境界柵の破壊箇所から立入禁止のアメリカ軍使用区域に数メートル立ち入ったことは、安保条約第三条に基く行政協定に伴う刑事特別法第二条に違反する行為である。
 憲法第九条は、国家の政策の手段としての戦争、武力による威嚇又は武力の行使を永久に放棄したのみならず、国家が戦争を行う権利を一切認めず、陸海空軍その他一切の戦力を保持しないと規定している。この規定は「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないように」(憲法前文第一段)しようとするわが国民が「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を維持し」(憲法前文第二段)、国際連合の機関である安全保障理事会等の執る軍事的安全措置等によってわが国の安全と生存を維持しようとする決意に基づくものであり、正義と秩序を基調とする世界永遠の平和を実現するための先駆たらんとする高遠な理想と悲壮な決意を示すものである。憲法第九条の解釈は、アメリカ軍の駐留は、軍備なき真空状態からわが国の安全と生存を維持するため自衛上やむを得ないとする政策論によって左右されてはならない。
 アメリカ軍の駐留が、国際連合の機関による勧告又は命令に基づくものであれば憲法第九条第二項前段によって禁止されている戦力の保持に該当しないかもしれない。しかしアメリカ軍は、わが国がアメリカに対して軍隊の配備を要請し、アメリカがこれを承諾した結果駐留するものであり、わが国はアメリカに対して必要な国内の施設及び区域を提供している。(行政協定第二条第一項)アメリカが戦略上必要と判断した際は、日本区域外にもその軍隊を出動し得、その際には国内の施設、区域がこのアメリカ軍の軍事行動のために使用され、わが国が直接関係のない武力紛争に巻き込まれる危険性があり、それを包括するアメリカ軍の駐留を許容したわが国政府は、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起きないようにすることを決意」した日本国憲法の精神に悖る。
 アメリカ軍が外部からの武力攻撃に対してわが国の安全に寄与するために使用される場合、わが国はアメリカ軍に対して指揮権、管理権を有しないことは勿論、日米安全保障条約上アメリカ軍は外部からのわが国に対する武力攻撃を防禦すべき法的義務を負担するものでもないが、日米間の密接な関係から、そのような場合にアメリカがわが国の要請に応じ、国内に駐留する軍隊を直ちに使用する現実的可能性は頗る大きいものと思われる。  アメリカ軍がわが国内に駐留するのは、日米両政府の意思の合致があったからであって、アメリカ軍の駐留は、わが国政府の行為によるものであり、わが国の要請とそれに対する施設、費用の分担その他の協力があって始めて可能となるものである。わが国が外部からの武力攻撃に対する自衛に使用する目的でアメリカ軍の駐留を許容していることは、指揮権や軍出動義務の有無に拘わらず、憲法第九条第二項前段によって禁止されている戦力の保持に該当するものであり、結局わが国内に駐留するアメリカ軍は憲法上その存在を許すべからざるものと言わざるを得ない。
 アメリカ軍が憲法第九条第二項前段に違反し許すべからざるものである以上、アメリカ軍の施設又は区域の平穏に関する法益が一般国民の同種法益以上の厚い保護を受ける合理的な理由は何ら存在しないところであるから、国民に対して軽犯罪法の規定(拘留又は科料)より特に重い刑罰をもって臨む刑事特別法第二条の規定(一年以下の懲役又は二千円以下の罰金もしくは科料)は、なに人も適正な手続きによらなければ刑罰を科せられないとする憲法第三十一条に違反し無効なものといわねばならない。
 よって、被告人等に対する公訴事実は起訴状に明示せられた素因としては罪とならないものであるから、刑事訴訟法第三百三十六条により被告人等に対しいずれも無罪を言渡す。
  昭和三十四年(1959年)三月三十日
         東京地方裁判所刑事第十三部
             裁判長裁判官 伊達秋雄
                裁判官 清水春三
                裁判官 松本一郎
(引用終わり)
※以上は要旨ですが、同サイトには判決そのもののPDFファイルが掲載されています。 http://datehanketsu.com/img/hanketsu.pdf
 
 ところで、上記「伊達判決」が言い渡された直後から、駐日アメリカ大使館と日本政府とのやりとりに関する、同大使館から国務省に対する秘密公電等の外交文書が、2008年、国際問題研究者の新原昭治氏によって発見されました。
 それらの文書からは、伊達判決に対する衝撃、秘密裏に行われていた日米安保条約改定交渉への影響に対する懸念と藤山外相への対策(跳躍上告)の示唆、社会党やマスコミ・世論の動向、自民党内の動き、田中最高裁長官との会見、最高裁審理に関する検察側の要請などが、報告されていました。
 新原氏が発見した14通の公電の要旨が、「伊達判決を生かす会」サイトに掲載されています。
 
砂川事件「伊達判決」に関する米国政府解禁文書要旨」
 
 また、「伊達判決を生かす会」では、「5000ページを超す砂川事件・伊達判決と公判(第一審、最高裁審)全記録のCD-ROM~砂川基地拡張反対闘争、アメリカ公文書、外務省開示文書などの付録資料付き」を1枚2,000円で頒布しています(多分今でも入手可能でしょう)。
 
 ところで、2013年には、田中耕太郎最高裁長官(当時)が、跳躍上告審公判前に、ウィリアム・レンハート駐日米首席公使と非公式に会い、判決期日や一審判決を取り消す見通しなどを「漏らしていた」ことを明らかにする在日米大使館から国務長官宛の公電(発信日、1959年8月3日)が、布川玲子氏(元山梨学院大教授)によって発掘され、大きな反響を呼び起こしました。早稲田大学教授・水島朝穂氏のホームページ「直言」に、新原昭治氏の訳を水島教授が一部修正した公電の翻訳が掲載されていますので、引用します。
 
国務省・受信電報〔秘密区分・秘〕
(引用開始)
1959年8月3日発信
1959年8月5日午後12時16分受信
大使館 東京発
書簡番号 G-73
情報提供 太平洋軍司令部 G-26 フェルト長官と政治顧問限定
在日米軍司令部 バーンズ将軍限定 G-22
 
共通の友人宅での会話のなかで、田中耕太郎最高裁判所長官は、在日米大使館首席公使に対し、砂川事件の判決が、おそらく12月に出るであろうと今は考えていると語った。弁護団は、裁判所の結審を遅らせるべくあらゆる法的術策を試みているが、長官は、争点を事実問題ではなく法的問題に限定する決心を固めていると語った。これに基づき、彼は、口頭弁論は、9月初旬に始まる週の1週につき2回、いずれも午前と午後に開廷すれば、およそ3週間で終えることができると信じている。問題は、その後に生じるかもしれない。というのも、彼の14人の同僚裁判官たちの多くが、各人の意見を長々と論じたがるからである。長官は、最高裁の合議が、判決の実質的な全員一致を生み出し、世論を「かき乱し」(unsettle)かねない少数意見を避ける仕方で進められるよう願っている、と付け加えた。
 
コメント:最近、大使館は、外務省と自民党の情報源から、日本政府が、新日米安全保障条約の国会承認案件の提出を12月開始の通常国会まで遅らせる決定をしたのには、砂川事件判決を最高裁が当初目論んでいたように(G-81)、晩夏ないし初秋までに出すことが不可能だということに影響されたものであるという複数の示唆を得た。これらの情報源は、砂川事件の位置は、新条約の国会提出を延期した決定的要因ではないが、砂川事件が係属中であることは、社会主義者〔当時の野党第一党日本社会党のこと〕やそのほかの反対勢力に対し、そうでなければ避けられたような論点をあげつらう機会を与えかねないのは事実だと認めている。加えて、社会主義者たちは、地裁法廷の、米軍の日本駐留は憲法違反であるとの決定に強くコミットしている。もし、最高裁が、地裁判決を覆し、政府側に立った判決を出すならば、新条約支持の世論の空気は、決定的に支持され、社会主義者たちは、政治的柔道の型で言えば、自分たちの攻め技が祟って投げ飛ばされることになろう。
マッカーサー ウィリアム K. レンハート 1959年7月31日
(引用終わり)
 
 それでは、いよいよ問題の砂川事件最高裁判決です。裁判所公式サイトに掲載された裁判例に付された「裁判要旨」を引用します。
(引用開始)
事件番号  昭和34(あ)第710号
事件名  日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定に伴う刑事特別法違反
裁判年月日  昭和34年12月16日
法廷名  最高裁判所大法廷
裁判種別  判決
結果  破棄差戻
判例集等巻・号・頁  刑集 第13巻13号3225頁
裁判要旨  
一 刑訴規則第二五四条の跳躍上告事件において、審判を迅速に終結せしめる必要上、被告人の選任すべき弁護人の数を制限したところ、その後公判期日および答弁書の提出期日がきまり、かつ弁護人が公判期日に弁論をする弁護人の数を自主的に〇人以内に制限する旨申出たため、審理を迅速に終結せしめる見込がついたときは、刑訴第三五条但書の特別の事情はなくなつたものと認めることができる。
二 憲法第九条は、わが国が敗戦の結果、ポツダム宣言を受諾したことに伴い、日本国民が過去におけるわが国の誤つて犯すに至つた軍国主義的行動を反省し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し、深く恒久の平和を念願して制定したものであつて、前文および第九八条第二項の国際協調の精神と相まつて、わが憲法の特色である平和主義を具体化したものである。
三 憲法第九条第二項が戦力の不保持を規定したのは、わが国がいわゆる戦力を保持し、自らその主体となつて、これに指揮権、管理権を行使することにより、同条第一項において永久に放棄することを定めたいわゆる侵略戦争を引き起すことのないようにするためである。
四 憲法第九条はわが国が主権国として有する固有の自衛権を何ら否定してはいない。
五 わが国が、自国の平和と安全とを維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置を執り得ることは、国家固有の権能の行使であつて、憲法は何らこれを禁止するものではない。
六 憲法は、右自衛のための措置を、国際連合の機関である安全保障理事会等の執る軍事措置等に限定していないのであつて、わが国の平和と安全を維持するためにふさわしい方式または手段である限り、国際情勢の実情に則し適当と認められる以上、他国に安全保障を求めることを何ら禁ずるものではない。
七 わが国が主体となつて指揮権、管理権を行使し得ない外国軍隊はたとえそれがわが国に駐留するとしても憲法第九条第二項の「戦力」には該当しない。
八 安保条約の如き、主権国としてのわが国の存立の基礎に重大な関係を持つ高度の政治性を有するものが、違憲であるか否の法的判断は、純司法的機能を使命とする司法裁判所の審査に原則としてなじまない性質のものであり、それが一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外にあると解するを相当とする。
九 安保条約(またはこれに基く政府の行為)が違憲であるか否かが、本件のように(行政協定に伴う刑事特別法第二条が違憲であるか)前提問題となつている場合においても、これに対する司法裁判所の審査権は前項と同様である。
一0 安保条約(およびこれに基くアメリカ合衆国軍隊の駐留)は、憲法第九条、第九八条第二項および前文の趣旨に反して違憲無効であることが一見極めて明白であるとは認められない。
一一 行政協定は特に国会の承認を経ていないが違憲無効とは認められない。
(引用終わり)
砂川事件最高裁判決の全文(PDF)
 
 さて、以下は、2014年6月に提起された再審請求についての資料です。
 
平成28年3月8日
東京地方裁判所 再審請求棄却決定
 
平成28年3月11日
即時抗告申立書
 
朝日新聞デジタル 2017年11月15日12時12分
砂川事件の再審、認めない決定 東京高裁
(抜粋引用開始)
 東京都砂川町(現立川市)にあった米軍立川基地の拡張計画に反対し、基地に入った学生らが1957年に起訴された「砂川事件」の再審請求審で、東京高裁(秋葉康弘裁判長)は15日、元被告ら4人の再審開始請求を退けた東京地裁決定を支持し、元被告らの即時抗告を棄却した。
 砂川事件最高裁判決は、2015年成立の安全保障関連法の議論の中で、安倍政権が集団的自衛権行使を「合憲」とする根拠に挙げたことで注目された。
 再審請求したのは、土屋源太郎さん(83)ら元被告4人。59年の一審・東京地裁判決は無罪としたが、検察側の直接上告を受けた最高裁は同年に判決を破棄。その後、罰金2千円の判決が確定した。
 しかし、2008年以降、最高裁判決前の59年に、当時の田中耕太郎・最高裁長官が米国側に裁判の見通しを伝えていたことを記した米公文書を研究者らが見つけた。土屋さんらはこれらを新証拠として14年6月に再審を請求。田中氏が審理中に一方の当事者だけに接触して判決の見通しを伝えるなど、公平な裁判を受ける権利が侵害されたとして、裁判を打ち切る「免訴判決」を出すべきだと主張。16年3月の東京地裁決定は、公文書に「世論を『乱す』(裁判官の)少数意見が回避されるようなやり方で(結審後の評議が)行われるよう希望する」などと記録された田中氏の発言について、「裁判の公平性を害するような内容ではない」と判断。免訴すべき新証拠とはいえないとして棄却していた。
(引用終わり)
 
[動画]砂川事件再審請求、報告会(後編)(39分)
 
毎日新聞 2017年11月20日 18時44分(最終更新 11月20日 18時44分)
砂川事件 再審棄却の元被告・土屋さんが特別抗告
(引用開始)
 駐留米軍の合憲性が争点となった「砂川事件」を巡り、東京高裁が再審を認めない決定を出したことを不服として、土屋源太郎さん(83)=静岡市=ら元被告4人(うち1人は遺族)が20日、最高裁に特別抗告した。
 土屋さんらは2014年、確定した有罪判決の免訴を求めて再審請求。16年の東京地裁決定は請求を棄却した。高裁も今月15日に地裁決定を支持し、弁護側の即時抗告を棄却する決定を出した。【石山絵歩】
(引用終わり)